京平を信じたい。
「亜美、ごめんな….…」
また京平の声が聞こえる。声、すごく震えているや。何でそんなに不安そうなの?
そうそう、知らない女に抱きつかれたら、次からはすぐ振り解いてよね。京平を抱きしめていいのは、私だけなんだから。
でも京平は謝ってくれたし、そろそろ起きるか。
「おはよ、京平」
「亜美!」
私が目覚めると、京平は勢い良く私を抱きしめる。ちょ、京平、ここ……あれ、何処だろう?
「亜美が無事で良かった。俺のせいでごめんな」
「次からは抱きしめられたら、振り解くんだよ?」
「うん、そうするべきだった。いくら患者様とはいえ」
「え、患者様?」
全く知らない人じゃなかったんだ。でも何で患者様が病院にいるんだ? 服装とかも、急な出来事だったから思い出せないや。
「天王寺まゆりさん。異能の患者様なんだけど、今日から精神科の研修医になったらしいんだ。俺も今日、その話は聞いていたんだけど、まさかあんなことしてくるなんて……」
「そっか。患者様だからちょっと迷っちゃったんだね」
「気持ちとしてはかなり嫌だったんだけど、手加減出来そうになくて迷っていたとこに、ちょうど亜美が来て」
京平、心を許してない人とのハグや握手、大嫌いだもんね。それもあって、飲み会とかも、信頼してる人としかしたがらないし。
「愛さんにもライムで注意してくれ、とは告げたから、なんとかなるといいんだけどな。あんなに好意を持たれてるとは思わなかったよ」
「ああ、愛先生、今日から精神科主任部長だもんね」
そう、麻生愛先生も今日付けで精神科の主任部長に昇進したのだ。
「ついでに指導係も兼ねてるしな。亜美、体調は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「なんとかすんでのとこで亜美が倒れる前にキャッチ出来て良かったよ」
そう言えば、足も布団で少し高くなってる。京平が気絶した私を看病してくれたんだね。で、ここは……結局何処だ?!
「空いてた個室の病室。亜美が調子良くなるまで、俺は中抜け中」
「ずっと看病してくれたんだね。ありがと」
「これくらいしか出来ないからさ」
「そんなこと言わないで。凄く嬉しいよ」
指導の仕事だってあるのに、私を優先して助けてくれたんだもん。ありがとね、京平。
「看護師長には俺が伝えておくから、弁当食べたら帰りな。後、飲み会もキャンセルな」
「今日は頑張りたかったのにな」
「気絶してぶっ倒れたんだから仕方ないさ。てか、俺のせいでごめん」
「京平は悪くないよ。謝らないで」
いつも私を心配して、気にかけてくれるよね。でも、そんな悲しい顔しないでよ? 色々しょうがなかったんだし、さ。
「あ、あと、個室のお金……」
「も、俺が払うから心配すんな。じゃあ、俺は戻るからな」
京平は私の頭をポンポンして、病室を出ていった。
とりあえずお弁当食べようかな。ベッドの脇机にお弁当も置かれてるし。
今は15時かあ。かなり長いこと気絶してたんだなあ。そりゃ帰れって言われるよね。
私はお弁当を開いたんだけど、ぶっ倒れた衝撃でぐちゃぐちゃになってるや。でも、私の身が無事なのは、京平のおかげだから感謝しなくちゃね。
そもそも味は変わらないし、美味しくいただきます!
あー、京平の食べてるとこ、見たかったんだけどなあ。多分私が気絶してる間に、この部屋で食べたんだろうな。美味しく食べてくれてたらいいな。頑張って作ったもん。
「にしても、ハグを見ただけで気絶って。弱いな、私」
京平が裏切らないことは知っているんだけど、京平が居なくなったら、って、考えちゃうことはあって、それがカケラでも見られたら、やっぱり怖くて、辛くて。
距離的に、彼氏として居なくなるかも、も、私にとってはかなり辛かったみたいだね。
「私も強くならなきゃ」
先輩になったんだし、こんなことでぶっ倒れちゃダメだよね。明日からは頑張らなきゃ。
さてと、お弁当も食べ終わったし、帰れって言われたから素直に帰るとするか。
私が更衣室に向かうと、通りがかりで出会った磯部さんが心配そうに私を見つめてくる。
「時任先輩、大丈夫ですか?」
「うん、早退こそするけど、もう大丈夫だよ」
「深川先生、先輩の彼氏だったんですね。あれは辛かったですよね」
「あはは、あんなことだけで気絶しちゃダメだよね」
私は笑って誤魔化したんだけど、磯部さんは不安そうな顔して。
「気絶くらいしますよ。私だって好きな人が他の人と、ハグなんてしてたら……」
「そっか。磯部さんにも大切な人が居るんだね」
「はい、まだ片想いですけど」
「心配してくれてありがとね。想いが伝わるといいね」
へえ、磯部さんも可愛いとこあるじゃん。しかも好きな人もいるのかあ。明日のお昼休憩こそ……って、明日は中番だよ。今日飲みの予定だったからさ。キャンセルになっちゃったけど。
京平は飲み会に行くから遅くなるよなあ。寂しいな。
私は磯部さんとサヨナラして、更衣室に向かう。もうすっかり元気なんだけど、京平は心配性だなあ。
医者だからそういうのも絶対解ってるのにな?
たまに京平、私に対して過保護だからなあ。
私はちょっと納得が行かないまま着替えて、病院を後にした。
ふー、1人でご飯食べたり帰ったり、なんだか寂しいな。帰ったら勉強しようかな。
私はトボトボと歩きながら、家に辿り着く。
「ただいまー」
「お帰り亜美、今日は大変だったね」
「うん。色々あって気絶しちゃってさ」
「僕も兄貴から聞いてるよ。どうする? 休む?」
「元気だし勉強してるよ。京平は過保護すぎる!」
本当にこんな過保護な彼氏、他に居ないと思うよ!
私の言葉に、信次が続けて心配そうに呟く。
「兄貴は亜美の心を心配してるんだよ。だって色々あったでしょ?」
「うん、あった」
「心はパンパンでしょ?」
「確かに。色々あったから……」
「だったら、休んで欲しいな。亜美も苦しかったよね」
そうだ。京平が急に抱きしめられたこともそうなんだけど、きっとこれからも天王寺先生は、京平に付き纏うだろう。
京平を信じられるように、穏やかに過ごす時間も大切だよね。
今は心がパンパンだから、ゆったりさせてあげなきゃね。
「そうだね。布団でゆっくり心を休めるよ」
「兄貴も飲み会キャンセルするっぽいし、ご飯出来たら呼ぶね」
「え、京平幹事なのに?」
「亜美が心配なんだよ。受け止めてあげて」
そうだね。と私は頷いて、京平の優しさを噛み締める。
いつだって優しくしてくれてありがとね、京平。愛してるよ。
「じゃあ、ちょっと寝てるね。おやすみ」
「おやすみ、亜美」
「ゆっくり寝るんだぞ、亜美」
「あ、お父さんもいたんだ?」
「ずっと亜美と信次を見守っていたぞ?」
「ありがとね、お父さん」
優しい家族に囲まれて、本当に良かった。私って幸せ者だね。
私は優しい気持ちに包まれて、布団に潜り込んだ。
えへへ、干したての布団だね。気持ちいいや。
パンパンな心を解きほぐしながら、ゆっくり眠ろう。おやすみ。
◇
むにゃむにゃ。なんだかとても温かいよ。穏やかな気持ちになるよ。なんでこんなに落ち着くんだろう。これじゃあ、いつまでも眠れるよ。
眠ったおかげか、心も休まってきたしね。
「良かった。亜美、笑ってる」
ん。京平の声が聞こえる。もしかして、帰ってきてすぐ、一緒に寝てくれたの?
私は慌てて飛び起きた。するとやっぱり、京平が腕枕をしてくれていて、隣で笑いかけてた。
「お、おはよ。亜美」
「京平帰ってたんだね。腕枕、ありがとね」
「ご飯出来るまで寝てていいぞ」
「んー。それより、抱きしめあって過ごしたいな」
私はそう言って、ムギュッと京平を抱きしめる。早く帰って来てくれてありがとね。愛してるよ。
すると京平も暖かい手で、私を抱きしめてくれた。強く、優しく。
「抱きしめ返すのは、亜美だけだからな?」
「うん、知ってる」
「しばらくこうしてようか」
こんな穏やかな時間が大好きだよ。京平が居るから、私は幸せなんだ。
そうだね。京平はこんなに私を愛してくれているんだもん。なんの問題も無かったね。
京平だけを見て、まっすぐ強くなりたいな。トラウマに打ち勝てるくらい。
「確かに亜美のトラウマ、かなり長引いてるもんな。そろそろ亜美も精神科に掛かるべきかもな」
「うん、流石に今日くらいのことで、倒れちゃうのはなあ、って」
「もうこんなことは無いって思いたいけど、防げない日もあるもんな。今までは俺が気をつければ良かったけど」
「今度の休みにでも、麻生愛先生に相談してみるよ」
いつまでもトラウマに囚われたくないもんね。しっかり相談して、少しずつでも克服しなきゃ。
「俺が亜美を裏切ることは、絶対ないから」
「うん。知ってる。ありがとね」
私達は抱きしめながら、愛を確かめ合う。いつだって温かい。お互いに大切に想いあっているからなんだろうな。こんな時間がたまらなく愛しいよ。
私達は高まって、お互いの顔を近づけたその時。
「亜美、兄貴、ご飯出来たよ……って、タイミング悪くてごめんね」
「いや、大丈夫。飯ありがとな」
本当はキスしたかったんだけど、この雰囲気じゃもう出来ないよね。
キスしたら、簡単に止められないし、それじゃあご飯も冷めちゃうし。
私達はむっくり起き上がって、食卓に向かう。
「おはよ、亜美、京平」
「おはよ、お父さん」
「お父さん、おはよ」
お父さんが和かに、私達におはようをくれた。
「今日はお父さんがオムライス作ってくれたよ」
「前教わったから、1人で作ってみたぞ」
「うわああ、美味しそう。有難うね」
私に色々あったから、私の好きなものを作ってくれたんだね。本当に嬉しいよ。
「のばらが居ないのが寂しいな」
「キャンセルした俺達の分、食べて呑んでくれるからな。のばら。お店側には当日キャンセルはできなかったからさ」
「確かにのばらなら食べそう」
うん、のばらは沢山食べるもんね。本当に急なキャンセルで申し訳ないね。
「それじゃ、オムライス食べよ!」
「俺は先に亜美の弁当食べるよ」
「あれ、お昼……」
「ん、飯食い損ねてさ」
いつだって優しい。私が気絶してるタイミングで、お弁当くらい食べれば良かったのにさ。いつもありがとね、京平。
「あー、腹減った。いただきます!」
「あ、兄貴先に食べちゃわないでよ! 僕もいただきます」
「京平、オムライスも食べてくれよ」
「うん、勿論」
「私もいただきまーす!」
◇
「はふー。お父さんのオムライス美味しすぎた」
「おかわりしてたもんな」
「亜美が喜んでくれて嬉しいよ」
お父さんも優しい笑顔で、おかわり作ってくれたもんな。ふー、食べすぎちゃったから、今日も走れないな。それどころか、なんだかむちゃくちゃ眠いや。私はソファで、ごろんと横になる。
「亜美、部屋で寝ろよ?」
「すー、すー」
「ふふ、もう寝ちゃったみたいだね」
「幸せな顔してるから、安心だな」
「よっこらせ。明日一緒に風呂入るから、俺も寝ようかな」
むにゃむにゃ、京平が私の身体を運んでくれているや。いつもの暖かい手が嬉しいよ。明日は朝、一緒にお風呂入ろうね。
「おやすみ、亜美」
京平が優しく抱きしめてくれた。
京平「もう天王寺さんが変なことしないといいんだけどな」
愛「まさか配属初日に、そんなことがあっただなんてね。厳しく注意しとくわ」
亜美「すやすや」




