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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
新人看護師と新人医師といっちゃってる新人精神科医
212/242

もうすぐ春ですね。(京平目線)



 そう言えば病院で働き始めた頃は、よく中庭の

大きな木の下で寝ていたな。いや、寝てたというより、寝不足過ぎて体力が持たなくて気絶してた。

 外に出てたのは気分転換だった。桜とツツジが咲き乱れていて、この花の香りと共に、溶けて無くなれば楽なのになって、いつも考えていたよ。つまり気分は転換出来てなかったんだよな。


 でも、いつも一緒に麻生と愛さんが隣で寝てくれてさ。俺が倒れた時も受け止めてくれたみたい。

 亜美に出会うまで生きてこられたのは、2人のおかげだと思う。

 そんな時間も、金木犀が咲く頃には、寒いから中庭に行くの禁止って言われて、終わったんだけどさ。

 でも俺の身体がいつもより冷えていたのを、心配して言ってくれたんだよな。2人には感謝が尽きないよ。

 それでも、自分の存在を許せなくて、毎晩のように泣いたりしたっけ。

 疲れ切らないと眠れなくて、ひたすら泣きながら走ってたな。

 自分を許せなくても、それを気にする必要はないって、亜美と信次が教えてくれたんだ。

 生きてるだけで、いいんだよ、って。

 そうだな、俺、独りじゃなかったよな。いつも。


「うん、今月のヘモグロビンA1cは5.8。好調をキープしてるな」

「よし、やったね!」

「亜美はいつも頑張ってるもんな」


 今日は3/28。亜美と信次の診察の日。亜美は今月も良い値で嬉しいよ。

 俺は思わず、亜美の頭を撫でる。少し照れた亜美の顔が、また可愛いんだよな。


「信次の値も平常値だな。特段変わったことはないか?」

「うん、ないよー」

「それなら良かった。じゃあ、今月の診察はこれでおしまい」

「亜美、シルエットですわ」

「ありがとね、のばら」

「じゃあ、京平後でねー!」


 この時期になると、亜美に出会う前の人生をよく思い浮かべる。

 物思いに(ふけ)るというやつかな。

 全部が全部辛かった訳じゃないけど、助けても貰っていたけど、やっぱり悲しいと感じることが多くて。

 今が幸せだから、過去を振り返られるんだと思うよ。


「来週で4月かあ」

「ですわねえ。新人さん達に指導しなきゃですわ」

「亜美は初めての後輩指導になるし、若干不安だよ」

「亜美なら心配要りませんわ。頑張ってますもの」

「そうだな、頑張ってるもんな」


 亜美のことは心配ではあるけど、頑張ってる亜美なら大丈夫だよな。


「さ、次の患者様呼びますわよ」


 ◇


「くしゅん!」

「ああ、今日花粉の飛散量多いですものね」

「楽なのは花粉症の注射打って、2週間後の数日なんだよな。えっくし」

「さ、休憩室に行くのですわ!」


 そうだな、今日は亜美の弁当だし、亜美にも会えるし、少し心が躍っているよ。

 のばらも信次に会えるからか、心なしか嬉しそう。

 そんな訳で俺とのばらは、休憩室に向かう。


「あ、京平、のばら、おつかれ!」

「お疲れ。のばら、兄貴」

「信次ー、疲れましたわあ」

「今日は立て続けだったしな。ばくしょん」


 俺の勤務時間が17時までなのに対し、異能、糖尿病の患者様は日に日に増えていくから、忙しくなるのも当然と言えば当然だな。

 今日の昼に精神科の診察があるから、そこでの判断次第で俺も色々相談するつもり。

 少なくとも今のままじゃ、パンパン過ぎるからな。

 時間が元に戻ればいいんだけど。


「京平、今日のお弁当も自信作だよ」

「お、そりゃ楽しみだな。くしゅん。その前に花粉症の薬、っと」


 なんてな。亜美のお弁当はいつも楽しみだよ。

 朝弱いのに、いつもいつも有難うな。


「いただきますわ!」

「あ、私もいただきます! うーん、我ながら唐揚げは上手く揚がったよね。美味美味」

「いただきます。うん、亜美の唐揚げ、やっぱ美味えや。オムレツもいいな」

「あ、僕もいただきます」

「信次のだし巻き卵、美味しいですわあ」

「焼きそばも別で作ったからね」


 皆でお弁当を食べるのって、幸せだな。

 温かい気持ちになるよ。

 こんな近くに幸せがあることが、嬉しくて仕方ないよ。隣に愛しい亜美がいて、美味しそうに弁当食べてる顔とかさ。

 とりあえず亜美の唐揚げ貰っちゃお。


「あ、唐揚げ盗られた!」

「美味いぞ」

「ぶー」


 なんなら、亜美のぶーと鳴く顔が見たくて、唐揚げ奪ったまであるかも。そんな亜美も愛しいよ。俺は思わず笑った。性格悪いな、俺。


「ごちそうさまでした。弁当美味かったぞ」

「それなら良かったけどさ」


 あ、ちょっと亜美が笑った。やっぱり笑顔が1番可愛いな。


「そういや、亜美ももうすぐ先輩になるな?」

「もう来週だもんね。ドキドキだよ」

「内科は看護師が3人来ますものね」

「因みに医師は何と2人も来るぞ。しっかり一人前にしないとな」

「楽しみですわね」

「亜美、しっかりね?」


 もうすぐ新しい季節が始まるな。新しい仲間と共に頑張っていきたいな。


「さ、そろそろ精神科行くぞ、亜美」

「はむはむ、ごちそうさま! 今行くよ!」


 本当は精神科13日だったんだけど、すっかり寝過ごして行けなくてな。気付いたら19時だったもんなあ。

 薬だけは、亜美が代理受診で受け取ってくれて何とかなったけど。

 精神科に亜美と2人で行くと、愛さんがひょっこりと顔を出して手招きしてくれた。


「いらっしゃい。すぐ診察するわよ」

「いつもありがとな、愛さん」

「次は診察の時、寝過ごしちゃダメよ」


 俺達が診察室に入ると、愛さんが早速俺のことを聴いてくれた。


「深川くん、最近鬱症状とか大丈夫?」

「月1単位で出るかなあ。いつも亜美に助けて貰っているけど」

「そろそろ薬増やそうか。時任さんからも聴いたけど、悪いことがあるとすぐ鬱症状が出てるもんね」

「はい、それがいいと思います」


 亜美の言葉に、俺も深く頷く。そんな訳で、イフェクサーを半分減薬して、トリンテックス10mgとロフラゼプ酸エチル1mgが追加となった。薬が合うといいんだけどな。


「それと勤務時間なんだけど、既に診察が満足に出来ないくらいパンパンで、出来れば診察の日だけでも19時にして貰いたいんだけど」

「そうだね。深川くん最近、診察の日、仮眠室でぐっすり寝てるもんね。院長にも相談したけど、診察の日は19時で様子を見ることになったから、来週から頑張ってね」

「ありがとな、愛さん」

「良かったね、京平」


 少しずつ勤務も元に戻って来たよ。診察の日も増える予定だから、元に戻っても早番は多くなりそう。

 糖尿病も異能も、ある日突然罹る病だから、患者様もどんどん増えてるしな。


「と、精神科医の麻生愛としては、こんな診断だけど、ただの麻生愛としては、無理して欲しくないから17時までで良いと思うんだけどね」

「大丈夫、まだまだ働けるよ」

「無理はしないでね、京平」

「家族のために頑張るよ」

「私達も若くないんだから、気をつけてよ?」


 まあ確かに。最近脂っこいものをあまり受け付けなくなったし、肩凝りも激しいし、少しずつほうれい線も目立つようになってきたし。

 少しでも長く亜美の隣に居たいから、体調管理にも気を配らないとな。


「でも、麻生愛先生、見た目お若いですよね。無茶苦茶飛び級されてるんですか?」

「あはは、逆。私、飛び級してないから、深川くんより年上よ。今年39歳になるわ」

「え、嘘。全然見えない!」

「俺は今年36歳だけど、見た目は愛さんのが若いよな」

「対策してるからね、私」


 そんな話をして、精神科の診察は終わった。

 これで少しゆっくり診察出来るから、診察終わってすぐ仮眠室、からは抜け出せるかな?

 ただ、今日はまだ……。


「時間あるから、少し仮眠室で寝てるよ」

「私も一緒に寝ようかな」

「アラーム鳴ったら起こすからな」


 亜美も早起きしてるし、そりゃ眠くなるよな。診察される側は緊張もあるだろうし。俺相手だとしても。や、俺だからそれはないか。

 俺達は仮眠室で、隣同士のベッドに潜り込む。

 亜美のが先に眠ったみたい。亜美の寝息が心地良いや。

 亜美の寝息を子守唄に、俺も安心して眠ることが出来たよ。

 出来れば亜美を抱きしめたいんだけど、病院でそれは御法度だな。悲しいけど。


 ◇


 それからアラームが鳴り響いて、俺は目を覚ました。

 目を覚ますと、亜美が先に起きていて、俺をポンポンしてくれている。

 通りで気持ち良く、安心して眠れた訳だな。


「あ、おはよ。京平」

「亜美、寝てても良かったのに。おはよ」

「えへへ。少しでもぐっすり眠って欲しくてさ」

「おかげで大分疲れも取れたよ」

「午後からも診察頑張ってね」

「おう、患者様のために、家族のために頑張るよ」


 それと亜美の笑顔のために、な。大黒柱として、気合いいれていくよ。

 俺は亜美とグータッチを交わして、診察室に戻った。


「あらお兄様、おかえりなさいまし」

「ただいま。ギリギリまで寝てたよ」

「今日は帰ったら、少し寝てくださいまし。信次もバイト休みですし」

「そうさせて貰おうかな。さ、患者様を呼んであげて」

「かしこまりましたわ」


 ◇

 

「ようやく今日の診察も終わりましたわ」

「ふわあ、のばらお疲れ」

「お疲れなのはお兄様ですわ。早く帰って、休んでくださいまし」

「うん。そうするよ。ありがとな」


 やっぱり立て続けに診察すると、どうしても疲れちまうな。ペースも本気モードにかなり近いし。

 来週からは19時まで診れるし、こんなに疲れないといいけどな。

 俺は帰り支度をして、病院を後にする。


「ああ、めっちゃ眠い。し、ばくしょい。くしゃみもでるし」


 昼の花粉症の薬の効果が切れ始めてる。でも、夜の薬は寝る前に飲みたいから、少しは耐えなきゃだな。今の俺なら、夜の薬飲んだら朝までぐっすりだし。

 帰ったら亜美を抱きしめて眠りたいな。許してくれるかな?

 亜美をギュッと抱きしめると、全てが許された気持ちになるんだよ。

 つまりは、安心するってこと。

 くしゅん。ようやく家に着いた。


「ただいまー」

「おかえり京平。って、凄く疲れた顔してる。少し寝た方がいいね」

「その前に、ただいまのキスしよ?」


 どんなに眠くても、花粉症が辛くても、この時間は外せないよ。俺は亜美を抱きしめて、深くキスをした。


「おやすみ」

「ちょ、おやすみじゃないでしょ! 手を洗って、布団にいこ?」

「亜美を抱きしめて眠りたいな」

「傍にいるからさ。安心して」


 亜美は俺の手洗いも手伝ってくれて、一緒に部屋に来る。最近亜美に我儘を言うことも増えて来てるから、申し訳ないな。


「もっと甘えていいんだからね」

「読まれたか。相変わらず優しいな、亜美は。亜美にくらいだよ、こんなに甘えられるの」


 俺は亜美を抱きしめた。なんだかホッとする。この安心感は、いつも亜美を抱いた時に感じるんだ。

 そんな亜美がいるから、生きようって思えるんだよ。


「えへ。京平温かいや」

「亜美を抱いてるからな。ふわあ、ごめんもう限界だわ。おやすみ、亜美」

「おやすみ、京平」


 家の中だと空気清浄機が働いてくれているから、花粉症でも眠れるんだよな。お父さんには感謝しかないよ。

 何より亜美がいるから、眠れないわけがない。

 亜美が日に日に愛しくなってたまらないよ。おやすみ、亜美。


 ◇


「亜美、お兄様、起きてくださいまし!」

「ふわあ。私も寝ちゃってたや」

「おはよ。亜美、のばら」

「京平、のばら。おはよ!」

「もうご飯出来てますわよ」

「最近夜ご飯、信次に作らせてばかりだな、俺」

「疲れているときは仕方ありませんわ」


 亜美だけじゃなく、家族皆に助けられてるな。改めて俺は幸せだよ。不意に俺は笑った。


「ごっはん! ごっはん!」


 そう言いながら亜美は、俺の上半身を起こす。1人で起きれるんだけど、亜美の気持ちが嬉しくて、ついつい任せちまったよ。

 さて、今日の飯は何かな? 俺はむっくりと立ち上がる。

 亜美もそれを見て立ち上がってる。俺に合わせなくてもいいのにさ、可愛いな。

 起きた俺と亜美は、のばらと共に食卓へ向かった。


「兄貴、亜美、おはよ。最近兄貴、疲れて帰って来てるよね」

「信次、おはよ!」

「おはよ、信次。最近診察量が増えてるのに、時間は変わらないから、疲れちまうんだよ。来週からは19時までになったけどな」

「そっか。時間としては長くなるし、無理しないでよ?」


 あれ、そう言えばお父さんが居ないな? 何処行ったんだろう?


「信次、お父さんは?」

「急に会社の飲み会が決まったんだって。すごい嫌そうに家を出てったよ。多分満足に食べられないから、ご飯はお父さんの分も作ったよ」

「会社の飲み会ほど、嫌なもんはないからなあ」

「ね。僕、飲むとか解らないけど、そういうのは信頼できる人としたいよね」


 お父さんも大変だなあ。とは言え、俺も来月は歓迎会に参加しなきゃだよな。新米医師達は、講師である俺しか知り合い居ない訳だし、お祝いしたい気持ちもなくはないからな。

 今回はインターンに来てくれた子達が、そのまま五十嵐病院に入社してくれたから尚更嬉しいし。

 勿論、その時の講師は俺だったしな。ちょっと自分が誇らしいよ。


「のばらと兄貴と亜美も、4/1は飲み会だよね。飲みすぎないようにね?」

「京平は呑んじゃだめだよ?」

「呑まない呑まない」

「のばらはワインを持参しますわ」

「のばら待て、持ち込みはダメだぞ」

「飲み会のお酒は、のばらのお口に合いませんの!」


 俺が店選んだんだから文句言うんじゃないよ、のばら。皆の予算内で美味しい店選ぶの大変なんだからな?

 のばらも酒を楽しめる店を選んだつもりだし。


「さ、それよりご飯にしよ!」

「今日は何かな?」

「豚の生姜焼きと豚汁だよ」

「それでは、手を合わせまして」

「「「「いただきます」」」」


 信次の豚の生姜焼きは珍しいな。でも、間違いなく俺より美味しく作ってるよな。信次だし。

 どれどれ。


「うん、豚と生姜が凄くマッチしてて、とってもジューシー! キャベツとの相性も抜群だね!」

「流石信次、めちゃくちゃ美味いよ」

「豚汁も出汁が効いてて美味しいですわ」

「喜んで貰えて良かった」


 疲れている時の豚汁って、身体に染み渡るよな。美味い。俺は鍋の中の豚汁を、勢いよくお代わりした。


「ね、疲れた時はやっぱり豚汁だよね」

「飲んでると落ち着くよ。ありがとな」

「ふふ、京平の笑顔が見れて嬉しいな」

「皆、傍にいてくれてありがとな」


 皆がいるから笑えるよ、生きていけてるよ、本当にありがとう。

 ご飯の後は亜美とお風呂に入って、眠かった俺は花粉症と双極性障害の薬を飲んで、亜美と一緒に布団に横たわる。

 俺が疲れてるからって、亜美もかなり早い時間に一緒に寝てくれて嬉しいよ。

 俺は眠い身体のまま亜美を抱きしめて、亜美に笑いかけた。


「いつもありがとな、亜美」

「明日もお互い頑張ろうね。愛してるよ」

「俺もだよ。亜美じゃなかったら、こんなに惚れてないよ」


 亜美だからこんなに安心出来るし、亜美だからこんなに愛してるんだ。

 亜美に出会えて本当に良かった。こんなに優しい亜美が、俺を愛してくれている奇跡を、これからも大切にしていきたい。俺の全てを賭けて、亜美を守っていきたい。


「ふわあ、おやすみ、亜美」

「おやすみ、京平」


 すると亜美は、俺に優しくキスをしてくれた。

 もう、そう来るなら、眠れないじゃないか。俺はすぐに亜美へ深くキスをする。

 亜美、愛してる。もっともっと亜美が欲しいよ。って、あれ?


「バカ亜美。眠れないじゃん」

「だってキスしたかったんだもん」

「そんなとこも嫌いじゃないよ」


 でも、流石に限界が来て、そう呟いた俺はそのまま眠りに着いた。亜美の温もりと呼吸が愛しいよ。このままずっと一緒にいられますように。おやすみ。


「ゆっくり眠ってね。京平」

愛「深川くんが前向きに生きられるようになって良かった」

風太郎「いつも死に囚われていた京殿だったからな」


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