ナースコール
「京平、眠れたかな?」
病院に戻ってナースステーションで待機してる私は、そんなことを呟く。
病院に戻ってから、朱音は私に謝ってくれたし、京平と幸せにねと願ってくれた。
どこか表情が穏やかになっていたから、京平としっかり話せたんだろうな。ありがとね、京平。
そう言えば私、ナースステーション待機って初めてなんだよな。
この時間になると用事のある人はほぼいないけど、ナースコールが鳴ったらすぐ行かなきゃだから、責任重大だね。
待機している間、私はナースステーションの掃除をしながら過ごす。おうおう、隅っことか地味に埃があるなあ。
そんな風に過ごしていると。
ーートゥルルルル。
ナースコールだ! 私は急いで出る。
「ナースステーションです。いかがされましたか?」
「お腹が急に痛くなり出して……」
ナースコールが鳴ったのは215号室の知堂さんからだ。
私は一緒に居た看護師さんに断りを入れ、即座に知堂さんの元へ向かう。
部屋に辿り着いて様子を見ると、知堂さんはお腹を抑えてうずくまっていた。
「お待たせしました」
「看護師さん。なんか普通の腹痛とは違う感じなんだよ……痛いよお」
普段より相当痛いのだろう。知堂さんは苦しみながらも教えてくれた。
「失礼します」
私は触診を行い、様々圧迫してみたんだけど、特に直腸の右側を圧迫すると、知堂さんはかなり痛がっている。うん、盲腸炎の可能性が高そうだね。
知堂さんは高熱で入院されていたのだけど、熱は解熱剤で落ち着いてきたので、明日には退院という所だったのだが、まさか盲腸炎まで併発してしまうだなんて。
私は担当医である蓮に、即座に連絡を取る。
「はい、落合です」
「もしもし蓮、215号室の知堂さんがお腹の痛みを訴えてて、私も触診したんだけど、直腸の右側を圧迫した時、特に痛みが激しいようで」
「解った。検査をした方がいいから、亜美は応援呼んで、知堂さんをレントゲン室まで運んで」
「うん、了解だよ」
私は朱音とベテランの上木さんを応援に呼んで、知堂さんを抱えながらレントゲン室まで向かう。
蓮は既にレントゲン室の担当医に連絡をしてくれていたようで、即座にレントゲン撮影を行う。
知堂さんはかなり苦しがりながらも、レントゲン撮影に応じてくれた。
「うう、気持ち悪いよお」
吐き気もあるのか。レントゲン担当医の住吉先生は、レントゲンの撮影後、すぐに様子をチェックし。
「すぐに麻生先生呼ぶよ。急性盲腸炎だよ、これ」
「ベッド持ってこなきゃ。私、上木さんとベッド持ってくるから、亜美は知堂さんの側にいてあげて」
「任せたわよ、時任さん」
私は気休めにしかならないかもだけど、座る知堂さんの隣でお腹を撫でる。
「大丈夫ですよ、麻生先生が的確に手術してくれますからね」
「まさか高熱の後、盲腸炎になるなんて。ツイてないですよ。痛たたたた。うう、痛いよお」
知堂さんは泣きながら、痛みに苦しんでいた。盲腸炎は相当痛いらしいもんね。大丈夫、すぐ良くなるからね。
「亜美、お待たせ! 知堂さん、ベッドにあがれますか?」
「ちょっとキツいかな」
「じゃあ、私達で持ち上げますね。せーの!」
私達は3人で協力して、知堂さんをベッドに運ぶ。
麻生先生執刀の元、手術はすぐ執り行われることとなり、私達は知堂さんを手術室まで運ぶ。
知堂さんは痛みを訴えながら苦しんでいた。
頑張って。すぐ手術室に運ぶからね。
私達は全力で手術室まで駆けていく。
手術室の前に辿り着くと、既に麻生先生とオペ看として友と、麻酔科医として鈴木先生がいらっしゃった。
「亜美殿、朱音殿、小百合殿、ご苦労じゃった。後は我々に任されよ」
「お願いします、麻生先生」
「亜美、お疲れ様です。患者様は僕達が手術室に運びます」
私達は知堂さんを、麻生先生をはじめとする手術チームに託してナースステーションに戻る。
「内科からまさかの外科だもんね。皆、お疲れ様」
「上木さん有難うございます。触診の練習が活きました」
「内科だと滅多に使わないけど、こういう時は無きにしもあらずだからね。頑張ったね」
朱音は私を撫でてくれた。時間がある時に看護師長に教わりながら触診を覚えたんだけど、患者様を助けることが出来てよかった。
「じゃあ、キリも着いたし、時任さんと佐藤さんは休憩行っといで」
「有難うございます、行ってきます」
「行ってきます」
そんな訳で私は朱音と休憩に入る。お父さんと信次のお弁当も楽しみだな。
蓮も休憩になるかな? だとしたら、私は離れた方がいいのかなあ。
「亜美が離れる必要はないよ。蓮が無理して笑うから私も怒ったんだしね」
「そんなに気にしなくていいのかな?」
「そ。気にする必要ないよ!」
休憩室に向かうと、予想通り蓮が居て、お弁当を食べていた。
朱音は早足で、蓮の所に駆けていく。私も後に続いていく。
「おっつん。蓮」
「よ、朱音に亜美。タイミングまた合ったな」
「今日もガッツリ食べるねえ」
「緊急外来担当だったしな。知堂さん、盲腸炎だったんだってな?」
「そうなんだよ。触診が出来る私で良かったよ」
「亜美の努力の成果だな」
蓮は普通に話しかけてくれた。今回は中々ないケースだったけど、蓮が冷静に指示を出してくれて安心できたよ。ありがとね。
「知堂さんの高熱も結局原因不明だったんだけど、盲腸炎になりかけだったのもあるかもな。また麻生先生にも相談してみよう」
「蓮も頑張るね」
「当たり前だろ。患者様を助けたいから」
真剣な蓮の顔、嫌いじゃないよ。私も頑張らなきゃね。
「あ、亜美、お弁当食べよ」
「うん、今日はお父さんと信次が作ってくれたから楽しみ」
「いいなあ、私一人暮らしだから、自分の手作りだもん」
「へえ、朱音の手作り弁当美味そうじゃん。タコさんウインナーもーらい!」
「もう! 蓮ってばあ」
蓮は朱音のおかずを奪って、とても満足げな顔をする。
蓮はよく人のおかず奪うからなあ。育ち盛りなんだろうね。もう25歳だけど。
私はそんな2人を横目に、「いただきます」をして、お弁当を食べ始める。
「うん。卵焼き美味しいな。肉巻きアスパラも程よい味付けだし、ミートボールに掛かってる餡も塩梅がいいし、かにさんウインナーも可愛いな」
「可愛いお弁当だね」
「うん、頑張って作ってくれたんだと思う」
私は食べてる姿を朱音にスマホで撮って貰って、それを家族ライムに送る。お弁当むちゃくちゃ美味しかったよって。
あ、夜中だから勿論非通知で送ったよ。
「家族仲いいよね、亜美って」
「うん、皆愛してるもん」
「幸せだな、そういうの」
「最近私、実家帰ってないからたまには帰ろうかなあ」
「俺も家族と遊びにいこうかな。気晴らしに」
世の中、皆が皆家族仲が良いわけじゃないのは解っているんだけど、私は愛してるって話だから、自慢してもいいよね? 大切な家族だから。
「はあ、京平いい夢見れているかなあ」
「亜美がいないと夢見悪そうとかありそうだよね、深川先生」
「ああ、精神はか弱いもんな、あの人」
「亜美が居てちょうど良い感じするよね」
そう、花粉症の薬ですぐに眠れはするだろうけど、私が居ないとよく悪い夢を見るみたいで苦しんでるからなあ。
悪い夢で目覚めた後は、お父さんと眠れたらいいのだけど。
いやいや、ちゃんと抱きしめられたでしょ。京平にはいい夢見てもらわなくちゃ。
帰ったら、すぐに抱きしめてキスしたいな。
にしても、私。
「京平のことばっか考えちゃうな」
「亜美らしいよな」
「なんだかんだ、亜美はそうだよね」
うう、振ったばかりの蓮もいるのに、ごめんね、こんな私で。
心が京平でいっぱいなんだよお。
「そう言えば今日の知堂さんのオペ、友がオペ看で入るらしいじゃん」
「うん、ちょっと会ったよ。もうデビューしてたんだね」
「ああ、昨日かららしいぞ。弁当渡した時言ってた。ライムには、眠たくて報告し忘れたらしい」
「友も頑張ってるね」
友が頑張ってるのは嬉しいな。ここまで来るのに、相当悩みながらやってたもんね。
ライムでも上手く出来ないって、私達に相談してくれてたもんね。それが花開いて良かったよ。
「オペ看の業務が完璧になったら、また外回り業務も入るだろうし、総合看護師は大変だな」
「激務過ぎるから、私は正直やりたくないな」
「私はまだまだ外回りもちゃんと出来てるか不安だしね」
私ももっと頑張り続けたら、自信つくかな?
まだまだ自信ないんだよね、正直。
私は天才じゃないからさ。
「結果がどうあれ、頑張ってる亜美は素敵だよ」
「うん、私も頑張ろうって思えるもん」
「えへへ、ありがとね。皆」
◇
「時任さんお疲れ様。特早番さん来たから帰っていいよ」
「お疲れ様です。上木さん」
朱音は緊急外来に蓮と入ってるから、まだ帰れないだろうなあ。お疲れ様だね。
さーてと、無事定時で終わったし、早く着替えて京平を抱きしめよっと。
私は素早く着替えて、全力疾走で家まで向かう。
私、京平が欲しくてたまらないよ。
気持ちが、日に日に昂っていくよ。
「ただいま!」
「亜美、おかえり。ご飯準備するね」
「うん、ありがとね。でも、その前に」
「あ、亜美、コロコロは……」
ん? 今信次、何か言ってたかな。まあいいや。
私はコロコロした後、急いで手を洗って、京平が寝ている部屋に入る。
「ただいま! 京平!」
私は布団に潜り込んで、ギュッと京平を抱きしめた。ふへへ、温かいなあ。癒されるよ。
そうしているうちに。
「お帰り、亜美」
「ごめん、京平。起こしちゃったね」
「や、花粉症の薬飲むために5時に一旦起きたから、全然平気だぞ」
そう言いながら、京平も抱きしめてくれた。この腕の中が、1番好きなんだよね。
京平の優しさが、腕を通して伝わってくるよ。
こんなに優しく愛してくれて、ありがとね。
ふわあ、なんか眠たくなってきた。こんなに安心する場所、他にないもんね。
私は更に強く京平を抱きしめる。
ずっと傍にいるからね、京平。おやすみ。
「おやすみ、亜美」
「あ、亜美ごは……」
「しー、少し寝かせてあげよ」
「もう、亜美ってば!」
京平「亜美、お疲れ様」
信次「全く、すぐ兄貴といちゃつくんだから!」




