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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
新しい季節
208/242

ナースコール

「京平、眠れたかな?」


 病院に戻ってナースステーションで待機してる私は、そんなことを呟く。

 病院に戻ってから、朱音は私に謝ってくれたし、京平と幸せにねと願ってくれた。

 どこか表情が穏やかになっていたから、京平としっかり話せたんだろうな。ありがとね、京平。

 そう言えば私、ナースステーション待機って初めてなんだよな。

 この時間になると用事のある人はほぼいないけど、ナースコールが鳴ったらすぐ行かなきゃだから、責任重大だね。

 待機している間、私はナースステーションの掃除をしながら過ごす。おうおう、隅っことか地味に埃があるなあ。

 そんな風に過ごしていると。


ーートゥルルルル。


 ナースコールだ! 私は急いで出る。


「ナースステーションです。いかがされましたか?」

「お腹が急に痛くなり出して……」


 ナースコールが鳴ったのは215号室の知堂さんからだ。

 私は一緒に居た看護師さんに断りを入れ、即座に知堂さんの元へ向かう。

 部屋に辿り着いて様子を見ると、知堂さんはお腹を抑えてうずくまっていた。

 

「お待たせしました」

「看護師さん。なんか普通の腹痛とは違う感じなんだよ……痛いよお」


 普段より相当痛いのだろう。知堂さんは苦しみながらも教えてくれた。


「失礼します」


 私は触診を行い、様々圧迫してみたんだけど、特に直腸の右側を圧迫すると、知堂さんはかなり痛がっている。うん、盲腸炎の可能性が高そうだね。

 知堂さんは高熱で入院されていたのだけど、熱は解熱剤で落ち着いてきたので、明日には退院という所だったのだが、まさか盲腸炎まで併発してしまうだなんて。

 私は担当医である蓮に、即座に連絡を取る。


「はい、落合です」

「もしもし蓮、215号室の知堂さんがお腹の痛みを訴えてて、私も触診したんだけど、直腸の右側を圧迫した時、特に痛みが激しいようで」

「解った。検査をした方がいいから、亜美は応援呼んで、知堂さんをレントゲン室まで運んで」

「うん、了解だよ」


 私は朱音とベテランの上木さんを応援に呼んで、知堂さんを抱えながらレントゲン室まで向かう。

 蓮は既にレントゲン室の担当医に連絡をしてくれていたようで、即座にレントゲン撮影を行う。

 知堂さんはかなり苦しがりながらも、レントゲン撮影に応じてくれた。


「うう、気持ち悪いよお」


 吐き気もあるのか。レントゲン担当医の住吉先生は、レントゲンの撮影後、すぐに様子をチェックし。


「すぐに麻生先生呼ぶよ。急性盲腸炎だよ、これ」

「ベッド持ってこなきゃ。私、上木さんとベッド持ってくるから、亜美は知堂さんの側にいてあげて」

「任せたわよ、時任さん」


 私は気休めにしかならないかもだけど、座る知堂さんの隣でお腹を撫でる。

 

「大丈夫ですよ、麻生先生が的確に手術してくれますからね」

「まさか高熱の後、盲腸炎になるなんて。ツイてないですよ。痛たたたた。うう、痛いよお」


 知堂さんは泣きながら、痛みに苦しんでいた。盲腸炎は相当痛いらしいもんね。大丈夫、すぐ良くなるからね。


「亜美、お待たせ! 知堂さん、ベッドにあがれますか?」

「ちょっとキツいかな」

「じゃあ、私達で持ち上げますね。せーの!」


 私達は3人で協力して、知堂さんをベッドに運ぶ。

 麻生先生執刀の元、手術はすぐ執り行われることとなり、私達は知堂さんを手術室まで運ぶ。

 知堂さんは痛みを訴えながら苦しんでいた。

 頑張って。すぐ手術室に運ぶからね。

 私達は全力で手術室まで駆けていく。


 手術室の前に辿り着くと、既に麻生先生とオペ看として友と、麻酔科医として鈴木先生がいらっしゃった。


「亜美殿、朱音殿、小百合殿、ご苦労じゃった。後は我々に任されよ」

「お願いします、麻生先生」

「亜美、お疲れ様です。患者様は僕達が手術室に運びます」


 私達は知堂さんを、麻生先生をはじめとする手術チームに託してナースステーションに戻る。


「内科からまさかの外科だもんね。皆、お疲れ様」

「上木さん有難うございます。触診の練習が活きました」

「内科だと滅多に使わないけど、こういう時は無きにしもあらずだからね。頑張ったね」


 朱音は私を撫でてくれた。時間がある時に看護師長に教わりながら触診を覚えたんだけど、患者様を助けることが出来てよかった。


「じゃあ、キリも着いたし、時任さんと佐藤さんは休憩行っといで」

「有難うございます、行ってきます」

「行ってきます」


 そんな訳で私は朱音と休憩に入る。お父さんと信次のお弁当も楽しみだな。

 蓮も休憩になるかな? だとしたら、私は離れた方がいいのかなあ。


「亜美が離れる必要はないよ。蓮が無理して笑うから私も怒ったんだしね」

「そんなに気にしなくていいのかな?」

「そ。気にする必要ないよ!」


 休憩室に向かうと、予想通り蓮が居て、お弁当を食べていた。

 朱音は早足で、蓮の所に駆けていく。私も後に続いていく。


「おっつん。蓮」

「よ、朱音に亜美。タイミングまた合ったな」

「今日もガッツリ食べるねえ」

「緊急外来担当だったしな。知堂さん、盲腸炎だったんだってな?」

「そうなんだよ。触診が出来る私で良かったよ」

「亜美の努力の成果だな」


 蓮は普通に話しかけてくれた。今回は中々ないケースだったけど、蓮が冷静に指示を出してくれて安心できたよ。ありがとね。


「知堂さんの高熱も結局原因不明だったんだけど、盲腸炎になりかけだったのもあるかもな。また麻生先生にも相談してみよう」

「蓮も頑張るね」

「当たり前だろ。患者様を助けたいから」


 真剣な蓮の顔、嫌いじゃないよ。私も頑張らなきゃね。


「あ、亜美、お弁当食べよ」

「うん、今日はお父さんと信次が作ってくれたから楽しみ」

「いいなあ、私一人暮らしだから、自分の手作りだもん」

「へえ、朱音の手作り弁当美味そうじゃん。タコさんウインナーもーらい!」

「もう! 蓮ってばあ」


 蓮は朱音のおかずを奪って、とても満足げな顔をする。

 蓮はよく人のおかず奪うからなあ。育ち盛りなんだろうね。もう25歳だけど。

 私はそんな2人を横目に、「いただきます」をして、お弁当を食べ始める。


「うん。卵焼き美味しいな。肉巻きアスパラも程よい味付けだし、ミートボールに掛かってる餡も塩梅がいいし、かにさんウインナーも可愛いな」

「可愛いお弁当だね」

「うん、頑張って作ってくれたんだと思う」


 私は食べてる姿を朱音にスマホで撮って貰って、それを家族ライムに送る。お弁当むちゃくちゃ美味しかったよって。

 あ、夜中だから勿論非通知で送ったよ。


「家族仲いいよね、亜美って」

「うん、皆愛してるもん」

「幸せだな、そういうの」

「最近私、実家帰ってないからたまには帰ろうかなあ」

「俺も家族と遊びにいこうかな。気晴らしに」


 世の中、皆が皆家族仲が良いわけじゃないのは解っているんだけど、私は愛してるって話だから、自慢してもいいよね? 大切な家族だから。


「はあ、京平いい夢見れているかなあ」

「亜美がいないと夢見悪そうとかありそうだよね、深川先生」

「ああ、精神はか弱いもんな、あの人」

「亜美が居てちょうど良い感じするよね」


 そう、花粉症の薬ですぐに眠れはするだろうけど、私が居ないとよく悪い夢を見るみたいで苦しんでるからなあ。

 悪い夢で目覚めた後は、お父さんと眠れたらいいのだけど。

 いやいや、ちゃんと抱きしめられたでしょ。京平にはいい夢見てもらわなくちゃ。

 帰ったら、すぐに抱きしめてキスしたいな。

 にしても、私。


「京平のことばっか考えちゃうな」

「亜美らしいよな」

「なんだかんだ、亜美はそうだよね」


 うう、振ったばかりの蓮もいるのに、ごめんね、こんな私で。

 心が京平でいっぱいなんだよお。


「そう言えば今日の知堂さんのオペ、友がオペ看で入るらしいじゃん」

「うん、ちょっと会ったよ。もうデビューしてたんだね」

「ああ、昨日かららしいぞ。弁当渡した時言ってた。ライムには、眠たくて報告し忘れたらしい」

「友も頑張ってるね」


 友が頑張ってるのは嬉しいな。ここまで来るのに、相当悩みながらやってたもんね。

 ライムでも上手く出来ないって、私達に相談してくれてたもんね。それが花開いて良かったよ。


「オペ看の業務が完璧になったら、また外回り業務も入るだろうし、総合看護師は大変だな」

「激務過ぎるから、私は正直やりたくないな」

「私はまだまだ外回りもちゃんと出来てるか不安だしね」


 私ももっと頑張り続けたら、自信つくかな?

 まだまだ自信ないんだよね、正直。

 私は天才じゃないからさ。


「結果がどうあれ、頑張ってる亜美は素敵だよ」

「うん、私も頑張ろうって思えるもん」

「えへへ、ありがとね。皆」


 ◇


「時任さんお疲れ様。特早番さん来たから帰っていいよ」

「お疲れ様です。上木さん」


 朱音は緊急外来に蓮と入ってるから、まだ帰れないだろうなあ。お疲れ様だね。

 さーてと、無事定時で終わったし、早く着替えて京平を抱きしめよっと。

 私は素早く着替えて、全力疾走で家まで向かう。

 私、京平が欲しくてたまらないよ。

 気持ちが、日に日に昂っていくよ。


「ただいま!」

「亜美、おかえり。ご飯準備するね」

「うん、ありがとね。でも、その前に」

「あ、亜美、コロコロは……」


 ん? 今信次、何か言ってたかな。まあいいや。

 私はコロコロした後、急いで手を洗って、京平が寝ている部屋に入る。


「ただいま! 京平!」


 私は布団に潜り込んで、ギュッと京平を抱きしめた。ふへへ、温かいなあ。癒されるよ。

 そうしているうちに。


「お帰り、亜美」

「ごめん、京平。起こしちゃったね」

「や、花粉症の薬飲むために5時に一旦起きたから、全然平気だぞ」


 そう言いながら、京平も抱きしめてくれた。この腕の中が、1番好きなんだよね。

 京平の優しさが、腕を通して伝わってくるよ。

 こんなに優しく愛してくれて、ありがとね。

 

 ふわあ、なんか眠たくなってきた。こんなに安心する場所、他にないもんね。

 私は更に強く京平を抱きしめる。

 ずっと傍にいるからね、京平。おやすみ。


「おやすみ、亜美」

「あ、亜美ごは……」

「しー、少し寝かせてあげよ」

「もう、亜美ってば!」

京平「亜美、お疲れ様」

信次「全く、すぐ兄貴といちゃつくんだから!」

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