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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
新しい季節
206/242

花粉症は辛いのです。

「はくしゅん! 信次、ちゃんとコロコロしたよな?」

「忘れる訳ないじゃん。兄貴の花粉症、かなり酷いもんね」

「ああ、すまん私だ。すぐコロコロしてくるよ」

「ごめんなお父さん、ばっくしょーい!」


 3月20日。私は今日遅番なんだけど、京平が休みだから1時間だけ早く起きた。

 京平の花粉症はちょうど前のデートを終えてから悪化し出し、今ではこの有様である。

 休みの日でも花粉症用のゴーグルとマスクを付けて、くしゃみ連発しながら過ごしている。

 鼻水も凄くて、家でも病院でもティッシュが手放せないみたい。


「うう、薬が効き出すまで後どんくらいだ?」

「京平、薬が効いてもくしゃみしてるじゃん」

「多少はマシなんだってば。現に薬が効いたらやっと飯が食えるというか」


 そう、京平の花粉症はかなり酷くて、ご飯もまともに食べられないくらい症状が出てしまう。

 くしゃみだったり、鼻水だったり、目の痒みだったり、ね。

 薬を飲むとまだマシになるらしく、ご飯くらいはいけるみたい。

 これも五十嵐病院の耳鼻咽喉科の腕の賜物だろう。


「えくしゅん、亜美、先に飯食べてていいぞ?」

「やだ。京平と一緒に食べたいもん。京平が薬飲んでから15分経ったし、もうちょっと一緒に待つよ」


 私は京平に寄りかかって甘えてみる。色んなことを京平とやりたいんだよ、私。


「あ……み。くしゃみ出来ないか……ら、はな……れて」

「あ、ごめんごめん」


 と、私が寄りかかるのを辞めた瞬間に、大きなくしゃみをして鼻を噛む京平。

 この時期は一緒に寄り添うのも厳しいみたい。仕方ないんだけどね。京平だって、私にくしゃみを引っ掛けたくはないだろうし。


「えっくしゅ。夜の薬はよく効くんだけど、眠くなるからなあ」

「それだけ効力が強いってことだね」

「昼のもそんくらい、ばくしゅん。効いて欲しいんだけどな」


 花粉症はアレルギーだからなあ。京平の身体がそれだけ京平を守ろうとしているんだよね。

 ただ、花粉という毒ではないものを毒扱いするから、京平は困ってる訳だけど。


 それから京平が薬を飲んでから1時間が経過し、少し京平の顔も和らいできた。

 くしゃみと鼻を噛む回数も、さっきよりはかなり減ってきたしね。


「亜美、お待たせ。飯食べよ」

「落ち着いてきて良かった」

「何とかな」


 今日の朝ご飯も信次とお父さんが作ってくれて、だし巻き卵とお漬物とあぶらげのお味噌汁。


「だし巻き卵、出汁の塩梅が良くて美味しいなあ。お漬物もご飯に合うね。お味噌汁も最高!」

「亜美、だから一気に食べるんじゃないよ」

「だって美味しいんだもん! ありがとね、信次、お父さん」

「喜んでくれたなら良かった」

「どういたしまして。あ、やば、僕もバイトあるから支度しなきゃ」


 そうか、信次もバイトなんだね。のばらは中番だから、一緒にお弁当食べるのかな?

 京平とはこの時間しか絡めないから、大切に過ごさなきゃ。


「食事中にごめん、鼻噛むよ」

「毎年のことだから解ってるってば。気にしなくていいよ」


 京平は気にしてくれているけど、私達はそれより京平が苦しむ方が嫌だから鼻噛んで良いよって、毎年のように言ってる。そろそろ何も言わずに鼻噛んでくれていいんだけどな?


「普通嫌だろ?」

「よそはよそ、うちはうちだよ?」

「そうだよ、兄貴。病院では気にしなきゃだけど、家でかしこまらなくてもいいよ」

「ありがとな。亜美、信次。えくしょん」


 京平は慌ててくしゃみを手で塞ぐ。これが1月は続くんだもん。細かいことは気にして欲しくないよ。


「お父さんも信次も朝ご飯ありがとな。食欲無かったんだけど、美味しく食べられてるよ」

「お父さんがほぼ作ったもんね、今日」

「そうか、お父さんの料理の腕も、日に日に上がってるな」

「だし巻き卵は流石に何回も焼き直したけどな」

「初めてでこれなら上出来だよ」


 京平も薬が効いてきたのと、ご飯が美味しいのとで、優しく笑えるようになって良かった。

 お父さんも最近毎日のように、京平や信次から料理を教わっている。

 その成果が、少しずつ現れてるみたいだね。

 ということは……。


「お弁当も2人の合作?」

「ああ、信次と2人で作ったよ。亜美が気に入ってくれるといいんだが」

「そっか! 楽しみにしてるね!」


 お父さんと信次のお弁当なんて、楽しみすぎて仕方ないよ。食べ終わったら、2人に美味しかったよってライムしよっと。美味しいのはもう既定路線だもん。


「ごちそうさまでした!」

「俺もごちそうさま」


 私達は同じタイミングで食べ終わったので、2人で洗面台にいく。

 2人並んで顔を洗って歯を磨いて、こんな時間も愛おしいよ。

 ただ、洗面台にもやっぱり花粉があるから、京平は時折くしゃみをしながら歯を磨いていた。


「ゲホッ」


 毎年のことなんだけど、こうやって苦しむ京平に、私は何も出来なくて。それが凄く苦しいんだ。

 

「何も出来なくてごめんね、京平」

「バカ、亜美がいるから俺幸せなんだけど」


 京平はそう言うと、私を後ろから抱きしめてくれた。

 

「早く歯を磨いて部屋いこ?」

「もー。しょうがないなあ」


 私は素早く歯磨きを済ませると、京平と一緒に部屋で抱きしめ合ってキスをする。

 京平は時折くしゃみをしたり、鼻を噛んだりしたのだけど、抱きしめ合うのを止めることはなかった。片手で鼻噛んでたよ。くしゃみも片手で器用に塞いでた。

 なんだ、出来るじゃん。京平。愛してるよ。

 だけど、もうそろそろ私が病院に行く時間だ。


「そろそろ病院いくね」

「見送るよ」


 私達が部屋から出ると、ちょうど信次も病院に行く所だった。

 今日は信次と一緒に病院に向かおうね。


「いってきまーす!」

「京平、いってきます」

「いってらっしゃい、亜美」


 私達はまだ抱きしめあって、いってきますのキスをする。信次の隣で。


「亜美、兄貴……僕もいるからね?」

「これだけは外せないの」

「そうそう」

「僕ものばらといってきますのキス始めようかな?」


 信次がムスッとしながら呟く。そうだぞ、羨ましいならするがいいさ!

 だけど、のばら、堂々としてる癖に照れ屋だけどしてくれるのかな?

 のばらのそういうとこは読めないからなあ。

 そんなこんながありながら、私と信次は病院に向かう。


「今日も海里とりす組かな。海里も大分慣れてきたよ」

「もうフルで働いてるもんね」

「海里が正社員になるのは4月からだけど、仕事覚えたくてガッツリバイト入れてるんだって」

「へえ、頑張ってるね」


 海里くんも、もう社会人かあ。

 あんなに小さかったのに、月日が経つのは早いなあ。

 小さかったといえば、信次も4月から大学生だし、背もかなり伸びたもんね。

 このままだと京平越すんじゃないかな?

 弟の成長も、素直に嬉しいな。


「亜美、夜勤だから無理しないでね?」

「もう随分慣れたから大丈夫だよ」

「じゃなくて、兄貴不足で発狂しないでね?」

「だまらっしゃい!」


 もー。可愛くないんだから!

 確かに京平不足で、夜勤は毎回辛いから間違ってないけどさ!

 

 そんなこんなで病院に着いたので、私は信次とバイバイして更衣室に向かう。

 更衣室には同じように夜勤の看護師、医師が着替えを行っている。

 正直病院内でも、知らない人の方が多いんだよなあ。いろんな科があるしね。

 むう、皆さんお胸が大きいね? 私、貧乳だからなあ。地味にショックだよ。

 そんなショックを受けながら、私は職場に向かうと。


「よ、亜美、お久」

「あ、蓮。何気久しぶりだね」

「振られたぶりってか。あはは」


 蓮は笑えないことすら、笑い飛ばしてしまうね。

 そんな明るい蓮のことは、尊敬しちゃうな。


「じゃ、俺は回診行ってるから、亜美も頑張れよ」

「うん、頑張るよ!」


 私も巡回スタートなんだよな。よし、気合い入れていくよ!


 ◇


「時任さん、お疲れ様。1時間休憩行っといで」

「はい、行ってきます」


 22時。1回目の休憩に回された。

 巡回も一通りは終わったから、後は夜の見回りだったり、ナースコールに気をつけなきゃね。

 んー、疲れたから少し寝よっと。

 そう思って休憩室に行くと。


「蓮、無理して笑わなくてもいいじゃん」

「亜美に気にしてほしくないし」

「だったら、しばらく亜美と話さなきゃいいのに!」

「その方がおかしいだろ?」


 ん、蓮と朱音が言い合ってる。私のことで。

 蓮は涙いっぱいに浮かべてるや。そうだよね、辛いに決まってるよね。蓮は頑張ってくれてたんだ。

 謝らなきゃ。私は蓮と朱音の元へ向かう。


「蓮、ごめんね。無理させちゃって」

「あ、亜美。なんだよ、無理って何の……」

「だって泣いてるじゃん」


 すると朱音が私をキッと睨みつけて。


「なんで蓮を選ばなかったの? 蓮、ずっと頑張ってたのに」

「ごめん、私には京平が」

「いつも深川先生しか見てないじゃん」

「だって、愛してるもん」


 そんなこと言われたって、私が付き合ってるのは、私が愛してるのは京平なんだもん。そりゃ、ずっと見てるよ。

 だけど、蓮のことを見てなかった訳じゃないよ。蓮の優しさには、いつも感謝してたから。それでも、選べなかっただけで。


「朱音、それくらいにしとけ。でも、ありがとな」

「だって、だって」


 明らかに変な空気になっちゃった。私は来ない方が良かったのかな。

 蓮、ごめんね。私が泣きそうになってたその時。


「亜美、大丈夫か? くしゅん」

「京平!」

「どうやら、言い合いになってたみたいだな。落合くん、中庭行こっか」

「待って、私も行く。深川先生のせいで、蓮は」

「解った。佐藤さんも一緒に行こうか」

「わ、私も!」


 と、言うと、京平は。


「亜美は普通に休憩してて。ちゃんと俺が話してくるから」


 確かに今蓮は、私と普通に話せない状態だもんね。それを無理したから、今泣いてるんだし。


「解った。待ってるね」


 でも京平、どうして来たんだろう? 連絡してないのに。

 当事者がその場に居れないのは申し訳ないけど、後は京平に任せておこう。

 京平達は、揃って休憩室を後にする。

 蓮、京平、ごめんね。そして朱音は、何であんなに怒ってるんだろう? 朱音は当事者じゃないのになあ。

亜美「京平、蓮、ごめんね……」

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