謝った蓮。(蓮目線)
俺達は外に出て話し始めた。
うう、寒い。公園にずっと居たし、身体が冷えちまったな。そんなこと気にしてなかったけど、ここまで冷えると嫌でも気付くな。
「蓮、マフラー貸してあげる」
「ありがと、亜美。それより、本当にごめん。俺、亜美のこと考えられてなくて」
「もう2度と、あんな事言っちゃダメだし、しちゃダメだよ」
温かい。亜美の温もりもあるから尚更。
亜美、いつだって優しいよな。ありがとう。
俺は亜美の温もりに包まれながら、意を決して伝える。
「亜美、俺、亜美のこと愛してる。俺と付き合って下さい」
「やっと普通に告白してくれたね。でも、ごめんね。私には京平が居るから」
「知ってる、知ってるからどうしようかってこっちも色々考えて、考えすぎて変な行動しちまって」
「私は京平を愛してるから、どうやっても無駄だったけどね」
「おうおう、言うじゃねえか」
ああ、やっぱりフラれたか。まあ、仕方ないよな。
亜美は深川先生を愛してるんだもんな。嫌われても愛する覚悟があるくらい。
俺はそこまで亜美を愛せていたかな。正直、そこまでの覚悟は無かったな。
「私達が友達になって、もう8ヶ月だね」
「俺は会った瞬間から、好きになったけどな」
「え。早」
「今でもはっきり覚えてるよ。亜美と出会った日のこと」
◇
「へえ、専門学校時代からの恋を追ってここに?」
「はい、ずっと好きなんです。研修中は休憩時間合うから嬉しいです」
五十嵐病院に勤め始めて1日目の朝、同期の看護師である友と仲良くなった俺は、友から恋愛話を聞いた。
朝の通勤で偶然一緒になって、話しかけたら、友も今日からだっていうから、ちょっと運命を感じたな。
ただ、恋愛話に関しては、おいおい、恋愛で職場を選ぶだなんてバカだな、って正直思ってたんだ。
その時の俺は、恋愛ってものを全く解ってなかったし、面倒くさくないから友達でいいじゃんって思っていたし。
「で、その片思いの相手は、まだ来ないの?」
「トイレに寄ってから来るって言ってたので、もうそろそろかと」
そんな話をしていた矢先、駆け足が休憩室中人響き渡り、その駆け足の音は俺達に近付いて来た。
「はあはあ、友くん、お待たせ」
その瞬間だった。胸がトクトクと鳴り響いて、視線がその子を掴んで離さない。この気持ちはなんなんだ? 全く理解出来ないながらも、俺は自己紹介をする。
「ちっす、俺、落合蓮。今日から研修医として、五十嵐病院で働きます。宜しくお願いします」
「あれ、友の友達? わ、私は時任亜美です。今日から内科に配属された看護師です。お、お願いします」
「もうこうして出会ったんだから、俺達も友達だろ? 敬語は無しでいいぜ」
「そ、そ、そういうも、ん? 宜しくね」
その子……亜美はかなり辿々しく、自己紹介をしてくれた。
人類皆兄弟と思ってる俺は、亜美とも初っ端の挨拶で友達になったんだ。
けど俺は既に、心を亜美に持ってかれていたよ。こんなに緊張した自己紹介を聞いたのも初めてだったし。
そうして、休憩時間を皆で過ごしていたんだけど、俺の頭はもう亜美でいっぱいだった。
話しているうちに、亜美の純粋さ、無垢さ、笑顔が可愛いところ。全てに惹かれていったんだ。
ただ、それと同時に絶望感も味わっていた。何故なら。
「今日は京平早番だから、ご飯食べてる姿を見たいなあ。あ、色々あって一緒に暮らしてるんだけどね」
「京平って?」
「深川先生のことですね」
「てか、見られながらご飯って、食べ辛くね?」
「そうですよ亜美さん、やりすぎですよ」
「ぶー。だって一緒に居たいんだもん!」
あ、亜美って深川先生が好きなんだなって、一瞬で気付かされた場面だった。
深川先生……研修の担当医でもあったけど、ガチイケメンで、優しそうな人だったもんな。
今も人手の少ない緊急外来を、俺達の休憩中にやるっていってたし。休憩いつ取るんだよ。
しかも、最年少で内科主任部長。勝てる要素が全然ないな?
ん、待てよ? 俺は何で深川先生に勝ちたいんだ?
俺は亜美を。
「あ、私、予習したいから早めにナースステーションに戻るね。ごゆっくり」
「おい、亜美、一応家族とは言え、深川先生には敬語使えよ?」
「た、確かにそうだ。落合先生、ありがとね!」
亜美はまた走って、休憩室を飛び出していった。あ、敬語、病院内でって伝え忘れた。まあ、普通に解るよな。
しかも亜美、予習すんのか。すげえ頑張ってんな。
待て、それより俺の気持ちだよ。何で亜美のことで、胸がいっぱいなのか。何で深川先生に勝ちたいと思うのか。
「なあ、友。その人のことで胸がいっぱいになるのって、何なんだ?」
「ちょっと、笑わせないで下さいよ。そんなの、恋してるに決まってるじゃないですか」
そっか、俺、亜美に恋してんのか。恋愛感情って、こんな気持ちだったのか。
甘いけど、ほんのり苦いような。そんな感覚で。
「で、友が好きなのは亜美なんだよな?」
「はい、愛してます」
「ごめん友。俺、まだそこまでじゃないけど、俺も亜美のこと、好きだわ」
「え、少し話しただけなのにですか?!」
それから残りの休憩時間は、亜美について話してた。
友は根がいい奴すぎて、亜美のことをいっぱい教えてくれた。
努力してたのは専門学校時代も同じで、変わらないこと。朝が弱いこと。友達は今まで友だけだったこと。
そして、深川先生を愛していること。
「だから僕達がいがみ合う必要はないんですよ。強力な敵がいますからね」
「それもそうだな。俺達の恋、叶うといいな」
「負けませんよ、蓮」
「ふ、俺だって」
寧ろ友とは、亜美をきっかけに仲良くなったまでもあるな。亜美がいない休憩時間は、いつも一緒に亜美の話もしていたし。
それから翌日の休憩時間。
「あれ、深川先生、今日は普通に休憩取られるんですね?」
「ラスト2時間にまとめて休憩取ってたことが、院長にバレちまってさ。それなら亜美……家族として暮らしてるんだけど、亜美の顔見たいな、って」
あ、これ、もしかしなくても、深川先生も亜美のこと、好きなんじゃね? 少し照れながら言う時点でバレバレだぞ?
やべえ。俺の恋は儚く散ってしまうのか。まあ待て、俺はコミュニケーション能力だけは自信あるんだ。
亜美に深川先生が告白するまでに、亜美を落とせばいいんだ。俺に。
ただ、俺の意図しない発言が功を奏した。
「深川先生、お疲れ様です」
「亜美、お疲れ」
おや、明らかに深川先生の顔色が変わったな?
亜美は社会人として敬語で挨拶しただけ……あ、亜美の敬語が嫌なんだ。
よし、よし、これで深川先生と亜美の距離が広がれば、俺にもチャンスがあるぞ。
そう思ってたんだけど。
◇
「亜美は鈍いし、深川先生亜美に敬語禁止令出すし、気付いたら付き合ってるしで、計画丸潰れだったよ」
「ぶー。京平が敬語嫌がってること、教えてくれても良かったのに!」
「やだよ、チャンスだと思ってたし」
「敬語、最初から嫌だったんだね。京平」
「本当鈍いよな、亜美って」
そうだよな、チャンスはあったんだよ。
でも、チャンスを掴むことは、亜美を掴むことは出来なかった。
亜美が、その想いを叶える努力をしていたから。
「亜美、最近よく泣いてるから、笑わせたかったな。彼氏として」
「蓮にも助けられてるよ。ありがとね」
「今日は色々ごめん。これからも宜しくな」
「うん、宜しくね。蓮」
ああ、暫くは亜美のこと引き摺るんだろうな。
綺麗さっぱり次の恋へ。とは、いかねーし。
だって、俺はまだ、亜美のこと愛してるし。
でも、友みたいに諦めないとは言えないな。
だって、亜美をもう、泣かせたく無いから。
「じゃあ、またな」
「気をつけて帰ってねー!」
落ち着け、俺。振り返るな。
ずっと見送ってくれている亜美を見たいけど、我慢だ。
愛してるよ、亜美。だから、こんな泣き顔、亜美には見せらんねえよ。
亜美をいつか、過去に出来ますように。
蓮「初恋だったんだ。叶えたかったな」
作者「亜美は深川先生大好きだからな」
亜美「違うの。愛してるの!」




