蓮、何言ってんの?
「このステーキ屋、きっと亜美も気にいるよ」
「ステーキが食べられるのは嬉しいな」
私達はステーキ屋に辿り着いて、予約席に案内された。席には鉄板があって直接焼いてくれるみたい。
おお、中々本格的だね。
「まずはステーキ頼もうか」
「そうだね、どれにしようかな?」
色んな種類のステーキがあるなあ。私は純粋な牛ステーキが好きだから、そういうのがいいな。あ、厚切り和牛ステーキとかあるじゃん。これにしよっと。
蓮はまだ悩んでるみたいだね。ちょっと待ってるか。
と言うか、蓮はステーキ食べられるのかな?
私は昼ご飯食べてないから余裕だけど、蓮はそんな事ないだろうし。
もしかしたら、それで迷ってるのかな?
「よし、俺は決めたけど、亜美は決まったか?」
「うん。厚切り和牛ステーキ!!」
「じゃあ、注文するぜ」
蓮は店員さんを呼ぶベルを押して、店員さんを呼ぶ。
「すみません、注目宜しいですか?」
「お伺いします」
「厚切り和牛ステーキ2つお願いします」
「厚切り和牛ステーキ2つですね。焼き加減はいかがいたしますか?」
「私はミディアムで」
「俺はレアで」
「かしこまりました。他にご注文は宜しいですか?」
「はい、大丈夫です」
およ。予想に反して、蓮も同じメニューだ。
パフェとか軽いのにするかと思ったら!
そう言えば、蓮のお弁当箱、かなり大きかったしね。
食欲はまだまだ旺盛ってことだね。
「へへ、俺達同じメニューだったな」
「蓮の食欲凄いねえ」
「亜美も凄いじゃん」
「私は昼ご飯食べてないからさ」
「あ、それもそっか」
私はそれもあるし、ステーキが大好物だしね。
まだお腹も空いてるし、沢山食べたくて。
ステーキの写真撮って、京平に送ろっと!
「お待たせしました。厚切り和牛ステーキです。鉄板で焼かせて頂きます」
お、さっきとは別の店員さんだけど、店員さん来るの早い! そして見る見るうちにステーキを焼いてくれたよ。
私はそれをスマホで興奮しながら撮影する。
うー、美味しそうだよおお!
って、いけない。この後大事な話があるんだから。ステーキ素敵し過ぎちゃダメだぞ。
「お待たせしました。焼き上がりました」
「おおお、美味しそう!」
「流石だな、朔」
「蓮と蓮の彼女に、ステーキ焼けて嬉しいよ」
あれ、蓮と店員さん、仲良さげだなあ。
あ、ちょっとまって! 私、蓮の彼女じゃないよ。
「あ、彼女じゃないんです」
「へえ、蓮いい奴ですよ?」
「もう京平と言う素敵な彼氏が居ますから」
「え、彼氏さんいるのに、蓮と2人きりって。彼氏さんよく許してくれましたね」
え、友達とご飯なんだけど、異性だと普通じゃないの?
確かに私も、京平がのばらと2人でご飯するよって言われたら、良い気はしないかも。
京平には、呑み会のあと、蓮と2人でご飯いくよとは言ったけど、その時も今思えば、少し間があった気がする。
普通に、ああ了解。とは、返してくれたけど、本当は嫌だったのかもしれないや。
「ああごめん亜美、こいつ幼馴染の衛藤朔。この店のオーナー兼店長なんだ」
「自己紹介が遅れました。衛藤です。ステーキ、楽しんでくださいね」
「色々余計なこと言い過ぎ。亜美、気にしなくていいからな」
「大丈夫だよ。時任亜美です。宜しくお願いします」
「それでは、ごゆっくり」
衛藤さんの言葉が不躾とは思わなかったけどね。寧ろ、普通のことを言ってた気がする。
帰ったら京平にごめんねって言わなきゃね。気付けなくてごめんね、京平。
「亜美、深川先生のこと考えてるだろ?」
「うん、私最低なことしちゃった」
「俺からも深川先生には、亜美借りますとは伝えてあったけど、話は公園でするわ。ここでは、飯だけさっさと食おうぜ」
「そう言う問題じゃない気もするけど、ありがとね。蓮」
とは言え、ご飯屋さんに2人で居続けるよりはいいよね?
さっさとステーキ食べて、さっさと話を聞いて、私なりに相槌を打って帰るとするか。
取り敢えず、ステーキの写真をパシャリ。
「あいつ口は悪いけど、ステーキ焼くのは上手いんだぜ。まずは食べてみろよ」
「どれどれ。いただきます」
「どうだ?」
「うは、肉汁が口中に溢れかえるし、肉の風味も抜群だよ。お、美味しい」
「また笑ってくれて良かった」
京平の気持ちに気付かなくて、不安がる私を笑わせてくれたんだね。ありがとね、蓮。
そうだよね、蓮はただ話がしたくて、誘ってくれただけなんだもんね。気にし過ぎてごめんね、蓮。
「んー! やっぱ美味え。朔の焼くステーキは最高だぜ」
「すぐステーキが居なくなる。から、どんどん食べちゃう」
うん、素直にステーキはめちゃくちゃ美味しい。
いくらでも食べれちゃうなあ。
また京平と一緒に行きたいな。
でも京平は歳だから、そんなにステーキ食べられないかな?
すぐ胃もたれするもんね。そこも可愛いけどさ。
「ふー。腹一杯」
「すぐ無くなっちゃった」
「気に入ってくれたようで良かった」
「また個人的にも来ようかな」
さて、お会計して店を出ようね。私は財布を出した。ら。
「今日は俺の奢り」
「や、それは申し訳ないよ」
「話聴いてもらうしさ。気にすんな」
蓮はそう言うと、また衛藤さんを呼んで、お会計をしてくれた。
厚切り和牛ステーキ、中々良いお値段だったのに、優しいね。
「じゃ、公園に行こうか。話、しよ」
「うん、ステーキも奢ってもらったし、しっかり聞くよ」
何故だろう。蓮から緊張が伝わってくる。
そんな話し辛いことを、話してくれるのかな?
恋の悩みなのかな。病院での悩みなのかな。
何にせよ、蓮の力になれたらいいな。
私は公園まで辿り着くと、ベンチに腰掛ける。
「亜美、寒くない? 大丈夫か」
「うん、大丈夫だよ」
まだ冷え込むから、マフラーも巻いて来たけど、寧ろ若干暑いまであるかも。
「なら良かった。元々亜美は、友から紹介から友達になったけど、今時こんな純粋に笑う子がいるんだって、気付いたら目で追うようになって、身体でも追うようになって、誰よりも助けたくて、笑わせたくなったんだ」
「こら、蓮。そう言うことは好きな子に言わなきゃダメだぞ」
蓮、私に対してまるで告白するかのような前振りじゃん。
蓮には好きな子がいるんだから、そういうのは、好きな子に言ってあげなきゃ。
「そうだな、だから、風邪ひきやすい癖に内科で誰よりも頑張ってて、お菓子作りも上手くて、前向きで、笑顔が誰よりも可愛い亜美に伝えてるんだけど?」
「え?」
蓮は私の両手を握りしめて、一呼吸して。
「亜美のこと、愛してる。亜美以外考えられない。でも、亜美には深川先生がいるだろ? だから、俺のこと、利用してくれて構わないから、俺は浮気しないから、亜美の愛人にして下さい」
「ごめん蓮とは付き合え……ん。愛人?!」
蓮、何変なこと言ってんの?
そこは付き合ってくださいって言うとこだし、それを私はいつものように、振るって流れでしょ。
こんなのおかしいよ。愛人なんて絶対有り得ないよ。
「蓮、ダメだよ。私は京平を裏切ることなんて出来ないし、何より蓮も傷付くことじゃん。蓮らしくないよ。蓮が傷付いてまで、私を手に入れる価値なんてないよ」
すると、蓮は笑い出した。
「俺らしくない、か。それは、亜美が俺を解ってないだけだぜ」
「え」
それは突然のことだった。蓮は私の身体を横に強引に向けて、少しの間の後、キスをしてきた。
私は、蓮を引っ叩く。
「蓮のバカ。変なこと言うし、キスまでするし!」
「だって亜美と一緒に居たくて」
「やり方が間違ってるよ。私が蓮に靡くことはないけど、こんなのおかしいよ。もう知らない!」
蓮のバカバカバカ。最低だよ。蓮がこんな奴だなんて思わなかった。
私は泣きながら家まで走った。
でも、最低なのは私も一緒だ。
京平がいるのに、隙を見せて、キスされてしまったんだから。
蓮を信用しちゃいけなかったのに。
「ごめんね……京平」
亜美「えぐえぐ。ごめんね。京平」