表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
揺れ動いたりしない心
197/238

呑み会って楽しいね。

「京平、いってらっしゃい」

「休みなのにお弁当ありがとな」


 私達はハグとキスをして、お互いに温もりを感じ合う。

 私も強く抱きしめたし、京平も強く抱きしめてくれた。キスもいつもより長く、長く、深く。

 ずっと一緒に居たいとは思うけど、現実問題お互い仕事も予定もあるし、それは不可能なんだよね。

 でも、心だけはずっと傍にいるからね。心の中は、いつも京平でいっぱいなんだからね。

 今日は帰ったら、また抱きしめてね。


「いってきます、亜美」


 京平は私の頭をポンっとして、仕事に出掛けていった。

 寂しいな。今日は呑み会の日だけど、それまで何してようかなあ?

 勉強でもしてようかな。1人でも唯一寂しさを感じないことだし。

 それに、リビングにはお父さんも居るしね。

 そうと決まった私は、勉強用具を持って、リビングに向かう。

 お父さんの隣に座ろっと。


「お、亜美、勉強か?」

「そ。呑み会まで時間あるしね」

「休みなんだし、無理はするなよ」

「大丈夫、たっぷり寝たもん!」


 勉強したいことも沢山あるしね。糖尿病のこと、蕁麻疹のこと、インフルエンザのこと、それと改めて双極性障害のことも。

 医学書もそれに倣って沢山買って来たんだよ。

 よし、一点集中!


 私はまず、双極性障害の勉強を始める。

 そうだよね。京平、躁状態は少ないけど、なると感情的になりやすいもんね。

 大体私達に関することで、いつも怒ってくれてるけど。

 前に私を泣かしたって勘違いして、鬱状態になったときは、私を叱ったことを後悔して苦しんでた。

 あれは完全に私が悪かったのにさ。本当に優しい、優しいが過ぎるんだよ、京平は。

 その次が、最後まで麻酔科医として患者様の側に居られない自分を責めて、鬱状態になってた。

 責任感も強いよね。でも、自分を責め過ぎないで欲しいな。京平は立派なお医者さんだから。

 自分に対する自信も、正直今の京平は無いよね。こんなに素敵な人が、自信が無いだなんて、悲しいよ。もっと沢山褒めなきゃ。ポンポンもしてあげよ。

 

 まだ度々鬱症状も出るから、そろそろ薬の見直しも相談しなきゃ。

 何かあったら耐えられないくらい、ギリギリの治療になってるってことだもんね。

 何かある度に、鬱状態になってるもん。

 京平には、ずっと笑っていて欲しい。でも、辛い時は無理しないで欲しいけど。

 今度の診察の時、麻生愛先生に相談だな。

 京平もそこら辺は考えてるだろうけどね。


 これからも、京平が京平らしく過ごせますように。

 その為に、私はいつでも京平を支えるからね。

 私が、京平の泣き場所になるからね。

 私の前では、素直なあなたでいてね。


「えぐえぐ、京平」

「亜美、京平に何かされたのか?」

「あ、違うの。京平を支えたいなって思ったら、感極まって」

「泣き虫で優しいな、亜美は」


 ◇


 それから私は色々な勉強をして、気が付けば15時半。え、15時半?! やば、準備何もしてない!


「亜美」

「うわっ! な、何?」

「やっと気付いたね」

「ちょ、信次。居るならもっと早く声掛けてよね」

「何度も声掛けたってば」


 しかも信次の声掛けにも、気付かない始末。もー! 私のおバカ!

 私は慌てて準備を始めた。着替えて、顔洗って、メイクしてえええ!

 よおし、何とか終わった!


「いってきまーす!」

「待って亜美。その服はないよ。着替えようね」

「だってアマゾムで」

「果てしなくダサいからやめな! もう、僕が見繕うからね?」


 うう、同期の飲み会なら、アマゾムで買った服、アリだと思ったのにな。

 渋々私は、信次に言われるがままの服に着替えた。


「うん、これなら良し。行っといで」

「もう時間ギリギリじゃん。いってきまーす!」

「「いってらっしゃーい!」」


 いっけない。もう後5分じゃん。

 病院近くの呑み屋さんだから、近いっちゃ近いけど、呑み屋さんから1番近いのに遅刻は恥ずかしいし急がなきゃ。

 えっと、確か「酒と魚」ってお店だったよな。

 地図アプリを見ながら、私はスマホを見ながら走った。

 すると、誰かが私の肩をガシッと掴む。


「こら亜美、車走ってるぞ」

「あ、蓮。ごめんね、ありがとね」

「俺、道覚えてるし、慌てず行こうぜ」


 本当だ。目の前は信号のない横断歩道だ。

 蓮が止めてくれてなかったら、事故になっていたよ。ありがとね、蓮。


「ちょっとくらい遅刻しても問題ないのに」

「だって、家から近いのに遅刻なんて恥ずかしいじゃん」

「真面目だな、亜美は。遅れるからって連絡してくれれば、誰も咎めたりしないってば。遅刻つっても5分程度なんだし」

「でもお……」

「それより、亜美が笑顔で来てくれた方が嬉しいぜ」

「へへ、ありがとね。蓮」


 蓮は優しいなあ。焦っていた私の心を溶かしてくれたよ。

 そんな訳で、私達は待ち合わせから5分ほど遅れて、現地に辿り着いた。

 既に友が待っててくれた。


「ごめんな友、遅くなって」

「ああ、亜美も一緒だったんですね」

「私が轢かれる寸前のとこを、蓮が助けてくれて」

「ただ、走る亜美を止めただけだけどな」

「亜美はそそっかしいですからね。無事で何よりです」


 友は怒るどころか、私の無事を喜んでくれた。もう、皆優しいなあ。友達にも恵まれてるね、私。


「取り敢えず、皆ビールでいいですか?」

「うん、いいよ!」

「俺もいいぜ」


 注文はタッチパネルで行う方式だったので、友がポチポチとビールを注文してくれた。

 今回は飲み放題で、料理は順番にコースで出るみたい。

 メインディッシュは確か海鮮鍋。美味しそう。昼食べのがしたから、早く食べたいな。


「お待たせしました。ビール3つです」

「お、来た来た」

「それじゃ、乾杯!!」


 私達は各々のグラスをカチンと鳴らす。ビールが揺れて呑み会の始まりだね!


「ああ、お腹空いたあああ」

「ん、16時開始だから、そうでもない気が」

「友、亜美だぜ。昼食べ逃したんだろうよ。勉強で」

「何故解った?!」

「ああ、亜美は集中すると周りが見えなくなりますし、お弁当すら食べ忘れますもんね。学生時代、何度も注意しましたもん」

「そんなことより、ご飯早く食べたいな」


 ぶー。皆爆笑し始めたんだけど?!

 お腹空いたらご飯食べたくなるじゃん?


「ぶはは、なんか亜美らしいな」

「あ、そんなこと言ってたら、ご飯来ましたよ」


 私は思わず笑った。一品目は何かな? ワクワク。


「お待たせしました。お通しのあたりめの炙りでございます」

「待ってました! 亜美と食べたかったからさ」

「狙いましたね? 蓮」

「ビールに相性バッチリだね!」


 お腹空いてる時のあたりめ、美味しいよね。

 このお店、あたりめがあるんだなあ。珍しいね。


「はむはむ。固いけど美味しいよね」

「あたりめと一緒にマヨネーズも来たけど、相性いいな。美味え」

「僕、あまりあたりめ食べないんですけど、美味しいですね。帰りに買いましょうかね」


 よしよし、友もあたりめ気に入ってくれたみたい。というか友、宅飲みとかするんだなあ。

 友達でも知らないこと、沢山あるなあ。


「お待たせしました。チョレギサラダです」

「私、サラダ取り分けるね」

「お、ありがとな、亜美」

「有難うございます。亜美」


 ヘルシーな物が続いていくね。サラダはザッと分ければいいかな? ていや!

 一応きゅうりの数は皆一緒くらいかな?


「はい、お待たせ」


 私はサラダを皆に配る。こういうの、ついついやっちゃうんだけど、私器用ではないんだよなあ。余計なお世話になってないかな?


「サンキュー!」

「有難うございます」

「あ、友、ビール追加で」

「僕は日本酒呑もうかな」


 ほええ、サラダに突っ込みをされなかったのは良かったけど、皆呑むペース早いなあ。

 私のジョッキも、もうすぐ空になるけど、次は何にしようかな?

 でもこの後、大事な話もあるしなあ。程々にしなきゃね。

 とりま、次もビールにしようかな?


「亜美は何にする?」


 私の空になりそうなジョッキを見て、蓮が声を掛けてくれた。


「じゃ、ビールで!」

「了解。注文完了です」


 そして、話は自然と友の話になる。


「友、異動してからどうだ?」

「少しずつ教わってる感じです。まだ手術室に入れるレベルじゃないので、洗濯めちゃしてますよ」

「ああ、教える人がオペ入っちゃうと、手持ち無沙汰になるもんね」

「そうなんですよ。早く実力を上げたいです」


 やっぱり総合看護師の道程は険しいんだなあ。ある程度のことは何でも出来る友が、苦労してるんだもん。

 そう思うと、のばらは凄いなあ。

 外回り業務も1ヶ月で物にして、素早く総合看護師になったしなあ。

 今はオペに入ったり、巡回したり、頑張ってるしね。


「でも来週、冴崎さんのオペ看護業務を、見学させて貰えるんですよね。麻酔科医も深川先生が担当されますし、楽しみです」

「友、深川先生のこと尊敬してるもんな」

「え、そうだったの?」

「五十嵐病院に来たのは、1番は亜美を追っかけてでしたが、それと同じくらい、深川先生に会いたくてって気持ちも強くて」


 そうだったのかあ。そう言えば友は元々医師志望だったし、京平の異能の治療に関する実績も知ってたのかも。

 京平の異能に関する論文をキッカケに、京平は内科主任部長にもなった、って、前にこっそり麻生先生が教えてくれたしね。

 きっと沢山の人を助けたくて、論文書いたんだろうなあ。流石京平だよ。


「深川先生は確かにすげえもんな。内科医としては、尊敬してるよ」

「うん、京平は凄いもん。1番尊敬してる。私を育ててくれたしね」

「そこ亜美のお父さんが1番じゃないのかよ」

「だって、京平を1番愛してるもん」

「はいはい、呑み会で惚気るんじゃないよ」


 あれ、蓮ちょっと不貞腐れてない?

 ただ惚気ただけなんだけどなあ。

 とはいえ、気分良くなかったかなあ、呑み会という場で惚気られて。


「ごめんね。空気読めなくて」

「いや、俺こそごめん。亜美が惚気るのは普通なのにな」

「深川先生、優しいですもんね。惚気たくなりますよね」

「うん、いつも優しいよ。優しすぎるよ」


 だから、私が守るの。優しい分、傷付きやすいもんね。そこも愛しいけれど。


「僕もそんな彼氏になりたいですね」

「それより俺は、笑わせたいな。絶対泣かせない」

「2人なら誰かの良い彼氏になれるね」


 そうなったら、紹介して欲しいな。2人が選ぶ人なら、絶対良い人だろうからさ。何より、2人を選んでくれた人でもあるもんね。


「お待たせしました。白身魚のフライです」

「またビールが進むな」

「白身魚ですし、日本酒にもピッタリです」

「うわあ、やっと腹持ちの良さそうなのが来た」


 ちょ、また2人に爆笑されたんだけど!

 しょうがないじゃん! お腹空いてるんだもん!

 だから揚げ物めちゃ嬉しかったんだもん!


「んー、美味しい。カラッと揚がって衣はサクサクで、魚はホクホクで、ビールが進んじゃう」

「亜美顔真っ赤だぜ? 呑みすぎんなよ?」

「本当ですね。それでお酒は最後ですよ?」


 ありゃ。もう酔っ払って来たかな?

 この後大事な話もあるし、ソフトドリンクに切り替えなきゃ。


「取り敢えず水頼もうか」

「間違いないですね」

「うう、ありがとね」


 気遣ってくれる2人が優しいなあ。いつもいつも有難うだよ!

 お水はすぐに来て、私はお水を飲みながら酔いを覚ます。

 酔いすぎると変なこと言ったり、寝ちゃったりしちゃうからね。しかも、今日は京平も居ないし。


「俺はビールお代わり!」

「ああん。私だって呑みたいのにー!」

「亜美は酒に弱いんだから、しゃあねえよ」

「蓮は強いですもんね」

「今日はちょい控えるけどな」

「ああ、明日早番ですもんね。医師会合で」


 ◇


 それから色んなご飯が出て来て、最後に皆で海鮮鍋を突いたよ。

 仲の良い友達と食べる鍋って、最高だよね。

 因みに蓮は、三杯目のビールを呑んだ後は、ソフトドリンクにしていた。

 やっぱりこの後の話に向けて、かなあ。どんな話をするんだろう?


「ふー、やっと腹八分目になったよ」

「やっとかよ。腹ペコじゃなくなって良かったよ」

「海鮮鍋、ボリュームありましたしね。美味しかったです」

「また皆で呑めたらいいね!」

「だな、友の近況報告を兼ねてな」

「本当に休憩時間合わないですもんね」


 呑み会で友と話せるのは嬉しいもんね。後、オフな時間を皆で過ごせるのも楽しいし、なんならもう次が楽しみになって来たよ。呑み会ってこんなに素敵なものだったんだなあ。


「友、無理すんなよ」

「え、僕、無理なんて……」

「一から業務の覚え直し、新しい環境、プレッシャーも半端ないだろ?」

「ふー、蓮には嘘吐けませんね」

「冴崎のばらを意識しすぎんなよ。あれは天才だから。友は天才じゃないし」


 そっか。やっぱり友、大変なんだなあ。

 正直今も、無理してるのかもしれない。

 そして、のばらは天才。うん、それは凄く思う。

 京平の看護師バージョンと言っても、遜色ないかもね。

 友が仮にのばらを意識してるとしたら、それはとても危険過ぎる。頑張っても頑張っても追いつけなくて、って、心が折れちゃう。

 と言うのも、私自身が、ちょっと折れかけてるんだよね。のばら、凄すぎるもん。

 いつもの私なら、同期が総合看護師になるよ、なんて言われたら、私も! ってなるのに、そんな余裕全然無いもん。

 正直ちょっと、心が疲れている。

 友にはそうなって欲しくないな。友らしく頑張って欲しいもん。


「うん、のばら凄いもんね。友は友らしくだよ」

「2人とも有難うございます。正直、最近毎日が辛かったんです。至らないな、って」

「ペースはそれぞれだよ。だから、大丈夫」

「だよ、まだ11日しか経ってねえしな。てか、愚痴吐いたって良いんだからな?」

「そうだよ。溜め込むのは良くないからね?」


 友には笑って仕事して欲しいもん。だから辛いことがあったら、素直に吐き出してね。

 愚痴でも何でも聞かせてね。


「有難うございます。また皆で呑み会しましょうね。久々に楽しかったです」

「おう、勿論!」

「また休み合わせてやろうね!」


 そんなこんなで、呑み会はお開きとなった。

 けど、また近々開催せねばな。友が苦しくなる前に、ね。

 暫くは大変だろうし、愚痴も聞いてあげたいもん。


「今日は有難う御座いました!」

「またな、友」

「またね、友」


 ここで友とはさよならして、私達はステーキ屋に向かう。


「時間作って貰って悪いな、亜美にしか話せなくてさ」

「いいよ。蓮は大切な友達だしね」


 この時私は、まさか蓮から、あんなことを言われるなんて、思わなかったんだ。

亜美「ああ、呑み会楽しかった!」

蓮「また企画しなきゃな、友の為にも」

亜美「ああ、京平がいればもっと最高なのにな」

蓮「深川先生は余計だぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ