呑み会って楽しいね。
「京平、いってらっしゃい」
「休みなのにお弁当ありがとな」
私達はハグとキスをして、お互いに温もりを感じ合う。
私も強く抱きしめたし、京平も強く抱きしめてくれた。キスもいつもより長く、長く、深く。
ずっと一緒に居たいとは思うけど、現実問題お互い仕事も予定もあるし、それは不可能なんだよね。
でも、心だけはずっと傍にいるからね。心の中は、いつも京平でいっぱいなんだからね。
今日は帰ったら、また抱きしめてね。
「いってきます、亜美」
京平は私の頭をポンっとして、仕事に出掛けていった。
寂しいな。今日は呑み会の日だけど、それまで何してようかなあ?
勉強でもしてようかな。1人でも唯一寂しさを感じないことだし。
それに、リビングにはお父さんも居るしね。
そうと決まった私は、勉強用具を持って、リビングに向かう。
お父さんの隣に座ろっと。
「お、亜美、勉強か?」
「そ。呑み会まで時間あるしね」
「休みなんだし、無理はするなよ」
「大丈夫、たっぷり寝たもん!」
勉強したいことも沢山あるしね。糖尿病のこと、蕁麻疹のこと、インフルエンザのこと、それと改めて双極性障害のことも。
医学書もそれに倣って沢山買って来たんだよ。
よし、一点集中!
私はまず、双極性障害の勉強を始める。
そうだよね。京平、躁状態は少ないけど、なると感情的になりやすいもんね。
大体私達に関することで、いつも怒ってくれてるけど。
前に私を泣かしたって勘違いして、鬱状態になったときは、私を叱ったことを後悔して苦しんでた。
あれは完全に私が悪かったのにさ。本当に優しい、優しいが過ぎるんだよ、京平は。
その次が、最後まで麻酔科医として患者様の側に居られない自分を責めて、鬱状態になってた。
責任感も強いよね。でも、自分を責め過ぎないで欲しいな。京平は立派なお医者さんだから。
自分に対する自信も、正直今の京平は無いよね。こんなに素敵な人が、自信が無いだなんて、悲しいよ。もっと沢山褒めなきゃ。ポンポンもしてあげよ。
まだ度々鬱症状も出るから、そろそろ薬の見直しも相談しなきゃ。
何かあったら耐えられないくらい、ギリギリの治療になってるってことだもんね。
何かある度に、鬱状態になってるもん。
京平には、ずっと笑っていて欲しい。でも、辛い時は無理しないで欲しいけど。
今度の診察の時、麻生愛先生に相談だな。
京平もそこら辺は考えてるだろうけどね。
これからも、京平が京平らしく過ごせますように。
その為に、私はいつでも京平を支えるからね。
私が、京平の泣き場所になるからね。
私の前では、素直なあなたでいてね。
「えぐえぐ、京平」
「亜美、京平に何かされたのか?」
「あ、違うの。京平を支えたいなって思ったら、感極まって」
「泣き虫で優しいな、亜美は」
◇
それから私は色々な勉強をして、気が付けば15時半。え、15時半?! やば、準備何もしてない!
「亜美」
「うわっ! な、何?」
「やっと気付いたね」
「ちょ、信次。居るならもっと早く声掛けてよね」
「何度も声掛けたってば」
しかも信次の声掛けにも、気付かない始末。もー! 私のおバカ!
私は慌てて準備を始めた。着替えて、顔洗って、メイクしてえええ!
よおし、何とか終わった!
「いってきまーす!」
「待って亜美。その服はないよ。着替えようね」
「だってアマゾムで」
「果てしなくダサいからやめな! もう、僕が見繕うからね?」
うう、同期の飲み会なら、アマゾムで買った服、アリだと思ったのにな。
渋々私は、信次に言われるがままの服に着替えた。
「うん、これなら良し。行っといで」
「もう時間ギリギリじゃん。いってきまーす!」
「「いってらっしゃーい!」」
いっけない。もう後5分じゃん。
病院近くの呑み屋さんだから、近いっちゃ近いけど、呑み屋さんから1番近いのに遅刻は恥ずかしいし急がなきゃ。
えっと、確か「酒と魚」ってお店だったよな。
地図アプリを見ながら、私はスマホを見ながら走った。
すると、誰かが私の肩をガシッと掴む。
「こら亜美、車走ってるぞ」
「あ、蓮。ごめんね、ありがとね」
「俺、道覚えてるし、慌てず行こうぜ」
本当だ。目の前は信号のない横断歩道だ。
蓮が止めてくれてなかったら、事故になっていたよ。ありがとね、蓮。
「ちょっとくらい遅刻しても問題ないのに」
「だって、家から近いのに遅刻なんて恥ずかしいじゃん」
「真面目だな、亜美は。遅れるからって連絡してくれれば、誰も咎めたりしないってば。遅刻つっても5分程度なんだし」
「でもお……」
「それより、亜美が笑顔で来てくれた方が嬉しいぜ」
「へへ、ありがとね。蓮」
蓮は優しいなあ。焦っていた私の心を溶かしてくれたよ。
そんな訳で、私達は待ち合わせから5分ほど遅れて、現地に辿り着いた。
既に友が待っててくれた。
「ごめんな友、遅くなって」
「ああ、亜美も一緒だったんですね」
「私が轢かれる寸前のとこを、蓮が助けてくれて」
「ただ、走る亜美を止めただけだけどな」
「亜美はそそっかしいですからね。無事で何よりです」
友は怒るどころか、私の無事を喜んでくれた。もう、皆優しいなあ。友達にも恵まれてるね、私。
「取り敢えず、皆ビールでいいですか?」
「うん、いいよ!」
「俺もいいぜ」
注文はタッチパネルで行う方式だったので、友がポチポチとビールを注文してくれた。
今回は飲み放題で、料理は順番にコースで出るみたい。
メインディッシュは確か海鮮鍋。美味しそう。昼食べのがしたから、早く食べたいな。
「お待たせしました。ビール3つです」
「お、来た来た」
「それじゃ、乾杯!!」
私達は各々のグラスをカチンと鳴らす。ビールが揺れて呑み会の始まりだね!
「ああ、お腹空いたあああ」
「ん、16時開始だから、そうでもない気が」
「友、亜美だぜ。昼食べ逃したんだろうよ。勉強で」
「何故解った?!」
「ああ、亜美は集中すると周りが見えなくなりますし、お弁当すら食べ忘れますもんね。学生時代、何度も注意しましたもん」
「そんなことより、ご飯早く食べたいな」
ぶー。皆爆笑し始めたんだけど?!
お腹空いたらご飯食べたくなるじゃん?
「ぶはは、なんか亜美らしいな」
「あ、そんなこと言ってたら、ご飯来ましたよ」
私は思わず笑った。一品目は何かな? ワクワク。
「お待たせしました。お通しのあたりめの炙りでございます」
「待ってました! 亜美と食べたかったからさ」
「狙いましたね? 蓮」
「ビールに相性バッチリだね!」
お腹空いてる時のあたりめ、美味しいよね。
このお店、あたりめがあるんだなあ。珍しいね。
「はむはむ。固いけど美味しいよね」
「あたりめと一緒にマヨネーズも来たけど、相性いいな。美味え」
「僕、あまりあたりめ食べないんですけど、美味しいですね。帰りに買いましょうかね」
よしよし、友もあたりめ気に入ってくれたみたい。というか友、宅飲みとかするんだなあ。
友達でも知らないこと、沢山あるなあ。
「お待たせしました。チョレギサラダです」
「私、サラダ取り分けるね」
「お、ありがとな、亜美」
「有難うございます。亜美」
ヘルシーな物が続いていくね。サラダはザッと分ければいいかな? ていや!
一応きゅうりの数は皆一緒くらいかな?
「はい、お待たせ」
私はサラダを皆に配る。こういうの、ついついやっちゃうんだけど、私器用ではないんだよなあ。余計なお世話になってないかな?
「サンキュー!」
「有難うございます」
「あ、友、ビール追加で」
「僕は日本酒呑もうかな」
ほええ、サラダに突っ込みをされなかったのは良かったけど、皆呑むペース早いなあ。
私のジョッキも、もうすぐ空になるけど、次は何にしようかな?
でもこの後、大事な話もあるしなあ。程々にしなきゃね。
とりま、次もビールにしようかな?
「亜美は何にする?」
私の空になりそうなジョッキを見て、蓮が声を掛けてくれた。
「じゃ、ビールで!」
「了解。注文完了です」
そして、話は自然と友の話になる。
「友、異動してからどうだ?」
「少しずつ教わってる感じです。まだ手術室に入れるレベルじゃないので、洗濯めちゃしてますよ」
「ああ、教える人がオペ入っちゃうと、手持ち無沙汰になるもんね」
「そうなんですよ。早く実力を上げたいです」
やっぱり総合看護師の道程は険しいんだなあ。ある程度のことは何でも出来る友が、苦労してるんだもん。
そう思うと、のばらは凄いなあ。
外回り業務も1ヶ月で物にして、素早く総合看護師になったしなあ。
今はオペに入ったり、巡回したり、頑張ってるしね。
「でも来週、冴崎さんのオペ看護業務を、見学させて貰えるんですよね。麻酔科医も深川先生が担当されますし、楽しみです」
「友、深川先生のこと尊敬してるもんな」
「え、そうだったの?」
「五十嵐病院に来たのは、1番は亜美を追っかけてでしたが、それと同じくらい、深川先生に会いたくてって気持ちも強くて」
そうだったのかあ。そう言えば友は元々医師志望だったし、京平の異能の治療に関する実績も知ってたのかも。
京平の異能に関する論文をキッカケに、京平は内科主任部長にもなった、って、前にこっそり麻生先生が教えてくれたしね。
きっと沢山の人を助けたくて、論文書いたんだろうなあ。流石京平だよ。
「深川先生は確かにすげえもんな。内科医としては、尊敬してるよ」
「うん、京平は凄いもん。1番尊敬してる。私を育ててくれたしね」
「そこ亜美のお父さんが1番じゃないのかよ」
「だって、京平を1番愛してるもん」
「はいはい、呑み会で惚気るんじゃないよ」
あれ、蓮ちょっと不貞腐れてない?
ただ惚気ただけなんだけどなあ。
とはいえ、気分良くなかったかなあ、呑み会という場で惚気られて。
「ごめんね。空気読めなくて」
「いや、俺こそごめん。亜美が惚気るのは普通なのにな」
「深川先生、優しいですもんね。惚気たくなりますよね」
「うん、いつも優しいよ。優しすぎるよ」
だから、私が守るの。優しい分、傷付きやすいもんね。そこも愛しいけれど。
「僕もそんな彼氏になりたいですね」
「それより俺は、笑わせたいな。絶対泣かせない」
「2人なら誰かの良い彼氏になれるね」
そうなったら、紹介して欲しいな。2人が選ぶ人なら、絶対良い人だろうからさ。何より、2人を選んでくれた人でもあるもんね。
「お待たせしました。白身魚のフライです」
「またビールが進むな」
「白身魚ですし、日本酒にもピッタリです」
「うわあ、やっと腹持ちの良さそうなのが来た」
ちょ、また2人に爆笑されたんだけど!
しょうがないじゃん! お腹空いてるんだもん!
だから揚げ物めちゃ嬉しかったんだもん!
「んー、美味しい。カラッと揚がって衣はサクサクで、魚はホクホクで、ビールが進んじゃう」
「亜美顔真っ赤だぜ? 呑みすぎんなよ?」
「本当ですね。それでお酒は最後ですよ?」
ありゃ。もう酔っ払って来たかな?
この後大事な話もあるし、ソフトドリンクに切り替えなきゃ。
「取り敢えず水頼もうか」
「間違いないですね」
「うう、ありがとね」
気遣ってくれる2人が優しいなあ。いつもいつも有難うだよ!
お水はすぐに来て、私はお水を飲みながら酔いを覚ます。
酔いすぎると変なこと言ったり、寝ちゃったりしちゃうからね。しかも、今日は京平も居ないし。
「俺はビールお代わり!」
「ああん。私だって呑みたいのにー!」
「亜美は酒に弱いんだから、しゃあねえよ」
「蓮は強いですもんね」
「今日はちょい控えるけどな」
「ああ、明日早番ですもんね。医師会合で」
◇
それから色んなご飯が出て来て、最後に皆で海鮮鍋を突いたよ。
仲の良い友達と食べる鍋って、最高だよね。
因みに蓮は、三杯目のビールを呑んだ後は、ソフトドリンクにしていた。
やっぱりこの後の話に向けて、かなあ。どんな話をするんだろう?
「ふー、やっと腹八分目になったよ」
「やっとかよ。腹ペコじゃなくなって良かったよ」
「海鮮鍋、ボリュームありましたしね。美味しかったです」
「また皆で呑めたらいいね!」
「だな、友の近況報告を兼ねてな」
「本当に休憩時間合わないですもんね」
呑み会で友と話せるのは嬉しいもんね。後、オフな時間を皆で過ごせるのも楽しいし、なんならもう次が楽しみになって来たよ。呑み会ってこんなに素敵なものだったんだなあ。
「友、無理すんなよ」
「え、僕、無理なんて……」
「一から業務の覚え直し、新しい環境、プレッシャーも半端ないだろ?」
「ふー、蓮には嘘吐けませんね」
「冴崎のばらを意識しすぎんなよ。あれは天才だから。友は天才じゃないし」
そっか。やっぱり友、大変なんだなあ。
正直今も、無理してるのかもしれない。
そして、のばらは天才。うん、それは凄く思う。
京平の看護師バージョンと言っても、遜色ないかもね。
友が仮にのばらを意識してるとしたら、それはとても危険過ぎる。頑張っても頑張っても追いつけなくて、って、心が折れちゃう。
と言うのも、私自身が、ちょっと折れかけてるんだよね。のばら、凄すぎるもん。
いつもの私なら、同期が総合看護師になるよ、なんて言われたら、私も! ってなるのに、そんな余裕全然無いもん。
正直ちょっと、心が疲れている。
友にはそうなって欲しくないな。友らしく頑張って欲しいもん。
「うん、のばら凄いもんね。友は友らしくだよ」
「2人とも有難うございます。正直、最近毎日が辛かったんです。至らないな、って」
「ペースはそれぞれだよ。だから、大丈夫」
「だよ、まだ11日しか経ってねえしな。てか、愚痴吐いたって良いんだからな?」
「そうだよ。溜め込むのは良くないからね?」
友には笑って仕事して欲しいもん。だから辛いことがあったら、素直に吐き出してね。
愚痴でも何でも聞かせてね。
「有難うございます。また皆で呑み会しましょうね。久々に楽しかったです」
「おう、勿論!」
「また休み合わせてやろうね!」
そんなこんなで、呑み会はお開きとなった。
けど、また近々開催せねばな。友が苦しくなる前に、ね。
暫くは大変だろうし、愚痴も聞いてあげたいもん。
「今日は有難う御座いました!」
「またな、友」
「またね、友」
ここで友とはさよならして、私達はステーキ屋に向かう。
「時間作って貰って悪いな、亜美にしか話せなくてさ」
「いいよ。蓮は大切な友達だしね」
この時私は、まさか蓮から、あんなことを言われるなんて、思わなかったんだ。
亜美「ああ、呑み会楽しかった!」
蓮「また企画しなきゃな、友の為にも」
亜美「ああ、京平がいればもっと最高なのにな」
蓮「深川先生は余計だぜ」