亜美の決意
こうして、走ってる最中にも関わらずキスをした私達は欲望に耐えきれず、2人で手を繋いで、すぐに家に帰ってまったりした。
最近欲望に耐えきれないよ。すぐ欲しくなっちゃう。それもこれも、京平が魅力的過ぎるからいけないんだ。日に日に愛が増してくよ。
しかも、欲望の塊と化した私達は、何度も何度も何度もまったりして、気付いたら裸のまま寝てしまった。
こうして私は、眠たい身体をアラームに叩き起こされるのであった。
「やば、寝ちゃってた。アラームかけといて良かった」
相変わらずガッチリと私を離さない京平をゆっくり解いて、こっそりキスをして、京平の寝顔を覗く。
うん、気持ち良さそうに眠ってる。今日も今日とて京平が愛しいや。
さてと、ゆうべ楽しんじゃった分、今が忙しくなるね。
今なら皆寝てるし、真っ裸のままお風呂に走っちゃえ!
時間のない私は後先考えず、お風呂に走り出す。が。
「おはよ亜……せめて服は着ようね」
ちょ、何で信次起きてんの! ゆっくり寝るって昨日言ってたじゃん!
ぶー。信次の嘘吐き。まるで信次に裸見せたい痴女みたくなったじゃん。
ふー。見せちまったもんはしょうがないし、さっさとお風呂入ろっと。
タオルで石鹸を泡立てて、身体を撫でるように洗って。って、ダメだ。やっぱり寂しい。
でも、いつも休みの日は15時まで寝る京平を、起こすなんて出来る訳ないし、1人で頑張らなきゃ。
って、そもそもお風呂って頑張ることじゃないよな?
日に日に愛も深まるけど、日に日に1人じゃ何も出来なくなってってない? 私。
もー。そんなんじゃダメだぞ。鼻歌歌いながら乗り切ろう。
ふふふーん。シャワー気持ち良いなあ。なんてねー♪
頭も洗ってー。温まった湯船にー、ざぶんしてー♪
ふー、何とかお風呂を乗り切ったぞ。
後は何食わぬ顔して着替えて、ご飯を食べるだけだね。
信次、君が見た亜美の裸は幻じゃ! な、ノリで。
と、乗り切ろうとしたんだけど。
「ふー。さっぱりした」
「亜美、さっきも言ったけど、裸で部屋をうろつかないでね?」
「信次、君が見た亜美の裸は幻じゃ!」
「ふざけないの。姉の裸なんて見たくないよ。萎える」
ちっ。誤魔化せなかったか。仕方ない。口封じしとくか。
「皆には内緒ね?」
「寧ろ話したくないから安心して。さ、朝ご飯食べて。もうお弁当も作ったからさ」
「ありがとね。信次」
信次に裸を見せるという事件は起きたけど、なんだかんだ信次が朝家事をしてくれていたおかげで、私は普通に間に合った。
私達がお楽しみだったことを見抜いて、家事してくれてたのかな? 私が朝の支度に慌てることを見越して。
それなのに朝から私の裸を見るなんて、信次凄く可哀想じゃん。詫びも兼ねて、帰りはケーキでも買ってくか。
◇
「亜美、おはよ」
「朱音、おはよー!」
「そう言えば、蓮との約束リスケ出来た?」
「中々予定が合わないんだよね。友とはもっと予定合わないし」
「そっかあ。大事な話みたいだし、早く話せたらいいね」
やっぱり大事な話なんだなあ。お互いの休みも、早番の日もしばらく合わないし、どうしたもんかなあ。
「もうライムか電話で済ませた方が……」
「ダメ!」
「え、何で朱音が? 内容知ってるの?」
「い、いや、知らないけど、だ、大事な話は直接じゃなきゃじゃない?」
「それもそっかあ。蓮にとっては大事な話なんだもんね」
とりま、来週の希望休で合わせるか。蓮と友にも、その旨をライムした。
「とりま、希望休合わせよってライムした」
「そっちのが手っ取り早いもんね。考えたじゃん」
「よし、仕事頑張るぞ!」
「私も頑張るよ!」
今日私は巡回勤務で、朱音は緊急外来。お互い頑張ろうね。
「岩瀬さん。お熱なかったですか?」
「ああ、時任さん。36.8分でしたよ」
「良かった、平熱ですね。後は徐々に血糖値が下がってるといいですね」
岩瀬さんは1型糖尿病なんだけど、先日ケトアシドーシスで、病院まで運ばれて来たのだ。
しかもインフルエンザも併発してたから、凄く苦しかったよね。
連日40度の熱が続いていたけど、ようやく熱も下がったようだし、血糖値も安定するといいね。
「食後のタミフルは、飲み切ってくださいね」
「後朝と夜の分かな。了解です」
「血糖値は178。まだ若干高めですが、大分下がって来ましたね」
「良かった。一時は600まで行きましたもんね」
私はインスリンの準備をして、岩瀬さんに打つ。
良かった。かなり元気になってきた。明日には退院出来そうだね。
主治医は京平だけど、今日は休みだから携帯で連絡して、指示を仰ごうかな。
どうせ今は寝てるから、15時くらいに連絡しよっと。京平の声が仕事中に聞けるの嬉しいな。
こうして巡回勤務を続けて、12時ごろには担当患者様を回り切ることが出来たので、昼休憩に向かう。
久しぶりに信次のお弁当だから楽しみだな。
私が休憩室に向かうと。
「よ、亜美。お疲れ」
「きょ、京平?! 嘘、起きれたの?」
「亜美が居ないから、起きちゃった」
「そかそか。お昼は食べた?」
「お昼ご飯詰めて持って来た。一緒に食べよ」
京平は眠たいだろうけど、休憩時間に会えるとは思わなかったから嬉しいな。
ご飯食べさせたら、お昼寝させてあげなきゃ。
「今日のお昼は炒飯だったぞ。信次が作ってくれてさ」
「あ、それも美味しそうだね。お弁当は何かな?」
私がお弁当箱を開けると、お弁当は唐揚げとプチトマトとほうれん草の胡麻和えと肉巻きポテトと、おにぎり2個が収まってる。相変わらずレベル高いし美味しそう。
「「いただきます」」
「やっぱ信次の唐揚げ美味しいー!」
「一個もらお」
「あ、私の唐揚げ!!」
「うん、確かに美味えな」
んもう、その笑顔は反則だよ。怒るに怒れないじゃん。やっぱり、京平の笑顔が愛しくて。
「京平の笑顔には敵わないや」
「だって亜美と話せて楽しいもん」
「そっか、笑顔の理由は私なんだね」
私も思わず笑った。京平がそう感じてくれていることが嬉しくて。京平の笑顔の理由になれているのが嬉しくて。
「亜美が笑ってくれて安心した」
「京平がいるもん。笑うよ」
「じゃあ俺も、亜美の笑顔の理由になれてるんだな」
「当たり前でしょ」
京平が優しく笑ってくれた。と、同時に、目がトロンとしてきた。安心して、眠たくなって来たのかな?
「ごちそうさま。ね、亜美。ポンポンして」
「眠たくなって来たのかな? いいよ。ゆっくり休んでね」
良かった。京平が安心してくれて。京平には、気持ちよく寝て貰いたかったしね。
ね、京平。私いつも京平に助けてもらってるよね。
信次とお父さんを助けてくれたし、風邪ひいたときもだし、お風呂入るときも、寝るときも、そして落ち込んだときも、疲れてるときも、眠れなかったときも、私の病気のこととかも。
そんな京平の傍にずっと居たいな。離したくないな。
日に日に愛しくなっていくよ。京平のことばかりになるよ。
くしゃくしゃで優しい笑顔、悪戯するときの笑顔、照れながらの笑顔。天然なところ、優しいところ、ちょっと悪戯っ子なとこ、たまに毒舌を撒き散らすとこ、人を助けるのが当たり前っていう正義感、傷付きやすいとこ、自分に自信がないとこ、意外と泣き虫なとこ、全部愛しい。
これからも安心させてあげたい。私が京平を守りたい。
本当はお墓参りの時から胸に秘めていたんだけど、今日の優しい京平の顔を見て、想いが強まった。
決めた。私、京平にプロポーズする。もっと先の人生も、京平と居たい。
「むにゃむにゃ。亜美といると安心するや」
「おやすみ、京平。愛してる」
思わず病院で愛を呟くくらい、私の胸は高鳴っていた。
亜美「信次やのばらに相談したいな。プロポーズの先輩だし」
作者「どうなることやら」