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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
信次の卒業式
192/238

信次の卒業式前

「遂にこの時が来たか」

「大きくなったな、信次」

「最近また伸びて177センチになったのですわ」


 今日は信次の卒業式。これで京平の子育ても、やっとひと段落って感じだね。

 因みに余談なんだけど、海里くんは五十嵐病院育児センターでの就職が決まって、卒業するまではバイトで働いて、明日からは普通に勤務するんだって。

 正直それで、信次が月曜日突発で休んでも、なんとかなったみたい。

 それぞれ、進む道が決まって良かったなあ。


「海里と卒業式出来るから良かったな」

「ずっと心配してたもんね」

「うん。海里に勉強教えるの、大変だったしさ」

「のばらと深川先生も頑張りましたわ」


 ああ、飛び級試験か。海里くんの勉強を3人で見てたもんね。あの頃の3人は大変だっただろうなあ。

 3人の努力の成果で、海里くんも無事飛び級試験合格したもんね。


「亜美、ありがとね」

「ん。私はなんもしてないけど?」

「辛い勉強も、亜美が作ってくれるお弁当だったり、笑顔で乗り切れた時もあったからさ。ありがとね」

「えへ、どういたしまして」


 信次からこんなこと言われないから、なんか照れ臭いなあ。


「兄貴もありがとね。なんだかんだで一番兄貴には甘えてた気がする。甘えさせてくれて、ありがとね」

「そうだな。のばらさんとあーなったときは」

「ちょ、余計なこと言わないで!」


 信次、のばらと付き合う前、何かあったのかな?

 京平もそれを今言うなんて、意地悪だなあ。らしいんだけど。


「お父さんもありがとね。いつも電話で、色々相談に乗ってくれたよね。今、一緒に暮らせて凄く嬉しいよ」

「これからも無理はするなよ、信次」


 お父さんは信次を優しく抱きしめる。そうだね、一緒に暮らせるようになって良かったね。

 お父さんの笑顔、私も大好きだよ。


「のばら。キッカケはキッカケだったけど、のばらが勉強見てくれるようになってから、僕も海里も頑張れたよ。何より、いつも傍にいてくれてありがとね。のばらがいるから、いつも笑えてるよ」

「のばらも信次に会えて良かったですわ」


 信次はのばらを抱きしめる。のばらと付き合うようになってから、信次はより穏やかに笑うようになったもんね。

 そんなのばらも、笑顔が前より可愛くなってるから、良い影響を与えあってるんだろうなあ。


「じゃあ、僕は先に行ってるね。また式でね」


 信次は皆に笑いかけながら、倉灘高校へ向かった。


「信次、かなり早く出てったなあ。準備とかあるのかな?」

「ねー。式も10時からなのにね」


 今はまだ7時。早すぎる。信次め。これは何か企んでるな?

 卒業式はそれも楽しみながら、信次の成長した姿を見られたらいいな。


「俺達も着替えたら、倉灘高校へ向かうか」

「私達の準備が、多分かなり掛かるしね」

「確かにメイクも服も、しっかりしたいのですわ」


 服はのばらが私の分も買って来てくれて、それが式だけに着るには勿体無い感じで、着る前からワクワクしているよ。

 そんな服に合わせたメイク、しっかりやりたいな。


「亜美、メイクはのばらがやりますわ。亜美には可愛くいて欲しいのですの」

「え、いいの? ありがとね」

「今日は大事な日ですもの」


 そんな訳で、2人で服を着替えた後、私はのばらにメイクをして貰った。

 ピンクを基調としたメイクで、ほんのりピンクのチークとアイシャドウが本当に可愛い。

 まつ毛もいつもよりグインと伸びて、より大きな瞳になった気がするよ。私、マスカラ下手だから嬉しいな。


「ふー、より可愛くなりましたわ」

「うん、確かに可愛いな」


 京平に可愛いって言われた私は、途端に顔が真っ赤になる。可愛く見えたのなら嬉しいな。

 

「うふふ、亜美は純粋なのですわ」

「そんなとこも可愛いな」

「ぶー!」


 なんか揶揄(からか)っているように聞こえるなあ?

 どうせ心スケスケ亜美ちゃんですよーだ。しょぼん。


「亜美、そんなつもりで言ってないですわ」

「そうだぞ。本音で可愛いって思ってるぞ」


 京平はどさくさに紛れて、私を抱きしめてくれた。私、変なとこで人を疑ってしまうな。ごめんね、京平、のばら。

 私も京平を抱きしめた。何故かのばらも、私を抱きしめてくれた。

 ネガティブな感情は、相手を悲しい気持ちにさせてしまうね。本当に気をつけないと。


「ありがとね、京平、のばら」

「亜美には笑っていて欲しいのですわ」

「うん、俺も笑っていて欲しいな」


 これからは、信頼してる人は疑わないようにしたいな。私の笑顔を望んでくれる優しい人達だから。


「大体亜美を弄る時は、もっと盛大に弄るわ。俺」

「確かに。って、ぶー!!」

「お、豚になった。あはは」


 んもう。確かに京平はこう言う風に弄るよなあ。

 で、いたずらっ子のように笑うんだよね。

 それも可愛くて、私は好きだよ。豚って言われても。

 あれ、そう言えばお父さんは何処かな? リビングを見渡してみるけど見当たらない……。

 部屋でまだ着替えているのかな?


「お父さん部屋に居るみたいだけど、中々来ないね」

「あ、多分ネクタイ締められないんだ。こっち来りゃいいのに。お父さん」


 え、そんなことある?! いくらリモートで普段私服とは言え、社会人経験はかなり長いよ? お父さん。

 でもお父さんだしなあ。なんか変なとこ抜けてるもんなあ。

 京平がそんなお父さんを呼びに行くと。


「京平、ネクタイ締めてくれ……」

「いいよ。これからは1人で悩むなよ」

「前、教えて貰ったから、出来ると思って」

「そんな簡単にはいかないさ」


 本当にネクタイだった!

 もー。我が父ながら抜けてるよなあ。

 しかも前に、多分信次の挨拶の時に教わったのに出来ないなんて!

 変なとこで可愛いよね。お父さん。


「のばらも化粧終わりましたわ」

「じゃあ、そろそろ倉灘高校へ向かうか」


 ◇


 倉灘高校へは電車で向かって、ギュウギュウになりながらもなんとか辿り着いた。

 いや、私はギュウギュウになってないな。京平が守ってくれたから。

 いつもこうやって守ってくれるよね。いつも助けてくれるよね。


「京平、電車の中で守ってくれてありがとね」

「ん、当たり前のことだから気にすんな」

「私がお礼を言いたいの」

「それなら、どういたしまして」


 私達は倉灘高校の体育館へ向かう。既に大勢の親御さん達が集まっていた。

 なんとか4人座れる場所を見つけて、私達は信次のことを話し始める。


「信次、小さい頃からしっかりしててね。私がいじめられた時は、一緒に学校休んでくれて、京平と一緒に私を守ってくれたんだよ」

「亜美をいじめるなんて、最低なヤツも居たのですわね。でも、信次らしいですわね」

「その時から、料理作りたいって言われて、料理も教えたしな。まだ小学1年生だったのに」

「私が居ないことで、年不相応に成長したのかもしれないな」


 いやあ、それは最初のうちだけじゃないかな?

 最初こそ、良く解らない京平と暮らすことになって、気も使ったけれど、京平はどんな時も私達を受け止めてくれたから、信次も私も、すぐに仲良くなったんだよね。家族になったんだよね。

 でも、そんな京平を助けたくて、私も家事やるようになったし、成長するキッカケではあったのかもしれない。

 あの時から呼び方も触れ合い方も、そして私達の仲も全部変わったよね。


「京平が居たから成長しただけだよ、私達」

「改めてになるが、子供達を育ててくれてありがとな、京平」

「寧ろ俺のが、亜美と信次に支えられたよ。今生きてるのは、間違いなく2人のおかげだから」

「人に助けてもらいながら生きてるよな、私達は」

「これからも助けて貰うよ」

「うん。いつでも頼ってね?」


 そして私達、お互いに助け合ってるよね。今日だけでも、私はのばらと京平に助けて貰ってるし。

 でも時には、京平の頭をポンポンしたり、一緒に泣いたり、のばらの恋愛話を聞いたり、信次とお父さんにお弁当を作ったり。

 そんな家族になれて良かったな。

 ん? 私がお弁当作り始めたのつい最近だよね? それまで信次からは貰ってばかりだった説があるな。

 しかも何度も恋愛相談してたし! 落ち込んだ時も優しくしてくれたし。


「思い返してみたら、信次にはかなり助けられてるかも」

「そりゃ亜美を守ることが、俺達兄弟の使命だし。俺達、亜美には笑っていて欲しいからさ」

「あんなに小さかったのに、本当大きくなったなあ」

「確かに信次、亜美のことは放って置けないって言ってましたわ」


 そんな優しい信次が、遂に卒業かあ。おめでとう、信次。

 私が感傷に浸っていたら、もう10時。いよいよ、卒業式が始まるね。

亜美「信次、いっぱい助けてくれてありがとね」

京平「信次の晴れ舞台、楽しみだな」

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