会えない時間が2人を繋ぐ。
「ふわああ、おはよ」
「亜美、おはよ」
京平のおかげでぐっすり眠れたけど、京平、お昼ご飯食べ逃しちゃったよね。こんな私に付き合うことないのに、優しすぎるよ。
「良かった。顔色も良さそうで」
「ごめんね。昼に起きれなくて。京平、昼ご飯食べてないでしょ?」
「お互い様だろ。前に俺の鬱症状が出た時、亜美はずっと傍にいてくれただろ。だから、気にすんなよ」
京平こそ、そんなの当たり前なんだから、気にしなくていいのにな。ん、なんか外が暗いなあ。冬とは言え、今は3月だから、まだ明るくてもいいはずなのに。
「あ、そう言えば今何時?」
「18時。今日はよく寝たな」
「昼ご飯どころか、夜ご飯も遅くなっちゃってごめんね」
「いいよ。亜美とご飯食べたかったし。亜美はご飯食べられそう?」
「うん、お腹すいた」
「食欲があるなら良かった」
そんな訳で、私達は食卓に向かう。今日は何かな?
「おはよう、信次」
「おはよう、亜美。元気そうで良かった」
「亜美、おはようございますわ」
「のばらはまだ怠そうだね」
「明日は中番だから、仕事前に産婦人科に行きますわ」
「2人とも大変だなあ」
「でも、充分休ませて貰いましたわ」
お互い大変だね。のばら。のばらの生理は私よりも重たいし、よりしっかり診てもらわなきゃだもんね。
顔も真っ青で辛そうだし、ね。
「のばら、座って食べられる?」
「しんどいけど、信次とご飯食べたいのですわ」
「僕が布団行くから無理しないの。一緒に食べよ」
「有難うございますわ、信次」
のばらは信次に肩を抱えられながら、部屋まで歩いて行った。
明日の通院で、のばらが少しでも楽になりますように。
そんな今日のご飯は、コロッケ。前に信次がのばらに作ってあげたら、美味しそうに食べてたんだって。のばら曰く、グラタンの次に好きみたい。
コロッケ、美味しく食べられるといいね。
信次はのばらと自分の分のコロッケを部屋に運ぶと、ドアを閉じてのばらとの時間を過ごす。
「俺達も食べよっか」
私達もコロッケを食べ始める。
「少し荒めのじゃがいもがまた良いんだよね。そしてひき肉との相性もジューシーでさあ」
「亜美、コロッケ揚げたてだから、火傷しないようにな」
「信次ものばらさんと一緒に居たかっただろうに、ご飯を作ってくれて。私も料理を覚えないとな」
「亜美の傍に俺が居た分、のばらさんが我慢してたって考えると俺も料理しなくちゃ」
そうだよね。私も今日は京平に甘えちゃったけど、その分のばらが辛い思いをしたんだもんね。
あんなに辛そうだったのに、ご飯一緒に食べたいって。
「ごめんね、のばら……」
「亜美が責任感じることないよ。俺が亜美の傍に居るって決めたんだから」
「亜美も体調悪かったし、仕方ないさ。やはり父さんが料理出来ないのが」
生理の時は、のばらも私も寂しくなるタイプだもんね。大切な人を求めちゃう。ひっきりなしに。
「ま、平等に1日交代だな。心配だけどさ」
「そうするしかないよね」
お互い寂しいんだから、どっちかが妥協しなきゃなのは確かだもんね。
とは言え、お互いの休みが今後合えば良いのだけど。少なくとも、今日は京平が居なきゃ乗り切れなかったよ、私。
「信次は明日学校午前中だけ休んで、のばらさんに付きそうんだって。そもそものばらさん、働けるのかが心配だけど」
京平は今信次から届いたライムを読みながら言う。
一応私達にも家族ライムグループがあって、信次はそこに送ったみたい。のばらの体調、悪そうだったもんね。
「看護師長に、のばらさんが厳しいって相談しとくか。今のうちなら、代わりの人材見つかるかもだし」
「だよね。すごい顔真っ青だったもんね。私明日遅番だから、最悪中番から通せるし」
「おいおい、亜美も無理すんなよ」
「私は2日目過ぎたら、普通になるし大丈夫だよ」
私も2日休ませて貰ったし、その分しっかり働かないとね。のばらに無理はさせたくないし。
「ダメ。看護師の通し勤務は基本禁止だからな」
「遅番から早番やってる人いるもん!」
「それも本人の予定次第であるけど、亜美の場合は、病院がお願いをする形になるからダメなの。そこは看護師長を信じなさい」
ぶー。京平は遅番からの早番、無茶苦茶やってたのに!
それどころか、早番から中番通しもあったのに! 後で院長に怒られたの知ってるもん!
看護師と医者だって、命に関わるって意味では一緒のはずなのになあ。
多分そんなルールはないけど、京平が個人的に私を心配してるんだろうなあ。
もう大分良くなったのに。
◇
結局のばらの代わりは、人員もいるということで、そのままで行くみたい。
明日は頑張ってね。って看護師長からもライムが来た。
ついでに明日の京平は、1人で診察をすることも決まった。
深川なら大丈夫よね。なんだって。信頼されてるなあ。
「まあ、俺なら担当なしで回せるし妥当な判断だな」
「京平に無理させたくなかったんだけどな」
「起きれたら、昼にライムちょうだい。起きれたらでいいからな?」
「うん、絶対送るね!」
「ありがとな、亜美」
なんだかんだで甘えてくれてるのかな?
こう言う時頼ってくれるのは、悪い気はしないね。
寧ろ、何があっても応えたくなっちゃう。
明日は電話にしようかな。京平の声聞きたいし。
「じゃあ、私はもう寝るよ。おやすみ、亜美、京平」
「おう。お父さんおやすみ」
「おやすみ、お父さん」
私達もお風呂入ったし、少し2人でのんびりしたら寝ようねって話して、まったり過ごした。
信次のこともお父さんのことものばらのことも愛してるんだけど、やっぱり京平を一番愛してる。
一緒に居ると落ち着くし、癒されるし。それに、素直になれるんだ。
「京平、愛してるよ」
私はそう言いながら、京平を抱きしめる。お風呂上がりでホカホカした京平も、なんかいいなあ。
「ありがとな、亜美。亜美に抱きしめられると落ち着くよ」
「だよね、私もいつも落ち着くもん」
京平も抱きしめてくれた。こうやって抱きしめ合いながら過ごすのもいいな。
2人だけの世界だって錯覚しそうになるのも、なんだかすきで。
日に日に京平が特別になっていくよ。こんなに愛しいって思える人がいるって幸せだな。
「俺、こんなに幸せになっていいのかな?」
「当たり前でしょ。私が幸せにするから」
本音だよ。ずっとずっと前から、京平の事、幸せにしたかったんだもん。
何があっても、私は京平を幸せにするんだから。
私は強く京平を抱きしめた。
「それは心強いな」
京平はくしゃくしゃの笑顔を見せてくれた。
何があっても、私の傍では安心して欲しいな。この笑顔を守るのは、私なんだから。
京平は色々あったし、頑張ってるんだから、誰よりも幸せになってね。
「でも俺も、亜美を幸せにしたいんだからな?」
「もう充分幸せにして貰ってるよ。いつも助けてくれてありがとね」
今日もずっと傍に居てくれてありがとね。優しく頭をポンポンし続けてくれてありがとね。京平がいるから、生理が辛くても笑っていられてるよ。
「そろそろ寝ようか。って、俺が一緒に寝たいんだけどさ」
「そうだね。私も眠たくなってきたや」
今日も京平の腕に包まれて眠れるなんて、幸せ以外の何物でもないよ。
私こそ、こんなに幸せでいいのかな。
私達は部屋に入ってすぐ、布団にくるまって京平の腕に包まれながら、眠りに着いた。
京平に抱きしめられると、よく眠れるんだよね。あんなに寝たのに、まだ私の身体は睡眠を欲してるみたい。
いや、違うな。京平のぬくもりに安心してるから眠れるんだ。愛しいな。
◇
朝、私はアラームに起こされた。今日は京平にライムしたかったから、11時半にアラームをセットしたよ。
のばらは今信次と病院みたい。ライムが届いてる。やっぱり生理が今日も重たいみたいで、大事を取っておやすみするようだ。
のばらの生理が、落ち着きますように。
今日はゆっくりしてね、ってライムを送る。
さてと、今から早めに着替えてご飯食べて、のんびりしながらライム……いや、電話したいな。
京平、今日は特に頑張ってるもん。
仕方ないんだけど、寝起きに京平の顔が見られないのは寂しいな。勤務が合わないから、仕方ないし、今日遅番なのも、看護師長が私の身体を気遣ってくれて、なんだけど。
昨日から3月だけど、まだまだ寒いな。
温かい格好にして、風邪ひかないようにしなきゃ。
まだ生理だし、腹巻きとカイロも必須だね。
さてと、着替え終わったぞ。今日の朝ご飯は何かな?
私がリビングに行くと、お父さんがリモートで仕事をしている。会議中みたいだから、静かにご飯食べなきゃ。
私はこそこそと冷蔵庫からご飯を取り出して、温め直す。
静かにしてたんだけど、優しいお父さんは笑って、
「亜美、おはよう」
「お父さん、おはよう。ごめんね、会議中なのに」
「亜美へのおはようのが大切だよ。でも亜美遅番だろ? 早くないか?」
「今日は京平が頑張ってるから、電話するんだ!」
「そかそか。電話したら、また寝るんだぞ」
「うん、そうするよ」
そんな会話をお父さんとして、私は温め直したご飯を食べる。
今日は鯵の開きと、ほうれん草のお浸しと、大根と豆腐のお味噌汁。お味噌汁の香りが、食欲を唆るなあ。
「いただきます!」
うん。鯵は香ばしく焼けているし、お味噌汁も信次が作ったのは一味違うし赤味噌だし、朝から助けられてるなあ。力貰えているよ。
お弁当は京平が作ったよって、ライムで連絡をくれていたし、夜も楽しみだな。何作ってくれたんだろ?
私も皆の力になれてるかな? いつも幸せにして貰ってるもん。だから、幸せにしたいな。
なんて、我儘かな?
「ごちそうさまでした」
ご飯を食べ終わった私は歯を磨いて、顔を洗って、部屋にまたこもる。
ちょうど今は12時。京平に電話するんだ。
って、診察が長引いてる可能性もあるし、まずはライムを返そっと。
お弁当ありがとね。すごく楽しみだよ。今日は無理しないでね。って送った。
まだかな、返信まだかな。ちょっとドキドキしながら、私は待つ。
うーむ。今日は診察が長引いてるみたいだな? 中々返信が来ないや。
そもそも1人でやってるんだし、そりゃそうだよね。
どうしよう。自分の体力とも要相談なんだけど、段々会いたくなってきた。
疲れた京平をポンポンしながら寝かせてあげたい。
傍にいてあげたいよ。
もうダメだ、会いたい。私は出かける用意を即座に済ませて、家を飛び出そうとしたんだけど。
「亜美、京平に会いにいくのか」
「うん、会いたいんだもん」
「ダメだ。京平を心配させるだけだぞ。家でゆっくり休んでから、病院に行くんだ」
「心配……させちゃうかな」
「当たり前だろ。京平は亜美のこと、愛してるんだから。勿論、私も」
そっか。そうだよね。愛されてるんだもんね。
私が無理して会いにいっても、心配させちゃうだけだよね。
「会えない時こそ、その時間を大切にしなさい。その思いやりが、2人をより繋ぐから」
「そうだね。会えない時間も大切だよね」
「そう、だからゆっくりおやすみ」
会いたいのは山々だけど、無理しちゃダメだよね。
私はおずおずと部屋に戻って、布団に入り込む。
京平からはそもそも、ライムちょうだいとしか言われてないのだし、心配させたくないから、仕事に備えて寝なきゃ。京平、おやすみ。
それでも寂しい私は、京平の枕を抱きしめながら眠りに着いた。京平の匂いが心地良いや。
亜美「でも、やっぱり会いたかったよ。ぐすん」
信一「京平を心配させたくないだろ?」
亜美「うん、ゆっくり休んで欲しいよ」