表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
ともだち
19/238

のばららしく。(のばら目線)

 やばいのですわ。緊張してきましたわ。いつもののばらじゃないみたいですわ。心臓が何度も鼓動を打って、鳴り止む事を知らないのですわ。

 でも、のばらはのばらですわ。のばらが思い描く告白をするのですわ。


「で、どうする? 寒いし話だけなら喫茶店でもいく?」

「大丈夫ですわ。冴崎、行きたい所があるんですの」


 のばらは、着けていたマフラーを深川先生に巻きましたわ。折角のばらに付き合っていただくんですもの。寒い思いはなるべくさせたくないですわ。


「あ、ありがと。でも冴崎さんが寒くない?」

「いいんですの。冴崎の我儘ですもの」


 これが目当てでマフラーを巻いて来たことは、深川先生には内緒ですわ。のばらは、深川先生を愛しているのだから、当然の準備ですわ。


「で、行きたいところって?」

「ふふ、今は内緒ですわ。着いてきてくださいまし」


 のばらは、深川先生の手を握り、走り始めましたわ。貴方の驚いた顔を、もっと見たかったのですわ。

 出来れば照れて欲しかったのだけど、相変わらずの表情で少し悲しかったのですわ。解ってはいたのだけど。


「深川先生、体力は大丈夫ですの?」

「いきなり走り出したからビビったけど、なんとか」


 ◇


 のばらは走りながら、昨年の五十嵐病院に勤め始めた事を思い出していましたの。

 五十嵐病院にしたのは勿論、深川先生を追っかけての事でしたわ。

 でも、1番は五十嵐院長から、人手足りないからぜひ来てよのラブコールを受けたからでもありましたわ。

 それに、ここなら人を救える力になれるとも思ったのですわ。


 のばらは小さい頃からのばらだったから、人には恵まれましたけど、のばらが信頼出来る人には巡り会えませんでしたの。

 皆、のばらの容姿だったり、お金ばっかり見ていて、のばらの中身を見てくれませんでしたの。


 それは、五十嵐病院でも変わらなくて、何人かの殿方に告白もされましたけど、心に響かないものばかり。

 そもそも病院で告白するなんて、職務放棄ですわ。信じられないのですわ。

 そんな中、浮きまくっていたのばらを、深川先生は気にしてくださいましたよね。

 のばらがオペ看護師で、麻酔科医が深川先生、執刀医が麻生先生の、今やゴールデン組が、初めて組まれた時の休憩時間でしたわ。


「冴崎さん、病院には慣れた?」

「仲良く話せる相手が中々出来ないのですの。下心ばっかもった殿方しか近付いてこないですの」

「皆飢えてんな。ここ病院なのにな」


 「そうなのですわ!」と、のばらは頷きながら、少しため息を吐きましたわ。真面目に看護師してるだけなのに、何で変なのしか来ないのかしら! のばらは深川先生が居たらそれでいいのに。


「だったら、京殿と一緒に居ればいいのじゃぞ。京殿ほどのイケメンはこの病院には居ない故、良いガードマンになるじゃろて」

「お、麻生いたのかよ。でも、俺で良かったら、休憩時間の話し相手になるよ」


 麻生先生のフォローで、休憩時間は深川先生とお話していたのですわ。

 その時に、亜美達の話も何度も聞きましたわ。ふとしたキッカケで家族になった事、家族が本当に大切な事、そして来年、家族の亜美が看護師になることも。


「それなら亜美さんは冴崎の後輩になりますわね」

「おう。あいつ友達作り下手だし、仲良くしてやってな」


 確かに亜美、友達作り苦手でしたわね。皆に明るく話すのに、休憩時間とかしどろもどろでしたものね。普通に一緒に食べよ、とかで良いのにですわ。

 最初の頃は深川先生か、同級生の日比野くんとしか話してなかったものね。ふふ、何だか懐かしいのですわ。


 深川先生は鈍いから、早く告白した方が良いよと麻生先生からも言われましたが、中々勇気が出ませんでしたわ。


 思えば、亜美が深川先生の事を好きなんだなあ。って思ったあの日から、のばらも手段を選ばなくなったのですわ。

 のばらも情けないですわね、それがたったの5日前だなんて、ですわ。

 ただ、だとしても全然気付かないこの人に、今日のばらは、引導を渡すのですわ。


 ◇


「さあ、着きましたわ。深川先生」

「ああ、ここは……」


 覚えていてくれたのですね、深川先生。そう、ここは、のばら達が初めて会った草原。深川先生が、のばらを助けてくれた場所ですわ。


「思えば、あれから6年か。助けられて本当に良かった」

「冴崎も、深川先生に会えて、本当に良かったですの」


 あの時会えなかったら、のばらは薔薇を咲かせられない自分に、どんどん自暴自棄になって、取り返しのつかない事になっていたかもしれないのですわ。

 それだけ、毎日のように泣いていたのですわ。


「そう言えば、深川先生はどうしてこちらに?」

「当時は、早番終わりに筋トレを兼ねて走ってたんだよ。コースはバラバラでな。その時に冴崎さんを見つけて」


 昔は筋トレをしていたのですわね。でも今も、細マッチョな感じだから、家でトレーニングでもしているのかしら?

 今は早番は大体亜美と被るから、一緒に帰ってますものね。亜美が羨ましすぎますわ。


「じゃあ、冴崎は走り込みにも感謝しなくてはですね。今はしてないというなら尚更ですわ」

「走り込みはしてないけど、一応鍛えてはいるぞ、今も」


 「見れば解りますわ」と言いたかったけど、なんか深川先生が可愛かったから、のばらは笑ったのですわ。そんなムキにならなくても良いのに。


「ちょ、笑う事ないだろ。確かに細すぎかもだけど」

「あら、気にしていたのですね。ごめんあそばせ」


 ああ、のばらはこんな事を言うために、深川先生を呼び出したんじゃないのですわ。

 でも、中々勇気が出ないのですわ。のばらのバカ。

 振られた後の事ばかり、考えてしまいますわ。


 その時、不意に、亜美の事を思い出しましたの。亜美から言われた言葉を。


ーー私以外なら、のばら以外許さないから。


 思えば、のばらも友達作りは下手でしたわ。でも亜美は、こんなのばらにも素顔で話してくれましたし、何より毎日のように努力をしていましたわ。

 だから、亜美の手本になるように、のばらも頑張ろうって思えて。

 愛のライバルだというのに、大切な友達になりましたわ。


 そうか、亜美を傷付ける可能性もあったのですわ。この告白は。

 でも、亜美は亜美だから、のばらが告白出来なかったと言えば、もっと泣いてしまう気がしますわ。

 誰よりも優しい子だから。お人よしが過ぎるから。

 同じ傷付けるなら、ちゃんと伝えたい事を伝えた方が良いのですわ。


「深川先生、月が綺麗ですわね」

「ああ、何気今日は満月か。確かに綺麗だな」


 あ、ダメだわ。伝わってませんわ。遠回しすぎましたわ。

 でも、1番ダメなのはのばらですわ。これはのばらの言葉じゃないのですわ。


「冴崎は、ここで深川先生に会って、人生が変わりましたわ。ここで深川先生に会えなかったら、ずっと泣き続けていたと思いますし、看護師になろうとも思わなかったのですわ」

「看護師になるキッカケでもあったのか。仲間が増やせて嬉しいよ」


 寒空の下、鼻を赤くした深川先生が笑うのをみて、のばらも微笑みましたわ。

 その笑顔に、のばらは何度も救われて来ましたわ。


「それから、異能の定期検診に始まって、五十嵐病院でも何度も気にかけていただいたり、冴崎が隣に座ることも、肩に触れることも、ハグするのも、全て許してくださいましたね」

「冴崎さんなりのコミュニケーションかな? って思ってたけど、違うのかな?」


 のばら、私はのばら。のばらは強い子。


「それは冴崎のばらが、深川京平を、愛してるから、という事ですわ」



 流石の深川先生も、のばらの真っ直ぐな告白には気付いたようで、暫く沈黙が漂いましたわ。


「今まで、気付いてあげられなくてごめんな」

「本当に。深川先生は鈍感が過ぎますわ」


 のばらは、深川先生を見つめながら続けましたわ。


「よろしければ、付き合っていただけないですこと?」


 深川先生は、哀しそうな顔をしていらっしゃいましたわ。本当は、最初から何となく解っていたのですわ。気付いてない、じゃなくて、そもそものばらが眼中にない事も。


「ごめん、気持ちには応えてあげられない……」

「なんて、解ってましたのよ。ずっと深川先生を見ていたのですわ。顔をお上げになって」


 深川先生は顔を上げた、と同時に、私は深川先生のおでこに唇を押し当てたのですわ。


「さ、冴崎……さん」

「これで許してあげるのですわ。女を傷付けた罪は重いのですわよ」


 のばらは更に、笑いながら続けましたわ。


「明日、私の大切な友達が、深川先生に告白するのですわ。傷付けたら許しませんことよ」

「え、明日? 明日は亜美と遊ぶから、冴崎さんの友達と会う事はないと思うけど」

「相変わらず鈍感ですわ。後、冴崎の事は、これからのばらと呼んでくださいまし。せめて友達ではいたいのですわ」


 言いたい事は言えましたわ。気高いのばらとして、告白出来ましたわ。

 叶わなかった愛だけど、気持ちはすっきりしましたわ。


「解った。のばら……さん」

「意気地なしですわね。まあ、最初はそれでいいのですわ」


 気高く在れ。気高く在り続けろ、のばら。


「それじゃあ、また五十嵐病院で。冴崎さん呼びは禁止ですわよ」

「あの、マフラー……」

「寒そうですから貸してあげますわ。また病院で返してくださいまし」


 それだけ告げて、のばらは先にその場を後にしたのですわ。

 良かった、ちゃんとのばらでいられたのですわ。ちゃんと気高いのばらで……。


 あれ、おかしいのですわ。顔に何かが伝ってくるのですわ。

 ダメですわ、こんなの、のばららしくないのですわ。強くいなくちゃ。


 なんて思ったけどダメでしたわ。気付いたら夜道で1人、大泣きしていましたわ。

 だって、愛していたんですもの。

作者「のばら、頑張ったね」

のばら「本当は結果は解ってたんですの。でも、のばららしく伝えたかったのですわ」

作者「京平も罪な男やなあ」

のばら「ですわ、この冴崎のばらを振るなんて、良い度胸してますわ」


作者「次は亜美の番だね」

亜美「緊張してきたよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ