生理はバカだけど、京平といられて嬉しいな。
「むにゃむにゃ」
「亜美、仮眠室で寝てこいよ。風邪引くぞ?」
「ダメですよ、蓮。もう亜美寝てます」
もー。皆うるさいなあ。
どこで寝ようが私の勝手なのになあ。
生理初日とは言え、身体は怠くて仕方ない私は、お弁当を食べ終わった後、爆速で眠りにつく。
夢の中だけでも京平に会えたらいいな。今日は1日長いからなあ。
お風呂と寝る時にしか一緒に居られないもん。
にしても、今日は格別に怠い……。
せめて蓮と話す約束だけでも、リスケした方がいいのかな?
でも、次予定合う日って、かなり先になっちゃうしなあ。
頑張るしかないよね。
だからこそ、ゆっくり寝ようっと。
「しょうがねえなあ、白衣掛けとくか」
「僕もカーディガン掛けときます」
◇
「亜美、体調大丈夫か?」
「おはよ、蓮。かなり怠いや」
「亜美、無理せずに今日は帰りましょ? 顔色も良くないですよ」
「大丈夫だよ、友。痛みは抑えられてるしさ」
今日は飲み会だし、頑張らなきゃ。
ピル飲んで以降1番辛いけど、大丈夫。
そうやって、頑張ろうとしたんだけど。
「緊急外来行くぞ、亜美。そんな顔色で、働かせられないぜ」
うわっと。蓮が私を急にお姫様抱っこして、緊急外来に運んでいく。
その傍らで、友が看護師長に私のことを連絡してるや。ぬかりなさすぎでしょ!
「深川先生にも連絡しといたので、診察後は素直に帰ってくださいね」
「私、大丈夫だってば! 下ろしてよー」
当然下ろして貰えることはなく、私はおずおずと緊急外来で診察を受ける。
ちょうど御手洗先生もいらっしゃって、私の顔色を見るなり、無理しすぎ! って、精一杯怒られた後、生理休暇が必要だという診断書も、院長に渡してくれることになって、明日も休みになった。
無理すんな、って京平にも言われてたのにな。
「怠みがかなりあるみたいだから、ピルも変えてみましょう。痛み止めも増やしておくわね」
「これでも大分良くなったから、頑張れると思ったのに」
「落合くんと日比野くんに感謝しなさい。2人が気を回してくれてなかったら、ぶっ倒れてたよ? 今日、明日はゆっくり休んでね」
また私、迷惑かけちゃった。本当にダメだなあ。
「ダメだなんて思わないでね。生理は難しいんだから。一緒に頑張ろうね」
「御手洗先生、有難うございます」
そうだね。少しずつ改善出来るように向き合っていかなきゃね。
もう無理はダメだぞ、私。
自分の至らなさと、お腹の痛みと怠さで、少し泣きながら、診察を受けていると。
「亜美!」
「深川先生、迎え遅いわよ。時任さん、泣いちゃってるんだから」
「無理すんなよ、バカ」
「ごめんね、京平」
「診察は終わったし、薬もらったら帰っていいわよ」
「有難うございました」
私は京平に仮眠室へと運ばれた。薬を受け取るまで待ってて欲しいんだって。
確かに待合室で膝枕とかもありだけど、また色々言われちゃうもんね。
「薬受け取ったら、すぐ迎えにいくからな」
「ありがとね。京平」
あ、私、限界だったんだ。仮眠室のベットに運ばれて、すぐ眠たくなって来た。
休憩時間も寝てたのに、全然回復出来てなかったんだな。
蓮、友、約束してたのにごめんね。
私は慌てて、飲み会行けなくてごめんね、って2人にライムを打って、ぐっすり眠った。
◇
私が次に目を覚ましたのは、部屋の中だった。
いつの間に運ばれたんだろう。全然気づかなかったや。
横を見ると、京平が私に腕枕をしてくれている。そっか。家に着いてから、ずっと傍にいてくれたんだね。
「おはよう、亜美。顔色も良さそうだな」
「京平、傍にいてくれたんだね。ありがと」
「約束もあったんだろうけど、無理すんなよ。迎えに来た時、真っ青だったぞ」
「うん。蓮と友にも言われた。で、緊急外来に運ばれて」
「2人には感謝だな」
そう言えば今気付いたけど、京平スーツのままだ。
着替えもせずに……。ありがとね。
「もう夜だけど、ご飯食べられそうか?」
「うん。でもその前に、お互い着替えよっか」
「だな。亜美は仕事着だし、俺はスーツだしな」
明日はお互い休みになったし、お風呂も明日にしようかって話し合って、私達はパジャマに着替えた。
「ふー。パジャマ楽」
「ごめんね。ずっと腕枕してくれたから、スーツシワになっちゃったよね?」
「ん? 俺がしたくてしたことだから気にすんなよ。どうせ明日、クリーニングに持ってくしな」
京平はそう言って、私を抱きしめてくれた。
いつだって温かいや。
それと、私の変な性癖なんだけど、京平の素足を見るのが好きで、そこにも癒されてた。
足の形も綺麗なんだよね、京平。
「京平、愛してるよ。いつもありがとね」
「俺もだよ」
「お腹痛いんだけど、京平に抱きしめられると落ち着くよ」
「ご飯食べたら、すぐ薬飲めよ」
私達はただただ抱きしめ合った。
寂しかった心が、嬉しいに変わっていく。
ひとしきり抱きしめ合った後は、ご飯を食べにいく。
もう20時なんだけど、私達が向かう頃にのばらも起きて来た。
逆にお父さんは居ない。疲れて寝ちゃったのかな?
「あら、亜美。おはようございますわ」
「あれ? のばらも寝てたの?」
「やること終わったら、生理でダウンしてましたわ」
「のばらさん頑張ってたもんな」
「おはよ、亜美、のばら、兄貴。3人のご飯温めるね」
「お父さんは?」
「早めに寝たよ。緊張して殆ど喋ってなかったけど、頑張ってたんだろうな」
そう言えば挨拶はどうなったんだろう?
のばらが我が家に居続けてるってことは、悪い結果にはならなかったんだろうけど。
「信次、挨拶は上手くいった?」
「なんか料理勝負して、婚約者の座を勝ち取ってたぞ」
「婚約者?!」
「兄貴、そもそも葉流がのばらの婚約者だったとこから、話さなきゃ」
「え、何があったのよ!」
うむ、なんか色々あったみたいだな?
私は信次と京平から、のばらの人生が認めて貰えたことと、のばらには葉流くんという婚約者が居たんだけど、葉流くんの提案で、お料理勝負でのばらを賭けて戦って、見事勝利をおさめて、晴れて婚約者になったことを聞いた。
「いつもの炒飯だったんですけど、数倍美味しかったですわ」
「僕の愛が伝わって良かったよ。はい、ご飯ね」
今日のご飯は卵粥。私とのばらは起き抜けだし、ちょうどいいね。
「兄貴は豚の生姜焼きもね。たまにはいいでしょ」
「お、美味そ! けど、信次大丈夫か? 辛そうだぞ」
本当だ。信次、辛そうな顔してる。
そんな中、私達のご飯作ってくれてありがとうが過ぎるよ。
「へへ、成長痛がちょっとね。今日の分、もう飲んじゃったからさ、薬」
「1日2回で、1回の上限500mgまでなのにか?」
「え、1回の上限なの? 500mgって」
「勘違いしてたんだな。寝る前に飲むようにしろよ」
「いや、今飲んですぐ寝るよ。身体痛いもん」
まだまだ信次の背は伸び続けてるみたい。
成長痛が辛いのは可哀想だけど、大きくなってね。信次。
信次は薬を飲むと、おやすみと一言告げて、部屋に入って行った。
私達はいただきますをして、ご飯を食べ始める。
「のばらも早く信次の傍に行きたいですわ。もぐもぐ」
「ずっと我慢してたのかな、信次」
「カロナールは大体6時間くらいの効果だから、15時くらいにはまた痛み出したかもな」
「私のせいだ。私が体調崩して、京平を独り占めしたから」
すると、京平は私を優しく抱きしめてくれた。
「バカ、俺が亜美の傍に居たかったから居たんだよ。信次に気付けなかった俺だけが悪いんだよ」
「大丈夫ですわ、亜美。信次はのばらが助けますわ。ゆっくり眠ってもらいますわ!」
「ありがとね、2人とも。うわあああああん」
「おいおい、何故亜美が泣くんだよ?」
信次が苦しんでたって事実が、凄く苦しかったんだけど、2人に慰められて少し安心したよ。安心して泣けちゃったよ。
「ごちそうさまですわ。歯磨きして寝ますわ」
「お風呂はいいの?」
「明日信次と入りますわ」
のばらはロキソニンとピルを飲んで、洗面台に向かう。
「ごちそうさま。ねえ、京平。お風呂入ろっか?」
「俺もごちそうさま。亜美は体調大丈夫か?」
「だって明日4人入っちゃうなら、お風呂でのんびり出来ないもん。今のうちに、だよ」
「確かにな。この後入ろうか」
私もロキソニンとピルを飲んで、京平に笑いかける。
京平とまったりお風呂に入るの好きなんだ、私。
その時間が減るなんて、耐え切れないもんね。
「歯磨き終わりましたわ。おやすみなさいませ」
「おやすみ、のばら」
「のばらさん、おやすみ」
よしよし、のばらも眠りに行ったし、お風呂入りにいこう。
「京平、お風呂いこ!」
「薬効いてからでいいぞ?」
「一緒に居たいんだもん」
「良いよ。一緒に過ごそう」
体調悪くて、蓮と友にも迷惑かけちゃったし、飲み会も話し合いも行けなかったけど、でも今日はそれで良かったのかも。
こうやってのんびり京平と過ごせるのが、何よりの薬だからさ。
「ほら、亜美、行くぞ」
「ちょ、おんぶしなくていいってば」
「まだ薬効いてなくてお腹痛いだろ。甘えろよ」
京平はいつも優しいなあ。
その優しさにいつも助けられてるよ。
お風呂まで全然遠くないんだけど、私は素直におぶわれていく。温かいや。
◇
「さ、亜美、背中流すぞ」
ザバーンと、私の背中は流されていく。
京平の温かい腕で洗われた私の背中は幸せだね。
京平は続けて、私の髪も洗ってくれた。
そこまでしなくても大丈夫なんだけど、なんだかんだで嬉しいから私はただ笑う。
京平に触れられて嬉しいって、心が笑う。
「痛み止め効いて来たか?」
「うん、もう痛くないよ」
私はそう言いながら、京平の背中を流す。
頑張ってるもんね。京平。
「ああ、気持ちいい」
「京平、そろそろ整体行った方がいいよ? タオルで流してるだけなのに、なんかゴリゴリするよ」
「えー、亜美が揉んでくれるのが好きなんだけどな」
「またそう言ってぇ!」
なんだかんだ言い訳して、整体行かないもんなあ。
私だってプロじゃないんだから、完全にほぐせる訳じゃないんだぞ!
しかも今、体調不良だしさあ。
「明日はお互いゆっくりしような」
「うん、一緒にゆっくり寝ようね」
京平、愛してるよ。
起きた時、いつも私の顔を見ながら、抱きしめてくれていて、ありがとね。
辛いことがあっても、京平の顔を見たら、安心出来るんだよ。
「でも、落合くんと日比野くんには、ライムしてやれよ。心配してるだろうし」
「仮眠室で寝る前にごめんねとは送ったんだけど、今どうしてるのかな?」
「呑んではいるんじゃないか? 当日キャンセルは、お店側にも迷惑掛かるしな。また改めて、皆で呑みなおせばいいさ」
「そうだね。また元気な時に一緒に呑みたいな」
ただ、友は明日から外科に異動だから、中々会えなくなっちゃうかな。休憩時間も手術の関係でバラバラだろうし。
友と過ごす内科としての最後が、あんな形になっちゃって申し訳ないな。
これからはライムでお互い、近況を話し合っこしようね。
皆の余裕が出来たら、また呑もうね。生理じゃない時に。
「これから月末は予定入れないようにな」
「うん、気をつけなきゃ。もー。生理め」
月末月初はイベント事も多いのに、生理が重たいが為に制限されるのは辛いなあ。
ただ、信次の卒業式に掛からなそうなのは良かったけど。
「俺は亜美と過ごせる時間が増えたから、嬉しかったけどな」
「うん、私もそれは嬉しかったよ」
「それなら良かった」
「さ、お風呂入ろう」
「待って、亜美を抱きしめたい」
「もう、京平ってば。嬉しいけどさ」
こんなひと時が、優しさが、私の荒んだ心をいつだって癒してくれる。
京平が居てくれてるから、大丈夫なんだよ。
京平に抱きしめられてる私は、世界一の幸せ者だよ。
これからもずっと一緒に居てね。京平。
作者「因みに蓮たちは呑んでるんですが、それもまた次回に」
蓮「亜美、まだ寝てるのかな。心配だぜ」