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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
信次の卒業式
188/238

生理はバカだけど、京平といられて嬉しいな。

「むにゃむにゃ」

「亜美、仮眠室で寝てこいよ。風邪引くぞ?」

「ダメですよ、蓮。もう亜美寝てます」


 もー。皆うるさいなあ。

 どこで寝ようが私の勝手なのになあ。

 生理初日とは言え、身体は怠くて仕方ない私は、お弁当を食べ終わった後、爆速で眠りにつく。

 夢の中だけでも京平に会えたらいいな。今日は1日長いからなあ。

 お風呂と寝る時にしか一緒に居られないもん。

 にしても、今日は格別に怠い……。

 せめて蓮と話す約束だけでも、リスケした方がいいのかな?

 でも、次予定合う日って、かなり先になっちゃうしなあ。

 頑張るしかないよね。

 だからこそ、ゆっくり寝ようっと。


「しょうがねえなあ、白衣掛けとくか」

「僕もカーディガン掛けときます」


 ◇


「亜美、体調大丈夫か?」

「おはよ、蓮。かなり怠いや」

「亜美、無理せずに今日は帰りましょ? 顔色も良くないですよ」

「大丈夫だよ、友。痛みは抑えられてるしさ」


 今日は飲み会だし、頑張らなきゃ。

 ピル飲んで以降1番辛いけど、大丈夫。

 そうやって、頑張ろうとしたんだけど。


「緊急外来行くぞ、亜美。そんな顔色で、働かせられないぜ」


 うわっと。蓮が私を急にお姫様抱っこして、緊急外来に運んでいく。

 その傍らで、友が看護師長に私のことを連絡してるや。ぬかりなさすぎでしょ!


「深川先生にも連絡しといたので、診察後は素直に帰ってくださいね」

「私、大丈夫だってば! 下ろしてよー」


 当然下ろして貰えることはなく、私はおずおずと緊急外来で診察を受ける。

 ちょうど御手洗先生もいらっしゃって、私の顔色を見るなり、無理しすぎ! って、精一杯怒られた後、生理休暇が必要だという診断書も、院長に渡してくれることになって、明日も休みになった。

 無理すんな、って京平にも言われてたのにな。

 

「怠みがかなりあるみたいだから、ピルも変えてみましょう。痛み止めも増やしておくわね」

「これでも大分良くなったから、頑張れると思ったのに」

「落合くんと日比野くんに感謝しなさい。2人が気を回してくれてなかったら、ぶっ倒れてたよ? 今日、明日はゆっくり休んでね」


 また私、迷惑かけちゃった。本当にダメだなあ。


「ダメだなんて思わないでね。生理は難しいんだから。一緒に頑張ろうね」

「御手洗先生、有難うございます」


 そうだね。少しずつ改善出来るように向き合っていかなきゃね。

 もう無理はダメだぞ、私。

 自分の至らなさと、お腹の痛みと怠さで、少し泣きながら、診察を受けていると。


「亜美!」

「深川先生、迎え遅いわよ。時任さん、泣いちゃってるんだから」

「無理すんなよ、バカ」

「ごめんね、京平」

「診察は終わったし、薬もらったら帰っていいわよ」

「有難うございました」


 私は京平に仮眠室へと運ばれた。薬を受け取るまで待ってて欲しいんだって。

 確かに待合室で膝枕とかもありだけど、また色々言われちゃうもんね。


「薬受け取ったら、すぐ迎えにいくからな」

「ありがとね。京平」


 あ、私、限界だったんだ。仮眠室のベットに運ばれて、すぐ眠たくなって来た。

 休憩時間も寝てたのに、全然回復出来てなかったんだな。

 蓮、友、約束してたのにごめんね。

 私は慌てて、飲み会行けなくてごめんね、って2人にライムを打って、ぐっすり眠った。


 ◇


 私が次に目を覚ましたのは、部屋の中だった。

 いつの間に運ばれたんだろう。全然気づかなかったや。

 横を見ると、京平が私に腕枕をしてくれている。そっか。家に着いてから、ずっと傍にいてくれたんだね。


「おはよう、亜美。顔色も良さそうだな」

「京平、傍にいてくれたんだね。ありがと」

「約束もあったんだろうけど、無理すんなよ。迎えに来た時、真っ青だったぞ」

「うん。蓮と友にも言われた。で、緊急外来に運ばれて」

「2人には感謝だな」


 そう言えば今気付いたけど、京平スーツのままだ。

 着替えもせずに……。ありがとね。


「もう夜だけど、ご飯食べられそうか?」

「うん。でもその前に、お互い着替えよっか」

「だな。亜美は仕事着だし、俺はスーツだしな」


 明日はお互い休みになったし、お風呂も明日にしようかって話し合って、私達はパジャマに着替えた。


「ふー。パジャマ楽」

「ごめんね。ずっと腕枕してくれたから、スーツシワになっちゃったよね?」

「ん? 俺がしたくてしたことだから気にすんなよ。どうせ明日、クリーニングに持ってくしな」


 京平はそう言って、私を抱きしめてくれた。

 いつだって温かいや。

 それと、私の変な性癖なんだけど、京平の素足を見るのが好きで、そこにも癒されてた。

 足の形も綺麗なんだよね、京平。


「京平、愛してるよ。いつもありがとね」

「俺もだよ」

「お腹痛いんだけど、京平に抱きしめられると落ち着くよ」

「ご飯食べたら、すぐ薬飲めよ」


 私達はただただ抱きしめ合った。

 寂しかった心が、嬉しいに変わっていく。


 ひとしきり抱きしめ合った後は、ご飯を食べにいく。

 もう20時なんだけど、私達が向かう頃にのばらも起きて来た。

 逆にお父さんは居ない。疲れて寝ちゃったのかな?


「あら、亜美。おはようございますわ」

「あれ? のばらも寝てたの?」

「やること終わったら、生理でダウンしてましたわ」

「のばらさん頑張ってたもんな」

「おはよ、亜美、のばら、兄貴。3人のご飯温めるね」

「お父さんは?」

「早めに寝たよ。緊張して殆ど喋ってなかったけど、頑張ってたんだろうな」


 そう言えば挨拶はどうなったんだろう?

 のばらが我が家に居続けてるってことは、悪い結果にはならなかったんだろうけど。


「信次、挨拶は上手くいった?」

「なんか料理勝負して、婚約者の座を勝ち取ってたぞ」

「婚約者?!」

「兄貴、そもそも葉流がのばらの婚約者だったとこから、話さなきゃ」

「え、何があったのよ!」


 うむ、なんか色々あったみたいだな?


 私は信次と京平から、のばらの人生が認めて貰えたことと、のばらには葉流くんという婚約者が居たんだけど、葉流くんの提案で、お料理勝負でのばらを賭けて戦って、見事勝利をおさめて、晴れて婚約者になったことを聞いた。


「いつもの炒飯だったんですけど、数倍美味しかったですわ」

「僕の愛が伝わって良かったよ。はい、ご飯ね」


 今日のご飯は卵粥。私とのばらは起き抜けだし、ちょうどいいね。

 

「兄貴は豚の生姜焼きもね。たまにはいいでしょ」

「お、美味そ! けど、信次大丈夫か? 辛そうだぞ」


 本当だ。信次、辛そうな顔してる。

 そんな中、私達のご飯作ってくれてありがとうが過ぎるよ。


「へへ、成長痛がちょっとね。今日の分、もう飲んじゃったからさ、薬」

「1日2回で、1回の上限500mgまでなのにか?」

「え、1回の上限なの? 500mgって」

「勘違いしてたんだな。寝る前に飲むようにしろよ」

「いや、今飲んですぐ寝るよ。身体痛いもん」


 まだまだ信次の背は伸び続けてるみたい。

 成長痛が辛いのは可哀想だけど、大きくなってね。信次。

 信次は薬を飲むと、おやすみと一言告げて、部屋に入って行った。

 私達はいただきますをして、ご飯を食べ始める。


「のばらも早く信次の傍に行きたいですわ。もぐもぐ」

「ずっと我慢してたのかな、信次」

「カロナールは大体6時間くらいの効果だから、15時くらいにはまた痛み出したかもな」

「私のせいだ。私が体調崩して、京平を独り占めしたから」


 すると、京平は私を優しく抱きしめてくれた。


「バカ、俺が亜美の傍に居たかったから居たんだよ。信次に気付けなかった俺だけが悪いんだよ」

「大丈夫ですわ、亜美。信次はのばらが助けますわ。ゆっくり眠ってもらいますわ!」

「ありがとね、2人とも。うわあああああん」

「おいおい、何故亜美が泣くんだよ?」


 信次が苦しんでたって事実が、凄く苦しかったんだけど、2人に慰められて少し安心したよ。安心して泣けちゃったよ。


「ごちそうさまですわ。歯磨きして寝ますわ」

「お風呂はいいの?」

「明日信次と入りますわ」


 のばらはロキソニンとピルを飲んで、洗面台に向かう。


「ごちそうさま。ねえ、京平。お風呂入ろっか?」

「俺もごちそうさま。亜美は体調大丈夫か?」

「だって明日4人入っちゃうなら、お風呂でのんびり出来ないもん。今のうちに、だよ」

「確かにな。この後入ろうか」


 私もロキソニンとピルを飲んで、京平に笑いかける。

 京平とまったりお風呂に入るの好きなんだ、私。

 その時間が減るなんて、耐え切れないもんね。


「歯磨き終わりましたわ。おやすみなさいませ」

「おやすみ、のばら」

「のばらさん、おやすみ」


 よしよし、のばらも眠りに行ったし、お風呂入りにいこう。

 

「京平、お風呂いこ!」

「薬効いてからでいいぞ?」

「一緒に居たいんだもん」

「良いよ。一緒に過ごそう」


 体調悪くて、蓮と友にも迷惑かけちゃったし、飲み会も話し合いも行けなかったけど、でも今日はそれで良かったのかも。

 こうやってのんびり京平と過ごせるのが、何よりの薬だからさ。


「ほら、亜美、行くぞ」

「ちょ、おんぶしなくていいってば」

「まだ薬効いてなくてお腹痛いだろ。甘えろよ」


 京平はいつも優しいなあ。

 その優しさにいつも助けられてるよ。

 お風呂まで全然遠くないんだけど、私は素直におぶわれていく。温かいや。


 ◇


「さ、亜美、背中流すぞ」


 ザバーンと、私の背中は流されていく。

 京平の温かい腕で洗われた私の背中は幸せだね。

 京平は続けて、私の髪も洗ってくれた。

 そこまでしなくても大丈夫なんだけど、なんだかんだで嬉しいから私はただ笑う。

 京平に触れられて嬉しいって、心が笑う。


「痛み止め効いて来たか?」

「うん、もう痛くないよ」


 私はそう言いながら、京平の背中を流す。

 頑張ってるもんね。京平。


「ああ、気持ちいい」

「京平、そろそろ整体行った方がいいよ? タオルで流してるだけなのに、なんかゴリゴリするよ」

「えー、亜美が揉んでくれるのが好きなんだけどな」

「またそう言ってぇ!」


 なんだかんだ言い訳して、整体行かないもんなあ。

 私だってプロじゃないんだから、完全にほぐせる訳じゃないんだぞ!

 しかも今、体調不良だしさあ。


「明日はお互いゆっくりしような」

「うん、一緒にゆっくり寝ようね」


 京平、愛してるよ。

 起きた時、いつも私の顔を見ながら、抱きしめてくれていて、ありがとね。

 辛いことがあっても、京平の顔を見たら、安心出来るんだよ。


「でも、落合くんと日比野くんには、ライムしてやれよ。心配してるだろうし」

「仮眠室で寝る前にごめんねとは送ったんだけど、今どうしてるのかな?」

「呑んではいるんじゃないか? 当日キャンセルは、お店側にも迷惑掛かるしな。また改めて、皆で呑みなおせばいいさ」

「そうだね。また元気な時に一緒に呑みたいな」


 ただ、友は明日から外科に異動だから、中々会えなくなっちゃうかな。休憩時間も手術の関係でバラバラだろうし。

 友と過ごす内科としての最後が、あんな形になっちゃって申し訳ないな。

 これからはライムでお互い、近況を話し合っこしようね。

 皆の余裕が出来たら、また呑もうね。生理じゃない時に。


「これから月末は予定入れないようにな」

「うん、気をつけなきゃ。もー。生理め」


 月末月初はイベント事も多いのに、生理が重たいが為に制限されるのは辛いなあ。

 ただ、信次の卒業式に掛からなそうなのは良かったけど。


「俺は亜美と過ごせる時間が増えたから、嬉しかったけどな」

「うん、私もそれは嬉しかったよ」

「それなら良かった」

「さ、お風呂入ろう」

「待って、亜美を抱きしめたい」

「もう、京平ってば。嬉しいけどさ」


 こんなひと時が、優しさが、私の荒んだ心をいつだって癒してくれる。

 京平が居てくれてるから、大丈夫なんだよ。

 京平に抱きしめられてる私は、世界一の幸せ者だよ。

 これからもずっと一緒に居てね。京平。

作者「因みに蓮たちは呑んでるんですが、それもまた次回に」

蓮「亜美、まだ寝てるのかな。心配だぜ」

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