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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
信次とのばら
187/238

料理勝負!(信次目線)

「葉流、ちょっとこっち来て」

「どうしたの信次? いいけどさ」

「すみません、ちょっとトイレ行ってきます!」


 僕は慌てて葉流とトイレに行く。僕の状況と、葉流の状況のすり合わせもしたかったしね。

 でも、スーツ姿の葉流、格好良いな。男の僕でも惚れ惚れするよ。


「とりあえず、今どんな状況なの?」

「僕、冴崎のばらさんと付き合ってて、婚約もお互いにしたんだけど、婚約者が居るって言われて」

「そっか、僕は小さい頃からのばらお嬢様の存在は知ってたけど、のばらお嬢様は知らなかったのか」


 ちょっと葉流が溜息を吐く。存在を知られてないのは、地味に辛いよなあ。


「どう言った経緯で婚約者になったの?」

「母親同士が友達なんだよ。お互い男の子と女の子で結婚できるから、婚約しよう、って」

「うは、本人の意思無視なの?!」

「ね、結構年齢差もあるのにね」


 僕が言えたことじゃないけど、葉流とのばらは6歳差。逆ならまだしも、のばらのが上だしね。

 僕ものばらを待たせちゃうんだよな。なんで僕、17歳なんだろう。なんで医者じゃないんだろう。

 葉流としては、この婚約についてどう思ってるんだろう。

 そこが解決しないと、のばらはやっぱり親と絶縁しなきゃになるよね。


「葉流、この婚約、受けるの?」

「信次のことがある訳じゃないけど、お断りしようと思ってるんだ。僕、好きな人がいるし」

「葉流の親には相談済み?」

「うん。僕の意思に任せるって言ってくれたよ」


 そっか、それなら心配事は何もないね。良かったあああああ。


「信次、何安心してんの。問題はここからだよ?」

「え、葉流と戦わなくていいだけで、結構ホッとしたんだけど……」

「信次はのばらお嬢様と結婚したいんでしょ? 認めて貰えるの?」

「それを今から話し合って」

「信次、何もコネないのに?」


 うぐ、確かにそうだ。葉流は、青柳医院の跡取り息子だけど、僕はただの信次なんだよな。


「だから、僕を利用して欲しいんだよね」

「え、利用って?」

「あのね」


 ◇


「お待たせしました」

「構わん。話の続きをしようか」

「そのことなんですけど、僕はのばらお嬢様を思い続けていましたが、のばらお嬢様には今、恋人がいらっしゃるんですよね?」

「のばらが勝手に作った恋人だ。気にするな」

「いえ、のばらお嬢様の気持ちを考えると、このままのばらお嬢様とは結婚出来ません」


 葉流、演技上手いなあ。本当にのばらのことが好きみたいにみえるよ。


「そこで先程、葉流と話し合ったんですけど、僕達でのばらさんを賭けて勝負させてください。選ぶのは、のばらさんです」

「つまり、のばらがこの人だ! って殿方を選べばいいのですわね?」


 あ、のばら、なんかやる気満々だ。

 葉流格好良いし、僕がフラれる可能性も0じゃないんだよな。

 でも、僕が選ばれるように頑張らなきゃ。

 そう、葉流が僕に提示した作戦とは、僕と葉流が戦って、のばらに選ばせる。

 よっぽどのことがなければ、のばらは僕を選ぶし、葉流に負けるようじゃ僕はのばらに相応しくない。

 こうすることによって、のばらの婚約者になれる、という訳。


「勝負は、昼食作りです。その間、のばらを部屋で休ませてあげてください」

「お嬢様、こちらへ」

「待ってますわ、信次」


 そう、それにのばらを休ませてあげたかったしね。


「確かにのばらなら、昼食会のご飯を食べても、殿方達のご飯も食べられるしな」

「そうね。のばらなら忖度なしで決めるしね。ご飯には厳しいから」


 のばら、やっぱりご飯には厳しいんだな。

 僕のお弁当を残さず食べてくれてるのって、奇跡に近いのかもな。

 今日作るメニューは決めているんだ。元々帰ったら、作ってあげようと決めていたメニューを。

 のばらを癒してあげたいから。


「さ、お二人とも、キッチンはこちらです」


 僕達は冴崎家のキッチンに案内されていく。

 昼食会の準備もあるから、僕達に与えられたのは、コンロ二つのキッチン。

 そうなると、コンロは1人一台か。充分だね。

 そもそも僕が勝てるように昼食作りを勝負に決めたんだけど、葉流は何を作るんだろう?

 僕はフェアに戦いたかったから、のばらの体調を葉流に伝える。


「因みにのばら、今生理だからね。食欲はあるけど」

「ああ、顔色悪いなあって思ってたけど、生理かあ。信次がのばらお嬢様を休ませたいって言ってたのも、そう言う訳か」

「これで隠し事は無しだからね」

「僕も料理は苦手だけど、本気で行くからね。勝ってよ?」

「勿論」


 今ののばらの体調と、のばらの好きなものを考慮して、美味しいの作るからね。

 早速僕は取り掛かったんだけど。

 

「信次、鍋振れないから振ってよ」

「それくらい自分でやれよ!」

「え、それを手伝っただけで、信次負けるの?」

「もう、解ったよ。手伝うよ!」

「のばらお嬢様に、不味いものは食べさせたくないしね。生理だし」


 なんか葉流の思い通りに動かされてんな、僕。

 結果として、葉流に料理のイロハを教えてるもん。

 鍋の振り方を教えたり、味付けの方法を教えたり、もう色々教えて訳解んないよ。


「葉流、お料理教室だと思ってない?」

「あ、バレたか。僕の提案なんだし、協力してよ。ね?」

「しょうがないなあ」


 結局僕は葉流に料理を教えながら、自分の調理に取り組むことになった。

 こうなると、どっちも僕の味になるんじゃない?

 のばら、僕の料理解るかなあ?

 いつも作ってあげてる僕の味、覚えていて欲しいな。


「信次、スープは塩胡椒でいいの?」

「ああ、出汁作らなきゃ。鰹節と昆布で取るといいよ」

「ていうか信次、信次のメニューはそれだけでいいの?」

「うん、のばらなら解ってくれるから」


 のばら、僕を見つけてね。そして、僕を選んでね。愛しいのばらだから。


「よし、出来た!」

「僕も出来たよ、葉流」

「お。出来たようですね。出来た料理はお互いの名を伏せて、お嬢様にお出ししますね」

「お願いします」


 僕達は山田さんに料理を運んでもらい、片付けを始める。

 片付けですら葉流は僕に聞いてくるもんだから、完全に葉流と僕のお料理教室になってるや。


「信次、料理教えてくれてありがとね」

「1人で出来るようになったら、好きな人に食べさせても良いかもね」

「喜んでくれたらいいな」


 葉流は優しく微笑んだ。本当に大事な、好きな人がいるんだね。こんな優しい顔、初めて見たよ。

 

「また好きな人紹介してね」

「うん、信次になら言える気がする」


 さあ、片付けも終わったし、のばらの元に行こう。

 のばら、起きられたかな? 無理してないかな?


「お、信次、お疲れ」

「大丈夫なのか、信次」

「うん、自信はあるよ」


 兄貴とお父さんが声を掛けてくれた。心強い味方だね。

 あれ、まだのばらが居ないな? まだ寝ているのかな?

 僕は山田さんに話しかける。


「のばらは大丈夫ですか?」

「先程薬が切れてしまい、かなり辛そうでしたが、今薬を飲ませましたので、効く頃合いには来るとのことです」

「無茶するから……でも、ありがとね。のばら」


 のばらが戦ってくれたから、ここまでこれたから。

 のばらの気持ちがご両親にも届いて、のばらの生き方は肯定されたんだもんね。

 これからも隣で支え続けたいから、この勝負負けられない。

 まあ、どっちの料理も僕が作ったようなもんなんだけど、僕の料理にのばらなら気付くはずだから。

 けど、気付かなかったら? 僕は身震いする。

 葉流にも迷惑かけちゃうし、のばらは親と縁を切らなきゃいけなくなるし。

 いや、そもそも葉流に負けるような僕を、のばらは愛し続けてはくれないよね。

 気付く、気付かないじゃない。選んで貰うんだ。


「信次、今日格好良い顔してますわね」

「あ、のばら。体調は大丈夫?」

「薬も効いて来ましたから大丈夫ですわ。信次を、信じていますわ」


 絶対のばらは無理してるんだけど、のばらは僕を信じてくれている。

 だから、そんな体調でも、ここにいてくれているんだ。

 のばら、ありがとね。出会えて良かった。


「お料理は、お嬢様の席に並べてありますので、温かい内に審査をお願いします」

「のばら腹ペコですの。美味しく頂きますわ!」

「さ、皆様も昼食会の料理は出来上がっていますから、召し上がってくださいませ」


 僕達は席に着く。

 のばらはお誕生日席に座って、僕達は僕、兄貴、お父さんの順でのばらから見て左側で、葉流、のばらのお父さん、のばらのお母さんの順で右側の席を案内された。

 ただ、僕らの視線はご飯じゃなくて、のばらに向けられている。

 僕達がのばらに作った料理は。


「レバニラと、炒飯?」

「え、こんな大事な時にシンプルな料理だな。信次のはどっちなんだ?」

「信次、そこはグラタン作っとけよ」

「のばらもグラタンのお腹でしたわ」


 しまった。確かに安パイな道を行くなら、のばらの好きなグラタンを作るべきだった!

 でも、僕、作ったものには自信あるよ。

 僕の気持ちを精一杯込めたから。


「信次、勝負のご飯はご飯で食べますけど、グラタン食べたいから作ってくんなまし」

「お嬢様、昼食会のメニューにもグラタンは」

「信次のグラタンが食べたいんですの!」

「しょうがないなあ」

「僕も手伝うよ、信次」


 のばら、食べ物に関しては本当に我儘なんだから!

 とはいえ、審査の結果と、のばらの食べてる顔は見たいので、その後グラタンを作ることになった。

 グラタン、楽しく作れてるといいんだけどな、数十分後の僕。


「まずはレバニラ炒めから頂きますわ。付け合わせは春雨スープですのね」


 うは、のばらの審査が始まった。手に汗かいてきたよ。

 身体も震えて来た。多分今、受験の時より緊張してるや。

 でも、そんなことはどうでもよくて、のばらに美味しく食べてもらいたいな。

 僕の気持ちを受け取って欲しいな。


「信次、大丈夫。グラタンにすりゃあ良かったのにとは思うけど、信次の思いは届くはずだから」

「一言余計だけどありがとね、兄貴」


 僕の気持ちとは裏腹に、のばらは黙々とレバニラ炒めを食べて。


「美味しいですわ。鉄分欲しかったから嬉しいのですわ。春雨もプリプリですわ」


 にこやかに笑ってる。のばらの美味しい顔だ。やっぱり、食べてるのばらは可愛いな。

 緊張感もあるけど、のばらの笑った顔にいつも癒されるんだよね。

 のばら、愛してるよ。


「信次、愛がダダ漏れだぞ」

「しょうがないじゃん。愛しいんだもん」

「もう、信次ってば」


 だって勝負に関係なく、のばらの笑顔を愛してるんだもん。


「次は炒飯ですわ」


 のばらが次の料理を食べ始めた。


「あら、これ……そういう意味だったのですわね」

「なんかのばらさん、一心不乱に炒飯食べてる」

「凄く幸せそうな顔をしているな。信次のならいいんだが」

「大盛炒飯、ニンニクマシマシでおかわり願いますわ!」


 あ、届いたみたい。僕の気持ち。

 照れくさいんだけど、初めてのラブレターだよ。のばら。


「勝負ありですな。炒飯を作ったのはどちらかな?」


 僕は立ち上がった。なんかこういうの、慣れないなあ。


「信次、早くおかわり食べたいですわ!」

「すぐ作るね。のばら」

「あ、グラタンも忘れちゃダメですわ」

「待っててね、のばら」

「あ、僕にも炒飯とグラタン教えて!」


 僕と葉流……と、兄貴は、キッチンに向かう。


「やったね! 信次!」

「ありがとね、葉流」

「信次、どんな炒飯作ったんだよ?」


 あ、兄貴、それを知りたくて、キッチンまで来たのか。


「え、大盛炒飯ニンニクマシマシ」

「何だ、普通の炒飯か」

「実は僕がのばらを愛した時に作ったのが、この炒飯だったんだ。食べてるのばらを愛してるって、実感したんだ。だから、愛してるよって炒飯に込めたんだ」

「そっか。のばらさんと信次にとっては最適解だったんだな」

「ね、信次。炒飯とグラタン作ろ!」

「俺も手伝うよ、信次。あ、あと、俺の分も炒飯頼むよ」


 のばらが喜んでくれて良かった。全てが上手くいって良かった。

 今、嬉しい気持ちでご飯を作れて幸せだよ。

 

「信次ー、鍋が重くて上がんないよ」

「ああもう、やるから待ってて!」


 ◇


「お腹いっぱいですわ」

「まさか炒飯とグラタンを食べた後、昼食会のメニューも全部食べるとは。流石お嬢様」

「当然ですわ!」

「のばら、色々済まなかったな。これからは家族仲良く暮らそう。家に戻っておいで」


 そうだよね。のばらは元々、家族と喧嘩したから我が家に来たんだもんね。

 のばらの生き方を認めてもらって仲違いが無くなった今、我が家に留まる理由はない。

 寂しくなるけど、結婚までの辛抱だね。春休みの間は、いっぱいデートしようね。

 と、思っていたんだけど。


「え、嫌ですわ」

「何故だ、のばら!」

「だって、信次のご飯食べたいんですもの!」


 え、理由ご飯なの?!

 なんか複雑だなあ。嬉しくはあるんだけどさ。


「信次くん、勢いでのばらの婚約者になった君だが、のばらの胃袋を掴んだ君なら、のばらを幸せにしてくれると信じてるからね。のばらとこれからも、暮らしてくれないか?」

「そうね。葉流くんには申し訳ないけど、のばらと結婚する殿方は、のばらの好きなもの作れなきゃだものね」

「はい、これからものばらさんと幸せに暮らします。無事医者になれたら、また挨拶に伺います」

「あら、信次くん医師志望だったのね。意外と話せてなかったわねえ」


 そうだね。結婚の挨拶全てすっ飛ばして、婚約者になったもんね。僕。

 まさか、あのお料理勝負で、こんなにも全面に信頼してくれるなんて。

 提案してくれた葉流には、感謝してもしきれないね。


「のばらお嬢様」

「あら、葉流くん。どうしましたの?」

「のばらお嬢様は僕のこと知らなかったと思うんですけど、これからは友達として宜しくお願いします」

「のばらのことはのばらでいいですし、敬語も要らないですわ。のばらも葉流って呼びますわ。また信次を交えて遊びましょうね」

「うん、また遊ぼうね」


 のばらと葉流も友達になったみたい。

 今日帰ったら、葉流に助けてもらったことを、のばらにも教えなくちゃね。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。タクシー呼ばないと」

「あ、今僕、迎えの車が来たので、皆さんも送りますね!」

「ありがとね、葉流」


 葉流の気遣いで、僕達は青柳家のリムジンに乗って、家まで向かう。

 運転手は相変わらず風見さんみたいだ。

 風見さん内科医なのに、葉流の運転手もしてるし大変だよなあ。

 

「お疲れ様です、葉流様」

「だから風見さん、様付けしなくていいよ。敬語も要らないってば」

「俺、尊敬してますから。葉流様のこと」

「僕が嫌なんだってば。あ、信次達も送ってあげて」

「かしこまりました」


 葉流が嫌って言っても、風見さんは敬語を崩すことなく葉流に話しかける。

 中々頑固なんだな、風見さん。


「ふぅ、疲れましたわ」

「生理で怠いだろうし、寝てていいよ。着いたら部屋に運ぶから」

「有難うございますわ」


 のばら、今日はお疲れ様。相変わらず、僕を選んでくれてありがとね。

 これからもずっと一緒にいようね。

 眠るのばらが愛しくて、僕は思わず笑った。


「信次、のばらに対しては優しく笑うんだね」

「愛しいからかな。守りたいし」

「おお、幸せな会話ですねえ。俺も彼女欲しいですねえ」

「風見さんはモテないよ」

「葉流様、ひどい!」

信次「これからも一緒に暮らそうね。のばら」

のばら「すやすや」

風見「彼女欲しいいいい」

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