バイトに行く信次(信次目線)
「ふう、のばらも病院行ったし、バイトの時間まで勉強しようかな」
「信次眠れてるか? 疲れた顔してるぞ」
「痛み止めがちょっと切れて来ただけ。カロナール飲まなきゃ」
のばらのおかげで眠れているし、痛みも薬で誤魔化せてはいるんだけど、薬が切れると、やっぱり辛いなあ。
ここ2か月で一気に6センチ伸びたけど、まだまだ伸びてるもんな、僕。
買って来たカロナールも残り少なかったから、兄貴が処方してくれて良かった。
僕はカロナールを水で流し込む。
「痛み止めが効くまでは、のんびりしてよ」
「成長痛は辛いからな。父さんも若い頃は痛かったぞ」
「お父さん、背高いもんね」
お父さんの身長は182センチ。兄貴より若干高い。
ってことは、僕が兄貴より伸びる可能性もゼロではないんだよなあ。
仮に僕が兄貴より伸びても、兄貴を尊敬する気持ちは変わらないけどさ。
ずっと兄貴が憧れなんだ、僕。
そもそも家族が大切だから、皆僕を頼って欲しいんだけどな。
「あー、痛みが引かない」
「そんなにすぐ薬は効かないぞ。横になっとけ」
「じゃ、お父さん、膝枕して」
「しょうがないな、おいで」
えへへ、お父さんに甘えちゃった。
お父さんの太もも、温かいな。癒されるな。
ダメだなあ、なんか眠たくなってきたよ。
「お父さん、15時くらいになったら起こして」
「いいよ。おやすみ、信次」
「おやすみ、お父さん」
いいや、今日は寝ちゃおう。おやすみ。
◇
「ただいまー」
「亜美、おかえり」
「あれ、信次寝てるの? 起きるといいけど」
「一度寝たら、中々起きないもんな。信次」
むにゃ、亜美が帰って来た。
てことは、14時くらいかな。兄貴の休憩時間ギリギリまで一緒にいただろうし。
亜美、明日飲み会だって言ってたけど、生理大丈夫かなあ。
ピル飲んでからは、そこまで辛そうではないにしても、怠さはまだあるみたいだし。
無理しないで欲しいなあ。
そんな僕も、明日はのばらの両親へ挨拶しに行くんだよね。
兄貴とお父さんが着いてきてくれるけど、やっぱり緊張するもんは緊張する。
し、どうしたら結婚許して貰えるのかなあ、とか。
のばらとずっと一緒にいたいから、頑張らなくちゃ。
はあ、痛み止めも効いて来たけど、若干怠いなあ。
でも、そろそろ勉強しようかな。
「おはよ、お父さん、亜美」
「お、信次が普通に起きるなんて珍しいじゃん」
「亜美が帰って来た時に、目が覚めた」
「おはよう、信次」
お父さんが優しい目を僕に向けてくれた。
あ、これ、心配されてるやつだな。全然平気なんだけどな。
「さあ、勉強しようかな。あ、亜美。兄貴元気だった?」
「診察の後で、若干疲れてたみたいだったから寝かせたよ」
「そっか。一応夜ご飯作っておくか」
夜ご飯作るなら、勉強は15時半までだな。
16時半には家を出たいしね。
「ん? 亜美は勉強しないの?」
「今からするとこだったの!」
こうして僕達は、お父さんを挟んで勉強を始めた。
何だかんだで側に居たいんだよね。
だって元気もらえるしね。時折微笑んでくれるし。
今やってる医学書も、後ちょっとで終わるから、兄貴に借りられたらいいな。
バイト代は、のばらにプレゼントする婚約指輪に使いたいし。
「信次、明日のばらんち行くんだよね」
「うん。正直、緊張してる」
「ちゃんと自分の気持ちを伝えるんだよ。普通はまだ就職もしてないし、ダメって言われるんだし」
「でも僕は本気だから、認めてもらいたいんだ」
「せめてお付き合いを続けることは、許して貰いたいよね」
僕達が求めてるのはそこだ。
婚約が時期尚早なのは僕達も解っていて、そこまで認めて貰うのは難しいよね、って。
今現在、全てを受け止めてくれているお父さんのが、レアなケースだ。
でも、お付き合いすることをこのまま許して貰えるなら、6年後にまた挨拶に行けばいいだけなんだしね。
それすら許してもらえないなら、のばらは親と絶縁するって。
のばらが僕を真剣に愛してくれてるのは嬉しいんだけど、そんなこと、させたくないしね。
「絶対、認められるぞ」
「私は当日行けないけど、応援してるからね。のばらと信次の愛は、本物だもん」
「ありがとね、亜美」
1つ解ってることは、何があってものばらを手放さないってこと。
全力で守り抜くからね、のばら。
「そろそろご飯作らなきゃ。明日は大事な日だから、美味しいの作るからね」
「信次のご飯はいつも美味しいよ」
「えへ、ありがとね」
◇
「信次、すき焼きは嬉しいけど、これは家族が揃った時に食べたくない?」
「そういう気分だったの。僕ものばらと食べるよ。おかわりの割下作ってあるのと、野菜も切ってあるから、兄貴帰って来たら煮込んでね」
「そう? じゃあ、遠慮なく食べるけどさ」
気合い入るご飯と言ったらこれかなあ、って。
のばらとの思い出のご飯でもあるしね。
「じゃあ、僕はバイト行ってくるね」
「いってらっしゃい!」
「信次、無理するなよ」
「大丈夫、痛み止めも飲んだし!」
お父さんも心配しすぎだってば。ただの成長痛なんだし。
でもいつまで続くんだろ。早く落ち着けばいいんだけどな。背は欲しいけど。
ふー。明日はどうなるんだろ。
のばらとの結婚、とまでは行かなくても、付き合うとこまでは認めて貰いたいな。
いけない、もうすぐバイトなんだし切り替えなきゃ。
子供達の相手は、そう甘くないんだし。
僕がバイトに復職してからすぐ、拓実くんと絵梨ちゃんがお帰りって言ってくれた。
勝田さんからは、背伸びたねえって、まるで近所のおばさんみたいなこと言われたけど。
子供達もあれから増えていて、新しく覚えなきゃなこともあるけど、楽しくやれているよ。
海里はどうなるのかな。というか、どうするのかな。一緒に働けたら嬉しいけど。
色々考えてるうちに、病院に着いた。
僕が更衣室に行くと、麻生先生が話しかけてくれた。
「信次くん、久しぶりじゃのう」
「おはようございます。クリスマスパーティー以来ですね」
「聞いたぞ。異能で入院したり、大学に合格したりとか」
「今年は初っ端から色々ありましたね」
「大学生活もあるし、無理をしないようにじゃぞ」
麻生先生はそう言って、更衣室を出て行った。
更に明日はのばらの家に挨拶に行くんですよー。
そう言えばスーツ買わなきゃだったのに、買ってなかったな。一気に背が伸びたから丈が短くなっちゃったんだよね。
兄貴にスーツ借りなきゃ。ライム打っておこう。兄貴のスーツなら丁度いいよね。
ライム打った後、僕は育児センターに向かった。
遅番の人達が、子供達を預けに来ている。手伝わなきゃ。
僕は子供達を誘導したり、子供達のお父さんとお母さんに挨拶したりして、てんやわんやになりながら仕事を進めた。
この時間が、1番大変かもしれないね。
「時任くんおはよ。今日もりす組宜しくね」
「おはようございます、金田さん。頑張ります!」
「もう大分勘を取り戻したみたいだし、信頼してるよ」
そう言えば、今勝田さん居ないなあ。海里の面接かな?
海里のやつ、面接17時からって言ってたし。
勝田さんが居ない時は、金田さんが僕に指示をくれる。
金田さんもかなり頼りになる人だから安心だ。
さーて、りす組の皆と遊ぶか。見守りしながら。
「お、しんじ、おせえぞ」
「しんじー、だっこしてえ」
拓実くんは兎も角、絵梨ちゃんが抱っこして、って、珍しいな?
何かあったのかな? 僕は、絵梨ちゃんを抱っこしながら聞いてみる。
「絵梨ちゃん、何かあったのかな?」
「さいきんママがたいちょうわるそうなのに、パパがなんかわらってるの。おかしいよね」
「え、ママの体調悪いのに、パパが笑ってたの?」
「うん、しかもママ、くすりものんでなかった。すごくきもちわるそうなのに」
ははーん、どういう状況かは解ったけど、僕の口から絵梨ちゃんにそれを言うのは違うよなあ。
確かにパパは笑うよね。嬉しいもんね。僕も同じ立場なら嬉しいもん。
絵梨ちゃんのママ、妊娠してるんだね。
つわりも激しいなら、仕事無理しなくていいのに、心配だね。
絵梨ちゃんにはまだ、弟か妹が出来るって言ってないのかな?
だから心配だけど、絵梨ちゃんが不安がる必要はないし、慰めたいのだけど、どうしたもんかなあ。
「大丈夫だよ。今、絵梨ちゃんのママは頑張ってるんだからね」
「そうだよね、ママがんばってるよね」
「だから、お手伝いをしたり、ママのこと、応援してあげようね」
「うん、えり、ママをたすける!」
よし、後は絵梨ちゃんパパに一応ウラを取って、絵梨ちゃんが気にしてたことを教えてあげなきゃ。
「よかった、えり、やっとわらった」
「ずっと落ち込んでたの?」
「うん。でもくやしい。おれがわらわせたかった」
解る。好きな子は自分で笑わせたいよね。
拓実くんも男だなあ。なんか、微笑ましいや。
「おや、絵梨ちゃん寝てるな。布団敷かなきゃ」
ずっと不安で眠れてなかったのかな?
おやすみ、絵梨ちゃん。
◇
「えり、だいじょうぶだからな。すー」
ふう、絵梨ちゃんが心配だから一緒に寝る、かあ。
取り敢えず布団を隣同士に敷いたけど、2人とも寄り添って寝てるや。
「お、時任くんお疲れ!」
「勝田さん、お疲れ様です。もう帰りますよね?」
「うん、もうすぐ定時だしね。後、海里くん相変わらず良いね。私、ああいう素直な子好きだよ」
「海里は内定貰えますか?」
「私は推しといたけど、決めるのは院長だからね。それ次第かな?」
勝田さんには気に入って貰えたみたいだね、海里。
五十嵐院長には気に入って貰えたのかな?
海里の内定はそれ次第かな。
面接どうだったか、後で海里に聞いてみよ。
「じゃー、私は帰るね。解らないことあったら、金田さんに聞いてね」
「お疲れ様です!」
とは言え、りす組さん皆寝ちゃったんだよな。
昼間に勝田さん達と追いかけっことかして遊んだようで、皆疲れ切ったみたい。
「すみませーん、絵梨迎えに来ました」
あ、絵梨ちゃんのお母さんだ。お父さんも一緒だ。今日は早番だったんだね。
僕は絵梨ちゃんを抱っこして、お母さんとお父さんの元に連れて行く。
「お疲れ様です」
「よっこらしょ。絵梨も大きくなったな」
絵梨ちゃんパパが、絵梨ちゃんを抱っこする。
「あの、もしかして絵梨ちゃんのお母さん、妊娠されてるんですか?」
「え、そうだけど、何で解ったの? まだ3ヶ月なのに」
「絵梨ちゃんが、ママ体調悪そうなのに、パパが笑ってるって。あと、気持ち悪そうなのに薬飲まなかった、って。絵梨ちゃん、心配してましたよ」
「そっか、絵梨、見てたんだね。心配させちゃったなあ」
「有難う、時任くん。今日、絵梨にも妊娠のこと話すよ」
「安心させてあげてくださいね」
僕に軽く会釈して、絵梨ちゃんママとパパは帰っていった。
今日勤務の相談もしたみたいで、しばらく絵梨ちゃんママは早番縛りで、つわりが落ち着くまでは内科部長の事務仕事を手伝うみたい。
その方が安心だよね。いざとなった時病院も空いてるしね。
絵梨ちゃんママも確か内科の看護師さんだから、亜美達も暫く大変だね。
「時任くんお疲れ、休憩行っといで。絵梨ちゃんのフォローありがとね」
「金田さん、お疲れ様です。力になれてるといいな」
「ああ、私のことは雪でいいよ。何気タメだしね」
「そうなんですね。飛び級試験を早めに受けられたんですか?」
金田さん……雪は正社員だし、もう僕の指導も出来るくらいだから、かなり前から働いてるよね。
「ああ、私5歳からアメリカ行ってて、そっちで飛び級しまくったの。1年前に日本に帰って来たんだ。一応大学も卒業してるよ」
「うわあ、才女ですね。僕なんて、一年飛び級がやっとでしたもん」
「たまたまだよ。そうだ、ライム交換しとこ。私が時任くんの指導係になるからさ。あと、敬語も要らんよ」
「あ、僕も信次って呼んで。宜しくね」
僕は雪とライムを交換して、休憩室に向かう。
のばらと休憩時間合うといいんだけどな。
休憩室に入ろうとすると。
「信次、良かったですわ。一緒のタイミングで」
のばらが後ろから走ってやってきた。
そんなのばらも可愛いな。
「僕も会いたかったよ、のばら」
ああ、のばら生理近いし寂しいだろうから、抱きしめてあげたいのに、何で病院なんだろう。
仕方がないので、のばらをポンポンした。
「むぅ、ドキドキするのですわ」
「休憩時間はずっと傍にいるからね、のばら」
「嬉しいのですわ」
僕達は休憩室に入って、お弁当を食べ始める。
のばらとこんな何気無い時間を過ごすのが、好きだなあ。のばら、美味しそうにお弁当食べてくれるし。
「のばら、お昼以降ずっと寂しかったんですけど、信次に会えたらホッとしましたわ」
「それなら良かった」
のばらも生理近いもんね。明日の挨拶、無理しないといいんだけどな。
ピル飲んでも、かなり怠そうにしてるからさ。
おそらくのばらの甘えぶりを見てると、明日だろうなあ。
そんなのばらも可愛いんだけどね。
「ごちそうさまですわ」
「僕もごちそうさま。さ、のばら。仮眠室行くよ?」
「信次と喋りたいですわ」
「凄く疲れた顔してるよ。大丈夫、傍にいるから」
「それなら、やぶさかではないですわ」
こうでもしないと、やっぱりのばらは無理しようとするからね。
のばらは2時間休憩みたいだから、最後までは一緒に居られないけれど、時間まではポンポンするからね。
ふふ、僕の方を向いて眠るのばらが、愛し過ぎる。
明日は僕が頑張るからね。おやすみ。愛してる。
信次「のばら見てると、癒されるんだよね。僕も」
のばら「むにゃむにゃ、信次、愛してますわ」