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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
信次とのばら
185/238

バイトに行く信次(信次目線)

「ふう、のばらも病院行ったし、バイトの時間まで勉強しようかな」

「信次眠れてるか? 疲れた顔してるぞ」

「痛み止めがちょっと切れて来ただけ。カロナール飲まなきゃ」


 のばらのおかげで眠れているし、痛みも薬で誤魔化せてはいるんだけど、薬が切れると、やっぱり辛いなあ。

 ここ2か月で一気に6センチ伸びたけど、まだまだ伸びてるもんな、僕。

 買って来たカロナールも残り少なかったから、兄貴が処方してくれて良かった。

 僕はカロナールを水で流し込む。


「痛み止めが効くまでは、のんびりしてよ」

「成長痛は辛いからな。父さんも若い頃は痛かったぞ」

「お父さん、背高いもんね」


 お父さんの身長は182センチ。兄貴より若干高い。

 ってことは、僕が兄貴より伸びる可能性もゼロではないんだよなあ。

 仮に僕が兄貴より伸びても、兄貴を尊敬する気持ちは変わらないけどさ。

 ずっと兄貴が憧れなんだ、僕。

 そもそも家族が大切だから、皆僕を頼って欲しいんだけどな。

 

「あー、痛みが引かない」

「そんなにすぐ薬は効かないぞ。横になっとけ」

「じゃ、お父さん、膝枕して」

「しょうがないな、おいで」


 えへへ、お父さんに甘えちゃった。

 お父さんの太もも、温かいな。癒されるな。

 ダメだなあ、なんか眠たくなってきたよ。


「お父さん、15時くらいになったら起こして」

「いいよ。おやすみ、信次」

「おやすみ、お父さん」


 いいや、今日は寝ちゃおう。おやすみ。


 ◇


「ただいまー」

「亜美、おかえり」

「あれ、信次寝てるの? 起きるといいけど」

「一度寝たら、中々起きないもんな。信次」


 むにゃ、亜美が帰って来た。

 てことは、14時くらいかな。兄貴の休憩時間ギリギリまで一緒にいただろうし。

 亜美、明日飲み会だって言ってたけど、生理大丈夫かなあ。

 ピル飲んでからは、そこまで辛そうではないにしても、怠さはまだあるみたいだし。

 無理しないで欲しいなあ。

 そんな僕も、明日はのばらの両親へ挨拶しに行くんだよね。

 兄貴とお父さんが着いてきてくれるけど、やっぱり緊張するもんは緊張する。

 し、どうしたら結婚許して貰えるのかなあ、とか。

 のばらとずっと一緒にいたいから、頑張らなくちゃ。

 はあ、痛み止めも効いて来たけど、若干怠いなあ。

 でも、そろそろ勉強しようかな。


「おはよ、お父さん、亜美」

「お、信次が普通に起きるなんて珍しいじゃん」

「亜美が帰って来た時に、目が覚めた」

「おはよう、信次」


 お父さんが優しい目を僕に向けてくれた。

 あ、これ、心配されてるやつだな。全然平気なんだけどな。


「さあ、勉強しようかな。あ、亜美。兄貴元気だった?」

「診察の後で、若干疲れてたみたいだったから寝かせたよ」

「そっか。一応夜ご飯作っておくか」


 夜ご飯作るなら、勉強は15時半までだな。

 16時半には家を出たいしね。


「ん? 亜美は勉強しないの?」

「今からするとこだったの!」


 こうして僕達は、お父さんを挟んで勉強を始めた。

 何だかんだで側に居たいんだよね。

 だって元気もらえるしね。時折微笑んでくれるし。

 今やってる医学書も、後ちょっとで終わるから、兄貴に借りられたらいいな。

 バイト代は、のばらにプレゼントする婚約指輪に使いたいし。

 

「信次、明日のばらんち行くんだよね」

「うん。正直、緊張してる」

「ちゃんと自分の気持ちを伝えるんだよ。普通はまだ就職もしてないし、ダメって言われるんだし」

「でも僕は本気だから、認めてもらいたいんだ」

「せめてお付き合いを続けることは、許して貰いたいよね」


 僕達が求めてるのはそこだ。

 婚約が時期尚早なのは僕達も解っていて、そこまで認めて貰うのは難しいよね、って。

 今現在、全てを受け止めてくれているお父さんのが、レアなケースだ。

 でも、お付き合いすることをこのまま許して貰えるなら、6年後にまた挨拶に行けばいいだけなんだしね。

 それすら許してもらえないなら、のばらは親と絶縁するって。

 のばらが僕を真剣に愛してくれてるのは嬉しいんだけど、そんなこと、させたくないしね。

 

「絶対、認められるぞ」

「私は当日行けないけど、応援してるからね。のばらと信次の愛は、本物だもん」

「ありがとね、亜美」


 1つ解ってることは、何があってものばらを手放さないってこと。

 全力で守り抜くからね、のばら。


「そろそろご飯作らなきゃ。明日は大事な日だから、美味しいの作るからね」

「信次のご飯はいつも美味しいよ」

「えへ、ありがとね」


 ◇


「信次、すき焼きは嬉しいけど、これは家族が揃った時に食べたくない?」

「そういう気分だったの。僕ものばらと食べるよ。おかわりの割下作ってあるのと、野菜も切ってあるから、兄貴帰って来たら煮込んでね」

「そう? じゃあ、遠慮なく食べるけどさ」


 気合い入るご飯と言ったらこれかなあ、って。

 のばらとの思い出のご飯でもあるしね。


「じゃあ、僕はバイト行ってくるね」

「いってらっしゃい!」

「信次、無理するなよ」

「大丈夫、痛み止めも飲んだし!」


 お父さんも心配しすぎだってば。ただの成長痛なんだし。

 でもいつまで続くんだろ。早く落ち着けばいいんだけどな。背は欲しいけど。


 ふー。明日はどうなるんだろ。

 のばらとの結婚、とまでは行かなくても、付き合うとこまでは認めて貰いたいな。

 いけない、もうすぐバイトなんだし切り替えなきゃ。

 子供達の相手は、そう甘くないんだし。

 

 僕がバイトに復職してからすぐ、拓実くんと絵梨ちゃんがお帰りって言ってくれた。

 勝田さんからは、背伸びたねえって、まるで近所のおばさんみたいなこと言われたけど。

 子供達もあれから増えていて、新しく覚えなきゃなこともあるけど、楽しくやれているよ。

 海里はどうなるのかな。というか、どうするのかな。一緒に働けたら嬉しいけど。


 色々考えてるうちに、病院に着いた。

 僕が更衣室に行くと、麻生先生が話しかけてくれた。


「信次くん、久しぶりじゃのう」

「おはようございます。クリスマスパーティー以来ですね」

「聞いたぞ。異能で入院したり、大学に合格したりとか」

「今年は初っ端から色々ありましたね」

「大学生活もあるし、無理をしないようにじゃぞ」


 麻生先生はそう言って、更衣室を出て行った。

 更に明日はのばらの家に挨拶に行くんですよー。

 そう言えばスーツ買わなきゃだったのに、買ってなかったな。一気に背が伸びたから丈が短くなっちゃったんだよね。

 兄貴にスーツ借りなきゃ。ライム打っておこう。兄貴のスーツなら丁度いいよね。


 ライム打った後、僕は育児センターに向かった。

 遅番の人達が、子供達を預けに来ている。手伝わなきゃ。

 僕は子供達を誘導したり、子供達のお父さんとお母さんに挨拶したりして、てんやわんやになりながら仕事を進めた。

 この時間が、1番大変かもしれないね。


「時任くんおはよ。今日もりす組宜しくね」

「おはようございます、金田さん。頑張ります!」

「もう大分勘を取り戻したみたいだし、信頼してるよ」


 そう言えば、今勝田さん居ないなあ。海里の面接かな?

 海里のやつ、面接17時からって言ってたし。

 勝田さんが居ない時は、金田さんが僕に指示をくれる。

 金田さんもかなり頼りになる人だから安心だ。

 さーて、りす組の皆と遊ぶか。見守りしながら。


「お、しんじ、おせえぞ」

「しんじー、だっこしてえ」


 拓実くんは兎も角、絵梨ちゃんが抱っこして、って、珍しいな?

 何かあったのかな? 僕は、絵梨ちゃんを抱っこしながら聞いてみる。


「絵梨ちゃん、何かあったのかな?」

「さいきんママがたいちょうわるそうなのに、パパがなんかわらってるの。おかしいよね」

「え、ママの体調悪いのに、パパが笑ってたの?」

「うん、しかもママ、くすりものんでなかった。すごくきもちわるそうなのに」


 ははーん、どういう状況かは解ったけど、僕の口から絵梨ちゃんにそれを言うのは違うよなあ。

 確かにパパは笑うよね。嬉しいもんね。僕も同じ立場なら嬉しいもん。

 絵梨ちゃんのママ、妊娠してるんだね。

 つわりも激しいなら、仕事無理しなくていいのに、心配だね。

 絵梨ちゃんにはまだ、弟か妹が出来るって言ってないのかな?

 だから心配だけど、絵梨ちゃんが不安がる必要はないし、慰めたいのだけど、どうしたもんかなあ。


「大丈夫だよ。今、絵梨ちゃんのママは頑張ってるんだからね」

「そうだよね、ママがんばってるよね」

「だから、お手伝いをしたり、ママのこと、応援してあげようね」

「うん、えり、ママをたすける!」


 よし、後は絵梨ちゃんパパに一応ウラを取って、絵梨ちゃんが気にしてたことを教えてあげなきゃ。


「よかった、えり、やっとわらった」

「ずっと落ち込んでたの?」

「うん。でもくやしい。おれがわらわせたかった」


 解る。好きな子は自分で笑わせたいよね。

 拓実くんも男だなあ。なんか、微笑ましいや。


「おや、絵梨ちゃん寝てるな。布団敷かなきゃ」


 ずっと不安で眠れてなかったのかな?

 おやすみ、絵梨ちゃん。


 ◇


「えり、だいじょうぶだからな。すー」


 ふう、絵梨ちゃんが心配だから一緒に寝る、かあ。

 取り敢えず布団を隣同士に敷いたけど、2人とも寄り添って寝てるや。


「お、時任くんお疲れ!」

「勝田さん、お疲れ様です。もう帰りますよね?」

「うん、もうすぐ定時だしね。後、海里くん相変わらず良いね。私、ああいう素直な子好きだよ」

「海里は内定貰えますか?」

「私は推しといたけど、決めるのは院長だからね。それ次第かな?」


 勝田さんには気に入って貰えたみたいだね、海里。

 五十嵐院長には気に入って貰えたのかな?

 海里の内定はそれ次第かな。

 面接どうだったか、後で海里に聞いてみよ。


「じゃー、私は帰るね。解らないことあったら、金田さんに聞いてね」

「お疲れ様です!」


 とは言え、りす組さん皆寝ちゃったんだよな。

 昼間に勝田さん達と追いかけっことかして遊んだようで、皆疲れ切ったみたい。

 

「すみませーん、絵梨迎えに来ました」


 あ、絵梨ちゃんのお母さんだ。お父さんも一緒だ。今日は早番だったんだね。

 僕は絵梨ちゃんを抱っこして、お母さんとお父さんの元に連れて行く。

 

「お疲れ様です」

「よっこらしょ。絵梨も大きくなったな」


 絵梨ちゃんパパが、絵梨ちゃんを抱っこする。


「あの、もしかして絵梨ちゃんのお母さん、妊娠されてるんですか?」

「え、そうだけど、何で解ったの? まだ3ヶ月なのに」

「絵梨ちゃんが、ママ体調悪そうなのに、パパが笑ってるって。あと、気持ち悪そうなのに薬飲まなかった、って。絵梨ちゃん、心配してましたよ」

「そっか、絵梨、見てたんだね。心配させちゃったなあ」

「有難う、時任くん。今日、絵梨にも妊娠のこと話すよ」

「安心させてあげてくださいね」


 僕に軽く会釈して、絵梨ちゃんママとパパは帰っていった。

 今日勤務の相談もしたみたいで、しばらく絵梨ちゃんママは早番縛りで、つわりが落ち着くまでは内科部長の事務仕事を手伝うみたい。

 その方が安心だよね。いざとなった時病院も空いてるしね。

 絵梨ちゃんママも確か内科の看護師さんだから、亜美達も暫く大変だね。


「時任くんお疲れ、休憩行っといで。絵梨ちゃんのフォローありがとね」

「金田さん、お疲れ様です。力になれてるといいな」

「ああ、私のことは雪でいいよ。何気タメだしね」

「そうなんですね。飛び級試験を早めに受けられたんですか?」


 金田さん……雪は正社員だし、もう僕の指導も出来るくらいだから、かなり前から働いてるよね。


「ああ、私5歳からアメリカ行ってて、そっちで飛び級しまくったの。1年前に日本に帰って来たんだ。一応大学も卒業してるよ」

「うわあ、才女ですね。僕なんて、一年飛び級がやっとでしたもん」

「たまたまだよ。そうだ、ライム交換しとこ。私が時任くんの指導係になるからさ。あと、敬語も要らんよ」

「あ、僕も信次って呼んで。宜しくね」


 僕は雪とライムを交換して、休憩室に向かう。

 のばらと休憩時間合うといいんだけどな。

 休憩室に入ろうとすると。


「信次、良かったですわ。一緒のタイミングで」


 のばらが後ろから走ってやってきた。

 そんなのばらも可愛いな。


「僕も会いたかったよ、のばら」


 ああ、のばら生理近いし寂しいだろうから、抱きしめてあげたいのに、何で病院なんだろう。

 仕方がないので、のばらをポンポンした。


「むぅ、ドキドキするのですわ」

「休憩時間はずっと傍にいるからね、のばら」

「嬉しいのですわ」


 僕達は休憩室に入って、お弁当を食べ始める。

 のばらとこんな何気無い時間を過ごすのが、好きだなあ。のばら、美味しそうにお弁当食べてくれるし。


「のばら、お昼以降ずっと寂しかったんですけど、信次に会えたらホッとしましたわ」

「それなら良かった」


 のばらも生理近いもんね。明日の挨拶、無理しないといいんだけどな。

 ピル飲んでも、かなり怠そうにしてるからさ。

 おそらくのばらの甘えぶりを見てると、明日だろうなあ。

 そんなのばらも可愛いんだけどね。


「ごちそうさまですわ」

「僕もごちそうさま。さ、のばら。仮眠室行くよ?」

「信次と喋りたいですわ」

「凄く疲れた顔してるよ。大丈夫、傍にいるから」

「それなら、やぶさかではないですわ」


 こうでもしないと、やっぱりのばらは無理しようとするからね。

 のばらは2時間休憩みたいだから、最後までは一緒に居られないけれど、時間まではポンポンするからね。

 ふふ、僕の方を向いて眠るのばらが、愛し過ぎる。

 明日は僕が頑張るからね。おやすみ。愛してる。

信次「のばら見てると、癒されるんだよね。僕も」

のばら「むにゃむにゃ、信次、愛してますわ」

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