相変わらず理性の効かない私達
むにゃむにゃ。あれ、なんだか温かいな。
身体全体が包まれていて落ち着くな。
そっか。帰って来たんだね。
「お帰り、京平」
「ただいま、亜美。疲れた顔してるぞ、もうちょっと寝てな。側にいるから」
京平は優しく私を抱きしめてくれていた。
帰って来てから、ずっと抱きしめてくれていたのかな?
本当に優しいな、愛しいな。
「でも京平ご飯作らなきゃでしょ? 私も起きるよ」
「まだ18時だから、もうちょっとこうさせて。亜美を充電したくて」
あ、京平も疲れた顔してる。今日は診察の日だったもんね。
一緒に休もうね。京平。
私も優しく京平を抱きしめた。少しでも、京平を癒せますように。
「バカ亜美、眠たくなっちゃうよ」
「一緒に休も?」
「……少しだけだぞ?」
京平は私を抱きしめたまま、眠り始めた。
疲れてるんなら、初めから眠れば良かったのに。
それだけ私が心配だったのかな?
いつだって優しい。そんな京平に救われてるよ。
京平と眠れるの嬉しいな。寝顔も可愛い。
おやすみ、京平。
◇
「亜美、兄貴、起きて。ご飯出来たよ」
「むにゃ、おはよ。信次」
「あ、おはよ。ごめん、亜美と寝てたよ」
「兄貴も疲れてたでしょ。ご飯食べたら、早めに寝るんだよ」
どうやら私達がすやすや寝ている間に、信次がご飯を作ってくれたみたい。
今日は信次の合格祝いのパーティーなのに、ちょっと申し訳ないな。
同じことを京平も考えていたようで、お互い申し訳ない顔をしながら、食卓に向かう。
「おはよ、皆」
「信次、のばら、お父さん、おはよー」
「あら、おはようございますわ。のばら頑張りましたの!」
「じゃじゃん! 今日はのばらと、カツ丼と金平牛蒡作ったよ」
「おお、美味しそうだね!」
そっか、のばらと一緒に作ったんだね。最近よく一緒にご飯作るよね。仲良くて微笑ましいな。
私達は席に着いた。
「味噌汁は父さんが作ったぞ」
「深川先生、デザートも沢山あるからお楽しみにですわ」
「お、何かな?」
デザートは買って来たケーキと、のばらと作ったレモンパイと、私の作ったクッキーだよ。って、言いたいなあ。でも、びっくりさせたいもんね。我慢我慢。
「さ、食べよ! お腹減った」
「「「「「いただきます」」」」」
「カツ丼ジューシーで美味しいな。卵の半熟具合も素敵!」
「金平牛蒡も上手になったな。美味えよ」
「喜んでもらえて良かったね、のばら」
「嬉しいのですわ」
「お父さんのお味噌汁も、前よりも美味しいよ!」
「それなら良かった」
うん。すっごく美味しい。皆レベル上がってるんだなあ。
私もうかうかしてらんないぞ。もっと頑張らなきゃ。
「亜美は頑張りすぎ。今日、何か作ってくれたんだろ? 疲れが顔に出るくらいまで」
「にゃはは、デザートをのばらと作っただけだよ?」
「無理すんなよ。休みなのに15時くらいから寝てるって聞いて、心配したんだぞ」
「心配させてごめんね、京平」
京平、私のことが心配で見守っててくれたんだね。
私よりも疲れてただろうに。いつだって優しい。
私は嬉しくて、また泣いてしまった。
「おい亜美、泣くほどのことじゃないから」
「だって、嬉しくて」
「よしよし。でも俺、当たり前のことしかしてないからな?」
でも、泣きながらでもご飯を食べるのは、私らしいよね。うわあああん、美味しいよおお。
カツ丼も金平牛蒡もお味噌汁も、全部。
「うわああああん、ごちそうさま」
「亜美、泣きながら完食したよ」
「うわ、器用なことするね。亜美」
京平がポンポンし続けてくれたことと、美味しいご飯を食べていたから、涙はようやく治った。
私はようやく笑う。
「良かった。亜美が笑ってくれて」
あ、京平も笑ってくれた。京平の笑顔が、私を温めてくれたよ。ありがとね。
私は思わず、京平を抱きしめた。
「亜美、待って、止められんくなるよ」
「だって、抱きしめたかったんだもん」
「お風呂入ったあと、のんびりしような?」
京平、私を慰めてくれてたもん。本当に優しいんだもん。愛してるが止まらないよ。
今も私が食べ終わったからか、少し慌てて食べてくれている。
ゆっくりでいいのにな。
「京平、慌てなくていいよ?」
「亜美を待たせなくないだけ」
「京平の食べているとこ見るの、好きだよ」
「そう? じゃあ、普通に食べるよ」
「そうだよ兄貴、ちゃんと味わってよね」
「ごめんな。信次、のばらさん、お父さん」
京平が美味しそうに食べる姿も、私は幸せをもらえるんだ。
私はニマニマしながら京平を見つめていたんだけど、あれ? 京平、ちょっと照れてる?
そう言えば私が京平を見つめる機会って、あんま無かったなあ。
それでも見ていたかったから、見ていたんだけど。
「ごめん亜美、流石にちょっと照れる。ソファに座って待ってて」
「京平だって、よく見つめてくるのに!」
「されるのは、慣れてないの」
ぶー。納得は出来ないけど、京平がご飯食べられなくなるのも嫌だったから、私はソファに座る。
ふう、私の愛してるは重すぎるのかなあ。迷惑しか掛けてないじゃん。京平を幸せにしたいのにな。
自分自身が許せなくて、ちょっと落ち込んだ。
そして私は隠し事が出来ないので。
「亜美、落ち込ませるつもりじゃなかったんだ。ごめんな。ただ、ご飯食べたくて」
「私こそごめんね。京平が好き過ぎてしまうよ」
「それは嬉しいよ。ありがとな。すぐそっち行くから」
そうだね、私が落ち込んでる時、いつも1番に気付いてくれるのは京平だったね。
そんなとこも愛してるよ。
それより問題は私だよ。ご飯食べてる時くらい、なんで理性が効かないの。
好きが溢れに溢れて、どんな時も止めらんないよ。
これじゃ、完全なる獣だよ。バカバカバカ。
うう、また落ち込んじゃう。心配させるだけなのに。
「亜美、お待たせ。バカ、俺めっちゃ耐えてたんだからな? 亜美からだからな?」
京平は私を強く抱きしめて、何度も深いキスをする。
待って京平、皆居る前なのに!
でも、先に仕掛けたのは私なんだよなあ。こんなに我慢出来なくなってたの? 京平。
「そうだぞ、亜美のせいだぞ?」
「なんか兄貴と亜美、最近獣化がすごいな」
「父さん、気まずくなって来たぞ」
「大丈夫、正直皆気まずいから。兄貴のバカ」
「仲が良すぎですわ」
◇
私達は信次に勢い良く引っぺがされて、いよいよデザートの時間。
「獣は止めなきゃ」
本当にお互い理性が効かなくなっちゃったね。
でも、そんな私も愛してくれてありがとね。京平。
「ごめん亜美、歯止め効かなくて」
「私から抱きしめたもんね。ごめんね」
「もう、最近2人共獣過ぎるから、少しは人間らしくね?」
そう言いながら信次は、レモンパイとクッキーを持って来てくれた。
京平の目の前には、今日買って来たケーキも既に置かれてる。
「え、レモンパイとクッキーもあるの?」
「レモンパイはのばらと亜美で作りましたのよ」
「クッキーは、もさもさと1人で作ったよ」
「亜美が疲れていた理由はこれか。ありがとな」
「はい、コーヒー。少しは落ち着いてね」
私達はデザートを食べ始めた。うん、レモンパイもクッキーも美味しく出来たぞ。
京平のテンションもなんだか高いなあ。そうなの、その笑顔が見たかったんだ。
「レモンパイ美味しい! のばら、亜美、ありがとね」
「亜美、めちゃくちゃクッキー作ってくれてんじゃん。どれも美味しいよ」
「えへへ、喜んで貰えて良かった」
「嬉しいのですわ」
早々とクッキーを食べ終わった京平は、私の顔を覗き込んで、呟く。
「でも亜美、もう無理すんなよ。嬉しかったけど、亜美には笑ってて欲しいから」
「疲れちゃったけど、作ってる時は楽しかったよ」
「バレンタインの時もそう言ってたぞ」
「確かに。学習能力ないなあ、私」
喜んで欲しくて、ついつい張り切り過ぎるんだよな。
それですら、京平は心配なんだね。
「亜美、お風呂入ろ。まだ疲れた顔してるし、早めに寝よ」
「そういう京平もね。なんなら、眠そうじゃん」
「うん、お腹いっぱいになったし眠い。早く一緒に寝たい」
「お互いお風呂で寝ないようにしなきゃね」
獣だし、綺麗に身体を洗わないとね。
そんな訳で、2人でお風呂に入り始める。
「俺、マジで眠いから、寝そうになったら起こせよ」
「そう言いながらも、私の背中流してくれてありがとね」
だけどやっぱり眠いのか、段々動きが遅くなっていって、私の背中で京平の寝息が聞こえ始めた。
ありゃりゃ、寝ちゃったか。起こすの可哀想だし、寝ている間に身体を洗ってあげよ。
いつ見ても、綺麗な顔してるよなあ。守りたいなあ。
よし、お互いの身体も洗えたし、お湯を掛けて。
「むにゃ。亜美、起こせって言ったのに」
「まあまあ、後は髪を洗うだけだよ」
お湯を掛けたら、京平が起きたみたい。
髪も洗ってあげるからね。
「今日の風呂、亜美にやらせてばかりだな」
「たまには甘えてよ。私は嬉しいよ」
私は京平の髪を洗いながら、ヘッドマッサージもしてみる。
「いつもありがとな」
「肩も揉むね。うー、こってるなあ」
「あー。気持ち良いわ。また寝そう」
京平、前より肩が硬くなってる。今日は診察で座りっぱなしだったから、身体に負荷が掛かったのかな?
そうだよね、京平だってもう若くないもんね。
お風呂上がった後も、ゆったり寝て欲しいな。
私が京平の髪をお湯で流すと。
「亜美の髪洗うよ」
「無理しないでよ」
「大丈夫、俺が亜美にしてあげたいだけ」
疲れてるんだし、さっさとお風呂入って寝に行けばいいのに。
そんな京平だから、こんなに好きなんだろうな。
「亜美、髪伸びたなあ」
「うん、今伸ばしてるの」
「どんな亜美も可愛いよ」
「えへへ、ありがとね」
可愛いの一言も、京平から言われるのが1番嬉しいな。
京平の為に、もっと可愛くなりたいな。
「だから充分可愛いってば」
「髪の毛アレンジとかしてみたいし」
「結べるかな、俺」
「え、やってくれるの? ありがと」
「頑張って覚えるわ」
◇
「すー、すー」
「おやすみ、京平」
私達は着替えて布団に潜り込んだのだけど、京平は私を抱きしめて、すぐ寝てしまった。
かなり疲れていたのに、私を慰めてくれてありがとね。
私、いつだって京平に助けられてるよ。
これからも今日みたいに迷惑掛けちゃうかもだけど、ずっとずっと愛してるからね。
ずっとずっと傍にいるからね。
「亜美……」
どんな夢見てるんだろう。京平が幸せでありますように。
私はそっと京平に、キスをした。
亜美「京平が気持ち良く眠れますように」
作者「好きな人の寝顔って、ときめくよね」