愛してくれてる、ってこと。
「ううん、京平」
昨日散々まったりしたのに、京平が居ないことが寂しくて、目が覚めてしまった。
ちょっと早いけど、支度して病院行こうかな。
早く行けば、京平をチラ見出来るかもだし。
それに、信次の結果も気になるしね。
「おはよー! 信次、結果どうだった?」
「亜美おはよ。無事合格したよ」
「おはようございますわ。信次は頑張りましたわ」
「それなら良かったああ。あれ、お父さんは?」
「まだ買い物から帰ってこないんだよね。大丈夫かなあ?」
信次の話によると、昼12時くらいから買い物に出かけたらしいんだけど、まだ帰ってこないみたい。
今は15時半だから、確かに時間が掛かりすぎている。
「心配だから、様子見に行ってくるよ。のばら、亜美のご飯温めてあげて」
「かしこまりましたわ。いってらっしゃいまし」
「信次も気をつけてね。いってらっしゃい」
お父さんのことだから、信次の合格祝いに、色々買い出しているんだろうな。
信次はカツ丼が好きだから、いいお肉買って来そう。
後はおかずと称して、信次の好きな金平牛蒡とレモンパイを作れる材料とかかな?
そして京平が腕を振るうんだろうな。
私もレモンパイ作りたいな。
「はい、亜美。朝ご飯ですわ」
「のばらありがとね。うわあ、美味しそう。いただきます!」
今日はオムレツかあ。半熟卵が食欲をそそるね。
しっかり食べて遅番に備えなきゃね。
そう言えばのばら、今日凄く可愛いなあ。嬉しさが溢れてるって感じがして。
何かあったのかな? 信次の合格が嬉しかったのかな。
「のばら、なんか今日可愛いね。何かあったの?」
「べ、別に、な、何もなくて、よ。のばらはいつも可愛いですわ」
明らかに動揺してるけど、何があったかは教えてくれない。なんか寂しいな。
まあ、教える気がないなら、これ以上詮索は出来ないな。
可愛いのばらを見てるだけでも嬉しいしね。
「それより、月曜日楽しみですわ。美味しいお店に連れて行きますわね」
「久々に2人で遊べるもんね!」
「亜美と遊ぶのは楽しいのですわ。ワクワクですわ」
ずっと予定が合わなくて、ケーキ食べに行けなかったもんね。
2人で話したいこともあるし、沢山楽しみたいな。
そんな話をしていると。
「「ただいまー」」
「信次、お父さん、お帰り」
「おかえりなさいまし」
「聞いてよ、お父さんめちゃくちゃ買い物してきちゃってさ」
本当だ。信次もお父さんも、買い物袋を複数持ってる。
どんだけ買って来たんだろう?
「信次が合格したから、お祝いにと思って」
「もー、作るの僕達なんだからね?」
「料理なら教えてくれれば、父さんも作るぞ?」
「それはありがたいけどさ」
お父さんが料理を教われば、すぐにコツを掴みそうだよね。
お父さんと言えばお茶漬けだけど、めちゃくちゃ美味しいしね。
「ごちそうさまでした!」
私はご飯を食べ終わったので、食器を洗って支度を始めた。
「亜美、今日は早めに出ますの?」
「京平がチラ見出来たらいいな、って」
「会えるといいですわね」
「うん、めちゃくちゃ会いたい」
家族でも遅番の時は会えるタイミングがほとんどないからね。
明日は京平休みだから、全然会えないし。
少しでも会いたいし、話したいなって。
「あ、亜美、月曜日の夜、信次の合格祝いやるから、レモンパイ宜しくな」
「うん、りょっかい!」
月曜日は私とのばらも休みだし、ケーキ食べに行くのも午前中の予定だもんね。
私のことも考えてくれてありがとね、お父さん。
◇
「いってきまーす!」
「「「いってらっしゃーい」」」
よし、予定通り早めに出られたぞ。
京平にちょっとでも会えたらいいなあ。
寝不足だろうし、会えたらポンポンしてあげたいな。
いや、それは寝ちゃうか。流石に。
私は少し走って、足早に病院に辿り着いた。
そして、着替えもいつもよりちょっと早めにして、ナースステーションに向かう。
「おはようございます!」
「あら、時任さん早いわね。おはよう」
看護師長に挨拶をして、早速仕事に取り掛かる。
「ちょっと早いけど、仕事入れる?」
「はい、いけますよ」
「いやあ助かるわ。緊急外来のヘルプお願いね」
「かしこまりました! 誰に着くんですか?」
「17時までは深川で、その後は落合くんね。今日も混み合ってるからね」
おっしゃ。ちょっとだけど京平と一緒だ!
早く来た甲斐があったね。
私は足取り軽く、緊急外来まで向かった。
京平の担当してる部屋に入ると、既に友が、悪戦苦闘しながら検査に向き合っている。
「亜美、ヘルプ有難うございます。検査抗体、検査室にお願いします」
「うん、りょっかい」
やっぱり京平は少し眠そう。
それでも手を休めることなく、患者様に向き合ってる。
そんな真剣な京平も好きだな。
検査抗体を運んだ後は、友と一緒に検査をしまくった。
インフルエンザ、まだまだ猛威を振るってるなあ。
京平は結局残業して、診察を続けた。
蓮に交代するタイミングもなかったしね。
ただその甲斐もあり、19時になる頃には、患者様の数も減り、ようやく落ち着いた。
「亜美、日比野くん、ありがとな」
「深川先生、変わりますね」
後ろから蓮が、ひょこっと顔を出す。
ここからは、私と蓮で回していく。
「日比野くんと俺は帰るから、落合くんと亜美、後お願いね」
「深川先生お疲れ様です」
「と、亜美、ちょっと来て」
ん、何だろう? 私何かやらかした?!
私達は後ろで少し話す。
「まさかこの時間に亜美に会えると思わなかったけど、おかげで元気貰えたよ。ありがとな」
京平は私をポンポンする。
「少しでも話せて良かった。この後、話せないからさ。京平明日休みだもんね」
「朝にまた話そう。俺、早起きするし」
「ありがと。でも無理はしないでね?」
「俺が会いたいだけだよ。じゃあ、頑張ってな」
京平はまた私の頭をポンポンして、帰っていった。
早起きして良かったな。
私は少しニヤけながら、診察室に戻る。
「お帰り、亜美。顔、ニヤけてるぜ?」
「ふへへ、京平がポンポンしてくれたの」
「少しは隠せよ、亜美」
「亜美らしいですね。じゃあ、僕も帰りますね。2人とも頑張ってくださいね」
友はにこやかな笑顔を浮かべて、診察室を後にする。
「亜美、回していくから宜しくな」
「おっけ、任せて!」
◇
「蓮、亜美、おつおつ。休憩いっといで」
「お疲れ様です」
朱音と棚宮先生が、交代してくれた。
時刻は22時。結構ガッツリやったなあ。
「中々途切れなかったな」
「だね。休憩時間は寝とこうかな。ふわあ」
遅番で休憩時間がこんなに遅くなったのは初めてだったし、そもそも患者様もひっきりなしだったしで、私は疲れてしまった。
京平はもう寝てるかな。眠そうだったもんね。
「京平にライム返して、っと」
「最近亜美、ライムマメになったよな」
「京平と繋がれるのが、ライムだけってことも増えたからね」
「最近シフト合わねえもんな」
最近シフトが合わなすぎて、ライムでやり取りすることも増えたんだよね。
そのおかげで、皆へのライムも溜めずに済んでるという訳。
おっと、京平から返信が来た。「いま休憩か。結構長かったな。休憩時間に休んどけよ」だって。「うん。そうするよ。京平も眠そうだったし、早めに寝てね」って返した。
さてと、今日のお弁当はなーにかな?
うほ、胡麻唐揚げと、うずらのたまごと、人参と里芋の煮物と、かにさんウインナーと、卵焼きと、焼きビーフン。と、ハート型のふりかけ。
なんかいつもよりボリューミーだなあ。愛を感じるね。
「へへ、美味しいや。疲れた身体に染み渡るよ」
お弁当がいつもよりとても美味しくて、私は言葉にならなかった。
感極まった、って感じかなあ。その後は、無言でもぐもぐする。
そうしないと、嬉しさのあまり、泣いてしまいそうだったんだ。
でも、そんな感情はすぐにバレるもので。
「亜美、大丈夫か? 今にも泣きそうだぜ?」
「大丈夫。京平のお弁当が美味しすぎて、嬉しくて」
「そっか。嬉しかったんだな」
「うん、私の為に丁寧に作ってくれてて」
私がそういうと、何故か蓮は少し悲しそうな顔をする。
え、どうしたの? 蓮。
「蓮、どうしてそんなに悲しそうなの?」
「ん、好きな子が他の奴のこと、嬉しそうに話すからさ」
「え、そんなことがあったの? それは悲しいね」
すると蓮は、深いため息を吐いて。
「タバコ吸ってくる」
蓮は私の返事を待たずに、喫煙ルームに行く。
なんか変だなあ、今日の蓮。
それだけ、好きな人が自分に興味を持ってないことが辛かったのかな?
そりゃ辛いよね。私だったら、泣いちゃうもん。
京平からそんな話、聞いたことないもん。
「ごちそうさまでした」
お弁当食べ終わったし、アラーム掛けて寝ようっと。
夢の中で京平に会えたらいいな。
◇
むにゃむにゃ、なんか温かいなあ。
コートが掛かってるや。でも、このコート……でも、そんな訳ないよね。
そして、腕の温もりも愛おしくて。この温もりは。
もしかしなくても、そういうことだよね?
私は目を覚ます。
「おはよ、京平」
京平も私と一緒に寝ていたみたいで、声を掛けてもすやすやと眠り続けていた。
こんなに眠たいのに、会いに来てくれたんだね。
京平、私が心配だったのかな?
こんな夜遅くに、会いに来てくれてありがとね。
まだ時間もあるし、京平の腕で私も動けないし、もう少し寝てようっと。
愛してくれてありがとね。京平。
蓮「くそ、前より仲良くなってるぜ、入る隙がますますないぜ」
作者「蓮もがんばれよー」