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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
信次とのばら
180/238

合格発表(信次目線)

「ふう、亜美達はもう寝たんだね」

「お風呂上がって、すぐ寝るって言ってましたわ。お墓参りの疲れもあると思いますわ」


 お父さんが部屋に戻ったのと、ほぼ同タイミングで亜美達も寝たから、今、僕はのばらと2人きり。


 兄貴、帰ってきてから獣になったもんな。

 僕が部屋に入っても、亜美を離そうとしなかったし。

 それに、僕に文句まで。珍し過ぎる。

 食事の時も、ずっと亜美ばっかみてたし。

 お墓参りで何があったんだろう?

 今までが今までだったから、不思議な気持ち。


「すぐ寝ないんだろうな」

「信次、そういうこと言っちゃダメですわ」

「だって兄貴が明らかに獣化してるからさあ」

「深川先生も男ってことですわ」


 そうだよな、兄貴も男だし、耐え切れないことだってあるよね。

 僕も寸前までは経験ある、というか、もはや毎日だけど。

 のばらが可愛すぎて、毎日我慢の連続だもん。

 でも待てよ? 受験も終わったし、少しくらいはハメを外してもいいんじゃないのかな、僕。

 いやいやいや、まだ高校生なのに何考えてんだよ、バカ。

 この場合、何か言われるのはのばらなんだから。

 それに、のばら、したことないって言ってたから、大事にしたいしね。


「信次、何か考え事してまして?」

「いや、何でもないよ。やだな僕、手が止まってたよ」


 いけないいけない、勉強に集中しなきゃ。

 あれから葉流とも連絡を取り続けてるけど、葉流は自宅の医学書を片っ端から勉強しまくってるみたい。

 僕も兄貴から医学書を借りたりして頑張ってるけど、話を聴く限り、葉流には及ばない。

 せめて葉流に敵わなくても、医学部に入る前に、基礎だけは叩き込まなきゃ。

 と、集中してたんだけど。


「信次、明日は合格発表もありますわ。のばら達も早めに寝ましょ?」

「確かにそうだね。切りもついたし寝ようかな」


 明日は合格発表。ヘロヘロな体調で結果見るのも嫌だし、のばらの言う通り、早めに寝なきゃ。

 僕達は布団に潜り込んだ。


「ねえ、信次?」

「どうしたの? のばら」

「その……言うのが照れくさいですわ」


 いつも言いたいことはズバズバ言うのばらが珍しいな?

 僕はのばらを抱きしめた。ね、教えて?


「今日はハグでいいのですわ。明日は、期待して、良いのかしら?」


 のばらは照れながら、呟いてくれた。

 僕のバカ、何のばらに言わせてるんだよ。


「待たせてごめんね、のばら。明日合格したら、抱かせてね」

「ずっと待ってましたわ」


 そっか。のばらは待っててくれてたんだね。

 意気地なしで情けないなあ、僕。

 兄貴みたいに獣になりたくないけど、自制出来る気もしないし、どうなるんだろう?

 やっぱり僕も、獣になるのかな?


「のばら」

「なんですの?」

「獣になったらごめんね」

「どんと来いですわ」


 のばらは、獣になるかもしれない僕も、受け止めてくれた。

 初めてで怖いだろうに、本当にのばらはいい子だな。

 大切にするからね、のばら。

 僕がのばらを、ぼーっと見つめていると、のばらが不意打ちで、僕にキスしてきた。


「ちょ、のばら」

「寧ろのばらが獣かもしれませんわ」

「先にのばらがしたんだからね?」

「し、信次?」


 ダメだ、やっぱり僕も獣だ。

 のばらの艶かしいキスを味わったら、耐え切れなくなっちゃった。

 僕はのばらと深いキスを何度もして、抱きしめ合う。

 明日はどうなるんだろう。もっと耐え切れなくなるんだろうな。


 ◇


「んん。良く寝た」

「信次、おはようございますわ」

「のばら、休みなんだし寝てていいよ?」

「嫌ですわ。信次と過ごしたいんですの」

「いいけど、無理しないでね」


 のばら、いつも一緒に家事してくれるんだよな。

 疲れてるだろうにありがとね、のばら。

 僕達が起きてくると、兄貴がもうお弁当の準備をしていた。


「お、おはよ。信次、のばらさん」

「おはようございますわ」

「おはよ、兄貴。今日は早いね」

「亜美に、美味しいお弁当作ってあげたいしさ」

「てっきり亜美を離せなくて、寝坊するかと思ってたよ」


 すると兄貴は深い溜息を吐いて呟く。


「少しはコントロールしないと、だし。本当はもっと抱きしめたかったけど、亜美遅番だし、起こしたくなかったし」

「そっか。頑張ってるんだね」


 少しずつコントロール出来るようになると良いね。

 僕達は家事を始めた。兄貴はお弁当作り、僕は朝ご飯、のばらは洗濯物。

 各々家事をやって、我が家は回っていく。

 そんな朝の慌ただしさも、僕は結構好き。

 皆で協力して、朝を迎えられるもんね。


 よし、皆が美味しいって言ってくれる朝ご飯を作ろうっと。

 今日はオムレツにしようかな。中にチーズを入れて。

 コールスローとコーンスープと、林檎も添えて。

 うん、良い感じ良い感じ。

 オムレツも美味しそうに焼けてきた。


「お。今日はオムレツか。美味そう」

「もうすぐ出来るからね」


 よおし、出来た。後は食卓に並べて、っと。

 亜美とお父さんの分は冷蔵庫に入れて。

 これで僕の家事は完了。のばらは大丈夫かな?


「のばらー、洗濯物終わりそう?」

「もう終わりますわ」

「俺あとちょい掛かるから、2人とも先に食べてな」

「解ったー」


 そんな訳で、僕達は先にご飯を食べ始めた。

 8時くらいに合格発表が開始されるから、それまではのばらとのんびり過ごしてようかな。

 受験もあって、中々2人で過ごすことも出来なかったしね。

 何なら、デートに行くのもありかな。久しく行けてなかったもんね。

 その前に、僕が合格してなきゃだけど。ああ、緊張するなあ。

 のばらの家に挨拶に行くのも来週だし、落ちてたら格好付かないぞ、僕。


「よし、弁当完成。信次、緊張しすぎだぞ」


 お弁当を完成させた兄貴が、食卓に着く。


「そういう兄貴は眠れてないでしょ?」

「2時くらいに亜美とホットミルク飲んで、3時間は眠れたぞ」

「やっぱり眠れてないじゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」

「心配するさ、家族なんだから」

「そうだね、家族だもんね。ありがとね」


 心配してくれる家族がいるのは温かいよね。

 そんな家族の為にも、合格していたいな。


「信次、のばらもついていますわ」

「ありがとね、のばら」


 ◇


「いってきまーす」

「いってらっしゃい、兄貴」

「いってらっしゃいまし」


 さーて、合格発表まであと1時間半。ドキドキする。

 あ、葉流からライムが来てる。『信次、緊張するよお』だって。

 思えば葉流は、本命の受験の日体調を崩していたし、不安になるのも無理ないよね。


「信次、葉流くんとライムしてますの?」

「うん。お互い今日が本命の発表日だしね」

「東都大と京王は今日ですものね」

「葉流は既に東都北合格してるみたい。後、京戸も」

「沢山受けたのね、葉流くん」

「あいつ、心配症だしね」


 でも浪人の心配がないのは羨ましいな。僕ももうちょっと受けた方が良かったかな?

 そんな話をしていると。


「ちゅーす、信次。応援に来たぞ」

「海里、バイトあるんじゃなかったの?」

「昼からな。信次と居たかったから、時間ズラした」

「ありがとね、海里」

「落ちたら慰めてやるからな」

「ちょ、縁起でもないことを」


 とは言ったんだけど、海里のおかげで緊張もほぐれたよ。

 悔しいから、ありがとうとは言わないけどね。


「海里くん、何か飲みまして?」

「あ、コーヒーお願いするっす」

「信次もコーヒーで宜しくて?」

「うん。ありがとね、のばら」


 のばらがコーヒーを淹れてくれている間、僕と海里は話をする。


「そういや、信次に友達が出来たんだって?」

「うん。葉流って言うんだけど、亜美に似てて、会話が弾んだんだよね」

「亜美さんに似てるのかあ、亜美さんとなら17年の付き合いだし、そりゃ話しやすいよな。また紹介してな」

「うん、葉流も海里に会いたいって言ってたし」


 葉流にも海里のことは話していて、嘘が悪い意味でも付けない信用出来るやつとは伝えてある。

 海里の本音で付き合えるとこ、僕は好きだからさ。

 葉流は変なおべっかとかを、散々味わってきたみたいで、そんな海里に興味を持ってくれた。


「今度料理を教えることになってはいるんだよね」

「へえ、食いたいから俺もそれ参加しよっかな?」

「日付決まったら連絡するね」

「それ、のばらも参加したいですわ。はい、コーヒーですわ」

「ありがとね、のばら。前にそんなグループライム入れてくれたもんね。葉流も誘おうかな?」


 のばら達がお料理会を計画していたんだけど、兄貴を助ける為に異能を使ったら覚醒しちゃって、僕が入院しちゃったから、そのままお料理会、お流れになったんだよね。

 お流れになった後で、何故か僕もグループライムに誘われたけど、受験があったから、計画は立てられず。

 僕の受験も今日で終わるはずだから、また計画立てなきゃね。

 そうだ、またバイト入りますって、勝田さんにも連絡しなきゃ。


「のばら、いっぱい色んなもの作りたいですわ」

「カツ丼は一緒になら作れるようになったもんね」

「後は金平牛蒡(きんぴらごぼう)と、レモンパイと」

「僕の好きなものばかりじゃん、ありがとね」

「仲良いよなあ、信次とのばらさん」


 のばら、僕のことをいっぱい考えてくれてる。

 こそばゆいけど、やっぱり嬉しいな。


 ◇


「おはよう、信次、のばらさん。ああ、海里くんもいらっしゃい」

「おはよ、お父さん」

「おはようございますわ」

「ちゅーっす!」


 いよいよ合格発表の時間という頃合いに、お父さんが起きてきた。

 なんだかんだで心配させちゃってるよなあ。


「いよいよだな、信次」

「うん。あと1分。緊張してきた」


 合格発表は、飛び級試験と同じくネットで見れるんだけど、自分の受験番号を入力して、ストレートに合格、不合格を教えてくれるシステムだ。

 僕は今、東都大のホームページにアクセスする。


「あ、信次、時間ですわ」

「入力して、と」


 後はクリックする、だけ。はあ、緊張する。

 えい!


「のばら……!」


 僕は思わずのばらを抱きしめた。


「信次、まさか」

「合格、したよ」

「お、おめでとう信次!」

「良かった。良かったなあ。信次」


 僕は皆にくしゃくしゃにされながら、笑った。

 良かった。僕の夢に、一歩前進したよ。


「そういえば、自己採点は何点だったんですの?」

「600点中600点。でも、計算間違いとかもあるかもだし」

「何だよ、あんなに緊張してた割に点数余裕じゃん」

「本当だよ。それなら緊張する必要ないじゃないか」

「もっと早く聴くべきでしたわ」


 ん? そんなに安心して良かったんだ?

 とりあえず合格したなら、マークシート間違いもなさそうだし、首席は硬いかな。


「兄貴にも連絡しとこ」

「信次、京王も見とくのですわ」

「ああ、確かに。舞い上がって、忘れるとこだったよ」


 因みに京王も無事合格。こっちも自己採点満点だったしね。

 正式な結果は、合格通知書と一緒に、入学手続要項の入った手紙が速達で送られるようだ。


「東都大の手紙が来たら、すぐ入学手続きしなきゃ」


 僕が合格に舞い上がってる最中、


「信次、携帯鳴ってましてよ?」

「あ、葉流からだ。ちょっと部屋で、電話してくるね」


 僕は部屋に戻ると、葉流からの電話に出る。


「もしもし、葉流? どうしたの?」

「信次、僕、京王落ちちゃった……」

「やっぱり、体調不良で全力出し切れなかった感じ?」

「うん。度々気を失いながらも、頑張って受けたんだけど、自己採点も散々でさ」

「そっか。残念だったね……」


 あんなに努力してたのに、努力のしすぎで本命落ちちゃうなんて。


「信次は、東都、受かったの?」

「うん、無事合格したよ」

「それなら僕、東都に行こうかな。東都は合格したからさ」

「なんだ。それなら良かったじゃん。これからも宜しくね」

「信次がいてくれて良かった。ごめんね、こんな電話して」

「辛いこと、話してくれてありがとね」


 ここで葉流からの電話は終わった。

 葉流には悪いけど、葉流が同じ大学で心強いかも。

 付き合いこそ短いけど、信頼出来る友達がいるのは、安心出来るよ。

 僕は部屋を出て、のばら達の元に戻る。


「おかえりなさいまし。葉流くん、どうされましたの?」

「葉流、京王落ちちゃったんだって。で、東都行くみたい」

「信次ぼっち確定だったから良かったじゃん」

「うん、正直心強いや」


 僕は亜美とは違ってコミュ障ではないけど、この人って人じゃないと心を開かないから、友達はそんなに多くない。

 海里はそんな僕を心配してくれて、高校も一緒の高校を選んでくれたしね。


「信次の進路が無事決まって良かった」

「そういう海里も、早く就職先決めなよ?」

「事務系は避けよう。ってのは決めたんだけど、何がいいか、までは決まらないんだよなあ」


 僕の心配をしてくれるのは嬉しいんだけど、まずは自分だよ、海里。

 とはいえ、海里の性格は礼儀知らずとも取られかねないし、面接とか大丈夫なのかな?

 海里の、「どんなのがいい」が決まったら、一緒に面接練習しなきゃだな。


「ほら海里、バイトの時間まで一緒に求人みて、これっての見つけよ?」

「ありがとな、信次。自分のことなのに、中々決められなくて」

「のばらも探してみますわ」

「折角だから、私の会社のパンフレットも見てみるかい?」


 ◇


「信次達のおかげで、人と関われて、おべっか使わなくてよくて、身体を使う仕事ってとこまでは絞れたよ」

「夜勤は出来るんだね」

「うん。稼ぎたいし。たまには信次と遊びたいけど」


 僕達は昼ご飯を食べながらダベっていた。

 海里の就職活動の方向性が決まったのは喜ばしいね。

 海里が先に社会人になるのは確定だし、今までみたいには遊べなくなっちゃう。

 僕も大学で忙しくなるだろうし、こういった時間も貴重になっていくんだろうな。

 それが大人になる、ってことだね。


「ちょっと寂しいね」

「全く会えなくなる訳じゃないし、しんみりしたこというなよ?」

「そうなんだけどさ」

「まだ高校生活もあるし、遊べるうちに遊ぼ」


 思えば小さい頃から、ずっと海里と一緒だったけど、これからは別々の道を歩くんだよな。


「じゃ、俺帰るっす。信次ものばらさんも、信次のお父さんもありがとな。炒飯ごちそうさまでした」


 海里はバイトの時間が近くなったので、帰っていった。


「ふう、大人になるって辛いな」

「お互い遊べる時に遊ぶのも楽しいのですわ。のばらもやっと亜美と、ケーキ食べにいけますし」

「月曜日だったよね。亜美が中々予定合わせられなかったもんね」

「そうですの。ずっと楽しみにしてましたの。だから、凹む必要はなくてよ? 信次」

「そうだよね。ありがと、のばら」


 いつも僕を元気付けてくれるのはのばらだよね。


「ごちそうさま。さて、父さんは買い物行ってくるよ」

「いってらっしゃーい」

「いってらっしゃいまし」


 僕達は期せずして、2人きりになった。


「……のばら、部屋で過ごそうか」

「のばらもそうしたいですわ」


 2人きりなら、のんびりまったり出来るよね。

 僕は獣になるだろうけど、受け止めてね。のばら。

作者「そんなわけで、合格おめでとう。信次」

信次「ありがとね。大学生活も気合い入れて頑張るぞ」

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