コントロール不可
「「ただいまー」」
私達は電車を乗り継いで、家に帰って来た。
新幹線でも寝ていた京平だけど、寝不足と話し疲れと旅疲れから、電車でも爆睡し、今はうつらうつらとしながら、玄関に座る。
「京平、せめて布団に行こ?」
「だめ……だ。めちゃ眠い」
ああんもう、玄関で寝ちゃダメだってばあ。
「亜美、兄貴、お帰り」
「ああ、信次。京平運ぶの手伝って。玄関で寝ちゃって」
「兄貴、いつもお墓参りくらいなら、ケロっとして帰ってくるのに何かあったの?」
「京平、昨日眠れなかったみたいで。それと、色々大事な話をしたからかな」
「なるほどね。だから、満足そうな顔してんだね。いいよ、亜美。兄貴は僕が運ぶから」
信次はそう言うと、京平をおんぶして、部屋まで運んでいった。
信次も大きくなったなあ。もう京平を持ち上げられるんだね。
「そのまま寝かせて来た。あ、亜美。すぐご飯にするね」
「ありがとね、信次」
時刻は19時半。お父さんとのばらは、既にリビングで寛いでいた。
「おかえり、亜美」
「おかえりなさいまし、亜美」
「ただいま!」
「墓参りはどうだったか?」
「お墓参りだけじゃなくて、京平が育った養護施設にも立ち寄ったよ。あ、あとお土産!」
私は包まれた天むすスペシャルを、お父さんに渡す。
「おお、天むすかあ。名古屋の名物だもんな」
「ご飯食べたばかりだけど、美味しそうですわ」
「京平が起きた頃合いに食べようか、のばらさん」
「あ、それ良いですわね」
「僕もそうしようかな。はい、亜美。ご飯だよ」
信次がご飯を持って来てくれた。早く手を洗わなきゃ。
「手洗い、手洗いっと」
「なんか亜美嬉しそうだね。良いことあったのかな?」
「絶対京平絡みだろうな」
ふふふ、そうなのだ。
京平が普通に甘えてくれるようになったのが嬉しくてさ。
今までも甘えてくれてたけど、時たま遠慮したり、申し訳なさそうにしてたのが、今日の新幹線の帰りは、全面的に信頼してくれた気がして。
手を洗い終わった私は、ご飯を食べ始める。
今日はかぼちゃシチュー。温まるね。
「亜美はご飯にシチュー入れる派ですのね」
「え、美味しいじゃん。シチューご飯」
「のばらはパン派ですの」
「私は別々に食べる派だな。ご飯と」
「ああ、兄貴がやってたからだ。それで僕達慣れてるからさ」
そうだ、京平が初めてこの家に来てシチューを作った日、京平がご飯にシチュー掛けてて、それを私達も真似したんだよね。懐かしいなあ。
「結構京平に影響されてるな、私」
「一緒に暮らしてもうすぐ11年だし、そりゃ影響されるよ」
そうだよね、私の人生の大半を一緒に過ごしてるもんね。
知らず知らずのうちに、影響だって受けるよね。
「京平、出て行かないよな? 私がいるからって、変に気を使わないよな?」
「あ、それ京平も心配してたよ。追い出されたらどうしようって」
「追い出す訳ないよな、家族なんだし」
「だよね、私もそう伝えたよ」
「思えば、ちゃんと伝えられてなかったな。きちんと京平と話さなければ」
言わなきゃ解らないこともあるもんね。
「明日は信次の受験結果も出るな」
「自己採点では合格圏内だったけど、やっぱり緊張するな」
「明日はのばらがついてますわ!」
そうだ。色々ありすぎてすっかり忘れてたけど、明日は信次の合格発表だ。
信次、受験が終わってからは、医学書を中心に勉強をしているんだよな。
てことは、合格の自信はあるのかな?
残り少ない高校生活だから、少しは遊べばいいのにね。
合格してるといいなあ。
「ごちそうさま。京平が起きるまで、私も寝てるよ」
「無理に寝なくてもいいのに」
「ううん、京平の傍に居たいんだ」
「じゃあ、2人まとめて22時には起こしに行くね」
「ありがと。おやすみ」
私は京平の横で、ごろんと寝転がる。
京平はいびきをかきながら、気持ちよさそうに眠っていた。
心なしか、いつもより満足そうな顔してるみたい。
明日も仕事だけど、大丈夫かな?
京平が無理をしませんように。
私は京平を抱きしめて、頭をポンポンする。
色々あったもんね。ゆっくり眠ってね。
ふわあ、京平を抱きしめたら、私も眠くなって来たや。おやすみ。
◇
むにゃむにゃ、京平、愛してるよ。
起きれなくはないけど、ギリギリまで傍にいたいな。
頑張っている京平を愛してる。
泣いてる京平を愛してる。
優しい京平を愛してる。
全部の京平を愛してるから。
京平の腕に包まれて、凄く癒されてるよ、私。
ん? 包まれて?
私は目を覚ますと、いつの間にか私の身体は、京平の腕に包まれていた。
更に言葉を加えるなら、動けない。
京平はいつも優しく抱きしめてくれるから、全然抜け出せるのに、今日は抜け出せないや。ふんぬ。
いや、今だって優しいんだけど、離さねえぞって意思を感じるというか。
私達の関係性が、また1段階変わったみたいな感じ。
より大切にしてくれてるんだね。より欲してくれているんだね。
それなら素直に包まれていようかな。そう思った矢先。
「兄貴、亜美、そろそろ起きなよ」
「ううん。まだ眠いし、亜美を抱きしめたいんだけど」
「兄貴、ご飯とお風呂はちゃんと済ませなよ。亜美はその後抱きしめて」
「やだ、離したくない」
「起きろやああああ!」
信次は、私達の布団を勢い良くひっくり返して、強引に起こす。
至福の時間は終わりを迎えたのであった。
「信次の意地悪」
「意地悪じゃないの。夜中にお腹空いて困るのは兄貴だよ?」
「そうそう、お風呂も入らなきゃだしね」
「解ってるんだけどさあ」
京平、本当はこんなに我儘だったんだ?
てか、今まであれでも抑えていたんだ?
より重たくなった愛を噛み締めながら、私は京平の隣に座る。
「あ、兄貴、お土産ありがとね。今から食べるよ」
「おー。美味いぞ」
信次とお父さんとのばらは、お土産の天むすスペシャルを頬張り始める。
「うほ、この天むす美味しい!」
「海老天がプリプリですわ!」
「ああ、酒が飲みたい……!」
私はお腹いっぱいだし、コーヒーでも飲もうかな。
立ちあがろうとするんだけど。
「亜美は側に居て」
「コーヒー淹れるだけだよ。心配しないで」
「そっか。そうだよな。じゃあ、俺のも頼む」
「うん、りょっかい」
完全に、完全に愛が重くなってる。
ただ席を立とうとしただけなのに!
でも良く考えたら、京平もここまで人を愛したのは、きっと初めてだよね。
だとしたら、コントロールも付かなくなるよね。
少しずつ、治ってくれたらいいんだけどな。
事実、京平自身も、自分の発言にびっくりしてるみたいだし、ね。
私がコーヒーを淹れてる間も、京平の視線は私に向けられていた。
暫くは京平の愛を受け止めてあげなきゃね。
私だって、ずっと京平を見てたいくらい、愛してるもん。
と、コーヒーはラテにしよう。もう夜も遅いしね。
私はラテ……という名前の、コーヒーに牛乳をぶち込んだものを2つ作った。
「はい、京平」
「ありがと。それと、さっきはごめん。俺、こんなに独占欲強かったんだな」
「愛してくれるのは嬉しいよ。私も、出来ればずっと京平と居たいもん」
「亜美に前より惚れてるや。こんなにコントロール出来ないなんて」
「お互い、少しずつ寄り添っていこうね」
お互いのちょうどいいが、折り重なるといいな。
「ごちそうさま」
「京平、風呂入ったら、少し私と話そう」
京平がご飯を食べ終わった後、お父さんが徐に、京平に話しかける。
「いや、今でいいよ。どうしたの? お父さん」
京平は、お父さんの隣に座って話しかけた。
「京平は家族だからな。ちゃんと伝えられてなくてごめんな」
「ありがとう。実は追い出されやしないか、って、ちょい……いや、かなり不安だったんだ」
「不安にさせてごめんな。京平は私の息子同然だからな」
お父さんは、京平を抱きしめる。強い力で。
「お父さん、痛いよ。でも、ありがと」
京平の目元からは涙が流れていた。
そうだよね、怖かったよね。京平。
「僕も兄貴は必要だからね?」
「のばらも、ですわ」
「勿論、私もね」
「皆、ありがとな」
京平は大切な家族なんだからね。
◇
「京平、身体洗お?」
「んー、もうちょっと亜美を抱きしめていたいな」
京平は後ろからギュッと抱きしめて来て、中々離してくれない。
まだまだコントロールは上手く行かないようだね。まあいいや、私も嬉しいし。
でも、私も抱きしめたいんだけどなあ?
私は強引に振り返って、京平を抱きしめる。
「私も抱きしめたいんだからね?」
すると今度はいきなり深いキスをしてきた。
もしかして、背中から抱きしめてたのは、自制心が効かない恐れがあったから?
私は余計なことをしてしまったかもしれない。
まあ、いいや。キスも嬉しいし。
「ダメだ、全然自制出来ない」
「いいよ、沢山キスしよ」
私、京平の匂いも、そのままが1番好きだしね。
そのままの京平で、抱きしめてね。
私達は、ひたすらキスをして抱きしめ合った。
そして案の定、それだけじゃ満足出来なくなる。
ここでやっと身体を洗い始めた。
「したいの?」
「うん」
「えへへ、私も」
もしかしなくても、私もコントロールが出来なくなってるんじゃないかな?
お互い同じようなタイミングでそうなったから、京平が目立ってるだけで。
そうだね、京平疲れてるのにさ、したいだなんて、気遣いなさすぎ節操なさすぎだよ。バカ亜美。
私は我に返って、もう一度京平に聴いてみる。
「でも疲れてるでしょ?」
「ごめん。俺、我慢出来ねえわ。亜美は大丈夫?」
「私は、いいけど」
それならいっか。途中で寝ても怒るなよ、私。
京平は疲れてるんだから。
でも、お互いコントロールが出来ない同士、性欲に溺れるのも悪く無いよね。
こんな時期も、お互い楽しめたらいいよね。
作者「付き合ったばかりのカップルかよ、な感じですが、愛が深まったんですな」
亜美「これからも宜しくね、京平」