表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
君を知っていく。
176/238

本能(京平目線)

「ただいま」

「お父さんお帰り、買い物ありがとな」


 信次が寝付いてすぐ、お父さんが買い物から戻って来た。

 お父さんは信次を見るなり、ホッとして。

 

「そっか。緊張の糸をようやく切ってくれたのか」

「ずっと頑張りすぎてたからな、信次。それを知ってて、静観するしかなかったけど」

「頑張らなきゃいけない時期でもあったしな」

「結果は出てるはずだから、暫くはゆっくり休んで欲しいな」


 俺は、信次を布団に運んだ。お疲れ、信次。


「私も信次と寝ようかな。甘えさせてやりたい」

「ああ、俺の布団もってくよ。のばらさんが気にするだろうし」


 ずっと俺に弱音言うまで、1人で頑張って来たもんな。お父さんにいっぱい甘えろよ。

 信次は強がってるけど、お父さんに1番甘えたいのは解っているから。

 俺が布団を運ぶと、お父さんは信次を腕枕して、一緒に眠り始めた。


 今日は久々に勉強してたけど、身体が強張って来たし、ちょっと寝ようかな。

 流石に朝四時から起きてるから、眠たくなってきた。

 俺の布団はお父さんに貸してるから、亜美の布団を借りよっか。

 夕方にはのばらさんも帰ってくるし、寝過ぎないように。

 今日は何作ろうかな。亜美もお腹空かせて帰ってくるしな。

 夜ご飯を考えながら眠ろうかな。

 おやすみ。


 ◇


「深川先生、起きてくださいまし!」

「後少し寝かせて」


 うーん。のばらさんの声が聞こえる。

 でも、まだかなり眠たいから、もう少しだけ寝かせてね。

 起きたらご飯作るからさ。

 それにしても、こんなに眠いの久しぶりだな。

 ごめんね、のばらさん。


「むぅ、仕方ないのですわ」


 その後、眠気に負けて眠り直した俺は夢を見ていた。

 亜美と戯れる夢。お互いごろんと横になって、抱きしめ合ったり、キスしたり。

 なるべく早く起きなきゃいけないのに、そんな時に限って夢が幸せ過ぎるんだよな。

 そして、俺はかなり欲求不満らしい。

 こんな夢を見ちまうくらいだし。

 後少し、後少しだけ。もう少し、浸っていたいな。

 こんな獣でしかない俺は、亜美に愛される資格はあるのかな。

 少し自信を無くしかけたところで、夢の亜美が、もっとちょうだいって囁いてくる。

 そうだね、俺ももっと欲しいよ、亜美。


 ◇


「やべ、完全に寝過ごした!」


 後少しを、何度俺は繰り返したんだ。

 時刻は22時20分。のばらさんだけじゃなく、亜美も帰ってくる時間じゃないか。

 出前かなんか頼んでくれていればいいんだけど。

 俺は慌てて、リビングに向かう。


「ごめん、のばらさん。ご飯は食べたか?」

「あら、深川先生。随分お寝坊でしたのね。まあ、皆今起きたとこですわ」

「ただいま、京平。昼寝にしては長かったね」

「ごめんね、のばら。お父さんの腕枕が嬉しくてさ」

「私もすっかり寝入ってしまって」

「のばらもソファで寝てましたから大丈夫ですわ」


 俺は、お帰り亜美、と告げて、状況把握を行う。

 えと、俺は今起きて、信次とお父さんはさっき起きたとこで、のばらさんもさっき起きたとこで、亜美は帰って来たばかりで……。

 つまり亜美以外、皆寝てたのか。それなら。


「今日は、茶漬けでいっか」

「賛成、サラッと食べたいし」

「おお京平、浅漬けあるから使ってくれ」

「サッパリしてて良いのですわ」

「あったまるよね!」


 そうと決まれば、俺はお父さんの浅漬けを出して、お茶漬けをつくる。

 お茶は(たしな)みがあるから、と、のばらさんが淹れてくれた。

 ちょうどお父さんが明太子も買って来てくれたから、それも出そうかな。

 凄く簡単になっちゃって、申し訳ないな。

 でも、たまにはいいよな?


「ほい、お待たせ」

「「「「「いただきます」」」」」

「あち、そう言えば家族揃ってご飯も、久しぶりだな」

「シフト勤務だと中々一緒にならないのですわ」

「ね、中々合わないもんね」


 だからこそ、こういった時間が大切だし愛しくなるんだろうな。

 亜美との時間も大切にしたいししていくけど、家族との時間も大切にしたいな。

 やっぱり、この温かい空気がすきだからさ。


「京平も身体を休める意味で、たまには長期休暇を取ったらどうだ?」

「申し訳なさが勝っちゃって、素直に楽しめないからパスかな。働けない訳じゃないし」

「そっか。仕事が嫌いな訳じゃないもんな」

「うん、それより亜美とシフトが合う方が嬉しいし」


 信頼出来る人が近くにいると、やっぱり安心する。

 特に俺のようなタイプは、簡単に心を開かないもんだから。

 心を全開に出来るのは、なんだかんだで亜美だけだしな。

 でも、ここにいる人達には、かなり心は解放してるけど。頼れるし。


「最近シフト、また合わなくなってきたもんね」

「看護師長からもごめんねって言われたな。来年は沢山新人が入るといいんだけどな」


 五十嵐病院は評判の良さはあるのだけど、病院は星の数ほどあるし、五十嵐病院を第一候補に、って医学生や看護学校生も多くはないからな。

 都内には大きな青柳医院もあるし、千葉には老舗の山形病院もあるし、その他小さなクリニックで、評判の良いところも少なくない。


「でも、五十嵐病院、障害者を積極的に採用してるよね。私もそれを知ってたから、五十嵐病院にしたし」

「のばらもそんな採用活動に感銘を受けて、五十嵐病院にしましたわ。家から近かったのもありますけど」

「ほええ、俺は五十嵐病院しか受からなかったからな。双極性障害持ちは、大体のとこが顔色良くなかったよ」


 それプラス天然だから、就職活動は中々困難だったけど、面接練習をしたり、自分の持っているものを最大限にアピールして、今働けてるから本当に良かった。

 更には俺と働きたいって、麻生と愛さんも一緒に入社してくれたしな。


「障害じゃなくて、その人自身を見て欲しいのですわ。まあ五十嵐病院も、九久平(くぎゅうだいら)という悪い前例はありましたけど」

「そう言えば。顔見たくねえよ」


 あいつ、信次殴った上に、俺も殺そうとしてきたしな。逆恨みが酷過ぎる。

 それだけ、のばらさんのことが好きだったのかな?

 そんな性格じゃ、信次が居なくても、間違いなく選ばれないだろうけど。


「なんにせよ、亜美と深川先生に会えて良かったですわ。亜美に会わなかったら、信次にも会えてませんもの」

「そう思うと不思議な縁だよね、僕達」

「そういう縁も、大切にしていきたいな。皆大事だもん」


 そうだな、って俺は笑う。思えば、亜美が五十嵐病院に入院しなければ、家族になることもなかったもんな。

 亜美と信次に会えてなかったら、俺は自分に負けて、死んでいたかもしれない。

 2人を育てたかったから、2人に支えられたから、2人が助けてくれてるから、俺はここまで生き残れたよ。

 これからも生きていたいって、思えてるよ。

 2人だけじゃない。沢山の人に支えられたから、今があるんだ。


「亜美、信次、お父さん、のばらさん、出会ってくれてありがとな」


 ◇


 お風呂上がり、少し亜美と話しながら布団に入る。


「私も京平に出会えて良かったな」

「俺は何も出来てねえよ」

「居てくれるだけでいいんだよ」


 俺の落ち込んだ台詞に、いつだって亜美は、そんなことないよって肯定してくれる。

 ネガティブでごめんな、亜美。これでもマシになった方なんだ。


「ありがとな。そう言えば今日夢見てさ、亜美と抱きしめ合ったり、キスしたりで。夢の中の俺、獣でしかなくて」

「え、普段からそうしてよ。意地悪」

「いいのかよ。歯止め効かなくなるぞ?」

「お互い幸せになりたいもん。それに私、明日は遅番だよ」


 もう、俺の彼女可愛すぎかよ。愛しいが止めどなく溢れ出る。


 歯止めを無くした俺は、亜美を抱きしめて、何度もキスをした。

 色々なところにキスをして、感じ合って、愛しみ合って。

 こうして俺達は一つになって、また感じ合って。

 俺は本能のまま、亜美と向き合う。

 亜美、愛しいよ。ずっと一緒に居てほしいな。


「京平、愛してる」


 艶かしい亜美の顔を見て、また俺はキスをするのであった。


「夢より激しいや」

「もっとおいで?」

「言われなくても」


 俺は亜美へ口付けをする。世界で1番愛しいから。

 今日の夜は、愛しさが鎮まることなく燃え上がる。

京平「亜美には、素直な自分をぶつけられるようになってきたな」

亜美「これからもら宜しくね、京平」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ