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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
君を知っていく。
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バレンタインが終わる

「ふわあ。悪りい亜美、ちょっと疲れたから寝るわ。おやすみ」

「おやすみ、京平」


 京平はアラームを掛けると、すやすや眠り始めた。

 私は膝掛けを京平に掛けて、頭をポンポンする。

 診察の時、京平は過集中して診察を行っている。

 つまり身体には、かなりの負荷が掛かっているんだ。

 そうしないと診察が出来ないって京平は言うけど、本音を言えばあまり無理はして欲しくないな。

 でも、診察をするのは京平だし、私に出来るのは、京平に気持ち良く寝てもらうくらいだから。


「深川先生って、良く寝るよな」

「過集中して、診察してるんだって。じゃないとミスするみたいで」

「確かに深川先生って、天才だけど天然だもんね」

「ああ、この前盛大にずっこけてたしな」

「もー、京平またやらかしたのか」


 私が居る時は助けられるんだけど、居ない時はやっぱり盛大にやらかしてるんだなあ。

 この後、京平1人になるけど大丈夫かなあ?


 ◇


 もうそろそろ休憩時間も終わるな。

 京平を残して行かなきゃなのは辛いけど、私も京平もいい大人なんだし、我慢我慢。


「京平、そろそろ行くね。ゆっくり休んでね」


 私は軽く京平に声をかけて、休憩室を後にした。

 ロッカーにお弁当箱を置いて緊急外来に向かうと、緊急外来は、かなり混み合っていた。

 京平が診察後に眠ってしまう訳だよね。


「友、お疲れ様!」

「ああ、亜美に蓮、今もまだ混み合ってますから、宜しくお願いします」

「じゃあ、私達は休憩に行くよ。落合くん、時任さん、宜しくね」


 鈴木先生と友から引き継ぎを受けた私達は、早速診察を開始する。

 隣では麻生先生が入ってくれてるから、いざという時も安心だね。

 手術が終わった後、すぐに緊急外来に入ってくれたみたい。

 正直緊急外来は、麻生先生が回してるようなものだよな。

 蓮を始めとした若い医師が成長していかなきゃだね。勿論、私も。


 緊急外来は、やはり先週と同じようにインフルエンザやコロナウイルスの方々が多くいらっしゃり、私は検査をして、蓮をサポートする。

 検査した抗体を検査室に回して、を繰り返す感じだね。

 まだまだ寒いし、私も気をつけなきゃ。

 

「亜美、俺余裕あるし、検査も俺がやるよ。亜美は抗体だけ検査室に持ってって」

「え? 全然大丈夫だよ?」

「亜美、糖尿病だから風邪とか引きやすいだろ。少しでもうつらないようにさ」

「蓮、私も看護師だよ。ちゃんと患者様に関わりたいよ」

「そっか。インフルとかうつらないようにな」


 心配してくれるのは嬉しいけど、私も看護師だもん。

 患者様と向き合わなきゃ。

 そう言えば京平にも、私が内科に配属された時はかなり心配されたな。

 風邪うつりやすいのに、風邪とモロにぶつかる内科だもんね。

 心配されないように、今年こそは風邪ひかないぞ。


「ま、亜美が風邪ひいても、俺が看病するけどな」

「お、ありがとね」


 あー、これ京平が聴いたら、嫉妬するだろうな。

 俺が看病する! って。


 ◇


「お疲れ、亜美」

「蓮もお疲れ様」


 ふー、19時までひっきりなしだったな。

 うちの病院の評判を聞きつけて来る患者様もいらっしゃるから、ありがたい話なんだけどね。


「亜美、こっからはのばらに任せて」

「あ、のばら!」

「診察は棚宮が担当します」

「あれ、棚宮って確か……」

「はい、病院の厨房でご飯を作っている棚宮光三郎は、僕の父です。父の眼鏡に合う内科医がいると聞きつけて、僕も今月からこちらでお世話になってます」


 あの棚宮のジジイのご子息様かあ。


「初めまして。時任亜美です」

「落合蓮です。棚宮先生は、確か外科でしたよね?」

「はい、前の病院だと、内科医の誤診が多くて苦労してたんですよ。ここはそれもないので快適です」


 そんな話をしながら、緊急外来を棚宮先生とのばらにバトンタッチして、私達は帰り支度を始める。

 更衣室に向かう最中、蓮が語り始めた。


「因みに俺、好きな人いるよ」

「ほええ、やっぱ居たのか! どんな人なの?」

「風邪ひきやすい癖に内科で誰よりも頑張ってて、お菓子作りも上手くて、前向きで、笑顔が誰よりも可愛い人」

「え、それ誰?」

「内緒。自分で考えな。お疲れ」


 蓮はニヤりとして、更衣室に入っていった。

 にしても、蓮、好きな人いたのかあ。

 しかも、同じ内科かあ。でも、誰だか解んないや。

 後で友にも聞いてみようかな。

 来年は好きな人から、本命チョコ貰えたらいいのにね。

 おっと、友と待ち合わせしてるし、早く着替えなきゃ。

 

 私は慌てて着替えて、友の待つ休憩室に向かう。


「亜美、お疲れ様」

「友もお疲れ様」

「今日は緊急外来混み合ってましたよね」

「うん、夜になっても変わりなかったよ」


 よく考えたら、友と2人きりって久々だな。

 友はもう大丈夫だよね? 応えられないからって、傷付けちゃってごめんね。

 でも、友には嘘を吐きたくなかったんだ。


「はい、友チョコだよ」

「ありがとうございます。しばらくお菓子には困らなそうです」


 友は大きな紙袋に、沢山チョコレートを入れていた。

 その紙袋に、友は私のチョコも入れる。


「友、めちゃくちゃ貰ったね」

「これでも本命は断ったんですけどね」

「ああ、好きじゃないと受け取れないよね」

「好き以前に、ほとんど話してない人も多かったですしね。話しかけてくれたらいいのに」


 それは緊張して話せないだけだとは思うけど、確かに話せてない人と、お付き合いは出来ないよね。


「亜美を好きになったみたいな気持ちに、またなれたらいいんですけどね」

「私も応援してるね」

「ふふ、ありがとうございます」


 でも、またこんなふうに普通に話せるようになって良かった。

 

「そういえば、蓮ね、好きな子いるんだって」

「ああ、ずっと前からいますよね。見ていれば解るというか」

「風邪ひきやすい癖に内科で誰よりも頑張ってて、お菓子作りも上手くて、前向きで、笑顔が誰よりも可愛い人って言ってたよ。誰だか解らないんだけど、友は解る?」

「多分亜美以外はそのヒントで、充分解ると思いますよ」

「え、私がおバカなだけかあ。失礼な」

「おバカじゃないですよ。激鈍なだけです」


 どっちにしろ失礼な言葉だな、私はむきー! としてみる。


「あはは、相変わらずですね」


 そうだ。総合看護師になることを聞いてみるか。


「友、来月からもう総合看護師の研修入るんだよね」

「そうなんです。来月から外科に行きます。亜美達と離れるの初めてだから、寂しくなりますね」

「友は仕事丁寧だし、大丈夫だよ。頑張ってね」

「ありがとうございます」


 友とは看護学校時代からずっと一緒だったから、なんだか寂しくなるね。

 色々あったけど、大切な友達だから。


「亜美はその激鈍が、少しでも治るといいですね」

「ぶー!」

「いやあ、私も苦労しましたからね」

「え、あの告白の前に、アプローチしてたの?」

「はい、沢山したんですよ?」


 いやあ、全然気付かなかったや。しかも沢山してたんだ?

 そんなんだから、激鈍言われてるんだよな。

 

「これから色々あるとは思いますが、亜美は亜美らしく、ですよ」

「うん、私は私らしく行くよ」

「じゃあ、帰りましょっか」


 良かった。久々に2人きりで話したけど、友は友だったな。

 いつも通り、優しいな。激鈍言われまくったけども。


 私達は途中まで一緒に歩いて、お互いの話をした。

 実は私に振られたばかりの頃は、何もかもが自暴自棄になってしまって、眠れない上にご飯も食べられなかったこととか。

 眠れるようになったキッカケが、京平だったこととか。

 蓮のお母さんのおかげで、最近はご飯が沢山食べられるようになったこととか、話しかけてくれる人が増えたこととか。

 後、今は私と普通に話せるようになったことも、遠回しに。

 こんな踏み入った話も、やっと出来るようになったね。

 友はこれからも、友らしく生きていってね。


「じゃあ、私はこっちですので。お疲れ様です」

「お疲れ、友」


 そして、私はそのまま家に帰る。

 地味に話し込んじゃったから、遅くなっちゃったなあ。

 遅くなる旨は連絡済みだけど。


「ただいまー!」

「亜美、お帰り」

「お帰りなさーい」

「お帰り、亜美。寒かっただろ」


 京平が駆け足でやってきた。

 そんな徒歩5分の道則で、寒さを感じることはないんだけどな。

 でも、甘えたかったから、京平をギュッと抱きしめた。ふう、温かい。


「うん。ちょっと寒かった」

「すぐ飯にしような。手を洗っておいで」


 私は手を洗って、食卓に着いた。皆、私を待ってくれてたみたい。

 どんな時も、家族は温かいや。


「「「「いただきます」」」」

「あ、ご飯食べ終わったら、信次とお父さんにチョコ渡すね」

「今年もありがとね、亜美」

「亜美のチョコ、毎年楽しみにしてるからな。今年も楽しみだよ」

「で、兄貴はもう食べたの?」

「おう、見せびらかしてきた」


 私の「京平愛してるよ」は、めちゃくちゃ見せびらかされたもんな。

 蓮には凝視されたし、すごく恥ずかしかったよ。

 でも、京平に彼女がいるってアピールにはなったかな?

 京平、イケメンだし優しいし、ちょっと天然で変人だけど、絶対モテるもんね。


「いや、兄貴はかなり変人で天然な気が……」

「そう言えば信次、受験どうだった?」

「確認もしっかり出来たし、解らない問題もなかったし、個人的には手応えあるよ」

「それなら良かった。明日も頑張ってね」

「うん。今日もトンカツだしね」


 昨日がカツ丼で今日はトンカツ。

 どっちも信次のリクエスト。信次、本当にカツ系好きだよなあ。

 ずっと信次は勉強漬けだったから、その頑張りが報われるといいな。

 それだけじゃなくて、家事もしてくれてるし。

 我が弟ながら、全てに置いて努力してるから、良い結果になるといいな。

 28日は、のばらの両親との挨拶もあるしね。

 私だけ仕事で行けないけど、仕事終わったら同期で飲み会があるもん。めげないぞ。トンカツ美味しいし。


「ごちそうさま。亜美、チョコちょーだい」

「あ、私もご飯食べ終わったぞ」

「すぐ持って来るね」


 私は冷蔵庫からチョコを取り出して、コーヒーを淹れ始めた。

 甘いものにはコーヒーがピッタリだしね。


「亜美、手伝うよ」

「ありがとね、京平。これ、信次に持ってって」

「はいよ。後、コーヒー、俺の分もよろしく」

「りょっかい」


 でも京平、もう私のチョコ食べちゃったし、コーヒーのあてがないよなあ。

 と、思っていたら、京平は大きな紙袋を持って来た。


「昨日、今日で義理チョコ結構貰ってさ」

「やっぱり貰っていたのか」

「人望は厚いほうだからね、俺」


 もー、彼氏がモテるのって、こっちとしてはちょっと辛いんですけど!

 でも、義理チョコだもんね。嫉妬しちゃダメだぞ、私。


「亜美、そんな膨れないの。亜美以上の人は居ないから」

「膨れてないもん!」

「どの口が言ってるのかな?」

「痛い痛い、ほっぺ引っ張らないでよ」


 ぶー、京平には嘘吐けないや。うう、ほっぺ痛いよお。


「それに、亜美のチョコが1番美味しいからさ」


 京平は、お父さんのチョコとコーヒーを運びながら呟く。


「まだ義理チョコ食べてないのに?」

「惚れてる人から貰うチョコが、1番美味いよ」


 確かにそうだね。私も、京平のお弁当とご飯が1番好き。だって、愛してるもん。


「はい、京平のコーヒー」

「ありがとな」


 こうして男性陣は、各々チョコを食べて過ごすのであった。


「信次、亜美にクッキーリクエストしたのか。しまった、その手があったか」

「兄貴クッキー好きだもんね。また亜美に作って貰いなよ」

「うん、沢山焼いてもらうよ」

「今度の休みに焼くからね」

「お父さんもちょっと欲しいぞ」

「うん、お父さんの分も焼くね」

「あ、僕もー!」


 付き合う前に一度焼いたけど、それきり焼いてなかったもんね。

 あれから、沢山の思い出も増えたし、色んなクッキー、いっぱい焼こうっと。


「うん、皆の分も美味しく焼くね」


 私はコーヒーを啜りながら、笑って応えた。


 ◇


 その後、私と京平は軽く10キロ走って、また京平に追いつけないって悔しがって。

 走り終わった後は、手を繋いで歩いて帰る。

 

「亜美も大分走れるようになったな」

「出来れば京平と併走したいんだけどね」

「俺速いし、そもそも男女差もあるから難しいだろ」

「それもそっか。1秒でも長く一緒に居たいんだけどな」


 すると京平は笑って、私を抱きしめた。


「ちょ、京平?」

「亜美がそう言うなら、俺の時間を全部亜美にあげる。なんて、重いかな?」

「だめ。京平だけの時間も大切だよ。でも、少しは構ってね」


 私がそう言うと、京平はもっと強く抱きしめる。


「時間が許す限り、亜美に使いたいよ。心はずっと傍にいるから」

「ありがとね、京平。愛してるよ」


 星空の下、私達は深いキスをする。

 お互いの想いが抑えきれなかったから。

 愛しくて愛しくて、仕方なかった。


 ◇


 私達が帰宅すると、中番を終えたのばらも帰って来ていた。


「あら、亜美と深川先生、お疲れ様ですわ」

「お帰り、亜美、兄貴」

「お帰りのばら。お疲れ様」

「のばらさんお帰り」


 のばらは今ご飯を食べてるとこみたい。

 

「亜美、チョコくださいな!」

「今からお風呂入るから、お風呂上がりに渡すね。のばらのもちょうだいよ?」

「勿論ですわ」

「のばらのマフィン、すごく美味しかったよ」

「あ、信次もう食べたんだ?」

「朝に渡してくれたんだ。受験の力になったよ」


 お昼ご飯に食べたのかな?

 のばら、信次の力になって良かったね。


 その後、私と京平はお風呂に入って、仲良く身体を洗いっこしたり、抱きしめ合ったりした。

 お互いがお互いを求め合って、もっと欲しくなったり。

 次第に私達は、キスをし始める。最近2人きりになると、こんな感じだな。

 言葉なんて要らなかった。愛されてることを、私はいつも感じている。

 京平も感じてくれてるかな?


「亜美、ずっと傍にいろよ」

「京平も、ずっと傍にいてね」


 こんなに大切で愛しい人に出会えて良かった。


 ◇


「はあはあ、のぼせた……」

「盛り上がりすぎちゃったね」


 もはやこれも、いつものことになりつつあるよ。

 最近はのばらも、京平の上半身裸に慣れつつあるし、タオルを巻いとけば大丈夫だね。本来は大丈夫じゃないけど。

 私は急いで着替えて、京平を部屋に連れて行く。

 

「あらあら、深川先生またのぼせましたのね」

「ちょっと部屋で休んでるよ」

「あ、のばら。チョコは冷蔵庫の2段目にあるから、持ってってね」

「有難うございますわ。亜美と深川先生へのチョコは、名前書いときますわ。明日食べてくださいまし」


 こういう時、いつも京平優先で申し訳ないなあ。

 私は京平を寝かせて、京平が出してくれたうさぎの団扇で京平を扇ぐ。

 

「あー、涼しい」

「私もしたいからしちゃったけど、お風呂で抱きしめ合ったりキスしたりは、控えた方がいいんじゃあ?」

「嫌だ。亜美と2人きりになったら、色々したいもん」

「それでのぼせてたら、意味ないじゃん」


 しょうがない京平だなあ。まあ、私も抑えられなかったんだけど、ね。


「ありがと、楽になったよ」

「どういたしまして」

「ねえ、ちょっと、いいかな?」

「明日早いよ?」

「ちょっとだけ」

「敵わないなあ、いいよ」


 こうして、私達はまったりする。

 明日も早いと言うのに、気持ちが抑えきれないや。

 お互いを抱きしめ合ったり、キスしたり、京平を感じたり、私を感じて貰ったり。

 お互いに満たされた私達は、優しい気持ちでそのままぐっすり眠る。

 愛してるよ、京平。おやすみ。

京平「また、休みの時に、ね」

亜美「しょうがないなあ。素敵なバレンタインになって良かったな」


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