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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
君を知っていく。
171/238

バレンタイン前日

「おいで、亜美」

「よっこらしょ、っと」


 私達はパジャマに着替えて、リビングでのんびりしてた。

 私は、京平が作ってくれたホットミルクを持って、京平の隣に座る。

 京平は、私の右肩を抱えてくれて、優しく語り掛けてくれた。


「眠たくなるまで、話そうな」

「うん、ありがとね」


 私はホットミルクを飲みながら、話を始める。


「今日も楽しかったね。明日はお互い早番だから、過ごせる時間も多いしね」

「そうだな。今日も一緒に眠れるし」

「こういう時間を大切にしなきゃね」


 お互い医療従事者で、勤務が合わないのは当たり前だから、合う時はその時間を大切にしていきたい。

 うちの病院では、希望休とかも割りかし通してくれているけど、それだって患者様次第で変わる可能性だってあるのだし。

 京平から休みを取るように言われた20日も、たまたまのばらがその日休みだったから、休みを変わって貰えたとはいえ、そう上手くいかないこともあるもんね。本当に運が良かったよ。


「京平も眠たかったら、先に寝てて良いんだからね?」

「や、俺、亜美の寝息を聞かないと、最近眠れないんだよ。睡眠薬もそんなに効かないから、また相談しないとなんだけど」

「え、じゃあ私が遅番の時とか、眠れてないの?」

「あまりに眠れない時は、たまにお父さんと寝てたりしてた」


 お父さんに甘える京平も、それはそれで可愛いな。

 そっか。なら、早めに寝るようにしないとだなあ。

 とは言え、私、お昼寝しちゃうと、夜眠れなくなることがあるからなあ。まさに今日がそれだし。

 それなら。


「ねえ、京平。眠たくなるように、頭ポンポンして」

「ん、いいよ。頼ってくれてありがとな」


 京平は優しく、私の頭をポンポンし続けてくれる。

 京平のポンポンで、昔から良く寝かせてもらってたんだよね。

 京平の優しい手の温もりが、私の心と身体を温めてくれるんだ。


「すー、すー」

「おやすみ。亜美」


 京平の優しい両手が、私を布団まで運んでくれた。


 ◇


 月日は流れて、今日はバレンタインデー前日。

 準備もしたかったから早起きして、京平と信次とお父さんのお弁当を作ったよ。

 今日は1日家にいる予定だけど、バレンタインのチョコ作りで忙しくなるからね。

 のばらと私の昼ご飯は、作ったチョコレートになる予定だし。

 ちゃんと試食しないとだしね。


「亜美、休みなのに弁当ありがとな」

「京平が出かけたら、すぐチョコレート作りたかったしね」

「今年はいつもより多いもんね」

「のばらも作るのですわ」

「じゃあ、私はキッチンをこっそりと」

「お父さんも今日は、部屋で仕事してね?」

「意地悪だなあ」


 お父さんってば、楽しみが半減しちゃうじゃん。

 渡すのはそもそも明日なんだしさ。

 今日、京平は仕事で、信次は部屋に籠って受験勉強、お父さんは強制的に部屋に閉じ込める、と。


「でも、僕の部屋にも甘い匂いは漂うだろうから、食べたくなっちゃうよ」

「明日のお楽しみだからね」

「チョコレートを楽しみに、明日の受験頑張るよ」

「のばらの分作り終わったら、すぐ部屋に行きますわね。勉強見ますわ」


 そう、明日はバレンタインでもあるけど、信次の東都大受験の日でもある。

 のばらは、それで休みを取っていたのだ。

 願書を出して1週間、いやそもそも小学生の時から、寝る間も惜しんで勉強していたしね。無事合格して欲しいな。


「どっちも合格したら、どっちにするんだ?」

「んー、でも京王は私立だからお金も掛かるし、僕は今までずっと東都大を目指してたから東都大かな」


 そうだね。ずっと東都大を意識して勉強してたもんね。

 8割方は京平への憧れからだったんだろうけど。


「どっちもかなり偏差値高いけど、信次の学力は心配してないし、首席合格目指せよ」

「うん。勿論!」

「俺、麻生に負けたからなあ」

「え、兄貴が勉強で?」

「いや、2人とも満点で、麻生にじゃんけん負けてさ」


 ほええ、麻生先生も頭良いんだなあ。

 京平、じゃんけん昔から弱いもんね。運が悪いんだろうね。


「それで新入生代表挨拶は、麻生になったんだよな」

「まだ知り合う前だけど、京平の大学の入学式見たかったなあ」

「ああ、夜に写真見せるよ」

「本当? ありがとね」


 京平は15歳で大学に入学してるから、まだ見た目は可愛いんだろうなあ。

 いやでも、イケメンだし、もう出来上がってる説もあるなあ。

 若い頃の京平の写真、見たことないから楽しみだな。

 写真って、麻生先生や愛先生のもあるのかな?

 2人の写真も見れたらいいなあ。


「ごちそうさま」

「私もごちそうさま」

「じゃ、2人で歯を磨こうか」

「そうだね」


 ◇


「それじゃ、行って来ます」

「「「「いってらっしゃい」」」」


 京平が病院に出かけて行った。それと同時に、信次とお父さんも部屋に戻って行く。

 

「あ、コーヒーメーカーと湯沸器は食卓に置いといて。休憩時間にコーヒー飲みたくなるだろうから」

「確かにキッチンは今からチョコまみれになるもんね。りょっかい!」


 そう言われてすぐに、それらを食卓に置いた。

 とは言っても、本来なら私達がコーヒー作って持ってってあげた方がいいんだろうけど。


「のばらがチョコレート作り終わったら、コーヒー持っていきますわ」

「の、方がいいよね。お願いね、のばら」

「さ、チョコレート作りましょ!」


 一応家族にはリクエストを聞いていて、京平はガトーショコラ、信次はチョコクッキー、お父さんは生チョコといった具合だ。

 のばらは信次に、何をリクエストされたのかな?


「のばらは、チョコ何が良いか聞いた?」

「出来る自信が無かったから、聞けずじまいでしたわ。のばらでも上手く出来るかしら?」

「教えるから安心してね。んー、何がいいかな?」


 私とおんなじのだと、比べられちゃうだろうから無しとしても、初心者ののばらでも美味しく出来そうなのは何か無いかな?

 そうだ、焼き菓子で定番なあれがあるじゃないか。


「マフィンはどうかな? チョコたっぷり入れてさ」

「美味しそうですわ。で、どう作るんですの?」


 材料は多めに買って来たし、大丈夫だな。


「まず、バターを柔らかくしたものと砂糖を泡立て器で白っぽくなるまですり混ぜるんだけど、今から材料の分量測るね。何人分作る?」

「亜美と信次と深川先生と朱音と麻生先生と亜美のお父さんに作りたいですわ」

「じゃあ、6人分だね。ちょっと待っててね」


 私は予め用意したレシピ本を見ながら、材料を人数分揃えていく。

 バターは自然解凍の方が良いから、少し置いとけばいいかな。

 その間に、他の物……私が作る物の材料も準備しとこっと。


「バターが柔らかくなりましたわ」

「じゃあ、砂糖を入れてすり混ぜよ!」


 私はのばらに泡立て器を渡すと、のばらは不慣れな手付きで混ぜ始めた。

 そうだよね、緊張するよね。お菓子は、前にクッキー作ったきりだもんね。

  こんな具合に少しずつのばらに教えていって、たまにのばらが暴走するのを抑えながら、着々とマフィンの形になっていく。

 のばらは記事を型に流し込むと、ふうとため息をついて。

 

「ようやくここまで来ましたわ」

「後は170度のオーブンで、25分焼いてね」

「オーブンはさっき余熱しましたわ。焼くのドキドキですわ」


 のばらはドキドキしながら、マフィンの生地を角皿に並べていた。

 そして、遂に焼き始める。美味しく焼き上がるといいね。


「焼いてる間に、信次のコーヒー作るのですわ」

「のばらのコーヒー美味しいから喜ぶよ」


 のばらはやり遂げた顔をして、コーヒーを淹れ始めた。

 大丈夫、私がしっかり見張っとくからね。のばらは美味しいコーヒーを淹れてあげてね。


「は! のばら、マフィンの焼け具合を全然見てなかったのですわ!」

「私が見てるから大丈夫だよ。のばらは信次に、コーヒーを届けてあげて」

「解りましたわ。信次、頑張ってますものね」


 のばらは意気揚々と、コーヒーを運んで行った。

 のばらのコーヒーなら、信次の気晴らしにもなるだろうし。

 さーて、マフィンも少しずつ膨らんで来たね。

 のばらも、時折暴走したけど、丁寧に作っていたしね。


「私も頑張らなきゃな。美味しいの作るぞ」


 ◇


「ふいい、やっと作り終わったあああ」


 のばらのマフィンに始まり、京平のガトーショコラまで長かったなあ。

 皆リクエストがバラバラだったし、友チョコもパウンドケーキにしたから、私だけでも4種類作ったんだよね。流石に疲れたなあ。

 でも、どれも美味しそうに仕上がったから良かった。

 あ、5種類か。のばらにはお昼ご飯用に、フォンダンショコラ作ったんだ。

 もう14時だけど、のばらはまだお昼ご飯食べてないし、呼んでこようかな。

 今のばらは、信次の勉強見てるからね。

 私は信次の部屋をノックして入る。


「のばら、めちゃくちゃお待たせ。お昼ご飯出来たよー!」

「あ、亜美。良かったですわ。もうお腹ぺこぺこですわ」

「早速作ったの試食しようね」

「僕も食べたいなあ」

「信次は明日ね!」

「めちゃくちゃ良い匂いがするから、楽しみが募りすぎるよ」


 信次には可哀想だけど、明日はチョコレートを楽しみにしながら、受験頑張って欲しいな。

 そんな訳で、のばらと試食を兼ねたお昼ご飯を始めた。


「「いただきます」」


 まずはのばらのマフィン。7個焼いたから、余ったひとつを半分こにして食べるよん。


「亜美、美味しいですわ。良かったのですわ」

「のばら頑張ってたもん、当たり前だよ」


 私も全力でサポートしたし、ね。なんて。

 美味しく出来て良かったな。


「そして亜美、沢山作りましたのね」

「家族には毎回リクエストを聞いて作ってるから、大体バラバラになるんだよね。楽しいから良いんだけど。あ、のばらにあげるのはお楽しみにしたいから、試食には含まれません!」

「むう、気になりますわ」


 そんなことを言いながら、チョコレート達を食べ進める。

 んー。どれも美味しく仕上がって良かったな。

 美味しく仕上がったことが確認できたら、可愛くラッピングしなきゃ。


「美味しかったですわ。美味しかったんですけど、ちょっと塩辛いものも食べたいかもですわ」

「そう思って、焼きそば作ったんだ!」

「流石亜美ですわ」


 ◇


 疲れが溜まった私は、ソファに横たわっていた。

 混ぜたり、こねたり、泡立てたり、お菓子作りって結構体力使うんだよね。

 そう言えば、最近京平へのお菓子作り出来てなかったなあ。

 勉強や運動に集中しちゃってたよ。また作るようにしないとな。

 いけない、昼寝しちゃうとまた京平に迷惑かけちゃうかもだ。

 眠たいけど、寝ないようにしなきゃ。と、決意をしたものの、瞼が段々下がって、重力に抗えなくなってきた。

 少しなら、いいかな。私は、ソファで眠りに着いた。


 それから、どれくらいの時間が経ったんだろう。私の頭を、誰かが優しくポンポンしてくれている。

 とろけるように温かくて気持ち良いな。癒されるな。膝枕してくれてるみたい。

 小声で聞こえる子守唄も嬉しいな。

 そっか、京平が帰って来たんだね。私は慌てて目を覚まそうとするんだけど。


「無理に起きなくていいよ、まだ寝てな」


 その声があまりにも優しかったから、私の目はまたトロンとして、再び眠りに着くのであった。


「ああ、京平おかえり。亜美は寝ちゃったのか」

「ああお父さん。仕事お疲れ様。沢山チョコレート作ってくれたもんな。布団に寝かせてくるよ」

「ありがとな、京平」

「俺もちょっと横になるよ。18時になったら、飯作るから」

「そうか、無理するなよ」


 むにゃ、なんか優しい温もり。身体全体が安心しきってる。

 すごく優しい夢だな、覚めたくないなあ。

 この温もりに、ずっと包まれていたいなあ。


「おやすみ、亜美。ゆっくり休めよ」


 夢の中で優しく京平が、キスをしてくれた。

 優しく京平が、抱きしめてくれた。

 幸せだなあ。愛しいなあ。

亜美「むにゃむにゃ」

京平「おやすみ、亜美」

信一「亜美は頑張り屋さんだな」

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