温かいお蕎麦と京平
それから私達は、近くのホテルまでいって、2人の時間を大切に過ごしたよ。
どんな時も京平は優しいから、嬉しいな。いつも大切にしてくれてるよ。
「亜美」
「京平」
名前を呼び合って、お互いを感じ合って、感じ取って。
致した後は、お互いを抱きしめ合った。強く、強く。
やっぱり私、京平を好きになって良かったな。
友達が居なかった時も、京平がいつも話しかけてくれたから寂しくなかったし、笑えていたんだ。
友達が出来た後も、話をいつも聞いてくれて。
いつも、いつも、私を笑わせてくれたんだ。
「京平に出会えて幸せになったよ。いつもありがとね」
すると京平は、ふにゃっと笑って。
「何言ってんだよ、俺が亜美に幸せにされたんだぞ。ありがとな」
「そんな、私京平に、何も出来てないってば。いつも、貰ってばかりで」
いつも助けられてばかりだし、上手に甘えることさえ苦手だし、こんな可愛げのない私が、京平の為に何か出来てるとは思えないよ。
「そんな訳ねーだろ。亜美のおかげで笑えるようになったし、慰めてくれるし、亜美の優しさに救われてるよ」
京平は私を優しく抱きしめてくれた。相変わらず温かいよ。
そして、深いキスをしてくれた。京平にとって、私は特別みたいだね。
それは私も同じで、いつだって京平の隣に居たいし、抱きしめられたいし、一緒にたわいもない話をしたい。
告白する前は、こんなに欲張りじゃなかったんだけどな。
毎日、京平が欲しくなってるよ。
◇
「「いただきます」」
ホテルを出た私達は、近くのお蕎麦屋さんで優しくお腹を満たす。
私がそんなに食べられないっていったら、食べやすいものを京平が選んでくれたんだ。
「はふー、お蕎麦美味しい。出汁も効いてるし、麺も程よい腰があって、蕎麦の風味も清々しくて」
「亜美達と暮らす前は、病院帰りにこの蕎麦屋にも寄ってたんだ。気に入ってもらえて良かった」
「あ、かつどんやが休みの時とか」
「そそ」
京平は今でこそ、双極性障害の影響で、時短勤務してるけど、昔は今以上にバリバリ働いてただろうしなあ。
昔のが、明らかに泣き虫だったろうに。
内科医なんだから、そんなに夜勤入る必要ないのに、私が糖尿病で入院してた時も、度々見回りに来てくれて、私が眠れてなかったら、静かな声で眠れるまでお話ししてくれたよね。
思えば、京平には小さい頃から助けられてばかりだなあ。
そりゃ私もすぐに惚れる訳だよ。まだ小さかったとはいえ。
「この蕎麦屋に通ってる時は、こんな歳下の子に惚れるだなんて、思っても見なかったよ」
「京平が私を愛したのは、私が12歳の時だもんね。ちょっと犯罪だよね」
「黙りなさい、亜美だから惚れたの」
いったああ。京平ってば、デコピンして来たあ。事実を言っただけなのに。
「そもそも、誰かに惚れることさえ想定外だったよ」
「それまで誰かを好きになることは無かったの?」
「うん、大体告白されて付き合っても、好きになれなくてフラれることが多かったし」
無自覚なんだろうけど、モテ自慢かな?
色々ある京平だけど、見た目はモデル並みに整ってるし、そりゃ告白されるよなあ。
それに京平ってこう見えて、心を簡単に見せない人だしね。
今まで付き合った人達には、心を開けなかったのかな?
今までの彼女達には申し訳ないけど、ちょっと優越感に浸ってしまう。
「そう言えば、もうすぐバレンタインだな。亜美の手作りチョコ楽しみ」
「今年はのばらと作るんだ。期待して待っててね」
「お、それは楽しいことになりそうだな」
バレンタインチョコと言えば、京平毎回沢山貰ってくるんだよなあ。患者様からだったり、看護師さんからだったり、と。
今年も沢山持ち帰るんだろうなあ。
本命は私からだけみたいだけど、人としてかなり愛されてるからね、京平って。
でも、私と付き合ってることも病院で知れ渡ってるし、今年は義理チョコも減るのかな?
「今年はガトーショコラがいいな。おっきいやつ」
「おっけ! 美味しいの作るね」
こんな会話も楽しいな。きっと、京平とだからだね。
お父さんと信次には何作ろうかなあ。後、のばらと朱音と蓮と友にも、友チョコあげたいし。
13日は休みだけど、1日がかりになりそうだね。
次は火曜が休みだから、そこで材料揃えなきゃ。
「ふー。またしばらく亜美とデート出来ないんだよなあ」
「勤務帯が違うと、ご飯すら一緒に食べられないもんね」
「過ごせる時間を、大切にしなきゃな」
「うん、一緒に居られる時は楽しもうね」
一緒にご飯食べたり、お風呂入ったり、寝たり、たまにデートしたり。
そんな一緒に過ごせる時間が、凄く愛おしいよ。
「お蕎麦も食べ終わったし、この後、いつもの森を散歩しよ」
「まだ帰りたくないのか。俺もだけど」
今日は近場デートだったから、終電を気にする必要もないしね。
もう0時を回ったし、本当は帰るべきなんだろうけど、まだまだ京平と一緒に過ごしたかったんだ。
私達はお蕎麦屋さんでの会計を済ませて、いつもの森まで歩いていく。
ちょっと、いやかなり夜更かししちゃうけど、この時間を終わらせたくなくて。
私は兎も角、京平は睡眠も必要な体質なのに、今日の私はなんだか我儘だね。
自分で言い出したことなんだけど、今更申し訳なくなってきた。
「ごめん、京平はもう眠いよね?」
「漫画喫茶で寝たし、まだ亜美が足りないから、一緒に過ごせて嬉しいよ。亜美こそ、眠くない?」
「漫画喫茶で寝たから、まだ眠たくならなくて」
「そっか、帰ったらホットミルク作るな」
相変わらず優しいな。温かいな。
「ありがとね」
「眠たくなるまで、付き合うからな」
「うん、嬉しい」
私達は手を繋いで、森を散歩する。辺りは月と星しか灯りがないけれど、それがまた胸を高鳴らせる。
この夜を京平と一緒に過ごせるのは、嬉しいな。
「今日は星が綺麗だね」
「そうだな、冬だから空気も澄んでるしな」
「星の名前は解らないけど、あの星綺麗だなあ」
「ああ、シリウスだな。好きなバンドにもそんな曲名があったなあ」
「ほええ、またカラオケで聞かせてね」
京平、星にも詳しいんだなあ。流石は天才。
読んだ本は、すぐ記憶出来るって言ってたしね。
「今日も楽しかったよ、ありがとね」
「こちらこそ。亜美と一緒の時が1番楽しいよ。素でいられるし」
そうだよなあ、医師モードの京平と普段の京平は全然違うし、今の顔は、他の同僚に見せてる顔とも違うよね。
私しか知らない京平が、ここに居るんだなあ。
これからももっと、色んな京平を見せてね。
全部、見たいからさ。
「そろそろ帰ろっか。続きは家で過ごそ」
「亜美が眠たくなるまで、2人の時間だな」
私達は手を繋いで、帰路に着く。
家はすぐそばだけど、この時間がもっと続けば良いのにって、私は思ってたんだ。
亜美「幸せだったなあ」
京平「俺も」
亜美「これからも一緒にいてね」
京平「当たり前だろ」