あーん、しまくった。
「絵はここに飾ろうか」
「うん、良い感じ!」
私と京平は夕食の後、絵をリビングの中央に飾った後、歯を磨いてお風呂に入って、すこしのんびりしながら夜を過ごした。
お互い寝不足ではあったから、すぐに寝たんだけどね。
京平と寝るの、凄く好き。
今日はゆっくり寝ようね、って約束もしたの。
京平に無理してほしくないからさ。
でも、2人で寝るのがあまりに気持ちよかったから、私は夢を見たんだ。
京平が笑って、抱きしめてくれた夢。
夢の中でも私を安心させてくれるなんて、優しいね、京平。
京平が家族になってくれた日から、京平はいつだって私が悲しいことに気付いてくれたり、眠れない日は、傍に居てくれたね。
ホットミルク作ってくれて、私が眠くなるまで優しく語り掛けてくれたね。
思えば、京平を愛し始めた時から上手に甘えられてなかったね。
昨日だって、眠れないことを伝えたら良かったのに。
もっと京平と一緒に居たいな。
不器用なりに甘えたいな。
京平、これからもずっと一緒に居てね。
私は夢の中の京平にキスをした。
やたらとリアルな感触がしたから、ちょっと照れたけど。
◇
むにゃむにゃ。京平と居ると、安心感があって、気持ちよく眠れるよ。
なんだかホッとするの。私にとっては、1番落ち着く場所だよ。
ん、なんか揺さぶられてるなあ。
「亜美、そろそろ起きな」
「むにゃ、あ、おはよ。京平」
「おはよ、亜美」
スマホを見ると15時。ぐっすり寝ちゃってたよ。
「亜美、疲れてないか?」
あまりに私がぐっすり寝てたから、京平は私の体調を心配してくれた。
「うん、バッチリ回復したよ。今日は何処行こっか?」
「ケーキ食べよ。亜美が見つけてくれたケーキ屋さんの」
「うん、楽しみ!」
私達はお互いにお気に入りの服を着て、食卓に向かう。
ケーキと朝ご飯は別腹だからね。
「おはよ、信次、お父さん」
「信次、お父さん、おはよ」
「おはよ。2人とも」
「デートするのに結構寝たね。おはよ」
「ゆっくり寝ようって話してたら、私のがお寝坊だったよ」
そんなことを話してたら、信次が朝ご飯を持って来てくれた。
「まあ、これくらいになるだろうと思って、温め直したよ、朝ご飯」
「お、ありがとな、信次」
「ありがと、信次」
「ケーキ食べに行くんでしょ? 朝ご飯、食べ過ぎないようにね」
「おお、見抜かれてたか」
私達のことは、家族もお見通しだね。
そんな訳で、ご飯半分とお味噌汁が、私達の前に並べられた。
確かにケーキ食べるんだもんね。カロリー摂りすぎも良くないし。
「「いただきます」」
ふわあ、信次のお味噌汁って落ち着くんだよなあ。
赤味噌も好きなんだよね。
朱音にそれを言ったら、普通白味噌な気はするけど、亜美らしいよね。って、言われたよ。
京平の好きなものが好きなんじゃないの? って言われたよ。
ただの好みの問題なんだけどなあ?
朱音とはまだ付き合いも短いし、お互いのことをまだまだ知っていきたいな。
「もう信次には敵わないなあ、味噌汁は」
「そう? 僕は兄貴から教わったんだけどな」
「私はどっちもすきだよ」
「ありがとな、亜美」
信次のお味噌汁も、京平のお味噌汁も、落ち着くからすきだよ。
そういえば、昨日お父さん初めてお味噌汁作ってたけど、お父さんのお味噌汁も美味しかったなあ。
信次から教わったのかな?
「お父さんのお味噌汁も美味しかったよ!」
「おお、昨日初めて味噌汁作ったけど、それなら良かったよ」
「うん、お父さんの味噌汁美味かったよ!」
「京平もありがとな」
なんなら、私のより美味しかったかも。
出汁の取り方とか、なんかコツがあるのかな?
色々試してはいるんだけど、京平や信次みたいにはいかないんだよね。
「ごちそうさまでした。足らない」
「ケーキ食べるからいいだろ。ごちそうさま」
朝ご飯は朝ご飯で、しっかり食べたかったよー!
焼き魚とか卵焼きとか欲しかったなあ。
「ほら、しょげてないで、歯を磨こうな」
「はーい」
そうだよね。この後ケーキを沢山食べたらいいんだもんね。
「ケーキ屋さんでは、沢山食べるもんね」
「俺も楽しみだな」
歯を磨き終わった私は、顔を洗って寝癖を直す。
今日も訳解らんくらい髪が跳ねてるなあ。
折角のデートだもん。バッチリ直さなきゃ。
そういえば、少し髪も伸びて来たなあ。
朱音から貰った髪飾りが使えるね。楽しみ。
よーし、完了っと。
「ちょっと部屋でメイクしてくるね」
「じゃあ、リビングで待ってるな」
久々のデートだし、可愛くしたいな。
いつものファンデーションに、ピンクのアイシャドウに、オレンジのチークに、茶色の眉毛に、茶色のマスカラ。
普段病院ではできないメイクをして。
髪も、髪飾りでちょっとおしゃれして。
それと、京平からクリスマスに貰った指輪。
後は誕生日に貰ったネックレスも。これも可愛いな。
今日は付けられるから嬉しいな。
病院だとアクセサリー禁止だからね。
よし、バッチリ! リビングに行こう。
「お待たせ、京平」
「お、今日も可愛いな。じゃあ、行こうか」
京平も指輪をつけてくれている。あの時は、まるでプロポーズみたいに渡してくれたもんね。
お互いに左手に指輪してるし、夫婦みたいに見えるかなあ、なんてね。
「「いってきまーす!」」
「「いってらっしゃーい」」
いよいよ久々のデートの始まりだ。私達は手を繋いで歩き始める。
「確か、いつも走ってるとこの側にあるんだよな。そのケーキ屋」
「うん。そうだよ」
「じゃあここかな?」
京平が地図アプリで、その周辺のケーキ屋を探す。
「ううん、パティスリーイケマエの系列じゃなかったよ」
「じゃあ、新しい店なのかな? 亜美は覚えてるかな?」
「うん、お店の名前も覚えてるよ」
「じゃあ、亜美に着いて行くよ」
そういえば私がリードするなんて、初めてじゃないかな?
いつもは京平に、そういうのは任せきりだったからなあ。
今日は沢山楽しませるからね。
「で、こっちいって」
「お、こっちいくと、繁華街に出るんだな」
いつも走る場所の側に町が広がっていて、見慣れない景色を京平は楽しんでいた。
そういう顔が見れて嬉しいな。楽しんでる顔が見れるから、デートしたいまであるし。
「で、ケーキ屋はここです!」
「なるほど。ケーキを売ってるカフェだったのか」
「混んでないといいけどな」
そっか。ここ、カフェだったのか。
確かに店の名前の近くに、小さくカフェって書いてあるや。
そんなカフェウィッシュは、私が数ヶ月前に偶然見つけたカフェ……ケーキ屋さんだと思ってたけど。
外見はこじんまりとしてるんだけど、なんか温かみがあるんだよね。
前は京平の好みを伝えて、1000円分ケーキを持ち帰りさせて貰ったんだ。
私達は早速中に入っていく。
「いらっしゃいませー!」
「2名ですが、カフェスペースは使えますか?」
「はい、空いてますよ」
良かったあ。私達は店員さんに案内されて、奥の席まで向かう。
空いてた、とはいえ、ギリギリだったみたい。
何処もかしこも人でいっぱいだったもん。
「こちらへどうぞ」
「有難うございます」
「ごゆっくりしてくださいね」
私達はマジマジと、店員さんが置いてくれたメニューを見ていた。
うわあ、ケーキは勿論のこと、コーヒーとかグラタンとかサンドイッチも美味しそうだなあ。
正直、良い意味でかなり迷っていた。
ケーキも美味しそうだけど、塩辛いものもあるならちょっと食べたいなあって。
「シャインマスカットのケーキと、ショートケーキと、サンドイッチとホットコーヒーにするよ」
「へえ、シャインマスカットのケーキとか美味しそうだな。じゃ、俺もそれと、フルーツタルトと、白桃のケーキとホットコーヒーにするよ」
「よし、書けたよ」
ここは注文を用紙に書くスタイルで、私は注文を余すことなく用紙に記入した。
私はそれを呼び止めた店員さんに渡す。
「有難うございます。少々お待ちください」
「えへ、楽しみだね」
「沢山食べような」
「もっちろん!」
京平はニッコリ笑ってくれた。
その笑顔だけで、食欲も増すってもんだよね。
「サンドイッチ頼むのが亜美らしいな」
「フルーツケーキばかりなのも、京平らしいね」
「で、おかわりもするんだろ?」
「また見抜かれるなあ。一気に頼むと、恥ずかしいかなあって」
「大丈夫、一緒におかわりしよ。俺もまだ食べたいケーキあるし」
見抜かれてばかりだし、それに対する行動も優しいよね。
何気ない京平の優しさに、いつも助けられてるよ。
「おまたせしました。サンドイッチとシャインマスカットのケーキ2つとコーヒーです」
「有難うございます」
「うひょー! 美味しそう!」
「「いただきます」」
私はまず、サンドイッチに手を伸ばす。
ハム卵とベーコンレタストマトのサンドイッチだね。私は、ハム卵から食べる。
「うん、卵は半熟スクランブルエッグだし、ハムも分厚くて美味しい!」
「シャインマスカットのケーキも美味しいよ。瑞々しくて好きだなあ」
「コーヒーもすごく美味しい」
「うん、良い豆だし淹れ方もいいなあ。美味しいお店見つけてくれてありがとな、亜美」
「どういたしまして」
へへん、我ながら良いお店を見つけられて良かったな。
「亜美の頼んだサンドイッチも美味しそうだし、次頼もうかな」
「だったら、はんぶっこしよ? あーん」
「おい亜美、恥ずかしいだろ。もぐもぐ」
京平は照れながらも、私が差し出したサンドイッチを食べてくれた。
「うん、美味しいや」
「こっちの、ベーコンレタストマトもはんぶっこしよ!」
「お、ありがとな」
京平の美味しそうな顔、嬉しいな。
私達が仲良くサンドイッチを食べてる最中。
「お待たせしました。ショートケーキとフルーツタルトと白桃のケーキです」
「有難うございます」
うわあ、ショートケーキも美味しそう!
シャインマスカットのケーキもあるし、どっちから先に食べようかなあ?
「亜美、さっきサンドイッチくれたから、俺のケーキやるよ。あーん」
「ちょ、照れるじゃん」
「あはは、お互いやられると照れるんだな」
「食べるんだけどね。もぐもぐ」
京平のくれた白桃のケーキを頬張りつつ、私の顔は照れるのであった。
んー、白桃のケーキも美味しいな! 芳醇な桃の甘みが、ケーキに溶け込んでいて最高だよ!
「このケーキも美味しいから、後でおかわりしよ」
「それなら良かった」
それから私達は、お互い照れながら差し出されたケーキを頬張るのであった。
おかわりをしたケーキも、一口目は京平にあーんしたよ。
でも、あーんするのはいいんだけど、あーんされるのは照れるのって何かあるのかな?
こうして私達は、幸せにお腹いっぱいになった。
「まさか亜美が、全部あーんしてくるなんて、な」
「そういう京平もね」
「するのは楽しいもん」
「性格悪いなあ」
「なんだよ、亜美から始めたんじゃん」
「似たもの同士だね」
私達は、顔を見合わせて、また笑った。
こんな時間が、いつだってたまらなく愛しいよ、京平。
「亜美の美味しい顔が見れて良かった」
「うん、このカフェの料理、とっても美味しかったよ。京平の美味しい顔も、ご馳走様」
「へへ。なんか照れくさいな。でも、亜美には本当の俺を見せていきたいな」
「京平のそんな姿を、これからも見ていきたいな」
京平と私との心の壁が、少しずつ減ってきたね。
付き合った当初は私を守ろうとして頑なだった顔も、少しずつ和らいで、くしゃくしゃに笑ってくれてる。
もっと頼って欲しいし、もっと京平のこと知りたいな。
どんどん京平のことを、愛していくなあ。私。
「おい、何すげえうっとりした顔してんだ、亜美。可愛いけどさ」
「ん、京平に見惚れてたんだよ?」
「そういうこと言われると、逆に照れるな」
「照れないでよ、京平は常に格好良いよ」
「だー、俺をこれ以上照れさすなよ」
そんな京平をこれからも見たいことは内緒にして、私は笑った。
これからも、一緒に歩いていこうね。京平。
亜美「美味しかったね、京平」
京平「また行こうな、亜美」
のばら「のばらも亜美と、ケーキデートしたいのですわ!」