君との幸せを掴むために(信次目線)
「はい、信次。コーヒーですわ」
「ありがとね。まだまだ勉強頑張るよ」
飛び級試験は無事合格したけど、飽くまでこれは17歳の学年で大学入試を受ける資格を得ただけ。
こっからが本番だぞ、僕。絶対大学合格するぞ。
今日から飛び級試験で合格した人の出願窓口が出来たから、早速東都大と京王大の医学部に出願届を出して来た。
飛び級試験合格者は、推薦枠扱いでテストを受けて、合格を目指す形だ。
一般入試と、そもそも枠が違う。
試験は、東都大が2/14と京王大が2/15。もう一踏ん張りだ。
ちなみに海里は、飛び級試験に受かる前提で就活できたんだけど、勉強がギリギリすぎて、全く就活出来てない。
今日、のばらに見て貰いながら履歴書は書いたけど、折角の新卒を活かせないのは可哀想だね。
もうとっくの昔に、来年度の新卒を募集し始めてるし。
そもそも、まだ求人検索もしてないから、まずは興味ある会社を探してみるんだって。
求人検索くらいはしとけよ、バ海里。
「勉強は順調でして?」
「うん、範囲も狭くなるし、今までの復習だしね。後は大学ごとの癖をクリアして」
「試験が終わったら、のばらの父上と母上に挨拶もありますわ」
「緊張するけど、僕の気持ちが伝わるといいな」
大学入試が受かるか落ちるかに関係なく、2月28日にのばらの両親に挨拶することは、山田さんを通じて決まった。
のばらの両親に挨拶をしたいってことで、兄貴とお父さんも一緒に行く。
亜美は1人仕事なので、ちょっとしょんぼりしてた。
まだ僕は17歳だけど、のばらを大切にしてることと、これからも幸せにしていくことは伝えたいな。
「今更になるのですけど、信次は本当にのばらで良かったんですの? 歳も離れてますし、信次が年頃になれば、もっと若くて可愛い子も……」
「何言ってんの。僕はのばらの全てを愛してるんだよ。優しいところとか、はにかんだ笑顔とか、頑張り屋なところとか。のばらじゃなきゃ、嫌だよ」
「有難うございますわ。のばらも、信次を愛してますわ」
おばかのばら。愛してなかったら、プロポーズなんてしないよ。
そんなのばらだから、守りたいし愛してるんだから。
「そう言えば、お父様はもう部屋に戻られましたけど、亜美達起きて来ないですわね」
「22時になったら起こすよ」
「確かに起こさないと、起きなそうですわね」
多分起こさないと、朝まで寝てそうだしね。
僕の事を心配して寝付けなかったのは解るけど、2人揃ってとはなあ。
起きたら美味しくカツ丼食べてね。亜美、兄貴。
◇
「さて、兄貴達起こしてくるかな」
「結局起きなかったのですわ」
僕達がお風呂に入ってる間も起きなかったしね。
兄貴達を起こしたら、僕達も寝ようかな。
僕は念の為、兄貴達の部屋をノックするけど返事はない。
こりゃ、ぐっすり眠ってるなあ。
ため息をつきながら、部屋の中に入った。
兄貴達が眠ってから、早2時間は経ってるけど、兄貴も亜美もお互いを抱きしめ合ったまま眠っていた。
「兄貴達、そろそろ起きなよ」
2人とも抱きしめ合ったまま、眠り続けてた。
本当に仲が良いなあ。僕は敷布団を持ち上げる。
「うお!」
「うわ、亜美、大丈夫か?」
「そろそろ起きようね。2人とも」
全く、僕を心配してどんだけ眠れなかったのさ。声かけても起きないレベルだなんて。
「ふわあ、よく寝た」
「すっかり寝入っちゃったよね」
「ご飯とお風呂は済ませておくんだよ」
「おう、カツ丼食いたいし」
僕と兄貴達は部屋を出る。
「カツ丼温めるから待っててね」
僕はカツ丼を温めにキッチンへ。
兄貴達は食卓に着いた。
「お、ありがとな」
「これからはそんなに心配しないでよ。僕もう17歳なんだし」
「幾つになっても心配はするよ。家族だもん」
「信次、のばらも手伝いますわ」
「ありがとね、のばら」
僕とのばらは協力して、カツ丼を温めたり、お味噌汁を温めたり、箸を並べたりした。
「あー。俺幸せだわ。亜美」
「どうしてそう思ったの?」
「一緒に眠ってくれる彼女がいて、寄り添ってくれる家族がいて。今、めちゃ幸せ」
「もっと楽しませるから、凹んでる暇はないからね。兄貴」
最近兄貴は、良く落ち込んでるから心配なんだ。
気にしなくていいことまで気にして、いつも苦しんでる。
そのままの兄貴で生きていれば、なんも問題ないんだよ、兄貴。
「ありがとな、信次」
「私も京平を幸せにするから!」
「もう充分幸せだよ。亜美」
そうだよ、兄貴は幸せなんだからね。
「はい、カツ丼ですわ」
「うひょ。美味そう」
「お腹空いたー!」
「お風呂も温めておくから、ご飯食べたら入ってね。あ、カツ丼おかわりもあるからね」
「ありがとな、信次、のばらさん」
「「いただきます」」
兄貴達、食欲はあるようで良かった。
本当に寝不足だっただけみたいだね。
「じゃあ、のばら達は先に寝ますわあ」
「おやすみ。兄貴、亜美」
「おやすみ、信次、のばらさん」
「おやすみー!」
部屋に戻った僕達は、布団に潜り込んで、お互いの話を始めた。
まだ付き合いたての僕達は、愛してる癖に知らないことが多すぎるから。
「小さい頃は異能が使えなくて、凄く暗いのばらでしたわ」
「異能はのばらのアイデンティティだもん、そりゃ辛いよ」
「そうなんですの。嬉しい時は薔薇を咲かせたいのですわ」
兄貴に会うまでののばらは、いつも泣いてたらしいからね。
異能は治療出来ない僕だけど、のばらを笑わせられたらいいな。
「僕は怖いイメージだったんだけど、急に使えるようになってからは僕の一部になったよ」
「異能が目覚めたのは、5歳の時ですものね」
「そ。しかも鋼鉄の羽で、亜美が怪我しそうになったから、余計に辛かったしね」
「亜美が深川先生を呼んでくれて、助かったんですものね」
「うん。亜美は命の恩人だからね」
お互いが知らないところを、お互い話し合って補って。
僕達はまた、お互いを愛していくんだ。
「大学入試も来週ですわね。上手くいくって信じてますわ」
「うん。のばらをもっと幸せにしたいからさ」
「五十嵐病院に来たら、先輩として扱いてあげますわ」
「まだ内科医になるとは決まってないのに」
「そんなの、のばらだって異動があるかもですわ」
五十嵐病院にはお世話になってるから、出来れば五十嵐病院で働きたいのはあるんだけどね。
兄貴も亜美ものばらもいるから、心強いし。
「僕は何が向いてるのかなあ?」
「可能性は無限大ですわ」
「そうだね。大学に入ったら、色々見て回るぞ!」
まだ経験してないってことは、何にでもなれるってことだから、色々経験したいな。
兄貴も色々経験して、内科医の道を選んだんだもんね。
「じゃあ、のばらはそろそろ寝ますわあ」
のばらはそう言うと、僕をむぎゅって抱きしめた。
「また先に抱きしめられた」
「へへん、のばらの勝ちですわ」
「でも、僕も抱きしめるからね」
僕もむぎゅっとのばらを抱きしめた。
のばらの温もりが愛しいよ。
後ね、気持ちよくていい香りがするんだよ。
「なんか落ち着きますわ」
「僕も。安心するよ」
僕達は、一度深いキスをして、ごろんと眠りに着いた。
おやすみ。愛しいのばら。
亜美「明日はゆっくり寝てデートしようね」
京平「ありがとな、亜美」