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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
愛しい日常
166/240

寝不足な俺達(京平目線)

 その時、俺は夢を見ていた。亜美が居て、俺が居て、語り合ってる夢。


「京平、愛してるよ」

「俺もだよ、亜美」

「そう言えば京平から、愛してるって聞いたことないなあ。たまには言ってよ?」


 思えば現実の亜美から、こういうツッコミされたことないなあ。ただただ照れ臭くて言えてないだけなんだけどさ。

 夢だって解ってるんだけど、それでも照れ臭くて言えないだなんて、俺もどうかしてるな。

 夢の亜美なんだけど、どう返したらいいのだろう。

 俺は返答に、かなり迷った。迷った挙句。


「口には出さない主義だからさ」


 なんだそりゃ。自分で自分が訳解らない。


「何それ。意味解らないよ」


 だよな? 俺もそう思うよ、亜美。

 正直に照れ臭いって言うのも照れ臭くて、不意に出た苦肉の策だったけど、策が酷すぎる。


「私は愛してるのに、京平は愛してないんだね。悲しいけど、私達別れた方がいいかもね」


 亜美が俺から離れていく。待ってくれ、亜美。

 夢とは言え、こんなの後味悪すぎる。

 世界中が敵になっても、守りたいと思ってる亜美なのに。

 夢なら言えるかな。愛してるって。


「亜美……」


 ここで俺は目を覚ました。本当後味悪すぎる夢だった。

 亜美が、愛を確かめるようなタイプじゃないことは知ってるし、何より俺を疑ったりしない。

 それは解ってるんだけど、やっぱり夢とは言え、亜美から言われたことは気にしちまうよ。


 俺は隣を眺める。亜美は気持ちよさそうに寝ていた。

 寝直しても悪い夢を見るだけだし、残り時間は亜美を見ていようかな。

 亜美、ただ照れ臭いだけで、愛してるとか好きとか何も言えてなくてごめんな。

 でも、いつか必ず伝えるから。そして、想っているから。

 これからも信じ続けて欲しいよ、亜美。


「むにゃむにゃ。京平、愛してるよ」


 そうだよな。言われると、嬉しいもんな。

 いつもありがとな、亜美。


 ◇


ーーピピピピっ。


「んん、気持ち良い目覚め。おはよ、京平」

「おはよ、亜美。良い夢でも見たのか?」

「うん。でも京平には内緒」

「なんだそりゃ」


 寝言で愛してるって呟いてたし、俺に関する夢なのは確かだろうけど、なんか気になるな。

 でも、亜美が幸せならいっか。

 亜美の幸せそうな寝顔で、俺もかなり癒されたよ。


「さあ、昼からは緊急外来だし、頑張ろうね」

「まあまあ久々だしな。サポート頼んだぞ」


 そう言いながら、お互いの上着を元に戻して、仕事場へ向かうのであった。


 緊急外来は土曜ということもあり、かなり混み合っていた。

 今回は麻生と佐藤さんのペアと、俺と亜美のペアで回していく。

 内科は俺、外科は麻生って分けられるし、現状ベストだな。

 まだまだインフルエンザも流行っているようで、見るからにゴホゴホしてる患者様も多くいらっしゃる。

 お薬手帳を見た上で、適した薬を処方して、少しでも楽にしてあげたいな。


「亜美、ついてこいよ」

「任せて!」


 それから俺達は、患者様の診察と検査を2人で行った。

 少しだけペースをあげているけど、亜美も問題なく着いてきてる。

 検査結果が出次第、薬を処方する。

 当然インフルエンザだけではなく、通常の風邪だったり、コロナウイルスもまた増え始めている。

 亜美と俺は緊急外来に入る前からマスクを付けているけど、うつらないか心配だ。

 俺は兎も角、また亜美が風邪をひいてしまえば、ケトアシドーシスになりかねないし。

 亜美の身体のことを思うと、看護師になることを許したのは間違っていたのでは? と、過ぎる。

 でも、あの時の亜美の目は本気だったし、ダメとは言えなかったなあ。

 亜美、マジで無理すんなよ。


 よし、少しずつ患者様も減ってきた。

 

「亜美、あとちょいだ。頑張ろうな」

「ほいやっさ!」


 亜美、寝不足でくまも目立つのに。

 あとちょっと、頑張ろうな。


 ◇


「お疲れ、亜美」

「ありがとね」


 俺は亜美に缶コーヒーを渡す。

 へとへとになった亜美は、力無い返事をして受け取った。


「もう19時だから、一緒にあがろうか」

「そうだね。もうすぐ蓮も来るしね」


 久々の定時……正確には残業だけど、身体的には問題ないな。

 体力を落とさない努力が生きてきたな。

 これからも走ることは続けよう。


「お待たせ、亜美」

「亜美さん、深川先生、お疲れ様です」

「あ、蓮に友。後はよろしくね!」


 お、俺達の後は、落合くんと日比野くんか。

 日比野くん、最近は体調も良さそうで安心したよ。

 落合くんのお母さんのお弁当が効いてるのかな?


「引き継ぎ内容は特になし。今は患者様もいないからゆっくり丁寧にな」

「了解です。友、準備しようぜ」

「じゃあ、私達は帰るね。お疲れ!」

「じゃあな、落合くんと日比野くん」


 亜美と俺は、更衣室に向かって歩き出した。


「あ、帰りに文房具屋さん寄ってもいい?」


 亜美は缶コーヒーを飲みながら、話しかける。


「良いけど、何買うんだ?」

「額縁。長谷部さんから絵を貰ったんだ」

「おお、良かったな。長谷部さんの絵、温かいしな」


 長谷部さん、亜美に感謝してたしな。

 その人が必要としてることを、いつだって全力で手助け出来るのが、亜美の良いところ。


「じゃ、着替えたらいつものとこな」

「りょっかい!」


 でも、額縁買うの何年振りかな?

 信次が中学の時、皆勤賞を貰った時以来かな?

 今でもリビングに飾ってあるけど。

 ついでに切らしそうな蛍光ペンも買っておこうかな。

 そんなことを考えながら、俺は着替えていた。

 

 そうだ、明日は看護師長の計らいで、亜美と休みが一緒なんだよな。

 また深川の鬱症状出ても困るから、だと。

 明日こそはデートしたいな。亜美と2人きりで過ごしたい。

 最近亜美が不足してるから、沢山充電したいな。

 亜美、ずっと傍にいてくれて、こんなに脆い俺を選んでくれてありがとう。

 亜美がいるから、笑っていられるよ。

 よし、着替え完了。亜美を待たせないように、急ぎめに行こう。


 そう思ったんだけど、亜美は既に待ってくれていた。ちょっと考え事し過ぎたかな。


「ごめん、待たせたな」

「ううん、私も今来たとこだよ」

「じゃあ、文房具屋に行こうか」


 亜美は左手に丸めた絵を抱えていた。いつもの右手は空けといてくれて、ちょっと泣きそうになったよ。


 俺達は手を握って、文房具屋まで歩いていく。

 病院の近くに昔からある文房具屋さんがあって、俺達は昔からそこで文房具屋を揃えていた。


「水彩画で、本物より可愛く描いてくれたんだよ」

「見るのが楽しみだけど、本物も可愛いよ」

「えへ、ありがとね」


 亜美の笑顔に敵うものなんて、何もないからな。

 強張った気持ちも、いつだって溶かしてくれるから。


「亜美の隣に、ずっと居たいな」

「うん、ずっと居てね」


 30年前、1人で生きていくって決めたはずなのに、今こんなに亜美に依存して生きている。

 こんなに人を頼れるようになるなんて、な。

 いつもありがと、亜美。


 ◇


 文房具屋に着いた俺達は、各々の目的を果たすというか、自分達の好きなように回り始めた。

 ええと、蛍光ペンはこっちかな?

 ああ、あったあった。今はいろんな色があるよな。

 俺はその中から、2、3色選んだ。

 亜美は額縁を見つけられたかな? 様子を見に行ってみよう。

 とか言ってるけど、ただ俺が亜美の傍に居たいだけなんだけど。


 額縁コーナーに亜美がいた。何やら迷ってるようだ。


「亜美、何迷ってんだ?」

「うわ、京平か。ビビった。この茶色のと、ベージュなのと、どっちにしようかな、って」


 なるほど。どっちも亜美が好きな色だし、亜美に似合いそう。

 

「水彩画なら、ベージュのが良いんじゃないか?」

「確かに。優しい色だもんね。こっちにしよ」

「俺、蛍光ペン買うし、一緒にレジ通してくるよ」

「ちょ、京平」


 俺は半ば強引に亜美から額縁を奪って、レジを通す。

 長谷部さんのことは俺も感謝してるし、額縁を買うくらいはしてやりたい。

 あー、後ろで亜美がぶーぶー言ってるなあ。

 これくらいはやらせてよ、亜美。


「2500円になります」

「3000円からでお願いします」

「500円のお返しです。有難うございました」


 俺は商品を受け取る。すかさず亜美が。


「京平、額縁分はお金出すからね?」

「良いって」

「京平はいつもそうやって甘やかす!」

「そりゃ甘えて貰いてえもん」


 滅多に亜美は甘えてくれないからな。

 彼氏としては、もっと頼って欲しいのが本音だし。

 俺ばっかが頼るのも、何か違うしな。


「ありがとね。じゃあ、甘えとく」

「これからも甘えろよ」


 ◇


「「ただいまー」」

「お帰りなさい、遅かったね」

「残業と文房具屋寄ってたからな」

「今日は僕とのばらでご飯作ったよ」

「ありがとな。あと、合格おめでとう」

「おめでとう、信次!」

「まだまだ通過点だから、頑張るよ」


 キッチンでは、のばらさんがご飯をよそっていた。亜美は、のばらさんの所へ駆けていく。


「あら、おかえりなさいまし」

「おかえり」

「ただいま、のばらさん、お父さん」

「のばら、ただいま! 今日は信次と作ったんだね」

「そうですの。美味しいカツ丼ですわよ」

「お父さんは、お味噌汁作ってるぞ」

「あ、お父さんもただいま!」


 遅くなったし、寝不足で眠たかったから、正直助かったなあ。

 うん、カツ丼とお味噌汁の良い匂い。


「ほら亜美、手を洗うぞ」

「ああ、そうだった! 早く洗わなきゃ」


 亜美と俺は荷物をソファに置いて、手を洗いにいく。

 やっぱり亜美の絵はリビングに飾ろうかな。いつも見たいし。


「京平大丈夫? 眠たそうだよね」

「そう言う亜美だって、くまが目立つぞ。俺はご飯食べたら、少しだけ寝て風呂入るよ」

「私もそうしようかなあ。ふわああ」


 少なくとも、風呂に入る分の体力は回復したい。

 このままじゃ、風呂で溺れちまうしな。


「じゃあ、飯食べたら一緒に寝ような」

「うん、無理せず休憩しようね」


 眠たいってのも一緒だなんて、俺達仲良いよな。

 次眠れなくなるのは、信次の大学入試のタイミングかな。

 心配しすぎなのは解っているけど、信次が頑張ってるのを知ってるからこそ不安になるよな。


 そんな話をしながら手を洗って、俺達は食卓に着いた。

 既にのばらさんが、カツ丼を並べてくれていた。


「お、美味そうだな」

「のばらと腕によりをかけて作ったよ」

「久々に定時まで働いたし、腹ペコだから嬉しいよ」


 しかも混み合った緊急外来なんて、久々に担当したぞ。

 本気モードは禁止されてるけど、患者様を待たせたく無くて、ちょっと頑張ったよ。

 それに、亜美も着いてきてくれたしな。


「のばらも信次もお父さんも、ありがとね」

「どうせ亜美達は寝不足だと思ったからな。信次も同意見だったしな」

「うは。バレバレだったんだね」

「ご飯食べたら、少し寝ときなよ」

「うん、そのつもりだよ」

「俺も亜美と一緒に寝るよ。ふわあ」


 やば。あくびしたら、一気に眠気が襲ってきた。

 昨日寝付けたの、3時くらいだったな。

 とは言え、昼寝もしたのになあ。


「兄貴、まずはご飯食べよ?」

「そうだな。ありがとな、信次」

「「「「「いただきます」」」」」


 お、これはのばらさん作かな? 前より半熟加減が上手になってる。

 うん、美味しい。空っぽの身体に染み渡るよ。


「美味しい! 半熟卵にとじられたカツがジューシーで、もう最高!」

「だから毎度言うけど、亜美はゆっくり食べなさい」

「だってゆっくり食べると、眠たくなっちゃうんだもん」


 亜美は今にも寝そうなくらい、うつらうつらしている。


「亜美が先に限界来たか。ごめん信次、俺達後で食べるよ」

「その方が良さそうだね。おやすみ、兄貴、亜美」

「むにゃ。おやすみ」

「おやすみ、皆」

「カツ丼は冷蔵庫に入れておきますわ」

「お味噌汁も鍋に入れておくな」


 俺は亜美をおんぶして、部屋に戻った。

 お疲れ、亜美。ゆっくり休めよ。

 亜美を布団に下ろして、布団を掛けて。

 そうだ、亜美の絵を額縁に入れないと。そう思って、俺は部屋を出ようとしたんだけど。


「京平、どこにもいかないで。寂しい」

「どこにもいかないよ」


 子猫のように甘える亜美の願いは、叶えてあげたい。

 俺は亜美を抱きしめて、布団に潜り込む。

 ふわあ、こりゃ俺も寝ちまうな。亜美が温かくて心地良いよ。


「温かいや。おやすみ、京平」

「俺も温かいよ。おやすみ、亜美」


 眠りに着いたのは、2人同時だったと思う。

 お互いの温もりで、お互いとろけるように眠った。

信次「心配してくれるのはありがたいけど、ご飯食べれなくなるくらい寝不足なのはなあ」

のばら「2人とも、変な所で息ぴったりですわね」

信次「大学入試も頑張るぞ!」

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