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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
愛しい日常
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寝付きが悪くて。

 それから私達は少し抱きしめ合った後、お風呂に入って、また抱きしめ合って。


「亜美以上の人は居ないよ」

「私も。京平しか愛せないもん」


 どうしてこんなに愛しいんだろう。

 お風呂に入る前だって抱きしめ合ったのに、まだ足りなくてお風呂でも抱きしめちゃうし、抱きしめてくれる。

 確かなのは、抱きしめられてる間は、満たされているってことだけ。

 京平は私を満たせる唯一の人だから。


「私ね、京平に抱きしめられてる時、心が満たされるんだ」

「俺はどっちかと言えば、抱きしめてる時かな。亜美の温もりで満たされるよ」


 幸せだなあ。最近ずっと幸せすぎて、何かあるんじゃないかと不安になるけど、そんな時でさえ京平は京平だし、いつも守ってくれるから、安心出来るんだよ。


「そうだ、オレンジケーキ焼いたから、風呂上がりに2人で食べような」

「食べたいのは私じゃなくて?」


 あ、しまった。何言ってんの、私!

 何食べてくださいってアピールしてんの、バカ!

 私が恥ずかしさのあまり赤面していると、京平は揶揄(からか)ってくる。


「やーい、亜美! 顔真っ赤」

「う、うるさいなあ!」


 もー! 京平のバカ。乙女心を解ってないなあ。

 と、思ったんだけど、京平は優しく抱きしめてくれた。


「大切に食べるから、覚悟しとけよ?」

「好きなようにしていいよ。京平なら」


 これは本当だよ。京平の好きなように、思うように抱いてね。


 ◇


 お風呂の後は、ケーキを一緒に食べた。


「うん、オレンジの甘酸っぱい酸味とクリームの甘味がマッチして、すごく美味しいよ」

「それなら良かった。亜美に喜んで欲しかったから」


 京平はまたくしゃくしゃに笑ってくれた。敵わないなあ、本当に。


「明日はママレードジャム食べてくれよ。こっちも自信作だからさ」

「うん、楽しみにしてるね」


 明日は食パンをこんがり焼いて、ママレードジャムを塗って食べたいな。

 

 ◇


 夜は久々にまったりして過ごしたよ。

 私も抱きしめたい気分だったけど、京平はもっと情熱的で、心が満たされたよ。

 愛されてるなあ、って感じられたよ。


 そんな1日を終えて、また幾日か経って、今日は2月7日。信次の飛び級試験の結果が出る日だ。

 私と京平は早番の仕事で、のばらは今日の為に休みを取ったみたい。

 朝10時から、ネットで結果が解るみたい。

 結果はライムで教えて貰うことになったけど、大丈夫かなあ?


「うー、心配だよお」

「ふわあ。信次と海里くんは心配要らないだろ。頑張ってたし、問題集も解けてたし」

「そうなんだけどさあ」


 信次、ドキドキだろうなあ。信次の将来が掛かってるもんね。

 のばらはそれを見越して、休み取ったって言ってたしね。

 うう、神様。弟をお願いします。


「10時になったら、一旦抜けさせて貰おうか。亜美、心配しすぎてやらかしそうだし」

「うん、早めに少しだけ休憩行かせてもらうよ」

「じゃ、看護師長にライムしとくな」

「行動早!」


 京平のおかげで、すぐに結果が知れる体制は整ったけど、不安なもんな不安だよお。

 さっきから握りしめてた京平の手を、もっと強く握りしめる私だった。


「心配性だなあ、亜美は」


 ◇


「じゃあ、10時になったら30分だけ休憩ね。信次くん、合格してるといいわね」

「有難うございます。不安で仕方なくて」

「ほら、そんな顔を患者様に見せちゃダメよ。時任さんの笑顔で、救われてる患者様は沢山いるんだから」

「はい、頑張ります!」


 そうだね、患者様に不安な表情を見せちゃダメ。

 安心させたい人を、不安がらせちゃいけないね。

 笑顔が私らしさだから、いつも通り笑って接しなきゃ。


 そんな訳で、私は楽しいことを考えながら、巡回を始めた。

 今日は長谷部さんの退院もあるからね。

 異能がしまえるようになったことと、適した薬の分量が確定したみたい。

 オレンジの木は棘もあったんだけど、それも抑えることに成功したみたい。

 何より、オレンジを重たそうにしてたから、回復して良かったなあ。

 私は長谷部さんのところに向かった。


「長谷部さん、退院おめでとうございます」

「あ、時任さん。会えて良かった。遂に退院です」

「ご家族の方はいらっしゃいますか?」

「はい、主人が迎えに来てくれます」

「これからも通院頑張りましょうね」

 

 長谷部さんの旦那様、落ち着いた雰囲気で長谷部さんに寄り添う感じの人だったんだよなあ。

 毎日仕事終わりにお見舞いに来てくださっていたしね。

 あと、一緒にオレンジをもいだりね。

 それだけだったんだけど、京平はちょっと拗ねてた。


 長谷部さんはにっこり笑って、話しかける。


「これからも宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします! 旦那様がいらっしゃるまで、ゆっくり休んでてくださいね」


 長谷部さんのおっとりとした時間の流れ方、なんかすきだなあ。

 なんとなく、そんなことを考えていた。


「そうだ、時任さんにプレゼントです」

「え、何も要らないですよ!」

「受け取ってくださいよ、時任さんを描いたんです」


 長谷部さんは私に、A4サイズほどの紙に描かれた絵を渡してくれた。

 栗毛色の髪に大きな瞳をした、笑っている私だ。


「うわああ、めちゃくちゃ可愛く描いてくださってる! 有難うございます。家宝にします」


 患者様から貰う、お手紙だったり絵だったりは嬉しいな。

 看護師の立場で貰うのは恐縮だけど、心が温まるよ。


「オレンジの棘、痛かったですよね。それなのに何も言わずに、いつもオレンジをもいでくれましたよね」

「当たり前のことをしただけですよ」

「棘で怪我して、絆創膏付けてるじゃないですか。それなのに」


 あ、バレてたのか。実は最初にオレンジをもいだ時から、棘で手にいくつも擦り傷が出来ちゃって、地味に痛かったから、しばらくは手を洗って誤魔化してたんだよね。

 京平には即座にバレて、絆創膏をいくつかくれて、それを貼ってたのだけど。


「だからこれは、そのお礼も兼ねてです。私の絵を気に入ってくれたら、また依頼してくださいね」

「はい、是非依頼させてください」


 いつの日か解らないけれど、花嫁姿とか描いて欲しいなあ。

 あ、京平のタキシード姿も、有り寄りの有りだな。


 私は貰った絵を抱えて、病室を後にした。

 絵が皺にならないように、ロッカーにしまっておかなきゃ。

 私は一旦巡回セットを置いて、ロッカーに絵をしまいにいく。

 帰りに額縁を買いにいこっと。


 因みに今まで貰ったお手紙と絵は、手帳に大切に挟んでいるよ。

 たまに疲れた時、絵と手紙を見て元気を貰うんだ。

 よし、巡回を続けなきゃ。


 ◇


「よし時任さん、休憩行っといで」

「有難うございます。ああ、緊張します」

「お姉ちゃんが緊張してどうすんの?」

「そ、そうなんですけど」


 まだ信次から連絡はないなあ。海里くんとのばらと見るって言ってたしなあ。

 私は息を整える目的で、休憩室に向かった。すると。


「ああ、亜美も来たか」

「あ、京平も休憩取ったんだね」

「そ。やっぱり気になるしな」

「そうだよね。京平昨日、寝付き悪かったもんね」

「う、バレてたか。そういう亜美だって」

「だって心配だったんだもん」


 お互い、信次の結果を気にしていたんだね。

 京平ってば、口では心配要らないって言ってた癖に。バレバレだったけど。


「あ、信次からライム来たぞ」

「うん、私のとこにも!」


 結果はどうだったんだろう。私はドキドキしながら、ライムをみた。


「2人とも合格したよ、だって。良かったああああ」

「ふひー、良かった。けど、安心したら眠くなって来た」

「私も。仮眠室で寝よっか」

「そうするか。あと25分あるしな」

「あ、京平も30分休憩か」

「だって亜美に合わせたもん」


 そんな話をしながら、お互い仮眠室のベッドに潜り込んで、アラームをかけて眠りについた。

 信次、海里くん。良かったね。おめでとう。

 家に帰ったらお祝いしなきゃね。

 

 ◇


ーーピピピピ。


「ううん、もう時間か。おはよ、亜美」

「おはよ、京平」


 少しだけでも眠れて良かった。すっきりしたよ。


「亜美、カーディガンありがとな」

「京平も、白衣ありがとね」


 お互いの上着を寝る時に交換して、お互い布団のように掛けてたんだ。なんか落ち着いたよ。


「さ、この後も回診頑張るぞ」

「お互い頑張ろうね」


 そう言って、2人で内科に向かうのであった。


「ああ、深川も今から回診か。ちょうど長谷部さんのご主人いらしたから、挨拶しといで」

「そかそか。ありがと、看護師長」

「時任さんも、さっきの続きから宜しくね」

「頑張ります!」

「信次くんも合格したみたいだしね」

「あれ、私達言いましたっけ?」

「2人の顔見てれば解るわよ」


 本当私達って隠し事出来ないね。2人で笑い合った。


 ◇


 それからお互い回診と巡回が終わって、再び休憩時間に入り、休憩室でお弁当を食べていた。


「今日は唐揚げとコールスローのサンドイッチと卵焼きとかにさんウィンナーとブロッコリーかあ。今日も美味しいな」

「たまにはサンドイッチもいいでしょ?」 

「おう、めちゃ美味いよ」


 ママレードジャムの為に食パンを買って来たのは良いものの、ママレードジャムは1日で無くなって、食パンが余っていたからね。

 美味しい食パンだから、無駄にしたくなくってさ。


「亜美、料理段々上手くなってってるよな」

「それなら嬉しいな」

「亜美が早番の時、それも楽しみの一つだよ」

「へへ、ありがとう」


 京平が喜んでくれて良かった。頑張って作った甲斐があるってもんだね。

 お弁当作るのも、最近楽しくなって来たんだ。

 だから、本当は中番や遅番の時も作りたいけど、京平が許してくれないからなあ。

 亜美は無理すんな、だって。京平が作ってた時は、毎日のように作ってたのにな。

 それだけ大変だったのかな?


「ごちそうさま」

「私もごちそうさま。ねえ、また仮眠室で寝よっか?」

「おう、正直まだ眠いもんなあ」


 そんな訳で昼休憩も、仮眠室で寝ることにした。

 ちょうどベッドも隣同士で空いてたから、そこで寝ることにした。


「ほら、亜美。俺の白衣な」

「ありがと。私のカーディガンも渡しとくね」

「ありがとな。おやすみ、亜美」

「おやすみ、京平」


 おやすみ、の声を聞いてすぐ、京平の寝息が私の耳元に届いた。

 昨日は寝付けてなかったもんね。ずっともぞもぞしちゃってさ。

 身体をポンポンしたら、少し落ち着いてたよね。ふふ、寝息も何だか愛しいな。


 おやすみ。良い夢見れますように。

京平「すー。すー」

亜美「相当眠たかったんだね、京平」

作者「改めて信次、合格おめっと!」

信次「次は大学入試頑張るよ!」

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