小さいハンバーグ(京平目線)
亜美は俺と話している内に、少し疲れていたからか、すやすやと眠ってしまった。
疲れが溜まっていたんだろうな。俺は亜美にコートを掛けて、頭をポンポンする。
眠っている亜美が愛おしくて、つい顔がほころんでしまう。
いつだって亜美は特別だよ。
だけど、普段より疲れていたんだろうな。
亜美にしては珍しく、いびきをかきながら眠りに着いていた。
仮眠室で寝かせるか。俺は亜美を仮眠室まで運んだ。
仮眠室は休憩室のすぐ隣にあって、勤務してる人が休憩時間であれば、誰でも眠れる場所だ。
亜美は運ばれたことに気付かず、気持ちよさそうに眠っている。
こうやって、いつも頑張りすぎるんだよな。そこも愛してるんだけどさ。
「無理すんなよ、バカ」
眠る亜美を眺めながら、俺は小さく呟いた。
◇
「亜美、そろそろ起きな」
「むにゃむにゃ。あれ、ここは…….」
「仮眠室。いつもより疲れてそうだったからな」
「嘘、全然気付かなかった」
「それだけ疲れていたんだろ。無理すんなよ」
「ありがとね。おかげで気持ち良く眠れたよ」
亜美はむっくりと起き上がって、内科に向かう。
「ありがとね、京平」
けど、完全に寝ぼけてるな。お弁当箱を忘れていったよ。
まあいいや、もう俺帰るし、一緒に持ってくか。一応、亜美のライムにもその旨を送る。
家に帰ったら飯作って、勉強して、ケーキとママレードジャム作って過ごす予定だけど、本当はもっと亜美との時間が欲しくて仕方がない
こうやって時間をいくら作っても、足りない。もっと欲しくなる。
亜美といる時の自分が、1番自分らしく居られるから。
おっと、仮眠室でボケボケしすぎちまった。早く家に帰ろう。信次達、お腹空いてるだろうな。
今日は既にハンバーグを焼くだけにしてあるから、すぐに作らないとだ。
かなり大きいの作ったんだけど、また小さい言うんだろうなあ。
◇
「ただいま」
「お帰り、兄貴」
「京平、お帰り」
よく考えたら、今日はのばらさんも夜勤だから、男軍団しか居ないのか。
ハンバーグ作っといて良かった。亜美達が居ないと、信次結構文句言うからなあ。少ないって。
育ち盛りだから、沢山食べたいんだろうけど。
「すぐご飯作るからな」
「ハンバーグでしょ? 楽しみ」
「もうチェック済みか。ちょい待ってろよ」
俺は手を洗った後、エプロンと三角巾を身に纏ってハンバーグを焼き始めた。
その間にブロッコリーも切って、茹でて、と。
そういえばお父さんは、ハンバーグどれだけ食べられるかな?
解らなかったから、俺と同じサイズにしちゃったけど。
足りなそうだったら、お弁当用のハンバーグも焼こうかな。
いやあ、しかし信次のハンバーグかなりデカいな。これならあいつも文句言わないだろう。
よーし、焼き上がったぞ。俺と亜美とのばらさんのはまだ焼けてないから、まずは信次とお父さんに食べてて貰おう。
「ほい、お待たせ」
「あ、やっと普通サイズになったね」
「かなりデカいぞ」
「だってハンバーグ大好きだもん」
「お父さんは足りる?」
「私のも充分すぎるくらいだよ、ありがとな」
「俺はまだ亜美達の分焼くから、先食べててな」
と、キッチンに戻ろうとしたら。
「兄貴と食べたいし、僕は待ってるよ」
「私も京平と食べたいよ」
「へへ、ありがとな。ちょっと待っててな」
それなら、俺の分だけ先に焼こうかな。信次達の気持ちは嬉しいし、待たせたくないし。
本当に、家族っていいな。救われてるよ。
よーし、焼けて来たな。俺はその間に、エプロンと三角巾を椅子に掛けて。
その後はハンバーグを盛り付けて、と。
「お待たせ、食べよっか」
「「「いただきます」」」
「うん。やっぱり兄貴のハンバーグ美味しい! みるみる内に無くなるから、まだ小さい説あるな」
「そろそろフライパン1つサイズになるぞ?」
食べ盛りの弟は、予想以上に食べるなあ。
最近背も伸びてるし、それだけ栄養が必要なんだろうな。
大きくなれよ、信次。
でも、栄養はそこまで必要じゃない亜美やのばらさんも、大きなハンバーグ食べたがるんだよな。
単に食欲の問題かな? 元気でいいな。
俺はもう脂っこいのは、そんな食べられないなあ。思った以上に衰えるのが早くて悲しくなるよ。
「ご飯おかわりしよ!」
◇
ご飯が終わった後に、俺は亜美とのばらさんのハンバーグを焼いて、一息入れるためにコーヒーを淹れた。食後のコーヒー、美味いんだよな。
信次も大学入試を視野に入れて、食後は勉強をしていた。飛び級試験は、よっぽど大丈夫だと思うしな。
「そういえば信次、大学どこ受けるんだ?」
「やっぱ東都大かな。兄貴の母校だし」
「併願はどこにするんだ?」
「強いていうなら、京王かなあ。けど、そんなうち余裕ないでしょ?」
「お金の心配はいらないから、好きなとこ受けるんだぞ」
俺が稼いでいるから、全く問題ないしな。
弟には、そう言う面で苦労させたくなかった。
「大学入ったら、僕もバイト増やさなきゃなあ」
「ああ、のばらさんとのデート費用?」
「や、学費を少しでも入れたいなあって。僕の学費だもん」
「亜美も学生時代はかなり苦労してたし、無理すんなよ」
「解ってるよ。勉強に支障がないように、でしょ?」
残業は解禁されたし、もっと働かなきゃだな。
そんなこと、気にさせたくない。
医学部は、そんな暇ないくらい詰め詰めだし。
信次に、無理させたくなかった。
「そんな京平も無理するなよ、私もいるんだし」
「お父さん、そんな無理はしないさ」
「兄貴のことだから、仕事増やしそう」
参ったな。全員に見抜かれてるよ。俺は何も喋れなくなった。
「僕のことなんだから、兄貴は無理しないでよ」
「そうだぞ。京平は双極性障害の治療中なんだし」
「はー、頼りなくてすまんな」
「もう充分兄貴は頑張ってるよ」
「いつもありがとな」
俺が無理をしようとすると、即座に止めてくれる優しい家族に恵まれて良かった。
そうだよな、病気の治療の為にも無理は良くないよな。
大切な人を、いざって時に守れなくもなるし。
「心が温かくなったから、オレンジケーキとママレードジャム作ろ」
「あ、ケーキ焼けたら食べたい」
「まだ食べるのか、信次」
「余裕だよ」
全く、どれだけ育つつもりなんだ、信次のやつ。
俺は低糖質のスポンジケーキを作る。砂糖を控えめにして、卵白を良く泡立ててふわふわにするんだ。
そこに薄力粉を入れて、ゴムベラでさっくり混ぜて、バターとバニラエッセンスを入れて、焼いて。
その間に、中に挟むのと飾るオレンジを切り分けておこう。
甘いオレンジだから、生でも美味しいからな。
ちょっとオレンジをつまみ食い。うん、甘酸っぱくて美味しいや。
「コーヒー淹れよっと」
「準備がいいな、信次。ほら、オレンジ」
俺は信次の口に、切り分けたオレンジを放り込む。
「うん。このオレンジ美味しいね」
「もうすぐ焼けるから待ってろよ」
◇
こうして出来上がったケーキを、8等分に切り分けてお父さんと信次に食べさせた。
お父さん、甘いものは別腹っていって、2つも食べてくれたよ。
俺は亜美と食べようかな。コーヒーは有難く頂くけど。
ママレードジャムもいい感じに煮えて来た。
明日の朝はトーストにして、ママレードジャムで食べたいね。
信次にもジャム作ることは伝えたしな。
信次もお父さんも、もう風呂に入って、部屋に戻っていった。
俺もジャムが煮えたら、ソファで勉強しながら亜美を待とうかな。
亜美が喜んでくれたらいいな。
「よし、ジャム完成」
後はジャムを熱い内に瓶にうつして、と。
粗熱が取れるまではキッチンに置いておこう。
んー、疲れた。今日は異能の内服薬に関する勉強をしようかな。
長谷部さんのように、異能の治療をしなかったがために覚醒する患者様は、今後も出るだろうしな。
だけど、段々眠たくなって来た。疲れてんのかな?
昼間も寝たし、コーヒーも飲んだのになあ。
ダメだ、意識が遠のいていく。
俺はソファに横たわった。
◇
「京平、ただいま。こんなとこで寝ちゃダメだよ」
「むにゃ、おはよ。亜美」
いけね。亜美が帰ってくるまで、気持ち良く寝ちまったよ。
いつも亜美に勉強しながら寝るなよ、って言ってるのに。
「待っててくれたんだね。ありがと」
でも亜美は俺を責めることなく、優しく抱きしめてくれた。
また俺は、亜美の優しさに助けられてる。
「今日のご飯は何かな?」
「ハンバーグだよ」
「わーい、嬉しいな。すぐ食べるから待っててね」
「慌てて食べなくても待ってるよ」
亜美の食べてる姿を見るの、すきだからさ。
俺は亜美のハンバーグをレンジにかけて、温め直した。
亜美はその間に、手を洗いにいったよ。
そっか、帰って来てすぐ俺を起こしてくれたんだな。
ハンバーグが温まり終わると同時に、亜美が戻ってきた。
「はい、お待たせ」
「わーい、いただきます!」
俺も食卓に着いて、亜美を眺める。
亜美は口いっぱいにハンバーグを放り込んで、満面の笑みを浮かべて語り出す。
「玉ねぎとひき肉がいい塩梅で絡み合って、最高のハーモニーを奏でているよね。しかも、とってもジューシーで最高!!」
「だから、ゆっくり食べなって」
亜美は好きな物を食べてる時って、目をキラキラと輝かせるんだよな。
それがまた可愛くて仕方ないんだけど。
昨日も可愛かったけど、今日も可愛くて仕方ない。
思わず、俺も笑った。
「京平の笑顔すきだな、私」
「そっか、ありがとな」
「そして、ハンバーグはやっぱり小さいね?」
「前より大きくしてるからな?」
みるみる内に無くなるハンバーグに、俺はまた笑った。
亜美がいると、いつも笑顔になるよ。
「ふふ、また笑ったね」
「亜美といると、自然に笑えるよ」
「一緒に笑い合えたらいいね」
そういって亜美は笑ってくれた。
こんなに弱い俺だけど、亜美と笑って生きていきたいな。
「ごちそうさまでした」
「亜美、こっちおいで」
「ん? お風呂入らないの?」
風呂まで待ってられないよ。俺はソファで亜美を抱きしめて、キスをする。
病院で眠った亜美を見た時から、抱きしめたくてたまらなかったんだ。
さっき抱きしめられた時、とっくに心のタガは外れていたんだ。
亜美、愛してる。世界中の誰よりも。
「生理終わったから、お風呂入ったらまったりしようね」
「ありがとな。でも、しばらくこうしてたいな」
「もう。あとちょっと、ね」
京平「亜美、可愛すぎる」
亜美「完全にスイッチ入ってるね」
京平「亜美のせいだぞ」
亜美「私もこういう時間、すきだよ」