亜美のすきなもの(京平目線)
それから家に戻った俺達は、お風呂に入って、お互い我を忘れるほどキスをした。
昼頃から寝ちゃって目が冴えていたのもあるけど、それ以上にお互いがお互いを必要としているから。
何度も抱きしめて、何度もキスして、お互いの愛を確かめ合う。
「京平、愛してる」
「俺も」
もう言葉なんていらなかった。
抱きしめ合うだけで、亜美の気持ちは伝わっていたから。
こんなに愛しい人に会えて良かった。
亜美だったから、俺はこうして笑っていられるんだよ。
こんな風に時間を過ごして、お互い疲れて眠る。
「おやすみ、亜美」
「おやすみ、京平」
◇
「ふう、まだ亜美は起きてないな」
すっかり体調の回復した俺は、今日の亜美とのばらさんの誕生日会の料理の下拵えをしておく。
時刻は4時。その後は、亜美にバレないように寝なくては。
亜美は毎年誕生日を忘れるから、今日は亜美を早番にしてもらうよう、看護師長に俺が説得したしな。
今年も忘れてるんだろうな。そこも可愛いけれど。
分担は、亜美の好きなものは俺、のばらさんの好きなものは信次、飾り付けはお父さんに決まってる。
ケーキは迷ったけど、1人一個ずつ作る事になった。
亜美は生クリームたっぷりのケーキが好きだから、苺も生クリームも買っておいたし、準備万端だ。
うし、下拵え完了。もう一眠りしてこようっと。
亜美を抱きしめたら、すぐ眠れるしな。
俺はこっそりと部屋に戻った。
◇
「京平、朝だよ。おはよ」
「ふわあ。おはよ、亜美」
毎朝のことだけど、朝、亜美に起こして貰えるって幸せだな。
俺は耳栓を外して、亜美を抱きしめた。
幸せだなあ。愛しいなあ。
「もう、しょうがないなあ」
亜美も、俺を抱きしめてくれた。
「ありがとな。亜美を抱きしめると、癒されるよ」
「えへへ、私も」
亜美の温もりが伝わって来て、今日も頑張れるよ。
亜美、ずっと傍に居ろよ。亜美がいるから、俺は笑って生きていけるよ。
今日はお誕生日おめでとう。びっくりさせたいからまだ言えないんだけど。
「体調は大丈夫?」
「亜美のおかげで、バッチリだよ」
亜美、いつもありがとな。亜美が居なかったら、今こんなふうに笑えてないよ。
抱きしめ合った俺達は、食卓に向かう。
時間がいくらあっても足りない。
すぐにタイムリミットが来てしまう。
歯痒いけど、仕事も支度もあるし仕方ないよな。
「おはよ、兄貴」
「おはよう、京平」
「おはよ。信次、お父さん」
でも、家族が笑っておはようをくれるから、また頑張れるよ。
のばらさんは休みだから、まだ寝てるのかな?
信次に聞いてみよう。
「のばらさんはまだ寝てるのかな?」
「生理が辛いみたい。しばらく横になるって。昨日も無理してたようで」
昨日お酒飲んでたのは、お腹が痛くて、かあ。
絶対逆効果だぞ、のばらさん!
「亜美は大丈夫か?」
「うん、昨日私も寝たしね。京平のおかげで休めたよ。ありがとね」
「それなら良かった」
「さ、ごはん食べよ」
「「「「いただきます」」」」
信次、今日もお味噌汁赤味噌にしてくれている。
こんな細かな気遣いに、すごく救われてるよ。
「久々に信次のお味噌汁飲んだけど、やっぱり美味しいなあ」
「ありがとね。亜美」
そして、亜美も赤味噌好きみたい。
ちょっと嬉しいや。
お墓参りの日には、愛知のおすすめグルメでも食べさせてあげたいな。
◇
「「いってきまーす」」
「「いってらっしゃーい」」
牛ステーキにオムライスにオニオンコンソメスープにポテトサラダにケーキ。
亜美、喜んでくれたらいいな。
「京平、何ニヤついてるの?」
「ん。内緒」
「ぶー!」
まだなんの準備も出来てないから、喋られないのが辛いなあ。
喜ばせる自信はあるから、夜まで待っててな、亜美。
「そういえば今日の診察、映出さん来るなあ」
「ちゃんと来ればいいんだけどね」
「大丈夫、ライムしといたし」
映出さんは、努力しないときは、本当に努力しないから、常にケツを叩いておかないと。
健康維持のためにも、定期的な通院はしてもらいたいしな。
「よし、今日も頑張るぞ!」
「お互い頑張ろうな」
病院に着いた俺達は、お互い着替えて、ナースステーションに向かう。
今日は誰が俺の担当になるかな?
◇
「今日の担当は亜美か。宜しくな」
「サポートがんばるよ!」
看護師長、今日は時任さんの特別な日だから深川の担当ね。だなんて。
でも、亜美は鈍いから気付かないだろうけど。
さっき不思議そうな顔してたもんな。
「看護師長、私の特別な日って言ってたけど、なんだろう」
「なんだろうな?」
「あ、解った! 生理終わりそうだから?」
「特別でもなんでもないだろ、それ」
体調良いなら安心なんだけど、それは全然関係ないぞ、亜美。
と、亜美の大ボケに構ってないで、仕事に集中せねば。過集中だ。
「13番の患者様、23番診察室へどうぞ」
亜美が患者様を呼んでくれた。亜美の声って、なんか元気を貰えるんだよな。
「ども、深川先生。あの時ぶりですね」
「来てくれて良かったです、映出さん」
「やるべきことがありますからね」
「通院を最優先にしてくださいね」
「依頼がないと頑張れない性質なんです」
そこは相変わらずかあ。どんなことよりも、優先してほしいんだけどな、生きる為にも。
「ヘモグロビンA1cは8.0。入院していた頃よりは下がってますが、まだ高いですね」
「一応走ってたんですが、夜中に間食や飲酒してましたからねえ。夜中だからインスリン打つのも怖くて」
「確かに低血糖は怖いですが、高いのも怖いですからね。夜中の間食や飲酒は控えてくださいね」
定期的に仕事があるようで安心したけど、この値で夜中に間食したり呑んだりはいただけないな。
「夜中の一杯が美味いんですよ」
「でしたら、カロリー計算出来るアプリを五十嵐病院でも出してるので、糖分を算出してインスリン注入してくださいね」
「ふー、糖尿病って大変ですね」
「生きる為ですよ、映出さん」
厳しく言うけど、俺は映出さんに生きててほしいからさ。
「頑張るしかないか。死にたくはないし」
「その息です。インスリンはまだ残ってますか?」
「そんなに残ってないかな」
「では、先月より少し多めに出しますね」
「有難うございます。またご飯にでも行きましょうね」
こうして映出さんの診察は終わった。
生きることに集中してくれたら嬉しいな。
◇
「よし、午前の診察は終わりだな」
「お腹減ったー!」
ふー、何事もなく進んで良かった。
俺達は休憩室まで2人で歩く。
「今日のお弁当は何かな?」
「美味しいの作ったよん」
22歳になった亜美のお弁当は、どんなのかな?
何気亜美のお弁当が、最近の楽しみの一つではあるんだよな。
いつもありがとな、亜美。
休憩室に行くと、落合くんと日比野くんが亜美を手招きしていた。
「あ、亜美、こっちですよ」
「お疲れ、亜美」
「おっつん。あれ、何で2人ともソワソワしてるの?」
まずい。この2人には口止めしてなかった!
俺は俺のプライドと、亜美の気持ちを優先して、伝えたかったことを告げる。
「お誕生日おめでとう、亜美」
「なんだ、深川先生に先越されたぜ。おめでと、亜美」
「おめでとう、亜美」
「え、私誕……誕生日か! 皆ありがとね」
一瞬「誕生日じゃないよ」って言おうとしてなかったか、亜美?
どこまでも鈍感な亜美である。
「ほい、プレゼント。俺の時も貰ったしな」
「蓮、ありがとね」
「私からもプレゼントです。素敵な1日になりますように」
「友もありがと!」
「俺は家で渡すよ」
「京平もありがとね。あ、開けてもいい?」
「いいぜ。喜んでくれたらいいな」
「どうぞどうぞ」
落合くんと日比野くんは、何を亜美にプレゼントしたんだろう。
亜美はまず、落合くんのプレゼントを開けた。
「あ、ケーキの引換券だ! しかも、パティスリーイケマエの!」
「誕生日だし、沢山ケーキ食えよ」
「うん、京平と食べに行くね」
「お、おう」
うちの亜美が鈍感で申し訳ない、落合くん。
ああ、あからさまにがっくり来てんじゃん。
俺としては一安心だけど、良心に返ると申し訳ない気持ちにはなるな。
まあ、亜美は俺が1番だから仕方ないけど。
「次は僕のですね」
「どれどれ。あ、ボールペンだ。ピンクので可愛いや」
「僕もボールペン貰いましたからね。お礼ですよ」
ふーん、ボールペンかあ。
そのボールペンは、これから亜美とずっと一緒にいるんだよなあ。
やべえ、ボールペンに嫉妬しそうになった。
俺だって、亜美が担当になってくれないと一緒にいられないのに。ずるいぞ、ボールペン。
「京平、何イライラしてるの?」
「嫉妬してるだけ。気にすんな」
「友は友達だから大丈夫だよ」
「そうじゃないんだけど、まあいいか」
俺としたことが、ボールペンに嫉妬するなんて情けない。
「このこは、まるみちゃんって名前にしよう」
「ボールペンに名前つけるのか?」
「可愛いでしょ?」
「亜美らしいですねえ」
確かに亜美らしいな。確か消しゴムには、「しろた」って名付けてたし。
「あー、誕生日だって知ってたら、今日のお弁当、オムライスにすれば良かったな」
「亜美の弁当は何でも美味いから大丈夫」
それに夜、俺がオムライス作るしな。楽しみにしとけよ。
「そろそろ昼飯にしようぜ」
「そうですね」
「「「「いただきます」」」」
今日の亜美の弁当は、梅唐揚げに卵焼きにコールスローにかにさんウインナーにプチトマト。ご飯には、桜でんぶでハートが描かれてる。
ライムで嬉しかったって言ったら、手間かかんのに毎回やってくれるようになったんだよな。
テンション上がるし、いつもありがとな、亜美。
「今日も美味しいよ。亜美」
「えへへ、それなら良かった」
「確かに美味そうだな、亜美の唐揚げもーらい!」
「ああ、蓮に唐揚げ取られた!」
「ふはいは、はひはほは」
落合くん、食べながら喋るんじゃないよ。
「代わりに僕のミートボールあげますよ」
「わーい! ありがとね、友」
日比野くんはミートボールを3つ、亜美のお弁当箱にいれる。
ん、待て? 完全に間接キスじゃねえか!
流石に看過できねえぞ。こうなったら。
「で、そのミートボールは俺がもらう、と」
「うぎゃ、ミートボールも取られた!」
「まだ僕口付けてないから、間接キッスじゃないのに」
なぬ? はやとちりしてしまったな。ま、いっか。
「京平の唐揚げ、一個没収するもん」
ごめん亜美、唐揚げ全部食べちゃった。美味かったぞ。
「ぶー!」
亜美「誕生日なのに、お弁当のおかず取られまくった!」
蓮「美味かったぞ。ありがとな」
亜美「許可してないのにー!」