表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お誕生日会
160/238

亜美のすきなもの(京平目線)

 それから家に戻った俺達は、お風呂に入って、お互い我を忘れるほどキスをした。

 昼頃から寝ちゃって目が冴えていたのもあるけど、それ以上にお互いがお互いを必要としているから。

 何度も抱きしめて、何度もキスして、お互いの愛を確かめ合う。


「京平、愛してる」

「俺も」


 もう言葉なんていらなかった。

 抱きしめ合うだけで、亜美の気持ちは伝わっていたから。

 こんなに愛しい人に会えて良かった。

 亜美だったから、俺はこうして笑っていられるんだよ。


 こんな風に時間を過ごして、お互い疲れて眠る。


「おやすみ、亜美」

「おやすみ、京平」


 ◇


「ふう、まだ亜美は起きてないな」


 すっかり体調の回復した俺は、今日の亜美とのばらさんの誕生日会の料理の下拵(したごしら)えをしておく。

 時刻は4時。その後は、亜美にバレないように寝なくては。

 亜美は毎年誕生日を忘れるから、今日は亜美を早番にしてもらうよう、看護師長に俺が説得したしな。

 今年も忘れてるんだろうな。そこも可愛いけれど。

 分担は、亜美の好きなものは俺、のばらさんの好きなものは信次、飾り付けはお父さんに決まってる。

 ケーキは迷ったけど、1人一個ずつ作る事になった。

 亜美は生クリームたっぷりのケーキが好きだから、苺も生クリームも買っておいたし、準備万端だ。


 うし、下拵(したごしら)え完了。もう一眠りしてこようっと。

 亜美を抱きしめたら、すぐ眠れるしな。

 俺はこっそりと部屋に戻った。


 ◇


「京平、朝だよ。おはよ」

「ふわあ。おはよ、亜美」


 毎朝のことだけど、朝、亜美に起こして貰えるって幸せだな。

 俺は耳栓を外して、亜美を抱きしめた。

 幸せだなあ。愛しいなあ。


「もう、しょうがないなあ」


 亜美も、俺を抱きしめてくれた。


「ありがとな。亜美を抱きしめると、癒されるよ」

「えへへ、私も」


 亜美の温もりが伝わって来て、今日も頑張れるよ。

 亜美、ずっと傍に居ろよ。亜美がいるから、俺は笑って生きていけるよ。

 今日はお誕生日おめでとう。びっくりさせたいからまだ言えないんだけど。


「体調は大丈夫?」

「亜美のおかげで、バッチリだよ」


 亜美、いつもありがとな。亜美が居なかったら、今こんなふうに笑えてないよ。


 抱きしめ合った俺達は、食卓に向かう。

 時間がいくらあっても足りない。

 すぐにタイムリミットが来てしまう。

 歯痒いけど、仕事も支度もあるし仕方ないよな。


「おはよ、兄貴」

「おはよう、京平」

「おはよ。信次、お父さん」


 でも、家族が笑っておはようをくれるから、また頑張れるよ。

 のばらさんは休みだから、まだ寝てるのかな?

 信次に聞いてみよう。


「のばらさんはまだ寝てるのかな?」

「生理が辛いみたい。しばらく横になるって。昨日も無理してたようで」


 昨日お酒飲んでたのは、お腹が痛くて、かあ。

 絶対逆効果だぞ、のばらさん!


「亜美は大丈夫か?」

「うん、昨日私も寝たしね。京平のおかげで休めたよ。ありがとね」

「それなら良かった」

「さ、ごはん食べよ」

「「「「いただきます」」」」


 信次、今日もお味噌汁赤味噌にしてくれている。

 こんな細かな気遣いに、すごく救われてるよ。


「久々に信次のお味噌汁飲んだけど、やっぱり美味しいなあ」

「ありがとね。亜美」


 そして、亜美も赤味噌好きみたい。

 ちょっと嬉しいや。

 お墓参りの日には、愛知のおすすめグルメでも食べさせてあげたいな。


 ◇


「「いってきまーす」」

「「いってらっしゃーい」」


 牛ステーキにオムライスにオニオンコンソメスープにポテトサラダにケーキ。

 亜美、喜んでくれたらいいな。


「京平、何ニヤついてるの?」

「ん。内緒」

「ぶー!」


 まだなんの準備も出来てないから、喋られないのが辛いなあ。

 喜ばせる自信はあるから、夜まで待っててな、亜美。


「そういえば今日の診察、映出(うつしで)さん来るなあ」

「ちゃんと来ればいいんだけどね」

「大丈夫、ライムしといたし」


 映出(うつしで)さんは、努力しないときは、本当に努力しないから、常にケツを叩いておかないと。

 健康維持のためにも、定期的な通院はしてもらいたいしな。


「よし、今日も頑張るぞ!」

「お互い頑張ろうな」


 病院に着いた俺達は、お互い着替えて、ナースステーションに向かう。

 今日は誰が俺の担当になるかな?


 ◇


「今日の担当は亜美か。宜しくな」

「サポートがんばるよ!」


 看護師長、今日は時任さんの特別な日だから深川の担当ね。だなんて。

 でも、亜美は鈍いから気付かないだろうけど。

 さっき不思議そうな顔してたもんな。


「看護師長、私の特別な日って言ってたけど、なんだろう」

「なんだろうな?」

「あ、解った! 生理終わりそうだから?」

「特別でもなんでもないだろ、それ」


 体調良いなら安心なんだけど、それは全然関係ないぞ、亜美。

 と、亜美の大ボケに構ってないで、仕事に集中せねば。過集中だ。


「13番の患者様、23番診察室へどうぞ」


 亜美が患者様を呼んでくれた。亜美の声って、なんか元気を貰えるんだよな。

 

「ども、深川先生。あの時ぶりですね」

「来てくれて良かったです、映出(うつしで)さん」

「やるべきことがありますからね」

「通院を最優先にしてくださいね」

「依頼がないと頑張れない性質なんです」


 そこは相変わらずかあ。どんなことよりも、優先してほしいんだけどな、生きる為にも。


「ヘモグロビンA1cは8.0。入院していた頃よりは下がってますが、まだ高いですね」

「一応走ってたんですが、夜中に間食や飲酒してましたからねえ。夜中だからインスリン打つのも怖くて」

「確かに低血糖は怖いですが、高いのも怖いですからね。夜中の間食や飲酒は控えてくださいね」


 定期的に仕事があるようで安心したけど、この値で夜中に間食したり呑んだりはいただけないな。

 

「夜中の一杯が美味いんですよ」

「でしたら、カロリー計算出来るアプリを五十嵐病院でも出してるので、糖分を算出してインスリン注入してくださいね」

「ふー、糖尿病って大変ですね」

「生きる為ですよ、映出(うつしで)さん」


 厳しく言うけど、俺は映出(うつしで)さんに生きててほしいからさ。


「頑張るしかないか。死にたくはないし」

「その息です。インスリンはまだ残ってますか?」

「そんなに残ってないかな」

「では、先月より少し多めに出しますね」

「有難うございます。またご飯にでも行きましょうね」


 こうして映出(うつしで)さんの診察は終わった。

 生きることに集中してくれたら嬉しいな。


 ◇


「よし、午前の診察は終わりだな」

「お腹減ったー!」


 ふー、何事もなく進んで良かった。

 俺達は休憩室まで2人で歩く。


「今日のお弁当は何かな?」

「美味しいの作ったよん」


 22歳になった亜美のお弁当は、どんなのかな?

 何気亜美のお弁当が、最近の楽しみの一つではあるんだよな。

 いつもありがとな、亜美。


 休憩室に行くと、落合くんと日比野くんが亜美を手招きしていた。


「あ、亜美、こっちですよ」

「お疲れ、亜美」

「おっつん。あれ、何で2人ともソワソワしてるの?」


 まずい。この2人には口止めしてなかった!

 俺は俺のプライドと、亜美の気持ちを優先して、伝えたかったことを告げる。


「お誕生日おめでとう、亜美」

「なんだ、深川先生に先越されたぜ。おめでと、亜美」

「おめでとう、亜美」

「え、私誕……誕生日か! 皆ありがとね」


 一瞬「誕生日じゃないよ」って言おうとしてなかったか、亜美?

 どこまでも鈍感な亜美である。


「ほい、プレゼント。俺の時も貰ったしな」

「蓮、ありがとね」

「私からもプレゼントです。素敵な1日になりますように」

「友もありがと!」

「俺は家で渡すよ」

「京平もありがとね。あ、開けてもいい?」

「いいぜ。喜んでくれたらいいな」

「どうぞどうぞ」


 落合くんと日比野くんは、何を亜美にプレゼントしたんだろう。

 亜美はまず、落合くんのプレゼントを開けた。


「あ、ケーキの引換券だ! しかも、パティスリーイケマエの!」

「誕生日だし、沢山ケーキ食えよ」

「うん、京平と食べに行くね」

「お、おう」


 うちの亜美が鈍感で申し訳ない、落合くん。

 ああ、あからさまにがっくり来てんじゃん。

 俺としては一安心だけど、良心に返ると申し訳ない気持ちにはなるな。

 まあ、亜美は俺が1番だから仕方ないけど。


「次は僕のですね」

「どれどれ。あ、ボールペンだ。ピンクので可愛いや」

「僕もボールペン貰いましたからね。お礼ですよ」


 ふーん、ボールペンかあ。

 そのボールペンは、これから亜美とずっと一緒にいるんだよなあ。

 やべえ、ボールペンに嫉妬しそうになった。

 俺だって、亜美が担当になってくれないと一緒にいられないのに。ずるいぞ、ボールペン。


「京平、何イライラしてるの?」

「嫉妬してるだけ。気にすんな」

「友は友達だから大丈夫だよ」

「そうじゃないんだけど、まあいいか」


 俺としたことが、ボールペンに嫉妬するなんて情けない。

 

「このこは、まるみちゃんって名前にしよう」

「ボールペンに名前つけるのか?」

「可愛いでしょ?」

「亜美らしいですねえ」


 確かに亜美らしいな。確か消しゴムには、「しろた」って名付けてたし。


「あー、誕生日だって知ってたら、今日のお弁当、オムライスにすれば良かったな」

「亜美の弁当は何でも美味いから大丈夫」


 それに夜、俺がオムライス作るしな。楽しみにしとけよ。


「そろそろ昼飯にしようぜ」

「そうですね」

「「「「いただきます」」」」


 今日の亜美の弁当は、梅唐揚げに卵焼きにコールスローにかにさんウインナーにプチトマト。ご飯には、桜でんぶでハートが描かれてる。

 ライムで嬉しかったって言ったら、手間かかんのに毎回やってくれるようになったんだよな。

 テンション上がるし、いつもありがとな、亜美。


「今日も美味しいよ。亜美」

「えへへ、それなら良かった」

「確かに美味そうだな、亜美の唐揚げもーらい!」

「ああ、蓮に唐揚げ取られた!」

「ふはいは、はひはほは」


 落合くん、食べながら喋るんじゃないよ。


「代わりに僕のミートボールあげますよ」

「わーい! ありがとね、友」


 日比野くんはミートボールを3つ、亜美のお弁当箱にいれる。

 ん、待て? 完全に間接キスじゃねえか!

 流石に看過できねえぞ。こうなったら。


「で、そのミートボールは俺がもらう、と」

「うぎゃ、ミートボールも取られた!」

「まだ僕口付けてないから、間接キッスじゃないのに」


 なぬ? はやとちりしてしまったな。ま、いっか。


「京平の唐揚げ、一個没収するもん」


 ごめん亜美、唐揚げ全部食べちゃった。美味かったぞ。


「ぶー!」

亜美「誕生日なのに、お弁当のおかず取られまくった!」

蓮「美味かったぞ。ありがとな」

亜美「許可してないのにー!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ