表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お誕生日会
159/238

鬱症状(京平目線)

 それから信次にプレゼントを渡した後は、早めに亜美と風呂に入って、早めに布団に潜る。

 今日は久々に仮眠室を使うくらい怠かったしな。亜美には内緒だけど。

 お父さんが亜美の代わりに洗い物をしてくれたから、今日も亜美と一緒に眠れるよ。


 明日は久々に亜美とデート。

 ケーキ食べたり夜景見たり、楽しめたらいいな。

 ん、なんだか亜美がソワソワしてる。

 亜美、生理で辛いんだし、すぐ寝たらいいのに。


「亜美、ソワソワしてるけど、早く寝た方がいいぞ」

「いやあ、明日デートだし、ワクワクが止まらなくて」

「遠足前の小学生かよ。可愛いな」


 俺は亜美を抱きしめた。

 俺とのデートを楽しみにしてくれて、すごく嬉しいよ。

 いつも俺、亜美に救われてる。

 ふわあ、安心したら眠たくなってきたな。

 

「先に寝るよ。おやすみ」

「おやすみ、京平」


 俺は亜美を足で挟んで、眠りについた。


 ◇


「う、ゔうん」


 早朝、身体の怠さで目を覚ました。

 身体が思うように動かないばかりか、しきりに涙が出てくる。

 俺なんか死ねばいいのに、という単語ばかりが脳裏に過ぎる。


 双極性障害のせいで普通に勤務出来てないし、残業すら出来ない。

 いつだって誰かに迷惑を掛けながら生きてる。

 昨日だって、俺が残業出来ないから、院長が休みの予定なのを出勤させちまって。

 院長も文句の一つでも言えばいいのに、よく頑張ったな、の一言で。

 気まで使わせてる。こんな迷惑かけるばかりの俺なんて、死ねばいいのに。

 何よりこんなに迷惑かけてんのに、何鬱症状出してんだよ。


「京平、どうしたの?」

「ああ、亜美。嫌な事ばっかり考えちまうし、身体も動かなくて」


 亜美を心配させたくはないんだけど、亜美に嘘は吐きたくないから、俺は症状だけ亜美に伝えた。

 心の中のものを全部ぶちまける勇気が無いのは、俺が弱いからだけど。

 ただ、自分の現在の状況は解っていた。


「これ鬱症状だわ。寝るしかないんだけど、寝付けそうになくて。今日は出かけられそうにないや。あんなに楽しみにしてたのに、ごめんな、亜美」


 亜美に無理すんな、って言った手前、俺も無理はしちゃいけないよな。

 そもそも身体が動かないから、どこにも行けないんだけどさ。

 ダメだ、亜美に申し訳なくて、涙が止まらない。

 

「謝らないで。無理しないでくれてありがとね」

「亜美だけでも遊んでこいよ。折角の休みなんだし」

「じゃあ、好きに過ごすよ。傍にいさせて」


 亜美は俺を抱きしめてくれた。

 俺は亜美の胸の中で、うずくまって泣いた。

 正直、かなり落ち着いてきたよ。

 亜美の温もりが俺に伝わって来て、嫌な事ばかり浮かぶ心がほぐれた気がする。


「俺、生きててもいいのかな?」

「当たり前でしょ。ずっと傍にいてよ」


 今度は亜美が泣き出した。

 俺の暗い心が、亜美を傷付けてしまった。

 亜美っていう太陽がいるのに、俺、輝けないな。

 でも、今日は至らない、って泣いてようかな。

 正直、笑うことさえも苦しいから。

 亜美、こんなどうしようもない俺の傍に居てくれてありがとな。

 今は苦しいから、泣き止めなくてごめんな。


「京平が居なくなるなんて、絶対嫌なんだからね」

「そうだよな、こんな泣き虫、置いていけないよな」


 病気で人並みに生きられない中で生きるのは辛いんだけど、苦しいんだけど、亜美と過ごせるなら悪くはないかな。

 こんな俺の為に、泣いてくれる人だから。

 こんな俺の為に、傍にいてくれる人だから。


 ◇


 それから、何時間泣き続けただろう。

 亜美は、俺の事をずっと抱きしめてくれて、何も聞かずに「大丈夫だよ」って、囁いてくれている。

 亜美の「大丈夫」に、根拠はないんだろうけど、亜美はいつだって優しく包み込んでくれるから、信じてみたくなるんだ。

 そうだよな、いつだって傍にいてくれてるもんな。


 それと泣き続けたおかげか、ストレスも解消されて、気持ちも少しだけ前向きになってきた。

 身体はまだ動かないけど、亜美に微笑む。

 亜美のおかげだよ。


「ありがとな亜美、少し落ち着いて来たよ」

「良かった。ご飯は食べれそう?」

「食欲はないかなあ」


 まだ身体も動かないし、そもそも食べる気力が湧かないしな。


「そっか。眠れそうかな?」

「落ち着いて来たし、寝る努力はしてみるよ」

「横になるだけでも違うし、ゆっくりしてね」


 亜美はそういうと、よりギュッと抱きしめてくれた。

 泣き疲れていたから、安心したよ。ありがとな。


「亜美って、温かいよな」

「ごめん、暑かった?」

「あ、そうじゃなくて、心をいつも温めてくれるから」


 卑屈になっていた気持ちも、亜美の優しさが溶かしてくれたよ。


「京平が温かいからかな。似ただけだよ」

「俺、こんな状態なのに、ありがとな」


 決して褒められた状態じゃない時でも、亜美は俺を褒めてくれる。

 こんな時だからこそ嬉しいよ。

 安心出来たからか、少し眠たくなってきた。

 亜美の胸に顔を押し当てて、眠る準備をする。


「いつもありがと。おやすみ」

「おやすみ、京平」


 亜美がいるから眠れるんだよ。おやすみ。


 ◇


 ううーん、もう何時間寝たかな。

 外はもう真っ暗。結構寝ちまったな。

 亜美を見ると、亜美も気持ちよさそうに寝ている。

 早朝から俺が泣き続けていた時も、抱きしめて慰め続けてくれたからな。

 寝たおかげか、身体も動くようになった。鬱症状は改善されたみたい。

 俺は、亜美を起こすことにした。


「亜美、起きれるか?」

「むにゃむにゃ。あ、京平おはよ。顔色良くなったね」

「ああ、動けるようにもなったぞ」

「良かったあ。ご飯も食べられそう?」

「そうだな、軽く食べようかな」


 そういえば、俺に付き合って傍にいた亜美も、飯食ってないよな。

 腹空きまくってるよな。申し訳ないことをしちまった。


「じゃあ、食卓に行こう」


 亜美が立ち上がると同時に、俺も立ち上がる。

 俺は亜美を後ろから抱きしめた。


「ありがと」

「当たり前の事だから、気にしないで」


 食卓に向かうと、既に信次が夜ご飯を作ってくれていた。


「兄貴、おはよ。元気になって良かった」

「京平、顔色も良さそうだな」

「あれ、俺何も体調については」

「ああ、私がライムで信次とお父さんに伝えといたよ」

「そっか、ありがとな。色々重なっちまったよ。昨日は、信次の誕生日会で楽しかったのに」

「仕方ないよ。今日も早めに寝るんだよ」


 そんな雑談をしていると。


「ただいまですわー」

「のばら、おかえり」

「おかえり。もうご飯出来てるよ」

「のばらさん、お帰り」

「そっか、のばらさん今日早番か。お帰り」


 期せずして全員揃ったな。

 亜美が伝えてくれたんだろうけど、皆俺達が家にいる事について、触れないでくれるのが有難い。


「今日はピザ焼いたよ。兄貴、食べられそう?」

「おう、朝から何も食べてないしな」


 信次も、俺の好きなものを作ってくれてありがとな。

 そんなに食欲は無かったんだけど、テンション上がったよ。


「信次、ピザも作れるんだ!」

「オーブンで焼いてるから、本格的ではないけどね。マルゲリータにしたよ」


 誕生日プレゼント、ピザ釜にした方が良かったかな?

 でもプレゼントした新しいオーブンレンジが役立てたようで良かったよ。

 うちの古かったからなあ。


「さ、皆ご飯にしよ!」


 そうだよな。俺にはこんなに大切な人達がいるんだもんな。

 亜美が居なかったら、間違った方向に進んでいたかもしれない。

 生きることは苦しいけれど、俺の手を沢山の人が繋いでいてくれるから頑張れるよ。

 皆が支えていてくれるから、これからも歩けるよ。


「おう、ピザ楽しみ」

「沢山食べようね! 京平」

「のばら、今日は呑みますわあ」

「のばら、昨日も呑んだのに大丈夫?」

「明日休みですもの! 昨日は控えめでしたの」

「呑みすぎないようにな」


 病気で落ちてしまうこともあるけれど、優しい家族と一緒に今日も生きていくよ。

 

 ◇


「ごちそうさま。ピザ美味かったぞ」

「思ったより食べてくれて良かった」

「私もごちそうさま。そう言えば信次の結果って、いつ出るの?」

「試験から1週間後の2月7日。ドキドキだよ」

「合格したら大学入試もありますし、勉強はするのですわ」

「勿論、今日もばっちりしてたよ」


 そうなんだよな。飛び級試験後すぐに大学入試もあるからな。

 信次、まだまだ頑張れよ。

 信次なら飛び級試験は、大丈夫だと信じてるから。


「亜美、ちょっと外歩こうか」

「うん、いいよ」


 俺達は家の近所の公園で、パジャマのままコートを羽織って手を繋いで歩く。

 デート代わりにしては貧相なもんだけど、亜美と2人きりになりたくて。


「俺、亜美に迷惑かけっぱなしだな」

「私は京平と過ごせて幸せだったよ」

「次休み合うのいつになるか解らないけど、その時は夜景一緒に見たいな」

「無理はしないでね」


 亜美にならなんでも話せる。

 俺は、そんな気がしたんだ。まだ、亜美に話せて無いことがあるから。


「亜美、2月20日、休み取って欲しいんだけど」

「ええっと、明日看護師長に相談してみるね。でも、なんで?」

「亜美を俺の両親に会わせたいんだ」

「もしかしてその日って、京平のご両親の命日なの?」

「うん、亜美を紹介したくて。あと、話したいこともあるし」

「連れてってくれるの初めてだよね」

「亜美になら、どんな俺も見せられるから」


 亜美、俺にとって亜美は特別な存在だから。

 俺が俺のままでも、傍にいてくれた人だから。


「また落ち込まないように、勤務のことも相談しなきゃね。麻生愛先生に」

「何だ。見抜かれてたのか」

「京平、誰よりも責任感があるもん」


 亜美には全部お見通しか。


「そうだな。近いうちに相談するよ」

「いつでも辛いことがあったら、溜め込む前に吐き出してね。いつでも聞くから」


 俺は亜美を抱きしめた。

 世界で1番、愛しい人だから。

 

「ありがとな、亜美」

亜美「京平がご両親のお墓に連れてってくれるの、初めてだなあ」

京平「亜美は特別だからさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ