信次のお誕生日会
「「ごちそうさまでした」」
私とのばらはお弁当を食べ終わった。
今日も完食してくれて嬉しいな。
けどのばら、かなり怠そうだけど起きてて大丈夫かなあ?
食欲があるのは良かったけれど。
「ライム返し終わったら、レモンパイ作ろうっと」
「のばらも信次とライムしますわ」
最近は、京平と休みも合わないから、ライムも比較的返すようにはしてる。
こうでもしないと、2人の時間が作れなかったりするしね。
『亜美、弁当今日もありがとな。美味かった』だって。
どういたしまして、って私は返した。
京平はライムもマメなんだよなあ。
私は返し忘れがちだから、悲しい思いをさせてるかもしれないなあ。
最近はちゃんと返せてるはずだけども。
『ちょっと疲れたから休憩中寝るな。おやすみ、亜美』か。
疲れてるなら報告なんて要らないのに、優しいよね。京平。
ゆっくり休んでね、おやすみ。って、返した。
最近鈴木先生が電撃結婚からの新婚旅行に行かれてて、京平がオペで麻酔科医の担当をしているんだよね。
京平の勤務が時短になってから、京平はオペ担当から外されてたけど、麻酔科医が鈴木先生を除くと、他に居ないからなあ。
鈴木先生は明日帰ってくるけど、ここ最近京平昼間寝ることが増えたし、オペが長引いた時は休憩が取れないこともあるみたい。
帰ってからも少し怠そうにしているから心配だよ。
何より、時折悔しそうな顔を浮かべているのが不安で……。
よし、心配ではあるけど京平も寝たし、レモンパイ作ろう。
大きなパイ生地も買ってきたから、大きなレモンパイが作れるしね。
「信次、頑張ってくださいまし。と、ライム終わりましたから、のばらは飾り付けするのですわ」
「ありがとね。でも、体調大丈夫?」
「終わったら少し休むのですわ」
無理しなくていいのになあ。
かなり怠そうな顔してるよ、のばら。
「のばらは少し休んでて。パイ焼いてる間に、一緒に飾り付けしよ?」
「でもそれですと、亜美の休む時間が無くなってしまいますわ」
「私は痛み止めで痛みもないし、大丈夫だよ」
「亜美、ダメですわ。亜美、かなり怠そうですわ!」
あ、そう言えば、身体がどことなく重怠いなあ。
無自覚なだけで、私も体調良くなかったんだ。
「じゃ、2人でゆっくりしよっか。まだ時間あるしね」
「のばら、ホットミルク作りますわ」
「わーい! ありがとね」
無理して用意したって、信次は喜ばないもんね。
笑顔でいられるように、休むのも大事だよね。
昼に飲んだ痛み止めが、より効き出してくればもっと最高だね。
「はい、亜美」
「ありがとね、のばら」
でも、2人でのんびりする時間もなんかいいね。
私達は雑談をしながら、うつらうつらとし出したので、ソファで寝そべって過ごしていた。
けど、中々怠いのが引かないし、なんなら気が遠く……。
◇
むにゃむにゃ。
レモンパイ作ってー、飾り付けしてえ、カツ丼作ってえ、幸せな誕生日会だね。
おめでとう、信次。遂に信次も17歳だね。
もうすぐ成人かあ、大きくなったね。
むにゃむにゃ、ふかふかの布団気持ち良いなあ。
ん、布団?! しまった! 寝過ごした!
私が慌てて起きると、時刻は19時。
何も準備できなかったや。
隣では、のばらがまだ気持ち良さそうに寝ている。
急いで準備しなきゃ。私は慌ててのばらを起こす。
「のばら、やばいよ! もう19時だよ!」
「むにゃ、え、本当ですの?! 寝過ごしてしまいましたわ!」
信次も17時には帰ってくるよ、って言ってたしね。大遅刻だ。
ソファで寝てた私達が部屋で寝かしつけられてるってことは、京平と信次が部屋まで運んでくれたのかな?
いつの間にか腹巻きまで巻いてくれてるし。
ああああああ、何も出来てないし、本人がいる前で準備って、サプライズなんもないじゃん!
「体調は落ち着きましたけど、気持ちはブルーですわ」
「私も。信次の誕生日なのに……」
私達が落ち込んでいると、部屋の扉が開いた。
「良かった。2人とも顔色良くなってる。てか、何落ち込んでるんだ?」
「京平、私達寝過ごしちゃった。準備、何も出来てなくて」
すると、京平は笑って答える。
「後はカツ丼作るだけだから、皆で作ろうか」
「でも、信次の誕生日なのに、私達……」
「2人が青白い顔してソファで寝てたのを見た時は心配していたけど、今元気なら、それだけで充分だよ」
京平は、私達を慰めるように、肩に腕を回す。
「それに信次も、亜美達とカツ丼作るの楽しみにしてたしな」
「確かに一緒に作るのは、楽しいのですわ」
「そうだね。笑って作った方が美味しいもんね」
「じゃあ、行こうな?」
3人で部屋から出ると、信次とお父さんが心配そうに私達を見つめてきた。
「亜美、のばら、もう大丈夫そうだね。良かった」
「信次達が亜美達を運んでくれた時は、かなり青白い顔をしていたからな」
「お父さんが亜美達を寝かし続けてくれたおかげだよ。俺にライムもありがとな。亜美達に布団も掛けてくれてたし」
皆責めるどころか、元気になった私達を優しく迎えてくれた。
そっか。京平と信次が私達を運ぶまでは、お父さんが私達を見守っててくれたんだね。
「お父さんもありがとね」
「有難うございますわ」
「元気になったなら、良かったよ」
本当に私達、家族に支えられているね。
「さ、皆でカツ丼作ろう」
「のばら、頑張りますわ!」
「オッケー! 任せといて」
飾り付けはお父さんが不慣れながら、飾ってくれたみたい。
のばらが編んだ花飾りも、一段と部屋を照らしてくれてるね。
レモンパイは京平が焼いてくれて、狐色にこんがり焼けたパイが、食卓の真ん中に堂々と鎮座していた。
「美味しそうに出来ただろ?」って、ニヤついているのがなんか可愛いんだよ、もう。
こうして、皆でカツ丼を作り始めた。
皆で肉を綿棒で叩いて、小麦粉、卵、パン粉を付けて、1人3枚、トンカツを揚げていく。
因みにその内5枚くらいは、信次がいつもペロリと食べちゃう。
のばらは、小麦粉などを付けるのも初めてだったから、私と信次で教えながら、粉類を付けたよ。
さ、いよいよトンカツを揚げるぞ。
「こ、怖いのですわ」
「大丈夫。菜箸で持てば油との距離は稼げるから、後は油はねしないように、ゆっくり入れて」
のばら、揚げ物も初めてだもんね。
でも、信次が優しく声掛けをしている内に、楽しそうにトンカツを揚げられるようになったよ。
「うん、美味しそうに揚がったね。流石のばら!」
「良かったですわ」
「のばらの揚げたの、僕貰ってもいいよね?」
「勿論ですわ」
トンカツが揚げ終わったら、いよいよ鍋でカツ丼にしていくよ。
トンカツを2センチ幅に切っておいた後、玉ねぎを切って、水、醤油、みりん、料理酒、砂糖、顆粒だしと煮詰めて、玉ねぎに火が通ったら、中火でトンカツを入れて、予め溶いておいた卵でとじる。
半熟にするのもポイントだぞ!
「じゃあ、僕のはのばらに作ってもらおうかな?」
「がんばりますわ!」
のばらは信次に教わりながら、少しずつカツ丼を作っていく。
のばらがやらかさないように、調味料は既に小分けにしてあるけど大丈夫かなあ?
「そうそう、玉ねぎは猫の手にして切るんだよ」
「ドキドキですわ。うひゃ、目が痛くなりましたわ。なんですの?!」
「玉ねぎは目に沁みるからね。普通だから大丈夫!」
玉ねぎが目に沁みることも、のばらは知らなかったんだなあ。
のばらも少しずつ、料理が出来るようになるといいね。
ふひ、私も慣れてはいるんだけど、玉ねぎが目に沁みるのは辛いよお。
「亜美、残りの玉ねぎは俺に任せな」
「京平、何故玉ねぎをレンチンしてるの?」
「少し火を通しておくと、沁みづらくなるんだよ」
「それ、私が玉ねぎ切る前に言えたよね?」
「いやあ、玉ねぎが目に沁みてる亜美を見たくて」
相変わらず性格悪いなあ!
「ぶー!」
◇
こうして、なんやかんやありながらも、無事カツ丼は人数分とおかわりを含めて完成した。
信次、今日は何杯カツ丼食べるんだろ。
昨日も5杯はおかわりしてたけど。
「よし、じゃあ信次の誕生日会を始めるか」
京平はレモンパイに、ろうそくを17本立てて、火を付ける。
電気はお父さんが消してくれた。
皆で信次に、ハッピーバースデーを歌ったよ。
いつも最後で京平がハモるんだよね。
信次は、ふーっと、ろうそくの灯りを消した。
「おっと、電気付けるぞ。おめでとう、信次」
「おめでとう! 信次も17歳かあ。あんなに小さかったのに」
「おめでとうございますわ」
「おめでと、信次」
信次は照れくさそうに、「ありがと」って言ってお辞儀をして、
「飛び級試験と被っちゃったし、まさかお祝いしてくれるだなんて思わなかったよ」
「大切な日だから、忘れるわけねーだろ」
「皆が笑顔でいるのが1番嬉しいから、亜美とのばらはもう無理はしないでね」
「私達はソファで休んでたよ? ちゃんと」
「ソファじゃなくて、あの体調なら布団で寝てていいんだよ。でも、頑張ろうとしてくれてありがとね」
お礼言われることは、何もできなかったんだけどな。信次、ありがとね。
「じゃあ、冷める前にカツ丼食おうぜ」
「「「「「いただきます」」」」」
およ? 信次、泣きながら食べてるな?
「信次、大丈夫か?」
「初めてのばらが僕の為に作ってくれた料理だからさ、嬉しくて」
「お、美味しいかしら?」
「うん、とっても美味しいよ。ありがとね。僕のも美味しく出来てるかな?」
「いつも通り美味しいですわ」
のばらのカツ丼は火が通り過ぎちゃったんだけど、のばらの気持ちが信次にとっては、最高の調味料になったんだろうなあ。
何気京平のは私が作ったんだけど、美味しく出来てるかなあ?
「なんだ亜美? ジロジロみて」
「ね? 美味しい?」
「いつもありがとな、美味しいよ」
「京平のも美味しいよ。ありがとね」
因みにキッチンのスペースの都合上、お父さんは肉に粉類を塗すとこまでしかやれなかったので、お父さんのカツ丼は信次作だよん。
おかわりはもう誰が作ったやつか解らないけど、全部美味しいよね!
「おかわり!」
「もう食べたのか、信次。すぐ持ってくな」
◇
「ごちそうさまでした。亜美も元気な時に、またレモンパイ作ってね。やっぱり亜美のが1番好きだからさ」
「うん、また作るね」
「のばらもレモンパイ覚えますわ!」
「ふふ、それも楽しみだなあ」
そんな話をしていたとき、のばらがもぞもぞと何かを取り出した。
「信次、おめでとうございますわ。その、プレゼントですの」
「あ、私もあるから持ってくるね」
「俺も。待ってろよ、信次」
「私はもう近くに準備してあるぞ」
ええと、信次のプレゼントは押入れに隠してあるけど、どこら辺にいれたっけなあ。
私が押入れでもぞもぞしていると、京平が後ろから抱きついてきた。
「亜美が大丈夫になって良かった。すごく心配したんだぞ」
京平、泣いてる。
心配させちゃってごめんね、京平。
「最初から相談しとけば良かったね。ごめんね」
「亜美が生理で辛いの知ってたのに、準備とか全部やらせようとしてごめんな。俺も仕事休めば良かった」
「今日は鈴木先生も居なかったし、仕方ないよ。私も辛いって言わなかったし、謝らないで」
「もう、無理すんなよ。バカ」
ダメだなあ、私。
本当ならすぐプレゼントを持って、信次のところに行かなきゃなのに、このまま京平に抱きしめてて貰いたいなあって思っちゃう。
しばらくは、このままで居させてね、京平。
京平「次から亜美が生理辛そうな時は、休み取らなきゃ」
亜美「ゆっくり休めば大丈夫だよ!」
京平「心配で仕事が手につかないよ」