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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お誕生日会
158/238

信次のお誕生日会

「「ごちそうさまでした」」


 私とのばらはお弁当を食べ終わった。

 今日も完食してくれて嬉しいな。

 けどのばら、かなり怠そうだけど起きてて大丈夫かなあ?

 食欲があるのは良かったけれど。


「ライム返し終わったら、レモンパイ作ろうっと」

「のばらも信次とライムしますわ」


 最近は、京平と休みも合わないから、ライムも比較的返すようにはしてる。

 こうでもしないと、2人の時間が作れなかったりするしね。

 『亜美、弁当今日もありがとな。美味かった』だって。

 どういたしまして、って私は返した。

 京平はライムもマメなんだよなあ。

 私は返し忘れがちだから、悲しい思いをさせてるかもしれないなあ。

 最近はちゃんと返せてるはずだけども。


 『ちょっと疲れたから休憩中寝るな。おやすみ、亜美』か。

 疲れてるなら報告なんて要らないのに、優しいよね。京平。

 ゆっくり休んでね、おやすみ。って、返した。


 最近鈴木先生が電撃結婚からの新婚旅行に行かれてて、京平がオペで麻酔科医の担当をしているんだよね。

 京平の勤務が時短になってから、京平はオペ担当から外されてたけど、麻酔科医が鈴木先生を除くと、他に居ないからなあ。

 鈴木先生は明日帰ってくるけど、ここ最近京平昼間寝ることが増えたし、オペが長引いた時は休憩が取れないこともあるみたい。

 帰ってからも少し怠そうにしているから心配だよ。

 何より、時折悔しそうな顔を浮かべているのが不安で……。


 よし、心配ではあるけど京平も寝たし、レモンパイ作ろう。

 大きなパイ生地も買ってきたから、大きなレモンパイが作れるしね。


「信次、頑張ってくださいまし。と、ライム終わりましたから、のばらは飾り付けするのですわ」

「ありがとね。でも、体調大丈夫?」

「終わったら少し休むのですわ」


 無理しなくていいのになあ。

 かなり怠そうな顔してるよ、のばら。


「のばらは少し休んでて。パイ焼いてる間に、一緒に飾り付けしよ?」

「でもそれですと、亜美の休む時間が無くなってしまいますわ」

「私は痛み止めで痛みもないし、大丈夫だよ」

「亜美、ダメですわ。亜美、かなり怠そうですわ!」


 あ、そう言えば、身体がどことなく重怠いなあ。

 無自覚なだけで、私も体調良くなかったんだ。


「じゃ、2人でゆっくりしよっか。まだ時間あるしね」

「のばら、ホットミルク作りますわ」

「わーい! ありがとね」


 無理して用意したって、信次は喜ばないもんね。

 笑顔でいられるように、休むのも大事だよね。

 昼に飲んだ痛み止めが、より効き出してくればもっと最高だね。


「はい、亜美」

「ありがとね、のばら」


 でも、2人でのんびりする時間もなんかいいね。

 私達は雑談をしながら、うつらうつらとし出したので、ソファで寝そべって過ごしていた。

 けど、中々怠いのが引かないし、なんなら気が遠く……。


 ◇


 むにゃむにゃ。

 レモンパイ作ってー、飾り付けしてえ、カツ丼作ってえ、幸せな誕生日会だね。

 おめでとう、信次。遂に信次も17歳だね。

 もうすぐ成人かあ、大きくなったね。

 むにゃむにゃ、ふかふかの布団気持ち良いなあ。

 ん、布団?! しまった! 寝過ごした!


 私が慌てて起きると、時刻は19時。

 何も準備できなかったや。

 隣では、のばらがまだ気持ち良さそうに寝ている。

 急いで準備しなきゃ。私は慌ててのばらを起こす。


「のばら、やばいよ! もう19時だよ!」

「むにゃ、え、本当ですの?! 寝過ごしてしまいましたわ!」


 信次も17時には帰ってくるよ、って言ってたしね。大遅刻だ。

 ソファで寝てた私達が部屋で寝かしつけられてるってことは、京平と信次が部屋まで運んでくれたのかな?

 いつの間にか腹巻きまで巻いてくれてるし。

  ああああああ、何も出来てないし、本人がいる前で準備って、サプライズなんもないじゃん!

 

「体調は落ち着きましたけど、気持ちはブルーですわ」

「私も。信次の誕生日なのに……」


 私達が落ち込んでいると、部屋の扉が開いた。


「良かった。2人とも顔色良くなってる。てか、何落ち込んでるんだ?」

「京平、私達寝過ごしちゃった。準備、何も出来てなくて」


 すると、京平は笑って答える。


「後はカツ丼作るだけだから、皆で作ろうか」

「でも、信次の誕生日なのに、私達……」

「2人が青白い顔してソファで寝てたのを見た時は心配していたけど、今元気なら、それだけで充分だよ」


 京平は、私達を慰めるように、肩に腕を回す。


「それに信次も、亜美達とカツ丼作るの楽しみにしてたしな」

「確かに一緒に作るのは、楽しいのですわ」

「そうだね。笑って作った方が美味しいもんね」

「じゃあ、行こうな?」


 3人で部屋から出ると、信次とお父さんが心配そうに私達を見つめてきた。


「亜美、のばら、もう大丈夫そうだね。良かった」

「信次達が亜美達を運んでくれた時は、かなり青白い顔をしていたからな」

「お父さんが亜美達を寝かし続けてくれたおかげだよ。俺にライムもありがとな。亜美達に布団も掛けてくれてたし」


 皆責めるどころか、元気になった私達を優しく迎えてくれた。

 そっか。京平と信次が私達を運ぶまでは、お父さんが私達を見守っててくれたんだね。


「お父さんもありがとね」

「有難うございますわ」

「元気になったなら、良かったよ」


 本当に私達、家族に支えられているね。


「さ、皆でカツ丼作ろう」

「のばら、頑張りますわ!」

「オッケー! 任せといて」


 飾り付けはお父さんが不慣れながら、飾ってくれたみたい。

 のばらが編んだ花飾りも、一段と部屋を照らしてくれてるね。

 レモンパイは京平が焼いてくれて、狐色にこんがり焼けたパイが、食卓の真ん中に堂々と鎮座していた。

 「美味しそうに出来ただろ?」って、ニヤついているのがなんか可愛いんだよ、もう。

 

 こうして、皆でカツ丼を作り始めた。

 皆で肉を綿棒で叩いて、小麦粉、卵、パン粉を付けて、1人3枚、トンカツを揚げていく。

 因みにその内5枚くらいは、信次がいつもペロリと食べちゃう。

 のばらは、小麦粉などを付けるのも初めてだったから、私と信次で教えながら、粉類を付けたよ。

 さ、いよいよトンカツを揚げるぞ。


「こ、怖いのですわ」

「大丈夫。菜箸で持てば油との距離は稼げるから、後は油はねしないように、ゆっくり入れて」


 のばら、揚げ物も初めてだもんね。 

 でも、信次が優しく声掛けをしている内に、楽しそうにトンカツを揚げられるようになったよ。


「うん、美味しそうに揚がったね。流石のばら!」

「良かったですわ」

「のばらの揚げたの、僕貰ってもいいよね?」

「勿論ですわ」


 トンカツが揚げ終わったら、いよいよ鍋でカツ丼にしていくよ。

 トンカツを2センチ幅に切っておいた後、玉ねぎを切って、水、醤油、みりん、料理酒、砂糖、顆粒だしと煮詰めて、玉ねぎに火が通ったら、中火でトンカツを入れて、予め溶いておいた卵でとじる。

 半熟にするのもポイントだぞ!


「じゃあ、僕のはのばらに作ってもらおうかな?」

「がんばりますわ!」


 のばらは信次に教わりながら、少しずつカツ丼を作っていく。

 のばらがやらかさないように、調味料は既に小分けにしてあるけど大丈夫かなあ?

 

「そうそう、玉ねぎは猫の手にして切るんだよ」

「ドキドキですわ。うひゃ、目が痛くなりましたわ。なんですの?!」

「玉ねぎは目に沁みるからね。普通だから大丈夫!」


 玉ねぎが目に沁みることも、のばらは知らなかったんだなあ。

 のばらも少しずつ、料理が出来るようになるといいね。

 ふひ、私も慣れてはいるんだけど、玉ねぎが目に沁みるのは辛いよお。


「亜美、残りの玉ねぎは俺に任せな」

「京平、何故玉ねぎをレンチンしてるの?」

「少し火を通しておくと、沁みづらくなるんだよ」

「それ、私が玉ねぎ切る前に言えたよね?」

「いやあ、玉ねぎが目に沁みてる亜美を見たくて」


 相変わらず性格悪いなあ!


「ぶー!」


 ◇


 こうして、なんやかんやありながらも、無事カツ丼は人数分とおかわりを含めて完成した。

 信次、今日は何杯カツ丼食べるんだろ。

 昨日も5杯はおかわりしてたけど。


「よし、じゃあ信次の誕生日会を始めるか」


 京平はレモンパイに、ろうそくを17本立てて、火を付ける。

 電気はお父さんが消してくれた。

 皆で信次に、ハッピーバースデーを歌ったよ。

 いつも最後で京平がハモるんだよね。

 信次は、ふーっと、ろうそくの灯りを消した。


「おっと、電気付けるぞ。おめでとう、信次」

「おめでとう! 信次も17歳かあ。あんなに小さかったのに」

「おめでとうございますわ」

「おめでと、信次」


 信次は照れくさそうに、「ありがと」って言ってお辞儀をして、


「飛び級試験と被っちゃったし、まさかお祝いしてくれるだなんて思わなかったよ」

「大切な日だから、忘れるわけねーだろ」

「皆が笑顔でいるのが1番嬉しいから、亜美とのばらはもう無理はしないでね」

「私達はソファで休んでたよ? ちゃんと」

「ソファじゃなくて、あの体調なら布団で寝てていいんだよ。でも、頑張ろうとしてくれてありがとね」


 お礼言われることは、何もできなかったんだけどな。信次、ありがとね。


「じゃあ、冷める前にカツ丼食おうぜ」

「「「「「いただきます」」」」」


 およ? 信次、泣きながら食べてるな?


「信次、大丈夫か?」

「初めてのばらが僕の為に作ってくれた料理だからさ、嬉しくて」

「お、美味しいかしら?」

「うん、とっても美味しいよ。ありがとね。僕のも美味しく出来てるかな?」

「いつも通り美味しいですわ」


 のばらのカツ丼は火が通り過ぎちゃったんだけど、のばらの気持ちが信次にとっては、最高の調味料になったんだろうなあ。

 何気京平のは私が作ったんだけど、美味しく出来てるかなあ?


「なんだ亜美? ジロジロみて」

「ね? 美味しい?」

「いつもありがとな、美味しいよ」

「京平のも美味しいよ。ありがとね」


 因みにキッチンのスペースの都合上、お父さんは肉に粉類を塗すとこまでしかやれなかったので、お父さんのカツ丼は信次作だよん。

 おかわりはもう誰が作ったやつか解らないけど、全部美味しいよね!


「おかわり!」

「もう食べたのか、信次。すぐ持ってくな」


 ◇


「ごちそうさまでした。亜美も元気な時に、またレモンパイ作ってね。やっぱり亜美のが1番好きだからさ」

「うん、また作るね」

「のばらもレモンパイ覚えますわ!」

「ふふ、それも楽しみだなあ」


 そんな話をしていたとき、のばらがもぞもぞと何かを取り出した。


「信次、おめでとうございますわ。その、プレゼントですの」

「あ、私もあるから持ってくるね」

「俺も。待ってろよ、信次」

「私はもう近くに準備してあるぞ」


 ええと、信次のプレゼントは押入れに隠してあるけど、どこら辺にいれたっけなあ。

 私が押入れでもぞもぞしていると、京平が後ろから抱きついてきた。


「亜美が大丈夫になって良かった。すごく心配したんだぞ」


 京平、泣いてる。

 心配させちゃってごめんね、京平。


「最初から相談しとけば良かったね。ごめんね」

「亜美が生理で辛いの知ってたのに、準備とか全部やらせようとしてごめんな。俺も仕事休めば良かった」

「今日は鈴木先生も居なかったし、仕方ないよ。私も辛いって言わなかったし、謝らないで」

「もう、無理すんなよ。バカ」


 ダメだなあ、私。

 本当ならすぐプレゼントを持って、信次のところに行かなきゃなのに、このまま京平に抱きしめてて貰いたいなあって思っちゃう。

 しばらくは、このままで居させてね、京平。

京平「次から亜美が生理辛そうな時は、休み取らなきゃ」

亜美「ゆっくり休めば大丈夫だよ!」

京平「心配で仕事が手につかないよ」

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