愛してるを話してみたの。
それから私達は、2人でまったりして過ごした。
感じ合う時間が、本当に愛しいよ。
京平と話す時間、触れ合う時間、その時間がもっともっと欲しくなる。
いつだって京平を欲しがってるよ、私。
「愛したのが、京平で良かった」
「俺も、亜美で良かった」
「幸せだよ、私」
「亜美に会えて良かった。いつも笑えるようになったよ、俺」
2人抱きしめ合いながら、愛を語り合って。
そうだよね、我が家に来たばかりの京平は、不安もあったのか、良く泣いてたもんね。
1人にしてって、部屋にひとりぼっちで。
私は京平に会いたくて、それでも勝手に部屋に入っていたけど。
そんなひとりで泣く京平を、慰めたくて抱きしめて、逆に私が泣いちゃったりして。
次第に、京平の笑う回数も増えてって、私も嬉しかったよ。
病気を隠しながら生きていたから、辛い日もあっただろうに。
私も京平の笑顔の理由になれたのかな。
だったら、いいな。
だって私も、京平が笑顔の理由だったから。
これからも京平が、笑い続けてくれますように。
「昔は俺、良く泣いてたよな。いつも亜美が慰めに来てくれてさ」
「京平に会いたかったもん」
「あの時は、一緒に泣いてくれてありがとな」
「ひとりで泣くよりは寂しくないでしょ?」
京平の涙を見た時から、私、きっと、京平のことを守りたかったんだ。
自然と、私は京平を愛したんだ。
「亜美に惚れる理由しかなかったよ。昔から今まで。受け入れてくれてありがとな」
「京平のこと、愛してるもん」
「もう亜美のことが可愛くて仕方ないよ」
京平はとろんとした目をして、強く私を抱きしめてくれた。
そして、そのまま私を両足で挟んで、眠る。
いつも安心しきった顔で眠るよね。
そんな顔が、私はすごく愛しいよ。
「おやすみ、京平」
◇
それからいよいよ、1月31日。信次の受験の日だ。
受験会場から家まではかなり離れているから、信次は朝6時に家を出る。
「信次、鉛筆と消しゴムと受験票はちゃんと入れたか?」
「昨日からちゃんと入れてるよ。それと、お守りもね。亜美もお弁当ありがと」
「道中気をつけてね。会場、新宿だもんね」
「頑張ってくださいまし」
「信次、頑張るんだぞ」
「うん、いってきまーす!」
信次は元気よく家を後にした。
私とのばらは、今日休み。信次の誕生日会の準備をするんだ。
ただ、2人とも生理でお腹が痛いから、朝の家事はかなり京平に手伝って貰ったのだけど。
でも、ピルを飲んでるおかげで、だいぶ楽になって良かった。
お弁当も無事出来たしね。
「亜美とのばらさん、朝ご飯食べられるか?」
「うん、食べられるよ」
「食欲はありますわ」
「それなら良かった」
それに食欲もバッチリあるしね。
先月はご飯もままならなかったから、本当に良かったよ。
因みに、昨日はのばらと2人で産婦人科でピル貰って来たんだ。
本当は私、糖尿病の診察の日に産婦人科も予約してたんだけど、あの女が現れたから、のばらと同じ日、昨日の昼休みに診て貰ったんだよね。
念の為、多めにピル貰ってて良かったよ。
看護師さんが昼休みに産婦人科に行くのは、よくあるケースみたい。時間ないもんね。
「「「「いただきます」」」」
今日の朝ご飯は京平が作ってくれたよ。
お味噌汁と鯵の開きとお漬物とご飯。
「ああ、京平の朝ご飯久しぶりだけど、美味しいなあ。落ち着く」
「安心する味ですわね」
「京平のお味噌汁も好きだな」
「ありがとな、皆」
もはや京平のご飯が、母の味まであるもんなあ。
小さい頃から元気付けてくれたご飯だもんね。
「亜美とのばらさんは、信次の誕生日会の飾り付けも頼んだぞ」
「任せといて!」
「昨日の昼、亜美と飾りを作りましたものね」
産婦人科で診て貰った後、お弁当食べながら飾り付け作ったんだよね。
のばらは編み物もしてたし、凄かったなあ。
「あとはレモンパイを焼いて、2人でカツ丼作るよん」
「信次に美味しいカツ丼を、食べさせたいのですわ」
「2人とも生理だし、無理はすんなよ」
「うん、休憩しながらのんびりつくるよ」
レモンパイを焼いてる間は休めるしね。
それに、そんなに慌てて作る必要もないし。
のばらに教える時間もあるから、お昼頃から始めようかな。
「すぐやる必要ないから、2人とも寝直しとけよ」
「確かに少し怠いのですわ」
「京平が出かけたら、2人で寝とくね」
「2人で恋バナするのですわ」
「お、それは楽しみ」
のばらにとっては、初めての彼氏だもんね、信次。
信次が今日の試験を終えて、大学入試も受かったら、のばらの両親へ挨拶に行くらしいし、緊張するよね。
少しでも重荷を減らせたらいいなあ。
「亜美、何か思うことがあれば直接言えよ?」
「のばらに愚痴ったりしないから安心して。京平のことは、全部好きだもん」
「あ、ありがと。照れるな」
笑いながら揶揄うとこも、打たれ弱いとこも、優しいとこも、全部、全部好きだよ。
「ごちそうさま。今日は頑張れそう」
「そんなに?」
「全部好きって、かなり嬉しいよ」
京平は少し照れながら、洗面台へ向かった。
あれ、そう言えばさっきからお父さんが静かだなあ。
ふいにお父さんを眺めると、あ、お漬物持ったまま寝てる!
普段より早起きしてるもんなあ。
信次を見送りたいからって、張り切ってたもんね。
「お父さん、こんなとこで寝ちゃダメだよ」
私はお父さんの側まで行って、声を掛けた。
「ふわあ。ああ、亜美ありがとな。信次を送り出したら安心して寝ちゃってたよ」
「お父さん休みなんだし、ご飯食べたら寝直すんだよ」
「そうするよ。ああ漬物美味しいな」
お父さんは眠い目を擦りながら、ご飯を食べ始めた。
「じゃあ、いってくるよ。って、お父さん大丈夫か?」
京平が洗面台から、リビングまで出て来た。
「眠くてご飯が進まなくてな」
「飯は後にして、まずは寝とけよ」
「そうですわ。無理は良くなくてよ」
「お父さんのご飯は、冷蔵庫に入れとくね」
「すまないな、皆。おやすみ」
お父さんは眠そうに、部屋まで戻っていく。
「じゃあ、俺もそろそろ出るな。いってきます」
「いってらっしゃーい!」
「いってらっしゃいましー!」
京平も病院に出かけて行く。
「ごちそうさまでした」
「のばらもごちそうさまでした」
「歯磨き歯磨きっと」
私とのばらは洗面台に行って、歯を磨いたり顔を洗ったりする。
痛み止めとピルの効果で、先月よりは楽だけど、やっぱり身体は怠くて。
2人して少ししんどそうに、歯を磨くのであった。
ダメだ、やっぱり怠いなあ。洗い物は後回しにして、少し横になろうっと。
私は口を注いで、部屋に行こうとしたんだけど、どっちの部屋で寝るか決めてなかったから、のばらに聞いてみる。
「のばら、今から何処で寝る?」
「気持ちが寂しいから、信次の布団で寝たいですわ」
「じゃあ、私がそっちいくね」
のばらは、生理になるとメンタルに来ちゃうみたいだね。
私も多少はあるけど、寂しいってことはないかなあ。
そりゃ、贅沢を言えば、京平と一緒に居たいけどさ。
私達は信次とのばらの部屋にある布団に横になった。
のばらの布団、なんか良い匂いするなあ。
のばらは、深い溜息を吐いて、話し出す。
「のばら、友達も居なかったし、殿方も苦手でしたの」
「のばらのような良い子に友達も居なかったなんて、意外だよね」
「それが、今は亜美もいて、信次とも付き合うようになって、全て安心出来て……幸せですわ」
「私も、のばらと友達になれて良かった」
初めて出来た同性の友達がのばらだもんね。
キッカケはキッカケだったけど、今は大切な友達になったよ。
「大切な人がいるって、胸が温かくなりますわ」
「うん、特に抱きしめられた時はやばいよね」
「気持ち解りますわ!」
「胸が高鳴って、ふああと幸せになるよね」
夜勤の日以外は、京平に抱きしめられて寝ているけど、その時が本当に幸せなんだ。
大切だよっていう気持ちが、包み込まれて伝わってくるから。
その時は、世界で1人のお姫様になった気分になるよ。
「信次、大丈夫かしら。心配ですわ」
「あんなに頑張ってたもん、大丈夫だよ」
信次の努力が実りますように。
寝る間も惜しんで、すごく頑張っていたから。
「帰って来たら、ギュッと抱きしめるのですわ」
「もー、のばらの欲しがりさん」
「だって愛してますもの」
「信次は頑張ってくるもんね」
何だか私も、京平を抱きしめたくなって来たな。
「私も京平を抱きしめよっと」
「幸せな気持ちになりますわね」
私達、幸せにしてもらってるね。
2人で話してても、ずっと笑顔だもん。
「信次には愛されていますわ。朝からキスしてくるんですの」
「嘘、大胆というか押さえきれてないじゃん、信次」
「いいんですの。その、嬉しかったんですの」
「私からはしたことあるけど、京平から朝にされたことないかも。いいなあ」
やっぱり私、というか時任家変態説が出て来たぞ。
いやあ、姉弟って、変なとこで似るもんだね。
でも京平とも兄妹だし、その内京平も変態になるよね?
「んん、身体が怠いからそろそろ寝るのですわ」
「のばらは15時頃起きといでね」
「亜美はケーキ作りもありますし、もっと早く起きますの?」
「うん、12時には起きようかな」
「じゃあ、のばらも一緒に起きますわ」
「無理しなくていいよ?」
「1人で寝るのは寂しいんですの」
そういうとのばらは、スマホのアラームを、12時にセットする。
私も念の為、アラームをセットしたよ。
「おやすみなさいませ、亜美」
「おやすみ。今日は頑張ろうね! のばら」
「勿論ですわ!」
今日は楽しい日にしようね。
おやすみ。
のばら「恋バナって楽しいですわ!」
亜美「ね!」