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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験戦争
156/238

愛してるを話してみたの。

 それから私達は、2人でまったりして過ごした。

 感じ合う時間が、本当に愛しいよ。

 京平と話す時間、触れ合う時間、その時間がもっともっと欲しくなる。

 いつだって京平を欲しがってるよ、私。

 

「愛したのが、京平で良かった」

「俺も、亜美で良かった」

「幸せだよ、私」

「亜美に会えて良かった。いつも笑えるようになったよ、俺」


 2人抱きしめ合いながら、愛を語り合って。

 そうだよね、我が家に来たばかりの京平は、不安もあったのか、良く泣いてたもんね。

 1人にしてって、部屋にひとりぼっちで。

 私は京平に会いたくて、それでも勝手に部屋に入っていたけど。

 そんなひとりで泣く京平を、慰めたくて抱きしめて、逆に私が泣いちゃったりして。

 次第に、京平の笑う回数も増えてって、私も嬉しかったよ。

 病気を隠しながら生きていたから、辛い日もあっただろうに。

 私も京平の笑顔の理由になれたのかな。

 だったら、いいな。

 だって私も、京平が笑顔の理由だったから。

 これからも京平が、笑い続けてくれますように。


「昔は俺、良く泣いてたよな。いつも亜美が慰めに来てくれてさ」

「京平に会いたかったもん」

「あの時は、一緒に泣いてくれてありがとな」

「ひとりで泣くよりは寂しくないでしょ?」


 京平の涙を見た時から、私、きっと、京平のことを守りたかったんだ。

 自然と、私は京平を愛したんだ。


「亜美に惚れる理由しかなかったよ。昔から今まで。受け入れてくれてありがとな」

「京平のこと、愛してるもん」

「もう亜美のことが可愛くて仕方ないよ」


 京平はとろんとした目をして、強く私を抱きしめてくれた。

 そして、そのまま私を両足で挟んで、眠る。

 いつも安心しきった顔で眠るよね。

 そんな顔が、私はすごく愛しいよ。


「おやすみ、京平」


 ◇


 それからいよいよ、1月31日。信次の受験の日だ。

 受験会場から家まではかなり離れているから、信次は朝6時に家を出る。

 

「信次、鉛筆と消しゴムと受験票はちゃんと入れたか?」

「昨日からちゃんと入れてるよ。それと、お守りもね。亜美もお弁当ありがと」

「道中気をつけてね。会場、新宿だもんね」

「頑張ってくださいまし」

「信次、頑張るんだぞ」

「うん、いってきまーす!」


 信次は元気よく家を後にした。

 私とのばらは、今日休み。信次の誕生日会の準備をするんだ。

 ただ、2人とも生理でお腹が痛いから、朝の家事はかなり京平に手伝って貰ったのだけど。

 でも、ピルを飲んでるおかげで、だいぶ楽になって良かった。

 お弁当も無事出来たしね。


「亜美とのばらさん、朝ご飯食べられるか?」

「うん、食べられるよ」

「食欲はありますわ」

「それなら良かった」


 それに食欲もバッチリあるしね。

 先月はご飯もままならなかったから、本当に良かったよ。


 因みに、昨日はのばらと2人で産婦人科でピル貰って来たんだ。

 本当は私、糖尿病の診察の日に産婦人科も予約してたんだけど、あの女が現れたから、のばらと同じ日、昨日の昼休みに診て貰ったんだよね。

 念の為、多めにピル貰ってて良かったよ。

 看護師さんが昼休みに産婦人科に行くのは、よくあるケースみたい。時間ないもんね。

 

「「「「いただきます」」」」


 今日の朝ご飯は京平が作ってくれたよ。

 お味噌汁と鯵の開きとお漬物とご飯。


「ああ、京平の朝ご飯久しぶりだけど、美味しいなあ。落ち着く」

「安心する味ですわね」

「京平のお味噌汁も好きだな」

「ありがとな、皆」


 もはや京平のご飯が、母の味まであるもんなあ。

 小さい頃から元気付けてくれたご飯だもんね。

 

「亜美とのばらさんは、信次の誕生日会の飾り付けも頼んだぞ」

「任せといて!」

「昨日の昼、亜美と飾りを作りましたものね」


 産婦人科で診て貰った後、お弁当食べながら飾り付け作ったんだよね。

 のばらは編み物もしてたし、凄かったなあ。


「あとはレモンパイを焼いて、2人でカツ丼作るよん」

「信次に美味しいカツ丼を、食べさせたいのですわ」

「2人とも生理だし、無理はすんなよ」

「うん、休憩しながらのんびりつくるよ」


 レモンパイを焼いてる間は休めるしね。

 それに、そんなに慌てて作る必要もないし。

 のばらに教える時間もあるから、お昼頃から始めようかな。


「すぐやる必要ないから、2人とも寝直しとけよ」

「確かに少し怠いのですわ」

「京平が出かけたら、2人で寝とくね」

「2人で恋バナするのですわ」

「お、それは楽しみ」


 のばらにとっては、初めての彼氏だもんね、信次。

 信次が今日の試験を終えて、大学入試も受かったら、のばらの両親へ挨拶に行くらしいし、緊張するよね。

 少しでも重荷を減らせたらいいなあ。


「亜美、何か思うことがあれば直接言えよ?」

「のばらに愚痴ったりしないから安心して。京平のことは、全部好きだもん」

「あ、ありがと。照れるな」


 笑いながら揶揄(からか)うとこも、打たれ弱いとこも、優しいとこも、全部、全部好きだよ。


「ごちそうさま。今日は頑張れそう」

「そんなに?」

「全部好きって、かなり嬉しいよ」


 京平は少し照れながら、洗面台へ向かった。

 

 あれ、そう言えばさっきからお父さんが静かだなあ。

 ふいにお父さんを眺めると、あ、お漬物持ったまま寝てる!

 普段より早起きしてるもんなあ。

 信次を見送りたいからって、張り切ってたもんね。


「お父さん、こんなとこで寝ちゃダメだよ」


 私はお父さんの側まで行って、声を掛けた。


「ふわあ。ああ、亜美ありがとな。信次を送り出したら安心して寝ちゃってたよ」

「お父さん休みなんだし、ご飯食べたら寝直すんだよ」

「そうするよ。ああ漬物美味しいな」


 お父さんは眠い目を擦りながら、ご飯を食べ始めた。


「じゃあ、いってくるよ。って、お父さん大丈夫か?」


 京平が洗面台から、リビングまで出て来た。


「眠くてご飯が進まなくてな」

「飯は後にして、まずは寝とけよ」

「そうですわ。無理は良くなくてよ」

「お父さんのご飯は、冷蔵庫に入れとくね」

「すまないな、皆。おやすみ」


 お父さんは眠そうに、部屋まで戻っていく。


「じゃあ、俺もそろそろ出るな。いってきます」

「いってらっしゃーい!」

「いってらっしゃいましー!」


 京平も病院に出かけて行く。


「ごちそうさまでした」

「のばらもごちそうさまでした」

「歯磨き歯磨きっと」


 私とのばらは洗面台に行って、歯を磨いたり顔を洗ったりする。

 痛み止めとピルの効果で、先月よりは楽だけど、やっぱり身体は怠くて。

 2人して少ししんどそうに、歯を磨くのであった。

 ダメだ、やっぱり怠いなあ。洗い物は後回しにして、少し横になろうっと。

 私は口を注いで、部屋に行こうとしたんだけど、どっちの部屋で寝るか決めてなかったから、のばらに聞いてみる。


「のばら、今から何処で寝る?」

「気持ちが寂しいから、信次の布団で寝たいですわ」

「じゃあ、私がそっちいくね」


 のばらは、生理になるとメンタルに来ちゃうみたいだね。

 私も多少はあるけど、寂しいってことはないかなあ。

 そりゃ、贅沢を言えば、京平と一緒に居たいけどさ。


 私達は信次とのばらの部屋にある布団に横になった。

 のばらの布団、なんか良い匂いするなあ。

 のばらは、深い溜息を吐いて、話し出す。


「のばら、友達も居なかったし、殿方も苦手でしたの」

「のばらのような良い子に友達も居なかったなんて、意外だよね」

「それが、今は亜美もいて、信次とも付き合うようになって、全て安心出来て……幸せですわ」

「私も、のばらと友達になれて良かった」


 初めて出来た同性の友達がのばらだもんね。

 キッカケはキッカケだったけど、今は大切な友達になったよ。


「大切な人がいるって、胸が温かくなりますわ」

「うん、特に抱きしめられた時はやばいよね」

「気持ち解りますわ!」

「胸が高鳴って、ふああと幸せになるよね」


 夜勤の日以外は、京平に抱きしめられて寝ているけど、その時が本当に幸せなんだ。

 大切だよっていう気持ちが、包み込まれて伝わってくるから。

 その時は、世界で1人のお姫様になった気分になるよ。


「信次、大丈夫かしら。心配ですわ」

「あんなに頑張ってたもん、大丈夫だよ」


 信次の努力が実りますように。

 寝る間も惜しんで、すごく頑張っていたから。


「帰って来たら、ギュッと抱きしめるのですわ」

「もー、のばらの欲しがりさん」

「だって愛してますもの」

「信次は頑張ってくるもんね」


 何だか私も、京平を抱きしめたくなって来たな。


「私も京平を抱きしめよっと」

「幸せな気持ちになりますわね」


 私達、幸せにしてもらってるね。

 2人で話してても、ずっと笑顔だもん。


「信次には愛されていますわ。朝からキスしてくるんですの」

「嘘、大胆というか押さえきれてないじゃん、信次」

「いいんですの。その、嬉しかったんですの」

「私からはしたことあるけど、京平から朝にされたことないかも。いいなあ」


 やっぱり私、というか時任家変態説が出て来たぞ。

 いやあ、姉弟(きょうだい)って、変なとこで似るもんだね。

 でも京平とも兄妹(きょうだい)だし、その内京平も変態になるよね?


「んん、身体が怠いからそろそろ寝るのですわ」

「のばらは15時頃起きといでね」

「亜美はケーキ作りもありますし、もっと早く起きますの?」

「うん、12時には起きようかな」

「じゃあ、のばらも一緒に起きますわ」

「無理しなくていいよ?」

「1人で寝るのは寂しいんですの」


 そういうとのばらは、スマホのアラームを、12時にセットする。

 私も念の為、アラームをセットしたよ。

 

「おやすみなさいませ、亜美」

「おやすみ。今日は頑張ろうね! のばら」

「勿論ですわ!」


 今日は楽しい日にしようね。

 おやすみ。

のばら「恋バナって楽しいですわ!」

亜美「ね!」

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