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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験戦争
154/238

無くてはならない時間(信次目線)

「信次、お疲れ様ですわ」

「のばらも勉強見てくれてありがとね」


 今日の勉強が終わった後、僕達はお風呂で疲れを癒していた。

 お互いを労いつつ、お互いの背中を流す。

 今はのばらが、僕の背中を流してくれている。


「遂に後1週間ですわ」

「気を抜かずに頑張るよ」

「信次、少し背が伸びたんじゃなくて?」

「そう言えば、寝てる時節々が痛くなることがあったなあ」


 じゃあ、のばらより少し背が高くなったかな?

 のばらはスタイルが良いから、少しでも背が伸びたなら嬉しいな。


「キスしづらくなりますわ」

「僕がするから問題ないよ。のばらは目をつぶるだけでいいよ」

「待ってますわね。信次、どんどん見た目も格好良くなって来てますわ」

「そこは何も努力してないけど、そう見えたならありがとね」


 少しずつ僕の背丈は変わっていくけれど、のばらを愛しく想う気持ちだけは変わらないからね。

 背が伸びた分、のばらをより包み込むからね。


「ていや! ですわ」

「ちょ。のばら! 薔薇で身体をくすぐらないで」

「笑ってくださいまし、信次」


 あ、確かに真顔になってたや。

 折角のばらとお風呂に入っているのに。

 僕は振り向いて、のばらに微笑む。


「お返しだぞ!」

「もー! くすぐらないでくださいまし! あははは」


 ◇


 それから僕達は寝る支度をして、お互いを抱きしめあって眠りについた。

 のばら、いつも良い匂いするんだよなあ。

 同じボディソープ使ってるのに、なんか違うんだよ。

 いつものばらに癒されてるよ、僕。


 こうして、ぐっすり眠ったまま朝を迎えた。


「んー、よく寝た。おはよ、のばら」


 起き抜けに、僕は耐えきれなくて、のばらにキスをした。

 あまりにのばらの寝顔が可愛かったから。

 最近、ますます我慢出来なくなってきたよ。


「お、おはようございますわ。信次」


 僕のキスで、お姫様も目を覚ましたみたい。

 キス一つで未だに照れてくれるのも可愛いなあ。

 あまりに可愛いから、僕はのばらを抱きしめた。


「信次ってば、朝からお盛んですのね」

「僕だって男だよ?」

「嬉しいのですわ」


 こんな2人の時間が、最近好きだ。

 僕の今までの人生になかった時間なのに、今はそれが無いと寂しく感じたりもするし。

 

「のばら、前にも増して、信次が欲しくなりましたわ」

「僕も。もっとのばらが欲しいな」


 こうしてもう一度抱きしめ合って、キスをする。

 それだけで、世界が色付いたように見えたんだ。

 全てが輝いて見えたんだ。

 こんなに幸せでいいのかな、僕。

 しかも、自分の意思じゃ最近止められなくて。


「信次、そろそろリビング行きましょ?」

「は、ごめん。僕、また我を忘れてたよ」

「受験終わったら、いっぱい楽しみましょ」


 これじゃ、僕はただの獣だね。

 こんな自分が嫌になってくる。

 兄貴はどうやってセーブしてるんだろう。


「あら、落ち込まないで。若いんだから仕方なくてよ。のばらだって、本当はもっと……」

「ありがとね、のばら。いつも受け止めてくれて」


 こうして僕達は起き上がってリビングに向かう。

 リビングへ行くと、既に食卓では、お父さんのお茶漬けが綺麗に並んでいた。

 お父さんは毛布を掛けて、小さなソファに座っている。

 冷え性なんだよね、お父さん。


「おはよ、信次、のばらさん」

「おはよう、信次にのばらさん」

「信次、のばら、おっはよ!」


 皆、僕の為に家事ありがとね。

 感謝してもしきれないや。


「おはよう、皆!」

「おはようございますわ」

「さ、早いとこ朝ご飯食べて、勉強するんだぞ」

「「いただきます」」


 今は5時。6時になったら海里もやってくる。

 それまでには、朝の支度を終わらせなきゃ。


「相変わらずお父さんのお茶漬けは美味しい!」

「お漬物の深みが最高ですわね」

「それなら良かった」


 お父さん、お茶漬けしか作れないって言ってるけど、実際はそこまでの過程で浅漬けを作ってるんだよね。

 なんだけど、漬物単品はあまり出さないんだよ。良いおかずになるのにな。

 しかも、あられも焼いてるから、絶対料理得意になるのにね。


「私もお弁当作ったら、お茶漬け食べるぞ!」

「俺は洗濯物終わり、っと。あ、唐揚げもーらい!」

「ちょ、つまみ食いはダメ!」

「だって亜美と茶漬け食いたいから、暇なんだもん。もぐもぐ」


 そんな中、朝っぱらから、亜美と兄貴はイチャついてるし。

 あ、そういえば。


「お父さんはお茶漬け食べないの?」

「朝早すぎて、食欲が湧かないんだよ。8時くらいにゆっくり食べるよ」


 確かに正直に言うと、僕の胃もまだ働いてないらしく、もっさりとお茶漬けがのしかかってる。

 ま、少しずつ消化してくれるだろうけど。


「のばらはおかわりしますわ」

「え」

「のばらさんの胃は朝から元気だな」

「だって美味しいんですもの」


 お父さんにちょっと嫉妬した。

 のばら、めちゃくちゃ美味しそうな顔して食べてんだもん。


 ◇


「いってきまーす!」

「「「「「いってらっしゃーい」」」」」


 亜美は元気よく病院に出かけていった。


「俺は二度寝すっかな。おやすみ」


 今日は布団を干してるから、兄貴はリビングの大きなソファで横になる。

 しっかり寝とかないと、明日の診療に差し支えが出ちゃうもんね。

 僕は予備の掛け布団を、兄貴にかける。


「兄貴も早起きありがとね。おやすみ」


 兄貴は瞬く間に、眠りについたようだ。


「気持ちよさそうに寝てるな、京平」

「本当ですわ。寝付きが良いというか、眠たかったのかしら?」

「疲れが溜まってるんすね」


 兄貴、ゆっくり休んでね。疲れてたのに、朝の家事ありがとね。


「いよいよ、1週間切ったのかあ。実感湧かねえな」

「本番も近づいてきたね。まだ頑張れるから、頑張ろうね」

「解らない問題は無くなってきたけど、苦手な問題はまだ解くの時間掛かるわあ」

「海里くんは関数が苦手ですものね」


 飛び級試験は問題量もかなりあるから、解くスピードも肝心なんだよね。

 去年は僕も、範囲量、問題量にやられたしね。


「関数を解くスピードをあげてかないと」

「はい、海里くん用に問題集を作りましたわ」

「のばらさん有難うっす」

「僕の弱点はなんだろう?」

「このあたりですわ。はい、問題集」

「僕にもありがとね、のばら」


 のばら、いつの間に問題集なんて作ってたんだろう。

 僕がいない時に作ってたのかな?

 いつも有難う、のばら。


 こうして僕達は、のばらの問題集を素早く解けるようになるまで、問題集に齧り付いた。

 繰り返し、何度も何度も解いたりして。

 のばらに教わりながら何度も解く内に、コツが解って来たよ。

 

「信次達頑張っているな」


 あ、お父さんがお茶漬けを食べてる。

 お父さんがお茶漬けを食べ始めたってことは、もう8時かあ。

 集中してると、時間が過ぎ去るのも早いね。


「2人とも、大分解けるようになって来ましたわね」

「のばらもありがとね」

「のばらさんのおかげで、大分コツが掴めて来たっす」

「2人の力になれたなら良かったですわ」


 僕らの為に、休みの日はずっと付き添ってくれてるもんね。

 おかげで僕達も成長出来てるよ。ありがとね。


「そうですわ、渡し忘れるといけないから今のうちに渡しますわ」

 

 のばらは僕達に、小さな何かを手渡した。

 渡されたものを見てみると。


「お守りだ」

「手作りのお守りですわ。中にお手紙入れましたから、受験前に読んでくださいまし」

「ありがとうっす、のばらさん」

「ありがとね、のばら。大事にするね」


 お守りは毛糸で編まれていて、それぞれ僕達の名前がローマ字で入っていた。

 のばら、編み物が得意なんだなあ。凄く可愛いや。

 何より、のばらの気持ちが嬉しすぎるよ。


「よーし、引き続き頑張るぞ」

「はい。問題集2冊目ですわ」

「ありがとね。のばら」


 ◇


「うーん、よく寝た。おはよ、皆」

「おはよ、兄貴」

「京平、おはよ」

「おはようございますわ」

「おはよっす! 京平さん」


 僕達が問題集3冊目に突入する頃、兄貴が起きて来た。

 え、もう15時?! 集中しすぎて、お昼ご飯食べてなかったよ。


「あら嫌ですわ。お昼ご飯まだ食べてなかったですわね」

「皆で食べよっか。亜美が弁当作ってくれたし」

「食べてない事に気付いたら、お腹空いてきたあ」

「それだけ集中してたんだな、俺達」


 兄貴は起きたての身体で、皆のお弁当を温めてくれた。

 亜美も早番の時は、沢山お弁当作ってくれてるよね。

 今日だけでも、僕と海里とのばらと兄貴とお父さんと亜美の分で、6個作ってるもん。

 しかも冷食使ったっていいのに、いつも手作りでさ。

 

「亜美、お弁当作り頑張ってくれてるよね」

「俺達の分も作ってるもんな。あの寝坊助だった亜美が」

「あんなに朝、起きれなかったのにね」


 朝起きるの苦手なのに、亜美もいつもありがとね。


「うし、温め終わったぞ。皆、席着けよ」


 お弁当の良い匂いがする。

 僕の好きな唐揚げも入ってるみたい。楽しみ。


「「「「「いただきます」」」」」

「唐揚げ美味しいー! 五臓六腑に染み渡るよ」

「亜美、本当にお弁当上手くなったな。卵焼きも美味え」

「あんな小さかった亜美が、こんなに美味しいお弁当を」

「美味しいですわ」

「炒飯美味いっす!」


 亜美、本当にお料理上手になったね。

 もう兄貴といい勝負なんじゃないかな?

 それだけ亜美がお弁当を作ってくれてるってことだね。

 のばらも美味しそうな顔してるし。


「今日は亜美の好きなもの作ろうかな」

「頑張ってるもんね、亜美」

「今、亜美は何が好きなんだ?」

「オムライスは昔からすきだよね。あと、牛ステーキ」

「亜美、結構食べるよな」


 そう、亜美はオムライスも好きだけど、牛ステーキも好きなんだよね。

 流石に牛ステーキは、誕生日にしか食べさせてないんだけど。


「今日はオムライスを作ろうかな」

「亜美、きっと喜ぶね」


 そういえば、亜美の誕生日もうすぐだなあ。

 2月2日だもんね。

 誕生日には、美味しい牛ステーキ焼いてあげたいな。

 日頃の感謝もあるしね。

 あ、のばらの誕生日はいつなんだろ?


「のばらの誕生日っていつなの?」

「実はもうすぐですの。2月2日ですわ」

「お、亜美と一緒なんだなあ」

「亜美と一緒なのですわね。なんか微笑ましいですわ」

「そっか、その日は盛大にお祝いしないとね」


 のばらの好きなグラタンを焼いて、プレゼントも用意して、楽しいパーティにしたいな。


「お祝いしてくれる人が沢山いるって、嬉しいですわ。今まで誕生日は、山田が唯一の話し相手でしたわ」

「そっか。皆でいっぱい盛りあがろうね」


 実はその前に僕の誕生日もあるんだけど、今年は飛び級試験と被っちゃったからなあ。1月31日。

 皆、試験の事で気を遣ってくれてるし、僕の誕生日の事なんて忘れてるだろうし、それでいいや。

 試験前日のカツ丼を楽しみにがんばろ。


 それより、のばらと亜美の誕生日会、今から色々考えなくちゃ。

 いや、それよりも受験勉強のが大事かなあ。

 でも、2人の誕生日会はかなり大事だし。

 それと。


「のばらと亜美のプレゼント、何にしようかな?」


誰にも聞こえないように、僕はひっそり呟いた。

信次「飛び級試験が終わったら、すぐプレゼント買いにいかなきゃ」

京平「まさか亜美と一緒なんてな」

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