無くてはならない時間(信次目線)
「信次、お疲れ様ですわ」
「のばらも勉強見てくれてありがとね」
今日の勉強が終わった後、僕達はお風呂で疲れを癒していた。
お互いを労いつつ、お互いの背中を流す。
今はのばらが、僕の背中を流してくれている。
「遂に後1週間ですわ」
「気を抜かずに頑張るよ」
「信次、少し背が伸びたんじゃなくて?」
「そう言えば、寝てる時節々が痛くなることがあったなあ」
じゃあ、のばらより少し背が高くなったかな?
のばらはスタイルが良いから、少しでも背が伸びたなら嬉しいな。
「キスしづらくなりますわ」
「僕がするから問題ないよ。のばらは目をつぶるだけでいいよ」
「待ってますわね。信次、どんどん見た目も格好良くなって来てますわ」
「そこは何も努力してないけど、そう見えたならありがとね」
少しずつ僕の背丈は変わっていくけれど、のばらを愛しく想う気持ちだけは変わらないからね。
背が伸びた分、のばらをより包み込むからね。
「ていや! ですわ」
「ちょ。のばら! 薔薇で身体をくすぐらないで」
「笑ってくださいまし、信次」
あ、確かに真顔になってたや。
折角のばらとお風呂に入っているのに。
僕は振り向いて、のばらに微笑む。
「お返しだぞ!」
「もー! くすぐらないでくださいまし! あははは」
◇
それから僕達は寝る支度をして、お互いを抱きしめあって眠りについた。
のばら、いつも良い匂いするんだよなあ。
同じボディソープ使ってるのに、なんか違うんだよ。
いつものばらに癒されてるよ、僕。
こうして、ぐっすり眠ったまま朝を迎えた。
「んー、よく寝た。おはよ、のばら」
起き抜けに、僕は耐えきれなくて、のばらにキスをした。
あまりにのばらの寝顔が可愛かったから。
最近、ますます我慢出来なくなってきたよ。
「お、おはようございますわ。信次」
僕のキスで、お姫様も目を覚ましたみたい。
キス一つで未だに照れてくれるのも可愛いなあ。
あまりに可愛いから、僕はのばらを抱きしめた。
「信次ってば、朝からお盛んですのね」
「僕だって男だよ?」
「嬉しいのですわ」
こんな2人の時間が、最近好きだ。
僕の今までの人生になかった時間なのに、今はそれが無いと寂しく感じたりもするし。
「のばら、前にも増して、信次が欲しくなりましたわ」
「僕も。もっとのばらが欲しいな」
こうしてもう一度抱きしめ合って、キスをする。
それだけで、世界が色付いたように見えたんだ。
全てが輝いて見えたんだ。
こんなに幸せでいいのかな、僕。
しかも、自分の意思じゃ最近止められなくて。
「信次、そろそろリビング行きましょ?」
「は、ごめん。僕、また我を忘れてたよ」
「受験終わったら、いっぱい楽しみましょ」
これじゃ、僕はただの獣だね。
こんな自分が嫌になってくる。
兄貴はどうやってセーブしてるんだろう。
「あら、落ち込まないで。若いんだから仕方なくてよ。のばらだって、本当はもっと……」
「ありがとね、のばら。いつも受け止めてくれて」
こうして僕達は起き上がってリビングに向かう。
リビングへ行くと、既に食卓では、お父さんのお茶漬けが綺麗に並んでいた。
お父さんは毛布を掛けて、小さなソファに座っている。
冷え性なんだよね、お父さん。
「おはよ、信次、のばらさん」
「おはよう、信次にのばらさん」
「信次、のばら、おっはよ!」
皆、僕の為に家事ありがとね。
感謝してもしきれないや。
「おはよう、皆!」
「おはようございますわ」
「さ、早いとこ朝ご飯食べて、勉強するんだぞ」
「「いただきます」」
今は5時。6時になったら海里もやってくる。
それまでには、朝の支度を終わらせなきゃ。
「相変わらずお父さんのお茶漬けは美味しい!」
「お漬物の深みが最高ですわね」
「それなら良かった」
お父さん、お茶漬けしか作れないって言ってるけど、実際はそこまでの過程で浅漬けを作ってるんだよね。
なんだけど、漬物単品はあまり出さないんだよ。良いおかずになるのにな。
しかも、あられも焼いてるから、絶対料理得意になるのにね。
「私もお弁当作ったら、お茶漬け食べるぞ!」
「俺は洗濯物終わり、っと。あ、唐揚げもーらい!」
「ちょ、つまみ食いはダメ!」
「だって亜美と茶漬け食いたいから、暇なんだもん。もぐもぐ」
そんな中、朝っぱらから、亜美と兄貴はイチャついてるし。
あ、そういえば。
「お父さんはお茶漬け食べないの?」
「朝早すぎて、食欲が湧かないんだよ。8時くらいにゆっくり食べるよ」
確かに正直に言うと、僕の胃もまだ働いてないらしく、もっさりとお茶漬けがのしかかってる。
ま、少しずつ消化してくれるだろうけど。
「のばらはおかわりしますわ」
「え」
「のばらさんの胃は朝から元気だな」
「だって美味しいんですもの」
お父さんにちょっと嫉妬した。
のばら、めちゃくちゃ美味しそうな顔して食べてんだもん。
◇
「いってきまーす!」
「「「「「いってらっしゃーい」」」」」
亜美は元気よく病院に出かけていった。
「俺は二度寝すっかな。おやすみ」
今日は布団を干してるから、兄貴はリビングの大きなソファで横になる。
しっかり寝とかないと、明日の診療に差し支えが出ちゃうもんね。
僕は予備の掛け布団を、兄貴にかける。
「兄貴も早起きありがとね。おやすみ」
兄貴は瞬く間に、眠りについたようだ。
「気持ちよさそうに寝てるな、京平」
「本当ですわ。寝付きが良いというか、眠たかったのかしら?」
「疲れが溜まってるんすね」
兄貴、ゆっくり休んでね。疲れてたのに、朝の家事ありがとね。
「いよいよ、1週間切ったのかあ。実感湧かねえな」
「本番も近づいてきたね。まだ頑張れるから、頑張ろうね」
「解らない問題は無くなってきたけど、苦手な問題はまだ解くの時間掛かるわあ」
「海里くんは関数が苦手ですものね」
飛び級試験は問題量もかなりあるから、解くスピードも肝心なんだよね。
去年は僕も、範囲量、問題量にやられたしね。
「関数を解くスピードをあげてかないと」
「はい、海里くん用に問題集を作りましたわ」
「のばらさん有難うっす」
「僕の弱点はなんだろう?」
「このあたりですわ。はい、問題集」
「僕にもありがとね、のばら」
のばら、いつの間に問題集なんて作ってたんだろう。
僕がいない時に作ってたのかな?
いつも有難う、のばら。
こうして僕達は、のばらの問題集を素早く解けるようになるまで、問題集に齧り付いた。
繰り返し、何度も何度も解いたりして。
のばらに教わりながら何度も解く内に、コツが解って来たよ。
「信次達頑張っているな」
あ、お父さんがお茶漬けを食べてる。
お父さんがお茶漬けを食べ始めたってことは、もう8時かあ。
集中してると、時間が過ぎ去るのも早いね。
「2人とも、大分解けるようになって来ましたわね」
「のばらもありがとね」
「のばらさんのおかげで、大分コツが掴めて来たっす」
「2人の力になれたなら良かったですわ」
僕らの為に、休みの日はずっと付き添ってくれてるもんね。
おかげで僕達も成長出来てるよ。ありがとね。
「そうですわ、渡し忘れるといけないから今のうちに渡しますわ」
のばらは僕達に、小さな何かを手渡した。
渡されたものを見てみると。
「お守りだ」
「手作りのお守りですわ。中にお手紙入れましたから、受験前に読んでくださいまし」
「ありがとうっす、のばらさん」
「ありがとね、のばら。大事にするね」
お守りは毛糸で編まれていて、それぞれ僕達の名前がローマ字で入っていた。
のばら、編み物が得意なんだなあ。凄く可愛いや。
何より、のばらの気持ちが嬉しすぎるよ。
「よーし、引き続き頑張るぞ」
「はい。問題集2冊目ですわ」
「ありがとね。のばら」
◇
「うーん、よく寝た。おはよ、皆」
「おはよ、兄貴」
「京平、おはよ」
「おはようございますわ」
「おはよっす! 京平さん」
僕達が問題集3冊目に突入する頃、兄貴が起きて来た。
え、もう15時?! 集中しすぎて、お昼ご飯食べてなかったよ。
「あら嫌ですわ。お昼ご飯まだ食べてなかったですわね」
「皆で食べよっか。亜美が弁当作ってくれたし」
「食べてない事に気付いたら、お腹空いてきたあ」
「それだけ集中してたんだな、俺達」
兄貴は起きたての身体で、皆のお弁当を温めてくれた。
亜美も早番の時は、沢山お弁当作ってくれてるよね。
今日だけでも、僕と海里とのばらと兄貴とお父さんと亜美の分で、6個作ってるもん。
しかも冷食使ったっていいのに、いつも手作りでさ。
「亜美、お弁当作り頑張ってくれてるよね」
「俺達の分も作ってるもんな。あの寝坊助だった亜美が」
「あんなに朝、起きれなかったのにね」
朝起きるの苦手なのに、亜美もいつもありがとね。
「うし、温め終わったぞ。皆、席着けよ」
お弁当の良い匂いがする。
僕の好きな唐揚げも入ってるみたい。楽しみ。
「「「「「いただきます」」」」」
「唐揚げ美味しいー! 五臓六腑に染み渡るよ」
「亜美、本当にお弁当上手くなったな。卵焼きも美味え」
「あんな小さかった亜美が、こんなに美味しいお弁当を」
「美味しいですわ」
「炒飯美味いっす!」
亜美、本当にお料理上手になったね。
もう兄貴といい勝負なんじゃないかな?
それだけ亜美がお弁当を作ってくれてるってことだね。
のばらも美味しそうな顔してるし。
「今日は亜美の好きなもの作ろうかな」
「頑張ってるもんね、亜美」
「今、亜美は何が好きなんだ?」
「オムライスは昔からすきだよね。あと、牛ステーキ」
「亜美、結構食べるよな」
そう、亜美はオムライスも好きだけど、牛ステーキも好きなんだよね。
流石に牛ステーキは、誕生日にしか食べさせてないんだけど。
「今日はオムライスを作ろうかな」
「亜美、きっと喜ぶね」
そういえば、亜美の誕生日もうすぐだなあ。
2月2日だもんね。
誕生日には、美味しい牛ステーキ焼いてあげたいな。
日頃の感謝もあるしね。
あ、のばらの誕生日はいつなんだろ?
「のばらの誕生日っていつなの?」
「実はもうすぐですの。2月2日ですわ」
「お、亜美と一緒なんだなあ」
「亜美と一緒なのですわね。なんか微笑ましいですわ」
「そっか、その日は盛大にお祝いしないとね」
のばらの好きなグラタンを焼いて、プレゼントも用意して、楽しいパーティにしたいな。
「お祝いしてくれる人が沢山いるって、嬉しいですわ。今まで誕生日は、山田が唯一の話し相手でしたわ」
「そっか。皆でいっぱい盛りあがろうね」
実はその前に僕の誕生日もあるんだけど、今年は飛び級試験と被っちゃったからなあ。1月31日。
皆、試験の事で気を遣ってくれてるし、僕の誕生日の事なんて忘れてるだろうし、それでいいや。
試験前日のカツ丼を楽しみにがんばろ。
それより、のばらと亜美の誕生日会、今から色々考えなくちゃ。
いや、それよりも受験勉強のが大事かなあ。
でも、2人の誕生日会はかなり大事だし。
それと。
「のばらと亜美のプレゼント、何にしようかな?」
誰にも聞こえないように、僕はひっそり呟いた。
信次「飛び級試験が終わったら、すぐプレゼント買いにいかなきゃ」
京平「まさか亜美と一緒なんてな」