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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験戦争
153/238

僕を気遣ってくれる家族(信次目線)

「ただいまー」

「兄貴おかえり」

「おかえりですわ」

「おつかれっす!」

「おかえり、京平」


 兄貴が帰ってきた。

 兄貴は手を洗うと、エプロンと三角巾を身につけてすぐキッチンに向かう。

 今日は何を作ってくれるのかな?


 今日は家事、何にもやってないや。

 朝の家事は亜美が全部してくれたし、昼も亜美のお弁当食べたし、洗い物ものばらがしてくれた。

 夜ご飯は兄貴が今から作ってくれるし。

 それだけ勉強に集中しろって事だね。


「信次ー、何食べたい?」

「え、じゃあカツ丼……は、受験日前日に食べたいから、トンカツで!」

「おし、美味しいの作るからな」

「信次カツ系好きだよな」


 今日は低血糖にはならなかったけど、朝から頑張ったもんね。

 ガッツリ好きなもの食べるんだ。

 その後、また勉強できるようにね。

 

「さ、ご飯ができるまで勉強ですわよ!」

「あとちょい頑張るぞ。トンカツ楽しみ」

「京平さんのトンカツ美味しいもんな」

「京平のトンカツは初めて食べるなあ」

「楽しみにしててな」


 やばい、自分でリクエストしてなんだけど、トンカツのことしか考えられなくなってきた。

 サクッとした衣に、ジューシーな豚肉。

 それが合わさった事で生まれるハーモニーが最高だよね!

 トンカツ! 最高!


「信次! 答えはトンカツじゃないですわ」

「あ」

「何やってんだよ、信次」

「楽しみにしてくれるのは嬉しいけどさ」

「答えがトンカツ……笑いが止まらん」


 何やってんだよ僕!

 のばらに格好悪いとこ見せちゃったよ。

 のばらの前では、格好良い僕でいたかったのになあ。


「格好良いと思った事はないのですわ」

「ぐさっ」


 ◇


「さ、トンカツも揚がったし、亜美を迎えに行ってくるよ」

「ああ、亜美早起きしてたもんね」

「帰り道、何かあってからじゃ遅いしな」

「私が寝ていた間に、亜美はかなり無理してたんだな」


 兄貴、相変わらず亜美に優しいな。

 でも、確かに眠たい亜美は、普通に帰り道で寝てたことあったんもんなあ。

 昔、中々帰ってこない亜美を迎えに病院までいく途中で、眠った亜美を見つけたこともあったし。

 看護師になったばかりの頃だったし、激務で疲れちゃったみたい。

 その時は僕がおんぶして、家に連れて帰ったけど。

 それから兄貴も心配して、暫くは亜美と同じ勤務にしてたしなあ。

 そこまでするくらいだから、兄貴はやっぱり亜美のこと、すきだったんだよなあ。

 僕は当時、気付かなかったけれど。


「明日はのばらも早く起きて、洗濯はしなきゃ」

「僕も明日は家事やらなきゃ」

「信次は勉強しててくださいまし」

「でも、亜美が無理する姿はみたくないし」

「父さん、茶漬け作るぞ?」


 朝も相当眠そうな顔して、家事やってくれてた。

 僕が起きた時には、もうお弁当を詰めるだけだったから手伝えなかったんだよね。

 僕は5時15分には起きたけど、亜美は一体何時に起きたんだろう?

 

「この後、深川先生にも相談するのですわ」

「全然僕やるのに」

「信次には勉強に集中してほしいんですの」

「いつもただ来るだけでサーセン」

「海里くんはお客様だし、気にしなくていいんだよ」


 家事するのなんて、苦でもなんでもないのにな。

 大体、いつもやってることだし。

 でもそれだけ、僕を気遣ってくれてるんだよね。

 いつもありがとね、皆。

 絶対合格してやる。


「「ただいまー」」

「あ、2人ともおかえりー」

「京平、もう降ろしてよ」

「大丈夫か? ちゃんと洗面台までいけよ」


 洗面台まで走る亜美は、やっぱり疲れた顔をしてた。

 いつも誰かの為に無理するんだよね、亜美って。

 本人には言わないけど、そういうところは尊敬してたりもする。

 聞きたいことがあって、僕は兄貴を呼び止めた。


「兄貴、亜美疲れた顔してたけど……」

「そうだな。聞いたら3時半に起きたらしい。流石に早すぎる」

「通りで僕が起きた頃には、家事が終わってる訳だ」


 兄貴も洗面台へ走って行く。

 入れ違いで、亜美がやってきた。


「亜美、3時半に起きるなんて早すぎだよ!」

「だって、信次達、6時から勉強やるっていってたから、それまでには家事を終わらせたくて」

「僕ものばらも家事やれば、そんなに亜美が頑張らなくてもいいんだよ?」

「ぶー」

「ごめんね。嬉しかったよ。でも、亜美に無理してほしくないよ」

「朝ご飯なら、父さんも手伝うぞ!」


 そんな話をしてると、兄貴がやってきた。

 キッチンからトンカツを運びつつ、兄貴は亜美に語りかける。


「明日はいつもの時間に起きること。家事なら俺も手伝うから」

「でも、京平休みの日は……」

「俺も信次の受験の手助けをしたいんだ」

「朝は私が茶漬けを作るぞ!」

「じゃあ、お父さんは朝ご飯をお願いね。俺は洗濯物やるよ」


 皆が僕達の為に動いてくれてる。

 本当に感謝しかないよ。


「のばらは何をすればいいですの?」

「のばらさんは、勉強を教えることに集中して」

「かしこまりましたわ!」

「亜美、それでいいね?」

「うん。確かにしんどかったしね」


 亜美は深く頷いた。そりゃしんどいよ。


「さ、トンカツ食べよ」

「「「「「「いただきます」」」」」」

「うわあ、めちゃくちゃ美味しい。ジューシーな豚肉にサクサクっとした衣。しかも、ソースと味噌だれで味も変えられるし! これを食べたかった!」

「キャベツとの相性も抜群だね!」

「美味しいですわ!」

「最高っす!」

「美味しいぞ、京平。ありがとな」


 兄貴のトンカツ最高!

 もう語彙力がすっ飛ぶくらいに美味しいよ!


「おかわり! って、流石にないか」

「食べるの早いな、信次。実は揚げてあるんだよ、おかわりも」

「やったー!」


 ◇


 それから僕は再び勉強に集中しはじめる。

 お腹がいっぱいで横になりたいけど、そんな暇はないからね。

 亜美と兄貴はもうお風呂に入って、部屋に入っていった。

 亜美、相当眠たそうだったしね。

 それなのに走るっていうから、兄貴が必死に止めてたし。

 お父さんも明日早いし、と、眠りに部屋に戻る。

 

「おやすみ、信次、のばらさん、海里くん」

「おやすみ、お父さん」

「おやすみですわ」

「おやすみっす!」


 部屋には僕達だけになった。

 より集中しなきゃ、なんだけど……。


「ああ、眠い」

「海里頑張れ」

「夜ご飯の後は眠くなりますわ。少しだけ休憩にしましょうか」


 そういうとのばらは、コーヒーを淹れようとしてくれた。

 ま、待て。なんか、嫌な予感がする!


「のばら、コーヒー淹れられるの?!」

「失礼ですわ! 令嬢の(たしな)みとして、コーヒーや紅茶は淹れられますわ。確かに料理は苦手ですけど」

「そうだったんだね。知らなかったよ」

「だから、信次は休んでくださいまし」

「のばらのコーヒー、楽しみにしてるね」


 僕はまた座って、ゆっくりする。少し目をつぶって思い返してみた。

 最近はあの女が現れたり、プロポーズをしたり、受験勉強をしたり、色々あったな。

 なんにせよ、僕は今、幸せでしかないよ。


「信次、まだ夜は長いですわ。はい、コーヒーですわ」

「ありがとね、のばら。うわあ、いい香り」

「はい、海里くんも」

「あざっす。確かにいつもよりコーヒーの香りがいいっすね」


 のばらのコーヒー、兄貴や亜美や僕が淹れたのより美味しいや。


「のばら、美味しいコーヒーありがとね」

「これからはのばらも淹れるようにしますわね」

「僕、もっと頑張るよ」

「無理はしちゃダメですわ」

「無理じゃないよ、のばらの為にも頑張りたい」

「初めて、信次が格好良く見えましたわ」

「プロポーズは格好良くなかった?」

「嬉しさが勝ちましたわ」


 と、僕達が話していると、海里が咳払いをする。

 あ、海里の存在忘れていたや。


「ごめん、海里」

「放置は辛いよ、信次」

「そうだ、海里にはまだ話してなかったけど、僕とのばら、婚約したんだ」

「こ、婚約?! もう?!」

「プロポーズ嬉しかったですわ。指輪も受験が終わり次第買いに行きますわ」

「と、のばらのご両親への挨拶もね」


 これものばらと話し合って決めた。

 僕達はまだ指輪すら買ってなかったから、指輪は欲しいなって話になって。

 受験終わりに、僕の残ってるバイト代で、大したものじゃないけど、指輪を買いに行こうねって決めたんだ。

 と、今は疎遠になっているとはいえ、のばらのご両親にも挨拶をしなきゃ。

 ご令嬢ののばらだから、簡単にはお許しは出ないのは覚悟の上だけど、まずは僕の人となりを知って欲しくて。

 将来性でしか、物事を語れない立場なのは痛いけれど。


「まだ信次学生なのに、婚約とか思い切ったね。のばらさん」

「信次が安心出来る場所っていうのは、変わらない気がしたんですの」

「だから、僕達の将来の為にも、受験は失敗出来ないよ」

「お互い頑張ろうな、信次」

「おう」


 重圧に押しつぶされそうではあるけど、そんな重圧すら、のばらは優しく溶かしてくれるから。

 だから、僕は頑張れるんだ。

 愛してるよ、のばら。

 絶対に絶対に、乗り越えてみせる。

作者「信次の重圧、半端ねえよな」

信次「でも、乗り越えてみせるよ。皆いるし」

のばら「応援してますわ!」

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