俺の太陽(京平目線)
「京平、おはよ」
「おはよ、亜美。起こしてくれてありがとな」
今日は亜美も早番で、俺を起こしてくれた。
亜美が早番の時は、いつもお弁当を作ってくれたり、朝の家事をしてくれたり。
おかげで俺は、朝ゆっくり寝かせて貰ってる。
俺自身が、人より睡眠が必要な体質なのを、家族が気遣ってくれていて、本当にありがたい。
「朝ご飯出来てるよ。今日は私が作ったよん」
「亜美、またかなり早起きしただろ」
「信次には、起きてすぐご飯食べて欲しかったからさ。もう皆で勉強してるよ」
信次達、起きるの早いしもう勉強しているのか。受験勉強、頑張ってるな。
「その前に」
「もう、欲しがりさん」
ご飯の前に亜美が欲しかったから、俺は躊躇いなく亜美を抱きしめるのであった。
「おはよー」
「兄貴おはよ」
「おはよっす、お邪魔してるっす」
「おはようございますわ」
本当だ。
信次達はもう勉強を始めていた。
「あ、お父さんは?」
「おやすみだから、もう少し寝とくって」
お父さんも仕事大変そうだったしなあ。
疲れが溜まっててもおかしくないよな。
ってことは、今日の朝ご飯は亜美と2人かあ。
「「いただきます」」
「お、今日はピザトーストかあ。好きだから嬉しいな」
「ちょうどピーマンもあったしね」
「亜美も成長してるよな。美味しいよ」
朝早くからありがとな、亜美。
「沢山焼いたからおかわりもあるからね」
「あ、じゃあもう一枚食べよっと」
「ピザソースもこだわったんだよ」
「うん、いつもより美味しいよ」
「でも、京平のに比べるとコクが少ないんだよね。何入れてるの?」
「ほんのちょっとだけオイスターソース入れてるよ」
「なるほど! 次回やってみよ!」
亜美と朝に2人で話すの久々だから、なんか楽しいな。
最近シフトは被るようになったけど、休みは被らないからな。
亜美、愛してるよ。
もっともっと、亜美の事を知りたいな。
11年一緒に暮らしてるから、大体知ってる自信はあるけどさ。
「亜美、今日も可愛いな」
「あ、ありがとね。急に改まって何?」
「そう思ったから、言っただけだよ」
亜美が思ってる以上に、俺は亜美の事がすきだよ。
いつだって可愛いって、思ってるんだからな。
◇
「「いってきまーす」」
「いってらっしゃーい」
「頑張ってくださいね!」
「お仕事頑張ってくださいね」
俺達は皆に見送られながら、病院へ向かう。
亜美と手を繋いで、病院に行くまで会話して歩く。
「それで蓮がお弁当2個も持ってきててね」
「よく食べるな、落合くん」
「あ、違うの。あと1個は友の分なの」
「落合くんのお母さん優しいなあ」
「友も顔色良くなってきたしね」
手作り弁当の方が、栄養もしっかり摂れるしな。
日比野くんも元気になってきて良かった。
一人暮らしで、料理全然出来ないもんな。あの子。
「今日もお互い頑張ろうね」
「亜美は早起きしてるし、昼は寝とくんだぞ」
「昨日は京平と眠れたから大丈夫だよ。心配ありがとね」
可愛い事言うじゃん。思わず俺は、亜美の頭を撫でた。
「俺も亜美と一緒なら、すぐ寝付けるしな」
「私も。安心して、すぐ寝ちゃうもん」
「亜美がすぐ眠れたなら良かった」
「京平だからだよ」
亜美がちょっと照れて笑う。
「俺も、亜美だからだよ」
「お互いがお互いに安心してるんだね」
「お昼に話せるの、楽しみにしてるぞ」
「うん、私も」
そんな話をしながら、俺達はそれぞれ更衣室に向かう。
更衣室には、落合くんと日比野くんと麻生がいた。
皆して被ってるんだなあ、今日。
「おはようございます」
「おはようございます、深川先生」
「ちっす、深川先生」
「京殿、お疲れ様じゃの」
麻生は相変わらず輝いてるし、日比野くんも落合くんも若いなあ。
でも、歳が近い彼らより、亜美は俺を選んでくれたんだよな。
俺、おっさんだけど、亜美を大切にするからな。
「京殿は以前より、優しい顔つきになったのお」
「ん、そうか?」
「ああ、確かに。元々話しかけやすかったですけど、今は深川先生から話しかけてくれますし」
「確かに、前より優しくなったよな」
「明らかに亜美のおかげだと思う」
と、言った途端、俺の顔は赤く染まる。
確かに明らかに亜美のおかげである事は間違いないけど、それを堂々と言いやがる俺って。
「可愛いのお。京殿」
「黙れ、麻生」
「へいへい、お幸せに」
「仲良いですもんね」
「もー。早く着替えろよ」
ダメだな、亜美を会話に出すと、冷静じゃいられねえや。
でも、そんな俺も、俺は嫌いじゃないよ。
今笑えているのも、俺が変われたのも、全部亜美のおかげだよ。
「でも俺、諦めてないから」
落合くんが、何か呟いた気がした。
◇
「深川も麻生も、土曜だってんのに普通に出てくるよね」
「土曜は希望休多いしな。月曜診療だから、日曜日は休ませて貰ってるけど」
「じゃな、若い子達は忙しいからのお」
「あんた達の立場なら、土日休みでもいいのにね」
看護師長の言う通り、それはお互いに院長からも打診されたんだけど、逆にしんどいんだよな。
麻生も愛さんと勤務合うけど、手術の予定はずらせないから、土曜出勤せざる得ないらしい。
むしろ眠れるから、遅番有りのが楽だったまであるし。
「じゃ、頼りにしてるから2人とも頑張ってね」
「有難うございます、看護師長」
「感謝じゃ!」
「あ、そうそう、来週の日曜日は、時任さん休みにしたから、デート連れてってあげてね」
「久しぶりに休みが合う! 有難うございます!」
よっしゃ。来月にはなるけど、久々にデート出来るじゃん。
今月は頑張ってたし、ケーキ食べ放題にでも連れてってやるかな。
そう言えば、亜美も良い店見つけたって言ってたし、そこに行くのもありだな。
昼に亜美と相談しよっと。
と、回診いかなきゃ。集中。
◇
「うん、値も良くなってるね。この調子だよ」
「運動も頑張れば、退院できるよね?」
「インスリンポンプでの血糖コントロールも忘れずにな」
「よおおおし、頑張るぞ! 京平、ありがとね」
最近入院した都築さん、俺は楓ちゃんって呼んでるけど、大分値も良くなってきた。
後はインスリンポンプでの血糖コントロールが上手くいけば退院だ。
ポンプの使い方も覚えていかないとな。
俺は楓ちゃんにちょっと指導する。
「もうすぐ朝ご飯がくるからね。来たらその糖分と炭水化物の量に応じて、インスリンを注入するんだよ」
「あ、それは一昨日冴崎さんから教わったよ! お肉のカロリーは入れないんだよね」
「そ。血糖上がりそうだけど、急激には上がらないからね。カーボカウントっていう計算方法だよ」
のばらさんの指導の確認も含めて聞いてみたけど、楓ちゃんはしっかり覚えてるみたい。
良かったな、のばらさん。
「だけど、病院のご飯は糖質とか解るけど、家のご飯じゃ解らないような……」
「目安はこの前渡した成分表もあるけど、今は大体の糖質や炭水化物量が解る便利なアプリもあるから、利用してみてね。うちの病院でも出してるからさ」
「あ、本当だ! 撮影した食べ物の糖分と炭水化物の量が解るんだ。これは使わなきゃだね」
このアプリ、俺が院長に頼み込んで、外注で作ってもらったんだよな。
他にもあるんだけど、もっと精密に出るのがあればいいなって。
精密さが評判を呼んで、結構使ってくださる人も多くて、俺としては嬉しい限り。
「じゃあね、楓ちゃん」
「ばいばーい、京平!」
患者様の笑顔には、俺の方が救われるよ。
皆、少しずつ元気になってくれよな。
真剣に治療していくから。
向き合っていくから。
「次は245号室の宇久森さんだな」
◇
「お疲れ様、京平」
「お疲れ、亜美」
休憩室に向かうと、同じように休憩室に向かう亜美と出会した。
朝は大丈夫って言ってた亜美だけど、やっぱり少し疲れた顔をしていて。
これは寝かせないとなあ。
「席空いてるかなあ?」
「日向の良い席が空いてるといいな」
じゃなきゃ、亜美が風邪ひいちゃうからな。
一応俺の白衣の内ポケットに、カイロ仕込んであるけど。
「あ、深川先生に亜美、お疲れ様です」
「お疲れ様、亜美に深川先生」
「おつおつ、蓮に友」
「2人ともお疲れ」
お、2人ともいい席取っといてくれてんじゃん。
これは有難い。亜美も気持ちよく眠れるだろう。
「亜美、疲れた顔してんじゃん。寝た方がいいぞ」
「あ、やっぱり? なんか眠たかったんだよね」
落合この野郎。先を越されたわ。
「弁当食べたら寝とけよ」
「うん、午後からも大変だからそうするよ」
「あ、友、いつもの弁当な」
「いつも助かります」
ああ、これが例の弁当かあ。
落合くんのお母さん、優しいなあ。
「「「「いただきます」」」」
「亜美、めちゃ美味しいよ。ありがとな」
「それなら良かった」
「蓮、今日のお弁当可愛いです」
「野菜型抜きしてんじゃん。お袋、いつもそんな事しないのに」
「うわあ、可愛い。蓮のお母さん頑張ったね」
本当だ。日比野くんの弁当の野菜が、星型にくり抜かれている。
日比野くんの写真でも見せたのかな?
日比野くんがイケメンだから、落合くんのお母さんも頑張ったのでは?
「毎日美味しいお弁当、有難うございます」
「休み明けからも顔色悪かったもんな。栄養を摂る事は大事だぜ」
「自炊して、結局黒い残骸をいつも食べてましたからね」
「人に頼ることも覚えろよ」
亜美が会話に入ってこないなあと思ったら、亜美はかなりうつらうつらしてる。
やれやれ、お腹いっぱいになって、眠たくなったのかな?
「亜美、そろそろ寝た方がいいぞ」
「ちょうどお弁当も食べ終わったよ。ごちそうさま。おやすみ、皆」
俺が声をかけると、間髪入れずに亜美は寝た。
相当眠たかったんだな。俺は白衣を亜美に被せる。
「頑張りすぎなんだよ、いつも」
時には沈んだっていいのに。
俺の隣で気持ち良さそうに眠る亜美が、愛しくて仕方なかった。
「ゆっくり眠るんだよ。亜美」
俺は、亜美をポンポンしながら呟いた。
作者「タイトルと、最後の京平の沈んだっていいのには、和角さんの太陽って曲をモチーフにしてます。和角さんはいいぞ」