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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
お受験戦争
151/238

京平大丈夫?

「京平、私大丈夫だよ?」

「ダメ。かなり疲れた顔してるじゃん。素直におぶわれなさい」


 情けないなあ。色々あったのは信次なのに、私が疲れ切っちゃうだなんて。

 あの後、京平の胸でわんわん泣いて、で、泣き疲れて今に至るというね。


「あー、心配事が片付いたら腹減ってきた」

「え、大盛りパフェ食べたのに?」

「帰ったら茶漬けでも作るよ」

「ありがとな、お父さん」

「え、お父さんのお茶漬けなら僕も食べたい!」

「のばらも食べたいですわ!」


 やっぱり家族団欒っていいな。凄く安心するよ。

 お母さんはいないけど、もっと大切な人達が沢山いるから。

 

「亜美も食べるだろ? 茶漬け」

「うん。食べたいな」

「美味しいの作るからな」

「楽しみ!」



 私達は帰ってから、お父さんの美味しいお茶漬けを啜って、その後私は走りに行こうとしたんだけど、京平に止められちゃった。

 そして眠い目を擦りながら、京平と一緒にお風呂に入った。

 疲れた顔してる、って言われたけど、思った以上に疲れてたみたい。

 お風呂上がり、私達は部屋でのんびりしていた。


「ふー、さっぱりした。亜美は明日休みだし、しっかり寝とけよ」

「お弁当作ったら寝直そうかな」

「無理しなくていいぞ」

「私が作りたいの」


 明日はのばらも信次達に勉強教えるので忙しいし、元気付けてもらいたいからね。

 勿論京平にも、美味しいの作るんだから。


「楽しみにしてるな」

「うん、待っててね」


 私は笑ったんだけど、京平が心配そうに私を見つめた後、抱きしめてくれた。


「無理しなくていいからな。俺の前では」

「無理してないよ。寧ろ泣かせてくれたじゃん」

「笑顔が強張ってたから、心配で」

「……ごめん、もうちょっとだけ、泣いてもいい?」

「いくらでも泣けよ」


 弱虫でごめんね。

 あの女の事は切り離すと決めたのに、切り離してぽっかり開いた穴が痛くて、仕方なかったんだ。

 京平は何も言わずに、ギュッと抱きしめてくれたから、私は自然に泣く事が出来たんだ。

 京平、いつも私よりも私に気付いてくれてありがとね。

 いつも泣かせてくれて、ありがとね。


 少し泣いた私は、安心してそのまま京平の胸で寝てしまった。

 お父さんも信次ものばらも愛してるけど、1番安心出来るのは、いつだって京平なんだよ。

 どんな痛みも、京平となら乗り越えられるよ。

 おやすみ、京平。


「亜美、アラーム掛けてないよな。寝かせといてやるか。疲れてるもんな。おやすみ、亜美」


 ◇


「んん、京平愛してる。むにゃむにゃ」

「亜美の寝顔、可愛いな。じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、兄貴。お弁当ありがとね」

「信次も海里くんも勉強頑張れよ。のばらさん、2人の事宜しくな」

「おまかせあれですわ!」


 あれ、なんか声が聞こえる。

 あ、そういえば私、アラーム掛け忘れちゃってる。

 私は慌てて起きた。


「お弁当!」

「ああ、亜美おはよ。お弁当は俺が作ったから、楽しみにしとけよ」

「もー、起こしてよ」

「疲れ切った亜美を起こすほど、俺鬼畜じゃないし」


 確かに慌てて起きたんだけど、まだ身体はかなり怠かった。

 昨日、散々泣いたしなあ。


「じゃあ、病院行ってくるよ」

「行ってらっしゃい、京平」


 京平は優しい笑顔を浮かべて、病院に向かう。


「ほら、亜美はまだ寝てなよ。夜も泣いてたじゃん」

「あれ、こっそり泣いた……」

「丸聞こえだったよ。お昼くらいに起きといで」

「うん、そうしとく。身体全体がなんか怠いや」


 因みに信次達は、今日は学校を休んで勉強をするみたい。

 飛び級試験休みっていうのが、倉灘高校にはあるんだって。

 3日使えるらしいんだけど、その1日を今日にしたみたい。のばらも休みだしね。

 

 皆頑張ってね。おやすみ。


 ◇


「亜美、そろそろ起きてくださいまし」

「むにゃ。のばら、おはよ」

「おはようございますわ、亜美。皆でごはんにしましょ」

「ごはんの時間に起こしてくれてありがとね」


 私はむくりと起き上がって、のばらと食卓に向かった。

 京平のお弁当楽しみだなあ。


「あ、亜美おはよ」

「亜美さん、おはよっす」

「亜美。よく眠れたかい?」

「おはよー、皆。気持ち良く眠れたよ」


 皆食卓に揃っていた。

 因みにお父さんは、鬱の症状が出ないように、今もリモートで仕事しているよ。

 来週の月曜日、岡山で通っていた病院から、五十嵐病院に転院かつ診察するみたい。

 鬱は原因が無くなっても、すぐ治る病気じゃないもんね。


「さあ、京平の作ってくれたお弁当を食べようか」

「「「「「いただきます」」」」」

「ネギの卵焼き美味しい! たこさんウインナーもいるし、唐揚げも梅味だし、ハートマークのご飯がもうさ!!」

「亜美、ゆっくり食べなよ」

「信次、いつものことですわ」


 今日のお弁当も美味しいな。

 京平はいつも私を喜ばせてくれる。

 昨日悲しい事があったけど、いつもの京平のお弁当に、かなり元気を貰えたよ。


「京平って料理上手いよなあ。ここに戻ってきて、色々食べさせてもらってるが」

「11年は作ってるもんね。僕達の為に」

「ね、少なくとも私よりは美味しいの作るし」

「父さん、茶漬けしか作れないからなあ」

「のばらは何も出来ませんわ!」


 思えば京平は、私達のお母さんとお父さん代わりをお兄ちゃんとして、ずっとやってくれてたもんね。

 私達が育つまで大変だったろうなあ。

 仕事しながら家事全般だもんなあ。


「京平のおかげで、亜美も信次も良い子に育ったしな」

「信次の優しさには、いつも救われてますわ」

「兄貴には感謝してるし、自慢でしかないよ」

「京平に会えて良かったよ」


 寂しい時も嬉しい時も、いつも一緒にいてくれてありがとね。


「ごちそうさま。私も勉強しよっと」

「亜美も真面目だなあ」

「担当患者様増えたしね!」

「無理はしないようにな」


 ◇


「信次達も大分成長しましたわ」

「解らない問題はお互い無くなってきたよね」

「のばらさんと信次のおかげっす!」


 信次達の勉強も捗ってるみたい。 

 本番までもう来週だもんね。頑張ってね。

 私の勉強もスムーズに進んで、医学書半分まで進められた。

 休みの日くらいしか、がっつり勉強出来ないしね。

 少しずつ毎日やってるとはいえ、まとめてやる時間も大事だし。


 お父さんはリモートワークで仕事を進めている。

 リモートワークとはいえ、かなりガッツリやってるみたいで、時折疲れた顔を浮かべながら、パソコンに向かい合っていた。

 ちょっと小休止した方がいいよ。私はコーヒーを淹れ始める。


「みんな、コーヒー淹れるからね」

「あ、俺っち砂糖4つで!」

「僕も糖分欲しいから、砂糖2つ」

「私はブラックで」

「のばらは紅茶がいいですわ」

「皆、了解だよ! メモメモ」


 私はブラックコーヒーにしようかな。

 一息入れて、また頑張ってね。皆。


「ああ、フラフラしてきた。脳を使いすぎたかな」

「朝から集中してましたものね。低血糖かしら?」

「はい、信次、ファムグレ!」

「ありがと、亜美。勉強でも低血糖になるんだなあ」


 相当頑張っていたんだな、信次。

 

「少し休んだ方がいいぞ。信次」

「だよ、顔真っ青だぞ」

「うん、そうするよ。コーヒーもあるもんね」

「頑張りましたわ、信次」

「はい、コーヒー。ゆっくり休んでね」


 私は皆の分のコーヒーと紅茶を配る。


「んぐんぐ。ファムグレが染みるなあ。海里は大丈夫?」

「うん、俺っちは大丈夫。コーヒー飲んだら、また勉強するよ」

「はあ、情けないな、僕」

「情けなくないですわ。それだけ頑張ったのですわ」

「そうだよ、信次は偉いよ!」


 低血糖になるくらい集中したんだもん。

 真面目にやってた証拠だよ。


「そういえば、兄貴天然だけどミスしないよね」

「確かに。寧ろ患者様のお薬手帳もみながら、丁寧にやってるし」

「相当集中して、診察してるんだろうなあ」

「京平も低血糖にならなきゃいいけど」


 京平は毎日のことだもんね。

 合間合間でチョコレートとか食べてるのかな?

 でも、私が担当の時は、少なくとも食べてなかったような。


「受験の日は、ファムグレ持ってこ」

「それがいいのですわ」


 次から担当だったら、チョコレートあげよ。

 絶対しんどいはずだもん。


 ◇


「ただいまー」

「おかえり兄貴。体調大丈夫?」

「そうだよ京平! 無理してない?」

「無理はダメだぞ、京平」

「チョコレート食べなきゃですわ!」

「立て続けになんだ? 全然元気なんだけど」

「本当に?」


 怪しい。信次なんて、数時間の勉強で低血糖になっちゃってるのに、医者の京平は普段からなんだから、もっと大変に決まってるのに!

 なんで気遣ってあげられなかったんだろう!


「いや、僕、今日集中しすぎちゃって低血糖になっちゃって。兄貴は診察時は毎回集中してるだろうから、低血糖になるんじゃ、って」

「天然な京平が診察するには、集中してなきゃダメだよねって」


 すると京平は、軽くため息をついて。


「そうだね。俺、身体は天然だから、診察時は集中しすぎるくらい集中してるよ。過集中状態で。ミス出来ないからさ」

「チョコレートとか食べてる?」

「診察時に甘いものを摂る手もあるけど、一々手を洗いに行って、患者様を待たせるのも嫌だからさ。で、鍛えてるんだよ。身体を」

「あ、走りに行ったり、部屋での筋トレとか?」

「そ。体力があれば半日は持つからさ。それでもしんどい時は弁当食べてから寝てるし、問題ないよ」


 そっか。京平は努力もしていたんだね。

 しかも、少しでも患者様を待たせないように、体力作りまで。


「でも最初はチョコレート食べないとフラフラしてたなあ、俺も。すげえ悔しかったわ」

「僕も体力作りしないとなあ。勉強しかしてないし」

「おう。特に外科医は体力と集中力すげえ使うしな。受験終わったら、走れよー」


 医者って、全てが必要なんだなあ。

 私もより良い看護が出来るように、筋トレもしていかなきゃなあ。

 今夜京平に教わろっと!


「さ、夜ご飯何が食いたい?」

「実はもう作ってるんだよね。鶏肉のトマト煮込み」

「あ、それむっちゃ好き。嬉しいな」

「いつも京平、頑張ってるからね」

「ありがとな。亜美」


 もー。この京平の笑顔が見たくて、作ってるんだよ!

 いつも力を貰ってるよ。ありがとね、京平。


「ああ、俺、幸せだな。心配してくれる家族に、彼女もいるし」

「ちょ、京平、いまご飯作ってるから」

「なんか、亜美が欲しい。今」


 もー。私だって、京平がいつも欲しいよ!

 ご飯作りを、一瞬放り投げたくなったよ。

 でも我慢出来ない京平は、私を抱きしめてくるし。

 トマト煮込み焦げても知らないぞ?


「兄貴ってば、僕達もいるのに」

「良いのですわ。仲良き事は美しいのですわ」

「亜美を幸せにしてくれよ、京平」


 うん、恥ずかしいんだけど、やっぱり居心地いいから参っちゃうね。

 京平に弱いなあ、私。

亜美「鶏肉のトマト煮込みは、ぶつ切りにした鶏肉とトマトとジャガイモと玉ねぎを、コンソメスープで煮立てた料理だよ」

京平「俺の大好物なんだ。ありがとな」

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