京平大丈夫?
「京平、私大丈夫だよ?」
「ダメ。かなり疲れた顔してるじゃん。素直におぶわれなさい」
情けないなあ。色々あったのは信次なのに、私が疲れ切っちゃうだなんて。
あの後、京平の胸でわんわん泣いて、で、泣き疲れて今に至るというね。
「あー、心配事が片付いたら腹減ってきた」
「え、大盛りパフェ食べたのに?」
「帰ったら茶漬けでも作るよ」
「ありがとな、お父さん」
「え、お父さんのお茶漬けなら僕も食べたい!」
「のばらも食べたいですわ!」
やっぱり家族団欒っていいな。凄く安心するよ。
お母さんはいないけど、もっと大切な人達が沢山いるから。
「亜美も食べるだろ? 茶漬け」
「うん。食べたいな」
「美味しいの作るからな」
「楽しみ!」
◇
私達は帰ってから、お父さんの美味しいお茶漬けを啜って、その後私は走りに行こうとしたんだけど、京平に止められちゃった。
そして眠い目を擦りながら、京平と一緒にお風呂に入った。
疲れた顔してる、って言われたけど、思った以上に疲れてたみたい。
お風呂上がり、私達は部屋でのんびりしていた。
「ふー、さっぱりした。亜美は明日休みだし、しっかり寝とけよ」
「お弁当作ったら寝直そうかな」
「無理しなくていいぞ」
「私が作りたいの」
明日はのばらも信次達に勉強教えるので忙しいし、元気付けてもらいたいからね。
勿論京平にも、美味しいの作るんだから。
「楽しみにしてるな」
「うん、待っててね」
私は笑ったんだけど、京平が心配そうに私を見つめた後、抱きしめてくれた。
「無理しなくていいからな。俺の前では」
「無理してないよ。寧ろ泣かせてくれたじゃん」
「笑顔が強張ってたから、心配で」
「……ごめん、もうちょっとだけ、泣いてもいい?」
「いくらでも泣けよ」
弱虫でごめんね。
あの女の事は切り離すと決めたのに、切り離してぽっかり開いた穴が痛くて、仕方なかったんだ。
京平は何も言わずに、ギュッと抱きしめてくれたから、私は自然に泣く事が出来たんだ。
京平、いつも私よりも私に気付いてくれてありがとね。
いつも泣かせてくれて、ありがとね。
少し泣いた私は、安心してそのまま京平の胸で寝てしまった。
お父さんも信次ものばらも愛してるけど、1番安心出来るのは、いつだって京平なんだよ。
どんな痛みも、京平となら乗り越えられるよ。
おやすみ、京平。
「亜美、アラーム掛けてないよな。寝かせといてやるか。疲れてるもんな。おやすみ、亜美」
◇
「んん、京平愛してる。むにゃむにゃ」
「亜美の寝顔、可愛いな。じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、兄貴。お弁当ありがとね」
「信次も海里くんも勉強頑張れよ。のばらさん、2人の事宜しくな」
「おまかせあれですわ!」
あれ、なんか声が聞こえる。
あ、そういえば私、アラーム掛け忘れちゃってる。
私は慌てて起きた。
「お弁当!」
「ああ、亜美おはよ。お弁当は俺が作ったから、楽しみにしとけよ」
「もー、起こしてよ」
「疲れ切った亜美を起こすほど、俺鬼畜じゃないし」
確かに慌てて起きたんだけど、まだ身体はかなり怠かった。
昨日、散々泣いたしなあ。
「じゃあ、病院行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、京平」
京平は優しい笑顔を浮かべて、病院に向かう。
「ほら、亜美はまだ寝てなよ。夜も泣いてたじゃん」
「あれ、こっそり泣いた……」
「丸聞こえだったよ。お昼くらいに起きといで」
「うん、そうしとく。身体全体がなんか怠いや」
因みに信次達は、今日は学校を休んで勉強をするみたい。
飛び級試験休みっていうのが、倉灘高校にはあるんだって。
3日使えるらしいんだけど、その1日を今日にしたみたい。のばらも休みだしね。
皆頑張ってね。おやすみ。
◇
「亜美、そろそろ起きてくださいまし」
「むにゃ。のばら、おはよ」
「おはようございますわ、亜美。皆でごはんにしましょ」
「ごはんの時間に起こしてくれてありがとね」
私はむくりと起き上がって、のばらと食卓に向かった。
京平のお弁当楽しみだなあ。
「あ、亜美おはよ」
「亜美さん、おはよっす」
「亜美。よく眠れたかい?」
「おはよー、皆。気持ち良く眠れたよ」
皆食卓に揃っていた。
因みにお父さんは、鬱の症状が出ないように、今もリモートで仕事しているよ。
来週の月曜日、岡山で通っていた病院から、五十嵐病院に転院かつ診察するみたい。
鬱は原因が無くなっても、すぐ治る病気じゃないもんね。
「さあ、京平の作ってくれたお弁当を食べようか」
「「「「「いただきます」」」」」
「ネギの卵焼き美味しい! たこさんウインナーもいるし、唐揚げも梅味だし、ハートマークのご飯がもうさ!!」
「亜美、ゆっくり食べなよ」
「信次、いつものことですわ」
今日のお弁当も美味しいな。
京平はいつも私を喜ばせてくれる。
昨日悲しい事があったけど、いつもの京平のお弁当に、かなり元気を貰えたよ。
「京平って料理上手いよなあ。ここに戻ってきて、色々食べさせてもらってるが」
「11年は作ってるもんね。僕達の為に」
「ね、少なくとも私よりは美味しいの作るし」
「父さん、茶漬けしか作れないからなあ」
「のばらは何も出来ませんわ!」
思えば京平は、私達のお母さんとお父さん代わりをお兄ちゃんとして、ずっとやってくれてたもんね。
私達が育つまで大変だったろうなあ。
仕事しながら家事全般だもんなあ。
「京平のおかげで、亜美も信次も良い子に育ったしな」
「信次の優しさには、いつも救われてますわ」
「兄貴には感謝してるし、自慢でしかないよ」
「京平に会えて良かったよ」
寂しい時も嬉しい時も、いつも一緒にいてくれてありがとね。
「ごちそうさま。私も勉強しよっと」
「亜美も真面目だなあ」
「担当患者様増えたしね!」
「無理はしないようにな」
◇
「信次達も大分成長しましたわ」
「解らない問題はお互い無くなってきたよね」
「のばらさんと信次のおかげっす!」
信次達の勉強も捗ってるみたい。
本番までもう来週だもんね。頑張ってね。
私の勉強もスムーズに進んで、医学書半分まで進められた。
休みの日くらいしか、がっつり勉強出来ないしね。
少しずつ毎日やってるとはいえ、まとめてやる時間も大事だし。
お父さんはリモートワークで仕事を進めている。
リモートワークとはいえ、かなりガッツリやってるみたいで、時折疲れた顔を浮かべながら、パソコンに向かい合っていた。
ちょっと小休止した方がいいよ。私はコーヒーを淹れ始める。
「みんな、コーヒー淹れるからね」
「あ、俺っち砂糖4つで!」
「僕も糖分欲しいから、砂糖2つ」
「私はブラックで」
「のばらは紅茶がいいですわ」
「皆、了解だよ! メモメモ」
私はブラックコーヒーにしようかな。
一息入れて、また頑張ってね。皆。
「ああ、フラフラしてきた。脳を使いすぎたかな」
「朝から集中してましたものね。低血糖かしら?」
「はい、信次、ファムグレ!」
「ありがと、亜美。勉強でも低血糖になるんだなあ」
相当頑張っていたんだな、信次。
「少し休んだ方がいいぞ。信次」
「だよ、顔真っ青だぞ」
「うん、そうするよ。コーヒーもあるもんね」
「頑張りましたわ、信次」
「はい、コーヒー。ゆっくり休んでね」
私は皆の分のコーヒーと紅茶を配る。
「んぐんぐ。ファムグレが染みるなあ。海里は大丈夫?」
「うん、俺っちは大丈夫。コーヒー飲んだら、また勉強するよ」
「はあ、情けないな、僕」
「情けなくないですわ。それだけ頑張ったのですわ」
「そうだよ、信次は偉いよ!」
低血糖になるくらい集中したんだもん。
真面目にやってた証拠だよ。
「そういえば、兄貴天然だけどミスしないよね」
「確かに。寧ろ患者様のお薬手帳もみながら、丁寧にやってるし」
「相当集中して、診察してるんだろうなあ」
「京平も低血糖にならなきゃいいけど」
京平は毎日のことだもんね。
合間合間でチョコレートとか食べてるのかな?
でも、私が担当の時は、少なくとも食べてなかったような。
「受験の日は、ファムグレ持ってこ」
「それがいいのですわ」
次から担当だったら、チョコレートあげよ。
絶対しんどいはずだもん。
◇
「ただいまー」
「おかえり兄貴。体調大丈夫?」
「そうだよ京平! 無理してない?」
「無理はダメだぞ、京平」
「チョコレート食べなきゃですわ!」
「立て続けになんだ? 全然元気なんだけど」
「本当に?」
怪しい。信次なんて、数時間の勉強で低血糖になっちゃってるのに、医者の京平は普段からなんだから、もっと大変に決まってるのに!
なんで気遣ってあげられなかったんだろう!
「いや、僕、今日集中しすぎちゃって低血糖になっちゃって。兄貴は診察時は毎回集中してるだろうから、低血糖になるんじゃ、って」
「天然な京平が診察するには、集中してなきゃダメだよねって」
すると京平は、軽くため息をついて。
「そうだね。俺、身体は天然だから、診察時は集中しすぎるくらい集中してるよ。過集中状態で。ミス出来ないからさ」
「チョコレートとか食べてる?」
「診察時に甘いものを摂る手もあるけど、一々手を洗いに行って、患者様を待たせるのも嫌だからさ。で、鍛えてるんだよ。身体を」
「あ、走りに行ったり、部屋での筋トレとか?」
「そ。体力があれば半日は持つからさ。それでもしんどい時は弁当食べてから寝てるし、問題ないよ」
そっか。京平は努力もしていたんだね。
しかも、少しでも患者様を待たせないように、体力作りまで。
「でも最初はチョコレート食べないとフラフラしてたなあ、俺も。すげえ悔しかったわ」
「僕も体力作りしないとなあ。勉強しかしてないし」
「おう。特に外科医は体力と集中力すげえ使うしな。受験終わったら、走れよー」
医者って、全てが必要なんだなあ。
私もより良い看護が出来るように、筋トレもしていかなきゃなあ。
今夜京平に教わろっと!
「さ、夜ご飯何が食いたい?」
「実はもう作ってるんだよね。鶏肉のトマト煮込み」
「あ、それむっちゃ好き。嬉しいな」
「いつも京平、頑張ってるからね」
「ありがとな。亜美」
もー。この京平の笑顔が見たくて、作ってるんだよ!
いつも力を貰ってるよ。ありがとね、京平。
「ああ、俺、幸せだな。心配してくれる家族に、彼女もいるし」
「ちょ、京平、いまご飯作ってるから」
「なんか、亜美が欲しい。今」
もー。私だって、京平がいつも欲しいよ!
ご飯作りを、一瞬放り投げたくなったよ。
でも我慢出来ない京平は、私を抱きしめてくるし。
トマト煮込み焦げても知らないぞ?
「兄貴ってば、僕達もいるのに」
「良いのですわ。仲良き事は美しいのですわ」
「亜美を幸せにしてくれよ、京平」
うん、恥ずかしいんだけど、やっぱり居心地いいから参っちゃうね。
京平に弱いなあ、私。
亜美「鶏肉のトマト煮込みは、ぶつ切りにした鶏肉とトマトとジャガイモと玉ねぎを、コンソメスープで煮立てた料理だよ」
京平「俺の大好物なんだ。ありがとな」