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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
ともだち
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変態亜美ちゃん

「亜美、そろそろ時間だぞ」

「ん、ん、おはよ。京平」


 京平のお陰で少しの時間ではあるが、眠ることが出来た。これで午後からの仕事も捗るね。


「あれ、これ京平の?」


 私は京平の白衣……には、匂いで気付いていたんだけど、そんな変態な事言えないから、いま気付いた振りをした。


「寝てたから掛けといた」

「ありがとね。京平も今からかなり長いから無理しないでね」


 京平に白衣を渡すと、京平はサッと着て、持ち場に戻っていった。緊急外来の時間になるまでは、入院患者様の巡回をするみたい。


「じゃあ俺も診療戻るわー。まだ寝たりねーだろうから気をつけるんだぞ」

「落合先生も有難うね」


 こうして落合先生も診察室へと走っていった。

 私もそろそろ戻らなきゃ。ナースステーションまで足を進める。


 と、ナースステーションまで戻ると、のばらと看護師長が言い合いをしていた。


「冴崎も12時に休憩行きたかったのですわ。看護師長は意地悪ですわ」

「意地悪で結構。深川のシフトはバカシフトだから、合わせちゃだめよ。身体持たないわよ」


 うわー、京平のあり得ない休憩時間のせいで、とんでもない事になってらあ。全て看護師長の言う通りなんだけどね。あれはバカシフト過ぎる。


「くすん、深川先生と少しでもお話ししたかったのですわ」

「休憩は合わせらんないけど、夜は緊急外来に回すから泣くんじゃないよ。さ、採血担当行っといで」


 なんだかんだで、夜は京平と同じ担当かあ。羨ましすぎるぜ、のばら。

 でも、私は頭ポンポンして貰ったもんね! と、強がりながら、入院患者様の巡回に再度回り始めた。


 少しでも睡眠が取れるとやっぱり違うなあ。余裕が大分出てきたや。

 この余裕で、患者様のカルテをよりしっかり記入しなければ。後々大事になってくるからね。

 私はカルテの記入と、入院患者様の検査や体温を測ったりしながら、巡回をする。

 途中で同じく巡回をしている京平とすれ違ったけど、その瞬間京平が転けたので、また助けた。ギリギリセーフだねって笑い合う時間も、良かったりするよね。


 そして夜になり、入院患者様のご飯の食べ具合もチェックしながら、今日の業務を終えた。

 今週はなんか長かったなあ。色んな事が立て続けに起きたしね。

 

 ◇


 私は申し送りを済ませると、スーパーに向かった。

 スーパーの開いてる時間に動けるのが私だけなので、信次からクッキーの材料の買い出しを頼まれたのだ。

 因みにクッキー作りは、我が家で行うよん。

 クッキー作りは京平が早番なのもあり、10時から。これなら京平にバレることはないだろう。


 えっと、バター3個と薄力粉と砂糖と……チョコチップも何種類か買っておこうかな。この薔薇のとか、のばらっぽいしね。あ、ホワイトチョコもいいよね。生地に混ぜ込めば彩り豊かになるし。

 ココアパウダーとバニラエッセンスはうちにもあるけど、のばらも作るし念の為買っておこう。

 あ、卵も忘れちゃいけないね。買わなくちゃ。


 こういう買い物、結構すきなんだよなあ。完成品を想像しながら選ぶのが楽しいからね。ただ、どうしても私の好みになるのはご愛嬌。

 あ、このコーヒー豆、京平が好きって言ってたよね。ちょうどコーヒー豆切らしてたから、これも買っておこうっと。


 と、あれこれ買い物かごに入れていたら、買い物袋が手持ちのエコバッグじゃ足りないくらい材料が揃ってしまった。

 どうしよう、これは買い過ぎたかもしれない。

 けど、沢山クッキー作れば良いよね。京平も喜ぶだろうし。

 のばらがどんなクッキー作るかも楽しみだなあ。


 ◇


 今日は信次もバイトなので、夜は暫くひとりぼっち。でも、相変わらず出来る弟の信次は、晩御飯を作ってくれていたので、それを温め直す。


ーー今日は眠れたらいいんだけどな。


 のばらの告白は遂に明日。その事を考えると気が気じゃない。どうしても悪い方向へ考えが進む。

 それがなくても、クッキー作りもあるし、早めに寝たいというのに、だ。

 昼間は京平が居たから眠れたけど、今は絶賛激務中だもんね。倒れないか心配ではある。


 と、考え事をしてても仕方ない。

 信次の作った美味しいご飯も食べ終わったし、寝る努力はしてみよう。

 睡眠不足時のお風呂は危ないから、明日入るとして。


 そうだ、京平の物を抱きしめながらなら、眠れるかもしれない。亜美ちゃん頭良い!

 少しでも京平の顔は見たいから、ソファで軽く寝っ転がるとしよう。

 そう思ったら早かった。私は2人の部屋から京平の布団を持ち出して、横になる。

 うん、京平の匂いがするからこっちだね。凄く安心できるや。

 と、21時30分にアラームをセットしとけば、この奇行もバレないよね。お風呂も作ってあげられるし。


 私は京平の布団に包まりながら、安心して眠りこけるのであった。

 

 ◇


 しかし、やっぱり私はバカ亜美ちゃん。

 起きたいと思った時間には起きれず、先に帰ってきた信次に起こされた。

 アラームも鳴ってたはずなのに何でじゃ?!


「亜美、亜美、大丈夫?」

「ん……信次。おはよ」


 慌ててスマホを見ると、22時15分。

 お風呂も作ってない。やらかした。やらかした。


「それ、兄貴の布団だよね? そーいうのないと眠れなかったの?」

「うん、悪い事ばかり考えちゃって……」


 奇行もバレてしまった。でも、そーいうのないと眠れなかったのは事実なので仕方ないよね?

 でも信次は、そんな私の奇行を更に後押ししてくれた。


「だったら、亜美の布団と兄貴の布団取り替えちゃおうか。丸ごと変えたって同じ柄の布団だし、バレやしないよ」

「え、名案すぎる」

「むしろ、見事兄貴の布団を見分けた亜美が変態なだけだしね」

「んぐ」


 と、変態と言われた私だったが、信次は私を気遣って布団を入れ替えてくれた。眠れてなかった事を、信次にも心配させちゃったなあ。


「京平は残業かあ、ライム届いてるや」

「大丈夫かなあ、ライムで亜美が眠れてないよって話したんだけど、12時半くらいに返事来たからなあ。どうせ兄貴、早めに休憩取ったでしょ?」

「え、そんな事があったんだ」


 確かに京平は、「信次から聞いた」って言ってたからなあ。普通中番で、そんな時間に返信出来る訳ないから、信次が察せるのも無理はない。


「確かに早め、というか来てすぐ休憩取ってたよ。しかも2時間フルで」

「2時間フルで?! 兄貴アホなのバカなの?!」

「ごめんね、皆に心配掛けちゃったね」


 そうか、緊急外来でとか言ってたけど、本当は私を心配しての事だったんだね。

 私ってば、京平に無理させてしまったし、なんなら無茶な勤務してからにって言ったわ。私のせいじゃん!

 しかもバカシフトって思ってたよ、私のせいなのに!


「さ、兄貴の布団は亜美の部屋に敷いといたし、今日は早めに寝たら? さっきまで寝てたんだし」

「でも、京平の顔見たいし……」


 顔も見たいし、ちゃんとお礼も言えてない。こんな無茶をさせてしまった事を謝りたくもあるし。


「逆に心配させるだけだよ。いま、凄く眠そうだしね。めっちゃ隈出来てる」

「そっか、じゃあ明日早起きしてお礼言わなきゃ。そして謝らなきゃ」

「お礼だけでいいよ、兄貴がすきでやったんだしさ。じゃあ、こっそり起こしにいくね」


 あれ? 京平もフライパン無しでは起きられないのでは? いつも通りフライパンで良いんだけどなあ? まあ、信次が京平を起こすんならいっか!


「さあ、亜美は早く寝ること! 兄貴の世話は僕に任せて」

「ありがとね、信次。それじゃおやすみ」

「あ、ちゃんとパジャマに着替えるんだよー」


 私は部屋でパジャマに着替えると、京平の匂いを纏った布団に包まれながら眠りについた。

 やっぱり、京平の匂いは安心するなあ。全京平布団は、もっと安心出来るしね。


 ◇


「あー、疲れた。信次起きてたのか、ただいま」

「お帰りー」

「良かった、亜美はもう寝たみたいだな」

「うん、寝ろってゆっといた。ご飯食べる?」

「や、俺ももう寝る。流石に10時間ぶっ通しはキツいわ」

「そっか。じゃあ僕も寝ようかな」

「あれ、信次布団間違えた? ……なんか、亜美の匂いがする」

「(あ、兄貴も変態だったのか。しくった)」


作者「すきな人の匂いって癒されるよな」

のばら「解りますわ、癒されますわ」

信次「のばらさんも変態説あるな、こりゃ」

のばら「変態じゃありませんわ! 愛する乙女ですわ」


作者「そいや、看護師長の名前紹介してなかったから、紹介するね」


円谷(つぶらや) 聖子(せいこ)

看護師長。ちゃきちゃきとした性格。

五十嵐病院に20年勤めてる大ベテラン。

深川シフトはバカシフトすぎるので

のばらのシフト可哀想だな、って思いながらも

愛する乙女は応援したいみたい。

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