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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
予期せぬ出来事
147/238

会いたくなかった(信次目線)

「ただいま帰りましたわ」

「あ、のばらお帰りー」

「お邪魔してるっす!」


 のばらが疲れた顔をして帰ってきた。

 僕は餃子をレンジで温める。


「お腹空きましたわ! あら、いい匂い。今日は餃子ですのね」

「うん、兄貴が作ってくれたんだ」

「美味かったっすよ!」

「楽しみですわ」


 のばらはパアアと笑ってくれた。兄貴の餃子、すごいな。

 

「あ、信次、ついでに炒飯作ってよ」

「もうお腹減ったの? しょうがないなあ」

「あ、のばらも欲しいのですわ」

「よっしゃ、ニンニク沢山入れとくね」


 のばら、相当お腹空いてるんだな。

 待っててね。すぐ作るからね。と、その前に。


「のばらは餃子食べててね」


 僕は温め終わった餃子を、のばらの席におく。

 勿論ごはんもね。


「はうう。美味しそうですわ! いただきます」


 食べる姿も可愛いね。愛してるよ。

 ただ、見る見るうちに無くなってくね。餃子。

 早く炒飯作らなきゃ。

 僕は急いで中華鍋をふるい始める。


「海里くん、ご飯おかわりですわ」

「早! しゃーないっすね。大盛りですよね?」

「勿論ですわ!」


 てか、のばらってば、この後炒飯もあるのに!

 もー、炒飯大盛りにするけど食べられなくても知らないからね!

 と、僕がヤキモキしていると。


「ふー、さっぱりしたあ。あ、のばらお帰り」

「のばらさんお帰り。餃子美味いだろ?」


 亜美達がお風呂から出て来た。


「ただいま帰りましたわ。餃子美味しすぎますわ」

「あれ、信次は炒飯作ってんの?」

「うん。のばらと海里が食べたいって」

「のばらさんの餃子、30はあるんだけどなあ」

「今日ののばらは沢山食べますわ!」


 相当お腹空いてるんだな。炒飯残したら泣いちゃうからね。

 とか言ってるうちに、炒飯は完成したけど。


「はい、のばら、海里。お待たせ」

「炒飯ですわ! 炒飯と餃子は合いますわ」

「「いただきます」」

「うーん! めちゃくちゃ美味しいのですわ」

「美味え! 流石信次!」


 炒飯を掻き込むのばらも可愛いな。口いっぱいに炒飯と餃子を詰め込んでいて。


「あ、そうだ。皆揃ってるし、信次と海里くんにお守り渡すね」


 ん、袋がかなりこんもりしてるけど、亜美達どんだけお守り買ったんだろ?


「お、あざっす!」

「のばら、亜美、兄貴、ありがとね」


 袋の中身を覗くと、学業守や鉛筆の他に、厄除守、健康守、交通安全守……もはや全部じゃん。


「ちょ、これは買いすぎでしょ!」

「受験の日に何も起こらないように、だぞ」

「ちゃんとバッグに全部付けとくんだよ」

「付けるけどさあ」


 でも、僕の事を心配してくれてるんだよね。それには感謝しかないや。

 家族が、のばらが、海里がいるから頑張れてるよ。


「信次も勉強程々にしとけよ。俺達もそろそろ寝るし」

「でも、まだ頑張りたいから」

「ダメですわ、信次。のばらがご飯終わったら、一緒にお風呂入りましょ」

「ひゅーひゅー」

「ちょ。海里古いぞ」


 まあ、海里の親も心配するし、そろそろ勉強終わってもいいかな。

 海里も炒飯食べてるから、間違いなく寝ちゃうだろうし。

 そんな海里はペロリと炒飯を食べ終え、帰り支度を始めた。あ、眠いんだな。目がトロンとしてるや。


「じゃ、俺っちはそろそろ帰ります。お守りに夜ご飯にありがとうございました」

「ちゃんとお守りバッグに付けとけよ」

「鉛筆は削り忘れないでね」

「亜美さんじゃないし、忘れないっすよ。それではおやすみなさい」

「お疲れ様ですわ」

「じゃあね、海里」


 海里は眠い目を擦りながら、帰路についた。


「ごちそうさまですわ。さ、お風呂入りましょ」

「え、もう食べ終わったの?!」

「のばら早!」


 もうちょい勉強したかったんだけどなあ。のばらには敵わないや。僕はお風呂に入る準備を始めた。


 ◇


「もしもしお父さん、起きてた?」

『うん、起きてたぞ。毎朝ありがとな』

「元気そうな声を聴けて良かった。今日も無理はしないでね」


 朝起きた僕は、朝の家事の前にお父さんと電話する。

 お父さんの希望で始まった朝電話だけど、僕のが元気もらってるかも。


『信次の声を聴けて、今日も頑張れそうだよ』

「リモートとは言え、毎日大変そうだもんね」

『鬱と闘いながらだしな。最近は抑うつ症状も出てないし、元気だぞ』

「それなら良かった。ご飯ちゃんと食べてる?」

『信次のおかげで食欲も充分だよ』


 日に日にお父さんも元気になってきている。僕も力になれているかな。

 愛してるお父さんが元気なのは嬉しいな。


「いつになるか解らないけど、お父さんのお茶漬け食べたいな」

『絶対信次達と、また暮らしにいくから。負けないから』

「約束だよ。待ってるからね」


 無理はしないで欲しいけど、いつかまたお父さんと暮らしたいな。

 今でもお父さんの手の温もりは、忘れられないから。

 後、のばらも紹介したいしね。のばらはドギマギしそうだけど。

 そんな風に電話をしていたら。


「おはよー。信次」

「信次、おはようございますわ」

『亜美と、もう1人はのばらさんかな?』

「うん、いま起きて来たみたい」

『信次の彼女さんだろ。いつか挨拶しないとな』

「鬱治して会いに来てよね。てか、その前に僕達が結婚挨拶に」

『こら信次、気が早いぞ』


 のばらには医師免許取って、病院への就職が決まったらプロホーズするつもりだけど、そんなに気が早いかなあ?

 6年なんてあっという間だよ?

 のばら以上の人は居ないし、既にプロポーズも練ってるんだけど。


「じゃあ、そろそろ朝の支度始めるね。今日もありがとね」

『いつもありがとな、信次。愛してるぞ』

「僕も愛してるよ」


 こうして、お父さんとの電話は終わった。


「のばら、亜美、おはよ。2人ともまだ寝てていいのに」

「ダメ。お弁当作りたいし、朝の家事もあるんだから」

「のばらは洗濯物を干しますわ」


 亜美は休みだし、のばらも仕事があるのに、ありがたいなあ。なんだかんだ家族に支えられてるよ、僕。


「じゃ、僕は朝ご飯と、のばらのお弁当つくろっと」

「楽しみにしてますわ」

「私は京平と信次と私のお弁当作るね。皆で食べよ」


 お昼は楽しい事になりそうだね。どんなお弁当にしようかな?

 久々に人参とかを可愛く星形とかにくり抜いてみようかな?

 なんであれ、のばらが喜んでくれたらいいな。

 アンパンマソポテトも入れとこ。


「ふふ、なんか信次楽しそう」

「好きな人にお弁当作ってると、自然と笑っちゃうや」

「あ、それ解る。笑っちゃうよね」


 どんなものを詰めたら喜んでくれるかな、とか、びっくりさせたいな、とか。

 色々な感情が渦巻いて笑えるんだよね。


 僕達はにこやかにお弁当を作り終えた。亜美にアンパンマソポテト1個取られたけど。


「だって私好きだもん、このポテト」


 ◇


「朝ご飯も完成」

「じゃあ京平起こしてくるね」


 あんなに起きれなかった亜美が、今はお弁当作って兄貴を起こしてるんだもんなあ。

 愛の力ってすごいと思うよ。

 のばらも不慣れながら、洗濯物を干してくれているし、有り難さしかない。

 お嬢様なのに、僕らの生活に合わせてくれているもんね。

 のばら、我儘も言わないし。

 

「ふう、干し終わりましたわ」

「ありがとね。兄貴起きたらご飯にするから、座って待っててね」

「信次、まだ亜美達戻って来ないから、抱きしめて欲しいのですわ」

「しょうがないな」


 朝からのばらが僕に甘えてくれた。僕も、いつだってのばらを抱きしめたいから嬉しいよ。

 今日は寂しかったのかな?


「今日もお仕事頑張りますわ」

「無理はしないでね」


 愛してるよ、のばら。僕が幸せにするからね。

 途中で亜美達が戻って来たんだけど、僕達はそれに気付く事なく抱きしめあって、兄貴に小突かれたのであった。

 もー。邪魔しないでよね。


「朝から羨ましいぞ」

「私達もさっき抱きしめあったでしょ?」

「そうだけどさ」


 そんな訳で皆揃ったので。


「「「「いただきます」」」」

「京平のお味噌汁もすきだけど、信次のお味噌汁もすきだなあ」

「美味しいのですわ」

「なんか安心するんだよな、信次のご飯」


 喜んでもらえて良かった。こんな優しい家族だから、作り甲斐もあるんだよね。

 なんなら、その笑顔に僕が力を貰ってるよ。


「ごちそうさま。美味しかったぞ」


 兄貴は食器を流しに持って行くと、そのまま慌てて洗面台にいく。

 僕らの定期検診の日は早めに準備をするからな、兄貴。

 これも僕らの為。頭が上がらないよ。


「定期検診の時は毎回、看護師さん達に挨拶回りしてますもんね、深川先生」

「うん、自慢の兄貴だよ」

「私達には、当たり前のことだから気にすんなって言うしね」

「温かいですわね。深川先生」


 うん。そんな兄貴がお兄ちゃんになってくれて良かった。

 おかげで毎日が幸せだよ。


 ◇


 兄貴とのばらが仕事に向かって1時間後、僕達も病院に向かう。

 亜美はさっきから、大丈夫かなあって不安がってる。

 今月、なんなら昨日も走っていたし、間食もしてないから大丈夫だと思うけどなあ。


 今日は採血にのばらが居なかったけど、上手い人に当たったみたいで痛い思いをせずに済んだ。

 他の看護師さん達も、頑張っているってことだね。

 亜美は採血の後、センサーの取り込みをしている。

 インスリンポンプのセンサーをパソコンに取り込むことで、月々の大まかな結果が解るんだ。

 そのデータは、兄貴にも送られる。し、亜美にもプリントしたものが渡される。


「センサーの結果は悪くなさそうだから、大丈夫かも」

「それなら良かったね」


 亜美の顔がようやく穏やかになった。

 頑張ってたから大丈夫だよ、亜美。

 じゃなかったら、兄貴が悪い。なんて、ね。


 結果が出るまで時間が掛かるから、僕達は喫茶スペースに向かう。

 大体備え付けのお茶を飲んだりしてるかな。

 結果が出たら、お父さんにも連絡しなきゃ。

 いつも僕達の心配をしてくれてるからね。


「ケーキ食べたい。ケーキ食べたい」

「のばらとも行けてないもんね」

「そうなの! 早くのばらとケーキ食べたい!」

「のばらも亜美とケーキ食べたがってたしね」

「のばらをこれ以上待たせる訳にはいかないし、ヘモグロビンー!」


 のばら、亜美の事も好きだから、亜美の事を話す時、笑顔になるんだよね。

 亜美とケーキ食べに行きたい、美味しい店に連れて行きたいってよく話してるし。

 それにのばら、1人でお店行けないタイプだし。

 そう、のばらにとって、亜美は初めてのお友達。

 正直、ちょい嫉妬しちゃうや。

 や、僕だって初めての彼氏なんだけどさ。

 のばらは僕の事、亜美に話したりするのかな?

 ちょっとのばらが恋しくなった僕は、のばらに

ライムを送る。

 「早く会いたいな」って。のばら、愛してる。

 のばらが思う以上に、僕はのばらを愛してるよ。


 ◇


「あ、番号出たから行こうか」

「検査待ちが1番長いよね」


 僕達の番号が表示されたので、僕達は待合室に向かう。

 兄貴も朝から診察大変だよなあ。しかも毎週月曜と金曜だもんね。


「32番の患者様、23番診察室までお越しくださいませ」

「あ、私達呼ばれたね。しかも、京平の担当、のばらかあ。いい声してんなあ」

「ちょい早めに会えるの嬉しいな」


 今さっき会いたいってライム送ったばかりなのが、ちょい照れくさくなってきた。

 ぼ、僕も男だから許してよね。のばら。

 僕達は診察室に入る。


「よ、来たな。2人とも」

「のばらも居ますわよ」

「宜しくね京平、のばら」

「兄貴、のばら、お願いします」


 兄貴は早速、亜美の検査結果を話し始めた。


「うん、体重は増減ないけど、ヘモグロビンA1cは5.8。頑張ったな、亜美」

「よっしゃああああ!」

「血糖値も113。コントロールもバッチリだな。一回低血糖があったから、気をつけながら運動続けろよ」

「うん。これからも頑張るよ!」


 お、かなり良いじゃん。亜美、頑張ったなあ。

 てか兄貴も、シレッと亜美に運動を継続させてる。上手いなあ。


「近いうちに一緒にケーキ食べに行きましょうね!」

「うん、楽しみにしてるね!」


 のばらも嬉しそうだし、良かった。


「で、今日からシルエットが変わるから、この説明書を読んで使うんだぞ」

「横刺しだね。カニューレ閉塞が減らせるらしいね」

「亜美も結構付け替えてるもんな、リザーバとチューブ。それが減らせるといいな」


 カニューレとは、インスリンポンプと身体を繋ぐ為の針で、これが詰まったり折れ曲がったりしてしまうとインスリンが適切に送れなくなってしまう為、非常に危険だ。

 その為インスリンポンプには、それを察知するためのインスリン注入遮断アラートもついており、基本的にそのアラートが出た場合に、亜美はリザーバとチューブ……インスリンを身体に送るための器具を交換している。

 本来は3日は持つのだけど、アラートが鳴ったら期限に関係なく、直ぐに変えなきゃだ。

 最近亜美のインスリンポンプ、アラートも良く鳴ってるから、改善するといいな。


「ほい、亜美は終わりな。次は信次」


 兄貴は僕の血液結果を、取り出した。


「今回から異能の数値が解る検査も取り入れてるけど、前の入院から数値が若干上がってるから、薬の量を増やすからな。問題ない範囲内だけど、異能が使いづらいようなら、すぐ相談してな」

「それって、異能コントロールで対応しなくていいの?」

「信次の場合は、これからこまめに異能の薬調整をしていく必要があるからな。維持の為の治療を始めたばかりだし。数値に変動がなくても、異能コントロールがし辛くなるケースもあるから、油断はしないこと」

「なるほど」


 つまりしばらくは薬での調整も行うけど、それも完璧ではないから異能コントロールも必要って事だね。

 大分慣れては来たけど、無意識に翼が飛び出ちゃうこともあるから気をつけなきゃ。

 薬のおかげで、もう鋼鉄の翼ではないにしろ。


「まだまだ頑張らなきゃ」

「異能の維持は大変だぞ。無理のない範囲でやってこうな」


 こうして、僕達の診察は終わった。

 僕達は兄貴達が来るまで、休憩室で待機する。

 わざわざ家に戻るのも面倒だしね。


 ……いや、正確には待機するはずだった、かな。

 僕達が見たくない顔が、僕達に話しかけてきたから。


 気配を感じた僕は、苛々する。それだけ、身体があの時の怒りを覚えている。

 出来れば2度と会いたくなかった。平穏で幸せな毎日を、破壊しかねない存在だから。


「ここにいたのね、信ちゃん」

「お前は……!」

作者「描きたかったエピソードのひとつなので、大切に書いていきたいです。よろしくお願い申し上げます」

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