京平が居なくなるのを想像したら。
ずっと傍にいてね。京平。
それから私は巡回業務に集中して、若干疲れたけど何とか乗り切れた。
今日は1時間早めにあがって、お守りを買いに湯島天神へいくぞ。
若干デートみたいな感じだから、そういう意味でも楽しみだな。
「お疲れ様、時任さん。もう帰っていいわよ」
「お疲れ様でした!」
私は急いで着替えて、京平の待つ緊急外来前へ向かった。タクシーも来てるかな?
「京平おまたせ!」
「お疲れ、亜美。今来たとこだよ」
「タクシーはまだかな?」
「今来たみたいだぞ」
本当だ。病院に予約済みとライトを照らすタクシーがやってきた。
「すみません、予約した深川です」
「お待たせしました。どうぞ」
私達はタクシーに乗り込んだ。
「どちらまで行かれますか?」
「湯島天神までお願いします」
「かしこまりました」
こんな時間から湯島天神にいくカップルは、私達くらいだろうなあ。学問の神様だしね。
信次と海里くんに、いいお守り買えたらいいな。
「亜美、疲れてるだろ。着くまで寝てな」
「ありがと。実はちょっと眠かったんだ」
私が寝ようとすると、京平は私を引き寄せて、膝枕をしてくれた。
「タクシーの中ならいいだろ。おやすみ、亜美」
「ありがとね。おやすみ、京平」
恥ずかしい気持ちはあったんだけど、京平の膝枕って安心出来るからさ。
私はすぐに気持ちよく眠りに着いた。
「仲良いですね」
「はい、ずっと一緒にいたいです」
「京平、愛してるよ。むにゃむにゃ」
◇
「亜美、そろそろ着くぞ」
「むにゃ。おはよ、京平」
「おはよ、亜美」
私は伸びをして周りを見渡すと、神社らしきものが近くに聳えている。
「有難うございました」
私達はタクシーから降りて、湯島天神に向かう。
私達と同じように、1月末の飛び級試験の願掛けか、沢山のお客様がいらっしゃる。
こりゃお守りを買うだけでも一苦労だね。
私達は鳥居に一礼をしてから鳥居を潜って、ゆっくりと歩く。
「梅の木が沢山あるねえ」
「蕾もついてるし、来月末には咲くんじゃないかな。信次が合格したら、家族でお礼参りしような」
「うん。楽しみだね」
まだ咲かぬ梅の木に期待を寄せながら、私達は歩いて行く。
「あっちに手水舎があるって事は、本殿もすぐそこか」
「先にお参りしてこうよ」
「そうだな。まずは手を清めようか」
私達は手水舎に向かうと、お互いに手を洗う。
右手でひしゃくを持って水を汲んで、左手を洗う。
その後左手に持ち替え、右手を洗って、すぐさま右手に持ち替え、左の手のひらに水を受けて、口をすすぐ。
次にひしゃくを立てて、残った水が柄に流れるようにして柄を洗って、元あった場所に伏せて戻す。
ここまでが一連の流れ。
……とは言っても、私はよく解ってなかったから、京平に教わりながらやったけど。
「亜美もこういうの覚えておいた方がいいぞ」
「次に行くときにはマスターしとかなきゃ」
その時には信次に私が教えてやろ。絶対知らないだろうなあ。
「そういえば手は洗うけど、神様に渡すお金はなぜ洗わないのかな?」
「使えなくなるからだろ。俺、一万円入れるし」
「なるほど。てか京平、それは入れすぎなんじゃあ?」
とは言え、私も信次と海里くんには合格してほしいし、奮発しようかな。
ええい、私も一万円じゃあああ。
信次と海里くんを見守っててくださいね、神様。
そんな勢いのまま本殿へ向かうと、既に多くの人が並んでいる。
ご祈祷の時間が終わっても、会社帰りの人とか多いんだろうなあ。
「やっぱり一万円も清めた方が良かったかなあ」
「神社の人が困るだけだぞ!」
そのまま並んでいると、いよいよ私達の番になった。
鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼。
信次と海里くんが合格出来るように、見守ってて欲しいとお願いしたよ。
2人共、力を出しきれますように。
お参りした後は、今日の本題であるお守りを買いにいく。
飛び級試験もだけど、その後も大学入試があるしね。良いお守り買わなきゃ。
「交通安全守も大事だな」
「うん。京平の分も買わなきゃ」
「風邪引かないように、健康守もな」
「受験の日に風邪ひいたら、最悪だもんね」
「と、学業守と厄除守と……」
「ちょ、買いすぎなんじゃあ?」
「信次の為だから、仕方ないさ」
そんな訳で、学業成就鉛筆もプラスして沢山お買い上げした。2人分だしね。
あ、京平には私が交通安全守を買ってあげたよ。
「普段気をつけてるから、大丈夫だと思うんだけどな」
本当は前の事故がトラウマなんだよね、私が。
守りたいって気持ちだけじゃ、どうにもならないことがあるって知ってしまったし。
「前みたいになったら、やだもん。ずっと一緒にいてよ」
「怖い思いさせてごめんな、亜美」
私は思わず泣いてしまった。あの事故を思い出してしまって。
抱きしめてくれた京平にしがみついて、泣き枯れるまで泣いた。
本当に怖かったんだもん。京平が居ない世界なんて、やだよ。
◇
泣き疲れた私は、京平におぶわれながら、帰路に着いた。
京平の背中、落ち着くなあ。安心できる。
「ありがとね、京平。落ち着いて来たよ」
「寝てていいよ。タクシーも呼んであるから」
「ううん。京平と話してたい」
「そっか。帰ったら餃子焼くからな」
「今日餃子なんだ。嬉しいな」
「休みだし、時間あったしな。信次達も、そんなに聴いてこなかったし」
家族で餃子なんて久しぶりだね。明日は私休みだから、私がご飯作るね。
とは言っても、定期通院の日なんだけど。
「明日はヘモグロビンA1c、下がってるといいな」
「絶対ケーキ食べるんだから!」
「俺も亜美とケーキ食べたいな」
「休みの日は、約束した喫茶店に行こうね」
「そろそろ休み合うといいよな」
「ねー、一緒に遊びに行きたいよね」
来週は、もっと京平と過ごしたいな。
京平の笑った顔が、見たいんだ。
「京平、ずっと一緒にいてね」
「ん、当たり前だろ。俺も亜美と一緒に居たいし」
「約束ね」
そう京平に告げた私は、安心して眠ってしまった。
京平の背中も、温かかったから。
「すー」
「やっぱり眠たかったんじゃん。無理させちまったな。おやすみ、亜美」
◇
「「ただいまー」」
「ちっす、お疲れ様っす!」
「お帰り、兄貴、亜美。お腹ぺこぺこだよー」
「悪りぃな、すぐ餃子焼くからな」
信次達はずっと勉強してたもんね。そりゃお腹空くよ。
かく言う私も、タクシー内でかなりお腹を鳴らした訳だけど。
寝てるフリして誤魔化したつもりだけど、誤魔化せてるかな?
京平には起きてるとこも含め、普通にバレてたけど。
「湯島天神どうだった?」
「1月の試験があるからか、結構人いたよ」
「またお礼参りに行けたらいいな。あそこ梅の花が綺麗なんだよね」
「だね。お守りはのばらが帰って来たら渡すね」
実はお守り代に関しては、のばらも出してくれているのだ。
だから、一緒に渡したくてね。
「さ、海里。餃子が焼けるまで勉強だからね」
「この匂い嗅ぎながら勉強って、キツいよおお」
うん。集中出来なくなるくらい良い匂いしてる。
京平の餃子美味しいし、この匂いがたまらなくすきなんだよね。
「兄貴、僕達に軽食も作ってくれたのに、すぐお腹減っちゃったよ」
「おお、何食べたの?」
「炒飯っす! でも小さかったっす!」
「晩御飯までのつなぎだから、そりゃあ、ね」
「遠慮せず大盛りにすれば良かった」
食欲旺盛な2人だけど、流石に炒飯大盛り食べたら、餃子食べらんなくなるでしょうに。
「ほい、お待たせ。沢山食べろよ」
「待ってました!」
「亜美、タクシーでお腹鳴らしてたもんな」
「ちょ、京平! バラさないの!」
「うわ。亜美、恥ずかしい真似しないでよ」
「亜美さんらしいっす!」
もー! 京平の意地悪ー!
「「「「いただきます」」」」
因みにのばらの分を除いて100個あった餃子は、瞬く間に無くなったのは言うまでもないよね。
「んー、美味しい!」
「亜美の美味しい顔、なんかいいな」
「元気もらえるよね」
「流石亜美さん!」
のばら「皆ご飯食べてるかしら? お腹空きましたわああ」
看護師長「冴崎さん、お弁当の他にパンも買ってたのに?!」
のばら「頑張っていますもの!」