君の寝息が愛しくて
それから私達は、お風呂に一緒に入って、どうお互いに時間を作っていくかを話した。
京平ばかり頑張らせるのは嫌だから、私も中番の時は朝ご飯一緒するよって言ったんだけど、流石にダメって言われちゃったよ。
一緒にご飯食べられたら幸せなのになあ。
「亜美が辛くなるだけだぞ」
今日は1/18。京平はお休み。
私は早番だから、お昼に会いに行くよって言ってくれたけど、それよりも気持ちよく寝てて欲しいんだけどな。
私が寂しさに耐えられなかったせいだよね。ごめんね京平……。
「だからせめて、お弁当は作ろうかなって」
「全然お弁当も家事も僕がやるのに」
「京平に食べてもらいたいからさ。信次達の分も作るね!」
「じゃ、僕は朝ご飯作るよ」
仕事で疲れてる京平が、元気になるメニューにしたいな。
唐揚げとかソーセージとか、卵焼きとか。
私もキャラ弁作ろうかなあ?
「京平のは、亜美おにぎりにしようかな?」
「え、食べづらくない?」
「そ、そういうもん?!」
「のばらおにぎりとかあったら、可愛すぎて食べられないよ」
でも京平もキャラ弁作ってたし、そこらへんは問題ないよね?
「京平は大丈夫だと思うけど……そうだ、髪の毛唐揚げにしよう!」
「それ握れる?!」
「確かにボリューミーすぎるか」
「薄焼き卵に黒砂糖いれたら、茶色になるんじゃない?」
「なるほど! それでいこ!」
こうして、少しずつ亜美おにぎりも、他のおかずも仕上がって来た。
京平が喜んでくれたらいいな。
「唐揚げ一個もーらい!」
「あ! 取られた!」
「うん、美味しいよ」
「それなら良かった」
信次が美味しいって言ってくれたなら、唐揚げは完璧だね!
後はいい感じに詰めて、っと。
「朝ご飯とのばらのお弁当完成。可愛く出来たよ」
「あ、なんかキャラ弁やった感じのハムがある!」
「薔薇おにぎり作ったよ」
また器用なものを作ってからに!
「そう言えば信次、中学は美術部だったもんね」
「そ。だから薔薇くらいなら出来るよ」
「信次おにぎりは作らないの?」
「いや、なんか、恥ずかしい……」
変なとこで照れ屋だなあ。のばらはそっちのが喜びそうなのになあ。
「と、私もお弁当完成!」
「じゃ、朝ご飯にしよっか」
「「いただきます」」
信次の朝ご飯も、食べてて安心するんだよね。
信次と同じように優しいから。
「今日も美味しいよ、ありがとね」
「それなら良かった。今日もお仕事頑張ってね」
「信次も受験勉強頑張ってね」
「本番まであと13日。気は抜けないね」
信次は、学校のない日、1日ご飯とお風呂の時以外は篭りきりで勉強を続けていた。
今日もこの後海里くんが来て、一緒に勉強やるみたい。
2人とも毎週頑張ってるもんね。
京平も私と会った後は、2人の勉強見るって言ってたしね。
因みに今日のばらは、中番で仕事なんだけど、来週は2人の追い込みだから金曜から三連休取ってるみたい。
2人を皆が応援しているんだよね。私も協力出来る事はしなきゃ!
あ、そんな訳で今日は海里くんのお弁当も作ったんだよ。
「亜美もお弁当ありがとね。食べながら勉強できるから助かるよ」
「私も協力出来る事はするから、ちゃんと頼ってよね」
「充分協力して貰ってるけど、ありがとね」
一昨年から去年にかけて、私が看護師試験の勉強してた時も信次には助けて貰ったからね。
京平と一緒に、お守りも買って来てくれたし。
実は信次と海里くんのお守りも、今日京平と買いに行くんだ。
湯島天神なら、夜8時までやってるからギリギリお守りも買えるしね。
とは言っても時間がないから、タクシーで行くけども。タクシーもバッチリ予約済み。
「今日も頑張るぞ。最近海里も勉強できるようになったし」
「じゃあ、ちゃんと信次も勉強できてるんだね」
「うん。でも、たまに兄貴の力借りちゃうけど」
「京平教えるの上手だしね」
海里くんも成長してるようで良かった。
前は、のばらと信次がいても修羅場になるくらいやばかったもんね。
「ごちそうさまでした。支度しなきゃ!」
◇
「時任さんおはよう。巡回多めだけど頑張ってね」
「看護師長おはようございます。今日も頑張ります!」
日曜日は病院自体が休みだから、巡回中心。
だからこそ、患者様の微妙な変化に気付いていかなきゃ。
寂しさもあるだろうから、私が元気を与えられるようにしたいな。
私の入院した時は皆こぞって来てくれたけど、患者様の中には家族と会えなくて、寂しい思いをしてる人も少なくないしね。
「山本さん、体調はいかがですか?」
「ああ、さっき熱測ったら、ちょい熱あって……」
「それは大変。氷枕と解熱剤持って来ますね」
「あ、僕、カロナールは副作用でちゃうので、ロキソニンでお願いします」
「深川医師からのカルテにも書いてますね。かしこまりました。有難うございます」
山本さんは、ケトアシドーシスで高血糖になって入院してるんだけど、その後遺症で熱が出ちゃったみたい。
京平がしっかりカルテを書いてくれてるし、山本さんも看護師を信頼して話してくれるからありがたいな。
血糖値は405。これでも下がって来たんだけど、まだ高めだなあ。
インスリンも点滴で入れているけど、量についても聞かないと。
今日は京平が休みだから、薬の処方については鈴木先生に相談だな。
「もしもし、鈴木先生。時任です」
「お疲れ様、時任さん。どうしたの?」
「503号室の山本さんなんですが、ケトアシドーシスの影響でお熱があるみたいで、解熱剤を出して欲しいです」
「おっけ。ロキソニン処方しておくね。いま手隙だから、僕が薬を届けにいくよ。診察もしたいし」
「有難うございます。あと、血糖値も405とまだ高めなので、診察の結果次第で、インスリン量も調整お願いします」
「確かにまだ高いね。了解」
よし、私は氷枕をすぐにお届けしなくては!
私は山本さんに氷枕をお届けした後、鈴木先生がくる事をお伝えして、巡回を続ける。
信頼してもらえた証だけど、最近担当患者様も増えたからね。
張り切って回らせて頂かなきゃ。
◇
「終わったああああ」
「お疲れ様。休憩行っといで。冴崎さんくるから、纏めて取っといで」
「有難うございます」
疲れてたから纏めて2時間の休憩はありがたいな。
これが普通の量なんだから、慣れていかなきゃ。
私はお弁当を持って、休憩室に向かう。
「亜美、おつかれ」
「京平、寝てなくて大丈夫?」
「亜美と弁当食べたくてさ。ありがとな、弁当」
京平、お弁当持って来たんだ!
美味しく食べてくれるといいなあ。
「「いただきます」」
お弁当箱を開けた京平は、目を丸くして私に話しかける。
「亜美おにぎりだ。でも、本物のが可愛いな」
「ありがと。おにぎりも可愛いよ!」
かなり美化したおにぎりだったんだけどなあ。
私自身のが可愛く見えてるのか、京平には。
「うん、亜美美味しい。中身は唐揚げかあ」
「髪の毛が甘いから、甘しょっぱく食べられるかなって」
「成長したな。やるじゃん」
「へへ、なんか照れるなあ」
「それに亜美の弁当久々だから、嬉しいや」
最近私、中番か遅番だったから、お弁当作れてなかったもんね。
前までは毎日作ってあげられたのにな。
「ごめんね。今毎日は作れないから……」
「あ、わりぃ。そういう意味じゃないよ。無理はしてほしくないし、俺だって作りたいし」
「本当は毎日作りたいのにな」
「食べられる楽しみが増すから大丈夫だよ」
いつだって優しいな。愛してるがまた募っていくよ。
「出来ることが少なくなってくなあ」
「亜美は笑ってくれてたらいいよ」
京平はそう言って、私の頭をポンポンする。やっぱり優しい。
「ありがとね。やっぱり京平といると元気もらえるよ」
「俺もだよ。落ち着くし」
京平はそう言うと、私の肩に寄りかかって。
「ごちそうさま。おやすみ、亜美」
「もう。やっぱり眠かったんじゃん。おやすみ、京平」
お腹いっぱいになって、より眠たくなったのかな?
膝枕は怒られたけど、寝ている京平が寄りかかる分なら良いのかな?
うん、気持ちよさそうに寝ている京平を起こしたくないから、このままでいいや。
ゆっくり寝てね、京平。
左耳にかかる京平の吐息が愛しいよ。
◇
「京平、私そろそろ休憩時間終わるから、起きて」
「すー。すー」
「京平ってばああ!」
「むにゃむにゃ」
ダメだ、全然起きない。いつもなら15時までぐっすりだもんね。
私はそろそろ行かなきゃだし、どうしよう。
仕方がない、可哀想だけども……。
私は、京平の顔から肩を外した。すると。
ーーズッデーン!
「な、なんだ?!」
「あ、ごめん。京平」
まさか肩を外しただけで、京平のバランスが崩れるだなんて。
京平は盛大に尻餅を付いて、ずっこけたのであった。
でも起きてくれたから、結果オーライだね。
「ごめん。完全に寝入ってた」
「帰ったら少しだけ昼寝しときなね」
「そうしたいけど、亜美がいないからなあ。寝られないよ」
「我儘言わないの」
京平なりに私へ甘えていたんだろうな。
嬉しいけど、もう休憩時間終わっちゃうんだよー!
「じゃあ、私は仕事に戻るからね」
「俺も信次達の勉強見てるよ。お互い頑張ろうな」
「じゃあ、この後18時に緊急外来前ね」
「少し早めに行くようにするよ」
こうしてお互い、それぞれの戦場に向かうのであった。
「でも、充電できたよ。来てくれてありがとね、京平」
「俺も、亜美に会えて良かった。肩貸してくれてありがとな」
疲れてただろうに、ありがとね。京平。
京平の愛しい寝顔と寝息を思い浮かべながら、今日も私は巡回を続けるのであった。
って、仕事とプライベートは切り離さなきゃ!
封印封印っと!
海里「亜美さんのお弁当美味い!」
信次「うん。亜美も料理上手くなったしね」
海里「午後からも勉強頑張るぜ」