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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
予期せぬ出来事
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募った寂しさ

 それから私達は、シフトが合わないながらも、お互いに時間を作ったりして、日々を過ごしていった。

 未だに遅番の時は、京平の枕を抱きしめちゃうけど。

 うん、正直凄く寂しい。


 そんな最中、次は映出(うつしで)さんの退院が決まった。

 あの映出(うつしで)さんが?! と、多くの看護師を驚かせたが、「亜美ちゃんが喜んでくれると思うから」って頑張ってくれたんだよ。

 今日退院だから、笑顔で送らなきゃね。


 あー、にしても、慣れて来たとはいえ、1人の食卓は寂しいな。

 中番だから、まだ会えるんだけどさ。

 でも、のばらは遅番だし、京平と信次はとっくに家を出てるしで辛い。

 唯一、ご飯は美味しいんだけどさ。


 ◇


映出(うつしで)さん、おめでとうございます」

「やるべきことがあるし、亜美ちゃんが喜んでくれると思うから」

「通院もちゃんと来てくださいね」

「やるべきことが終わればいくよ」

「最優先に来てください!」


 全く映出(うつしで)さんたら、病院を最優先にしないってどういうこっちゃ!

 やるべきことって何なんだー!


「来月の2日ですからね、通院!」

「オーケー、努力するよ」

「約束ですからね! 私も来週の月曜に定期検診受けますし」

「亜美ちゃん頑張るねえ」

「普通の事です!」


 来月には信次の受験も終わってるなあ。

 家族が笑って過ごせてるといいな。


「そういえば、映出(うつしで)さんってどんな仕事されてるんですか?」

「しがない探偵さ。依頼が無ければ生きられない身だね」

「そっか、大変ですね」


 確かに探偵は仕事の依頼がないと、仕事がないもんね。

 しばらく依頼がなくて、引きこもって、病気が悪化しちゃったのかな?


「仕事がない時も、身体を動かすことを忘れないでくださいね」

「寝るのも好きなんだよ」

「寝過ぎちゃダメですよ! って、立ちながら寝てる!」

「すー、すー」

「起きてくださあああい!」


 こうして、元気よく映出(うつしで)さんを、病院から送り出した。


 ◇


「ふいー、疲れた」


 巡回業務も終わり、ようやく休憩時間。

 新しく担当になった患者様も増えて、若干疲れちゃった。


 休憩室に向かうと、既に京平が待ってくれている。


「お疲れ、亜美」

「京平もお疲れ様」


 京平の顔をみたら、安心すると同時に、なんか眠たくなって来た。

 先に少しだけ寝ようかなあ。


「ちょっとだけ寝るね。疲れちゃった」

「頑張ってるもんな。おやすみ」

「おやすみ、京平」


 私がうつ伏せで寝ると、京平は私にコートを掛けてくれた。

 そして、優しくポンポンしてくれた。

 京平はいつも優しい。だから私も、全力で甘えられるんだよ。

 でも、本当は抱きしめあって眠りたいんだけどな。

 なんて、甘えすぎかな?


「寝てる亜美も可愛いんだよな」


 ◇


「亜美、そろそろ起きてご飯食べな」

「むにゃむにゃ。おはよ、京平」

「おはよ、亜美。疲れは取れたか?」

「うん、京平もコートありがとね」

「暫く羽織ってな。此処も少し冷えるからさ」


 それじゃあ京平が寒いじゃん、って言おうとしたんだけど、あまりに優しい目をして言うから、私は何も言えなかった。

 ずるいよ、いつだって優しいんだもん。


 疲れも多少取れたし、お弁当食べよ。今日は何かなあ?


「あ、おにぎりが私と京平だ!」

「たまにはキャラ弁的なのもいいかな、って」


 遂に京平がキャラ弁にも手を出して来たか。

 でも、私を可愛く作りすぎなんじゃないかな?

 私が100だとしたら、おにぎりの可愛さは1000を超えるよ!

 京平の目には、こう映ってるのかな?


「いただきまーす!」


 可哀想だけど、まずはかっこいい京平をパクリ。


「京平美味しい! 醤油味の焼きおにぎりの髪の毛が、梅干しの酸味と合わさって美味しいなあ」

「休みの日には、本物を美味しく食べてくれよ」

「ちょ、何言ってんの!」


 しかも自分から言い出して、照れてるんじゃないよ、京平!

 1番ダサいやつじゃん。もう!


「ほら、亜美も美味しいよ」

「そういう意味にしか聴こえなくなるじゃん」

「普通におにぎりの事言っただけだぞ?」


 京平も男なんだなあ、と思いながら、私は真顔でお弁当を食べ進めた。


「亜美ってば、笑ってよ」

「だって京平が寒い事言うんだもん」

「ごめんってば。お弁当は笑って食べて欲しいよ」


 ぶー、敵わないなあ。

 そんな悲しい顔されたら、不機嫌じゃいられないよね。


「亜美おにぎりも、醤油漬けのハムの髪の毛と中身の卵焼きが美味しかったよ。ありがとね!」

「その笑顔が見たかった。どういたしまして」


 私も京平の笑顔が見たかったからさ。

 私が笑うと、満面の笑みを見せるんだもん。愛しくて仕方ないよ。


「亜美の笑顔って、安心出来るんだよな。いつもその笑顔に救われてるよ」

「私も京平の笑顔大好きだよ!」


 京平が笑ってくれるとね、いつも胸が温かくなるんだよ。

 ずっと笑ってて欲しいな。その為なら何でもするからね。


「ごちそうさまでした」

「まだ時間あるから、もう少し寝ときな。まだ疲れた顔してる。時間になったら起こすし」

「ありがとね。そうさせて貰おうかな」


 私は京平の笑顔で、かなり気持ちが大きくなっていたから、京平の膝に頭を乗せた。


「亜美、寝心地悪いだろ」

「ううん、こっちのが好きだもん」

「全く、しょうがないな。ソファ空いてるから、そっちで寝な」


 もはやイチャつくのを隠す気がなくて申し訳ないけど、1番癒されるし体力も回復するから許してね。


「おやすみ、亜美」


 ◇


「時任さん、貴方らしくないじゃない。深川に膝枕してもらいながらソファで寝てたなんて!」

「だ、ダメなんですか?」

「ソファで寝る分はいいけど、膝枕はダメよ! 他部署から問い合わせがめちゃ来てるわよ」


 やっぱりダメだったか。せめて時間ある段階で、中庭で寝るべきだったかな。

 皆私の事なんか、無視してくれればいいのに!


「最近シフトが合わないから、寂しくなって」

「医療従事者あるあるだけど、辛いわよね。深川も暫くは早番オンリーだろうし」

「これからは頑張って我慢します」

「申し訳ないわね。来週のシフトは少しくらい合うように頑張ってみるわ」

「有難うございます」


 あるあるなのに耐えられない自分の弱さに、腹が立つけれど、寂しいものは寂しい。

 でも、同じように職場恋愛してる人もいるだろうし、常軌を逸脱したことは避けなくちゃ。

 あああん、本当に私らしくないことしちゃった。

 京平も私がおかしい事突っ込んでよ!


 それから、なんで膝枕されてたのかという質問が私本人に聞く人も出て来て、寂しかったからとは言えないから、体調を崩してたことにした。

 うう、嘘は良くないのは解ってるけどさ。


 ◇


「亜美殿、サポート感謝するのじゃ」

「麻生先生もお疲れ様でした」


 私は休憩時間の後、緊急外来のお手伝いに回ったんだけど、麻生先生に着くのは久しぶりだったなあ。

 今は患者様も落ち着いてるからか、麻生先生が話しかけて来た。


「亜美殿も隅に置けないのう。京殿に膝枕をさせるとは」

「いや、麻生先生だから言うんですけど、甘えたくなっちゃって……」

「それが解っていたから、京殿も亜美殿を止めなかったんじゃろな。普段は律しているのに」

「だと思います。仕事中は厳しくしてくれますから」


 寧ろ身内には厳しいタイプなのに、休憩時間には優しい京平を隠す事をしない。

 仕事モードと仕事から離れた時、ハッキリ分けている。

 それに甘えた私がいけないのだから。


「京平も怒られちゃうかなあ」

「怒られなくても、自分で自分を戒めそうじゃがな。でも、亜美殿が第一優先という根本が変えられないことに本人が気付いてないからのう」

「律しているのに?」

「じゃ!」


 そうだろうな。仕事中に厳しいのも私の為だし、休憩時間に優しいのも私の為だし、全部私の為。

 

「帰ったら、お礼を言えばいいぞよ。笑顔が大事じゃぞ」

「はい、そうします。嬉しかったから」


 とは言っても、帰ったら寝てるだろうから、今からライムでお礼しとこ。

 

「少しは休みが合うといいのお」

「でも麻生先生も合わないですよね? 愛さんも早番だし」

「ランチは一緒に行くからな。我は京殿と違って体力もあるからのう」

「あ、なるほど」

「しかもめぐたん、我が帰ったらギュッと抱きしめてくれるのじゃ」


 相変わらず仲がいいご夫婦だなあ。憧れる。

 

「私もそんな夫婦になれたらいいな」

「京殿も早いうちにプロポーズすれば良いのにの。もう結婚してるようなもんじゃろ。亜美殿とは」

「そ、そんなことないですよ」


 だって私……。


「全然京平を、支えられてないから」

「亜美殿は笑っていれば良いのじゃ。それで京殿は大丈夫じゃ」


 麻生先生はにっこり笑うと、さらに話を続けた。


「支えられてないと亜美殿が悩んでると京殿が知ったら、逆に京殿は落ち込むであろう。気にする必要はないのじゃ」

「慰めてくれて有難うございます」

「ちょうど22時じゃな。お疲れ様じゃ、亜美殿」

「お疲れ様です、麻生先生」


 自分がやらかしたのもあって落ち込んでたけど、麻生先生が慰めてくれてありがたかったな。

 私は京平にライムを打ってから、帰り支度を始めた。


 ◇


「ただいまー」

「よ、おかえり。亜美」

「亜美、おかえり」

「あれ、京平起きてたの?」


 家に帰ると、珍しく京平がまだ起きていた。

 夜更かしは良くないのになあ。


「亜美、膝枕のこと、叱られたんだろ? 俺が止めていれば良かったのに、ごめんな」

「私は京平に甘えただけ。京平は何にも悪くないよ。でも、何で知ってるの?」

「看護師長が、亜美を叱りすぎたかもってライム来てて。そもそも深川が悪いのに、って」

「だから京平は悪くないってば。寧ろ、甘えさせてくれてありがとね」


 私は京平を、ギュッと抱きしめた。


「亜美、僕もいるんだけど?」

「あ、信次、ごめん」

「亜美は案外平気だと思ってたんだけど、亜美のが平気じゃなかったみたいだね。今のシフトの合わなさが」

「うん、私もびっくりした」

「正直言うと、俺も、だな」


 昔から京平大好きっ子だったけど、京平がいない夜も平気だったのになあ。

 しかも今日は中番だから、会えているのにな。


「でも、必要としてくれたのは嬉しかったよ」


 京平は眠いだろうに、優しい顔をして私を撫でてくれた。


「亜美が寂しがって膝枕をせがむなんて珍しいし、何かの前触れじゃないといいけどな」

「あ、それ思った。あの真面目な亜美がね」

「そ、そんなに……珍しいよね」


 私を狂わせるような何かが迫っているのかな?

 

「でも何もないと思うよ。寂しかっただけだし」

「それもそっか。手を洗っといで。ご飯温めるから」

「ありがとね、京平」

「ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろう」

「ダメだよ、京平が寝不足になっちゃうよ」

「でも、寂しいんだろ?」


 嘘は吐けないな。私はコクリと頷く。


「気付いてやれなくてごめんな。勿論毎回は厳しいけど、なるべく時間作るから」

「ありがとね、京平。疲れてるだろうにごめんね」

「笑ってよ。そしたら俺、嬉しいから」


 私は泣きながら笑った。京平の優しさが愛おしすぎて泣いたんだ。


「よしよし、もう大丈夫だから」

「亜美、泣くほどのことじゃないでしょ」


 京平は私を抱きしめてくれた。私は安心して、京平の胸元で泣く。

 愛してるよ、京平。

亜美「えぐえぐ」

京平「落ち着いたら、ご飯食べような」

信次「僕ものばらに、寂しい思いさせてないかなあ」

京平「帰って来たら、抱きしめてあげな」

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