いつだって優しい。
んー、よく寝た。
いつの間にか京平が居なくなってるのは寂しいけど、今日は研修で会えるもんね。
私は朝の支度をして、病院に向かった。
のばらも中番だったので、2人仲良く向かう。
「亜美、おはよ」
「友、おはよ」
「おはようございますわ」
病院に着くと、友と出会した。
未だに短髪の友が見慣れないなあ。
「今日は研修ですね。寝ちゃダメですよ」
「京平の研修だもん、寝ないよ!」
「じゃあ、また後で」
「うん、後でね」
更衣室に向かうと、朱音が既に着替えていた。
「亜美、のばら、おはよー!」
「おはよ、朱音」
「おはようございますわ」
「今日は研修だね。私、ジッとしてるの苦手だからなあ。不安」
「京平の研修だから、解りやすく教えてくれるはずだよ。大丈夫!」
「しかも、ご飯食べてくるなって言われたじゃん。お腹空いて倒れるかも」
「え、それは辛すぎますわね」
「しかもアレルギーチェックもあったよ。なんでえ?」
京平はいつも楽しく教えてくれるもんね。
とは言え、研修受けるのは初めてだからどうなんだろうな?
ご飯食べるなって言われたのは気になる、し、確かにお腹空いちゃうよね。
ああ、信次のお味噌汁飲まないと調子出ないのに!
「でも、顔見知りなのは有難いよね」
「緊張はしないもんね」
「寝そうになったら小突いてね?」
「うん、了解!」
私達は着替えて、研修場所に向かう。
研修は、12時から17時の長丁場になるけど、しっかり知識を吸収しなきゃね。
「あ、友くんおはよ!」
「おっつー!」
「佐藤さん、亜美、おはようございます」
「研修って大体眠くなるんだよねえ」
「眠くなったら深川先生のせいにしましょ」
「あ、それ名案! ご飯食べてないし!」
哀れだなあ、京平も。
こんな新米看護師達に、良いように弄られて。
そして何が問題って、これを本人が聞いても、絶対怒らない所が、なあ。
少しは怒ってもいいのになあ。
「え、皆朝ご飯食べるんですか? 僕、元々食べない派でして」
「それ不健康だよ、友!」
「看護師としてあるまじき行為よ!」
「でもどちらにしても、深川先生のせいで朝ご飯抜きですし」
「なんで朝ご飯抜きか解らないー!」
友ったら、朝ご飯は食べなきゃダメでしょ。
脳みそ回らなくなるし、夜まで持たないじゃん。
友、少食だからなあ。
はあ、朝ご飯って聞くだけでお腹空いて来たよ。
「よ、皆集まってるかな?」
あ、噂をすればなんとやらで、京平がやって来た。
「じゃ、今から始めるからな」
朱音が倒れないか心配だなあ。倒れたら京平のせいだな。
「まずは、皆の空腹時の血糖値を測ってもらうよ。血糖測定器配るぞ。亜美は自分の持ってるな?」
「うん、持ってるよ!」
「測りながら聞いててな。一般の人は、80から99。100から125が要注意。それ以上が糖尿病の可能性が高くなるぞ。亜美は兎も角、皆大丈夫かな?」
125以上が目安かあ。私が125だったら、寧ろ良い方なんだけどなあ。
普段患者様にやってるから、皆測定器はお手のものだね。
「皆どれくらいだったかな?」
「私は85」
お、朱音は健康体だね。
「僕は90でした」
良かった。みんな正常値だね。
たまにストレスで跳ね上がる人もいるから、血糖値って怖いんだけどね。
「さ、亜美は?」
「ぴったり100!」
「バッチリだな」
「てな具合に、空腹時血糖値で、糖尿病かどうかを判断する事が可能だぞ。勿論目安だけどな」
なるほど。自分の身体でそれを覚えさせる為に、私達にご飯食べちゃダメって言ったんだね。
「さ、空腹時血糖値の勉強が終わったとこで、話聞きながら朝ご飯たべな。俺の手作りだけど」
京平は研修室の冷蔵庫から、お弁当を取り出した。
準備が良すぎるよ! そして、とっても美味しそう。
「普段朝ご飯食べないんですが」
「キチンと食べなさい。食事指導もしなきゃなんだからな!」
「でも、美味しそうだから食欲湧きました」
「俺が作ったから美味いぞ!」
◇
その後は食後血糖値も測ったりして、自分の身体で糖尿病の事を教わった。
京平のお弁当も美味しかったし、皆満足そうに研修を終えられたよ。
「皆お疲れさん!」
「お弁当美味しかったです」
「深川先生、料理上手なんですね」
「出来れば研修の感想が欲しかったけど、ありがとな」
確かに京平、気合い入れてたよな、あの弁当。
出汁巻き卵は出汁が効いてて最高だったし、梅味唐揚げはジューシーで美味しかったし……って、お弁当の感想を語ってる場合じゃないや。
次なるお弁当を食べる休憩時間になるし。
「あ、亜美、後で休憩室行くからな」
「ありがとね。無理してないよね?」
「バカ、俺が会いたくて会いに行ってるだけだよ」
「その気持ちだけでも嬉しいよ」
京平、研修ってやる方が1番疲れるのになあ。
相変わらず優しくて、愛しくて。
「もう京平愛してる、好き過ぎる」
「亜美、幸せそうだねえ」
「ずっと片想いしてたからさ。愛してるがかなり大きくって」
正確には両片思いだけど、京平が白い目で見られかねないからなあ。
12歳の私の何処に、異性としての愛しさを感じたのかは謎だけど。
私達は更衣室からお弁当を持って、休憩室に向かった。
既に京平と友が休憩室で待っていた。
「よ、亜美」
「亜美、自分で作ったお弁当がすごく不味く感じます。どうしたらいいのでしょう」
京平のお弁当が美味しすぎて、自分のお弁当が食べられなくなったのか。可哀想な友。
「じゃ、私のお弁当半分あげ……」
「ダメ!!」
京平が食い気味に私を制止する。
そんな、友が可哀想じゃんかよ!!
「ぶー」
「解った。日比野くんの弁当は俺が今から作ってくるから。亜美は普通に弁当食べな」
「大丈夫です。ちょっと舌が肥えちゃったなあって。自分のお弁当食べますよ」
「全然箸が進んでないじゃん、日比野くん」
そもそも友のお弁当は……全部焦げてる。ご飯ものり弁だからか真っ黒だし。
これをお弁当と呼んで良いのだろうか。もはや消し炭が1番適した名前なのでは?
やっぱり友は、料理からきしダメだなあ。
「ほら、弁当箱かして。すぐ作ってくるから」
「有難うございます……本当料理ダメすぎます、僕」
京平、優しいなあ。結局、京平が友のお弁当を作る事になった。
そして、友には料理禁止令が出される。黒いお弁当作ってちゃダメだよなあ。
しかも作った本人が食べられないし。
「深川先生のお粥が美味しくて、僕も手作りに挑戦したんですがダメですね……」
「また皆で練習しよ。誰だって最初は出来ないよ」
「皆手作りに挑戦して偉いなあ。私、ほぼコンビニで買っちゃうもん」
そんな話をしていると、また見慣れた顔がやってくる。
「皆様、お疲れ様ですわ」
「のばらお疲れ! 私達の代わりに仕事いっぱいありがとね」
「皆さんも研修お疲れ様ですわ」
のばらは、研修で3人抜けた内科の看護師分、働いてくれていたのだ。
「巡回が少し多めで疲れましたわ。あら、深川先生は? 昨日の夜、亜美に会いに行くって言ってましたのに」
「それが色々ありまして、僕のお弁当を作りに家に帰りました」
「深川先生、世話好きですのね」
確かにそういった側面はあるよね。
「じゃあ、友には悪いけど先に食べてるね。いただきます」
「のばらもいただきます!」
「私もパンだけど食べよ。いただきます」
お弁当をパカっと開くと、ハートがご飯に描かれててちょっと照れた。
そうか、これがあったから半分こさせたくなかったんだね。
「あら、深川先生可愛い事するわね」
「えへ、なんか嬉しいや」
「相変わらず仲良いですね」
「ほんと。亜美の事大好きだよね」
いつだって、優しい。だから、愛しい。
嬉しすぎて、今日はお弁当を食べながら泣いてしまった。
これからもずっと一緒だよ。
「日比野くん弁当出来たぞー。って、亜美、なんで泣いてるんだ?」
「京平が愛しすぎて。びえええん」
「よしよし、ずっと一緒だよ。亜美」
愛してるが日に日に強まっていくよ。
いつもありがとね、京平。
亜美「お弁当作ってくれたり、休憩時間に会いにきてくれたり、京平愛してる」
京平「俺がやりたくてやってるからな。亜美が笑ってくれたらそれでいいよ」