優しい温もり
それからはお父さんと電話したり、京平と一緒に寝たりして、朝……いや、昼を迎えた。
アラームが11時に鳴り響いて、私は目を覚ます。
京平、本当に寝かせてくれたんだなあ。
疲れてるだろうに申し訳ないな。
京平、いつの間に起きたんだろ? アラーム聞こえなかったぞ?
私が起きると、食卓には朝ご飯が置かれていた。ついでに信次の入院セットも。
そっか、信次、退院してすぐに学校に行ったんだね。偉すぎる。
お弁当も冷蔵庫に入ってる。京平の手作り弁当、久しぶりだから嬉しいな。
というか、お弁当なり信次なりで、家は騒がしかったはずなのに、一切気付かなかった私って!
すっかり熟睡していたんだなあ。
そんな感じで、久々の中番の朝? 昼を迎えた。
◇
「あ、亜美おはよ」
「朱音、おはよ」
「久々の中番だね。辛かったらフォローするからね」
「しっかり寝てきたし頑張るよ!」
今日は京平とのばらと友が早番で、私と朱音が中番。蓮と麻生先生は遅番だね。
「さ、巡回いくよ!」
「いってきまーす!」
うん、寝かせて貰えたおかげで、身体は問題なく動いてる。
患者様がご飯をしっかり食べてるか確認して、と。
最近のご飯が美味しくなったのもあって、完食率が増えてきて嬉しいな。
口から食べる事って、凄く大事な事だからね。
「映出さん、ご飯食べられましたか?」
「ああ、問題ないよ」
そう言う映出さんは、綺麗に完食をされていた。
映出さん、食が細い人だったのに最近はよく食べてくれるようになったなあ。
「じゃあ食後の運動に行きます」
「いってらっしゃーい!」
運動も欠かさずしてくれてる。これは退院も見えてきたんじゃないかな?
この後の血糖測定が楽しみだね。
次は大池さん。実は明後日に退院が決まった。
京平から聞いた時は嬉しかったなあ。頑張ってたもんね。
「大池さん、ご飯食べられましたか?」
「ああ、亜美ちゃん。今日も完食だよ」
「良かったあ。それと、退院が決まったそうですね。おめでとうございます」
「ありがとう。亜美ちゃんと深川先生のおかげだよ」
「これからもお互い、治療頑張りましょうね!」
「うん。さてと、病院内をウォーキングしてくるよ」
「いってらっしゃーい!」
因みに糖尿病患者様は、その階にあるナースステーションにある外出表に名前を書いて、外にいくなり病院を回るなりしてもらっている。
これで、糖尿病患者様が食後の運動をされてるかどうかを確認する。
おおよそだけど、1時間程度で戻られるから、その後私達看護師が、血糖測定をしているよん。
これも中番の担当なのだ。
「よしよし、みんな運動に出かけたね」
糖尿病患者様は皆運動に出かけたので、通常の内科患者様の巡回に向かう。
皆様、元気になるといいな。そんな皆様に、適切な看護が出来たらいいな。
◇
「時任さん、そろそろ休憩行っといで。2時間ね」
「ありがとうございます、行ってきます」
17時。遅番の看護師さんもやってきたので、私は看護師長から休憩に出してもらえた。
京平も仕事終わった頃合いだね。お疲れ様だよ。
休憩室に入ると、意外な顔がそこにあった。
「よ、亜美。お疲れ様」
「京平! もう仕事終わったよね?」
「そ。だから会いに来たよ」
京平、仕事で疲れてるはずなのに、会いに来てくれたんだ。優しいな。
「お弁当もありがとね。久々の京平のお弁当楽しみ」
「あはは、腕によりをかけたからな」
私は血糖測定をして、インスリンを注入すると、一目散にお弁当に向かう。
「それじゃ、早速いただきます!」
お弁当箱を開けると、私の大好きなものばかり入ってて気持ちがあがるね。
「うん、京平のオムライス美味しい! 卵がとろけるのがまたいいなあ。唐揚げもジューシーだし、コールスローもさっぱりしてて良いね!」
「だから亜美、一気に食べ過ぎだぞ。でも、ありがとな。その顔が見たかったんだ」
京平は笑って、私を撫でてくれた。
今日の疲れも吹き飛ぶくらい嬉しいや。
「今日は寝かせてくれてありがとね」
「中番だし、当たり前だろ。この後も頑張ってな」
「うん、頑張る!」
「元気そうで良かった」
京平はそう言うと、机に突っ伏して寝始めた。
もー、疲れてるんなら帰ればいいのに。
でも、会いに来てくれてありがとね。
私は膝掛けを京平に掛ける。お疲れ様だよ、京平。
「亜美ー、お疲れ! ありゃ、深川先生寝ちゃったんだね」
「うん、疲れてるのに会いに来てくれたんだ」
「優しいね、深川先生」
朱音がにっこり笑って呟く。そうなの、いつだって京平は優しいの。
「でも、無理しないで欲しいんだけどな」
でも、私の隣で気持ち良さそうに眠る京平は、やっぱり愛しくて。
私は京平をポンポンしながら、そう思ったんだ。
「亜美も深川先生も、想いあっているよね」
「うん。お互いを大切にしたいって話したりするよ」
「なんかいいな。そういうの」
とは言っても、私も京平だからそう思えるんだけどね。
京平以外にそこまで思えない気がするもん。
「今日会えて嬉しかったよ。ありがとね、京平」
◇
「んー、いつの間にか寝てたわ。おはよ」
「あ、ちょうど起きたね。おはよ」
「深川先生、お疲れ様です」
「すまんな。寝ちまって」
「寧ろ疲れてるのに、会いに来てくれてありがとね」
「俺も会いたかったからさ」
この後も京平のおかげで頑張れるよ。
だから、家に帰ったら、ゆっくり休んでね。
「じゃあ、私達仕事に戻るね。京平も帰ったらゆっくり休んでね」
「ありがとな、今日は早めに寝るよ」
「それなら良かった。じゃあ、また明日研修でね」
「おう」
京平、悲しい顔しないでよ。
私だって、本当は側に居たくて仕方ないんだから。
ナースステーションに戻ると、緊急外来からヘルプが入り、私と朱音は緊急外来へ。
通常診察が終わったばかりの緊急外来って、結構混み合うからなあ。
既に緊急外来に入ってた看護師長から、指示を受けた。
「ああ、佐藤さんに時任さん、ありがとね。私は麻生に着くから、2人は落合くんを宜しくね」
「かしこまりました。今日、めちゃくちゃ患者様いらっしゃいますね」
「インフル、風邪、コロナのトリプルパンチね。検査の手伝いが主になると思うわ」
なるほど、だから京平も疲れ切っていたのか。
おそらくだけど、自分の患者様を診た後、内科のヘルプに入ったのだろう。
それなのに会いに来てくれたんだなあ。
「さ、回すわよ」
「「はい!」」
◇
「回、し終わったああ」
「もー、自分がまだまだすぎて腹立つ!」
「お疲れ。協力助かったぜ」
「ちょ、冷た!」
床に座ってる私達に、蓮が缶コーヒーを持ってきてくれた。
「ぷはー、生き返る。ありがとね」
疲れた時のアイスコーヒーは格別だよね。
「呼吸落ち着いたら帰れよ。もう22時回ってるし」
「あ、本当だ。蓮、コーヒーありがとね」
朱音はコーヒーを持って、診察室を後にした。
「亜美も、久々の中番なのにありがとな」
「当たり前の事だから気にしないで」
「亜美がいるとやっぱり違うな。亜美もりっぱな戦力だぜ」
「蓮も頑張ってたからだよ。じゃ、私もそろそろ帰るね」
「おう、おつかれさん」
自分だって疲れてるだろうに、労ってくれる蓮も優しいね。
あー、お腹減った。夜ご飯何かなあ?
私は着替えて、家に向かう。寝る時は京平を抱きしめるんだ。楽しみ。
でも、1人の帰り道は寂しいな。いつも隣にいる、京平が居ないから。
おかしいな、こんなの初めてじゃないのにな。
京平が足りてないんだ。寝る時めちゃくちゃに抱きしめなきゃ。充電大事!
「ただいまー」
「亜美、おかえりー。ご飯温めてあるからね」
「ありがとね、信次」
京平はもう寝てるみたいだね。良かった。
「無事退院出来て良かったね」
「中々異能がしまえなかったけど、兄貴のおかげで回復したよ」
「もう無茶はしないでね」
「なるべくしないけど、でも僕、家族のが大事だからさ」
そう言われると何も言えなくなるじゃんか。
今回も信次のおかげで京平は助かったようなもんだし。
私は手を洗って、血糖測定とインスリン注入をしてご飯を食べ始める。
「いただきます」
今日のご飯はとろろ月見うどん。
ふむふむ、この出汁は京平が取った出汁だね。
あんなに疲れてたのに、ご飯作ったんだ、京平。
「うどんに合う出汁もさることながら、とろろと月見たまごの相性も抜群だね! 温まるやあ」
「兄貴、相当眠そうだったのに、夜ご飯作ってくれたもんね。ご飯食べてすぐ寝てたけど」
「うん、休憩室でも寝てたもん。それなのに、ありがたいよね」
やっぱり相当眠たかったんだね。
朝も早かったし、勤務も大変だっただろうし。
「明日は僕も家事するし、多少楽になればいいんだけどね」
「やっぱり私も起きた方がいいかなあ?」
「だめ、無理しないで!」
「それはダメなんだ」
「当たり前でしょ!」
明日も中番だけど、起きようと思ったら起きれるんだけどなあ。
2人とも私を気遣ってくれてるね。
「じゃあ、僕はもう寝るね。お風呂は温めてあるからね」
「ありがと。おやすみ信次」
「おやすみ、亜美」
さーて、いよいよ寂しくなってきたぞ。
私は1人でごちそうさまをして、食器を洗う。
これが慣れたら当たり前になるんだよね。
ただ、そうなるまでに時間が掛かりそうな気がするよ。
それだけ、ずっと一緒に居たから。
でも、慣れなくちゃだね。
ダメだなあ、ちょっと泣いちゃった。お風呂入らなきゃ。
お気に入りの入浴剤でも入れようかな?
◇
お気に入りの入浴剤も、寂しさを拭う役目は果たさなかったけど、良い香りを楽しめたから良しとして、と。
この寂しさを、京平を抱きしめる事で帳消しにしなきゃ。
抱きしめられてる京平は何も感じないのは寂しいけど、今は京平の温もりが欲しいんだ。
「おやすみ、京平」
と、私が京平をギュッとすると。
「やっときた。おかえり、亜美」
京平がもっと強く、抱きしめてくれた。
「京平、起きてたの?」
「早めに寝過ぎて、目が覚めちゃった。睡眠薬も飲んだんだけどな」
「早く寝なさいって言いたいのに、どうしよう。嬉しいよ」
「俺もまた会えて嬉しいよ」
お互い寂しがりだね。お互いに会いたくて仕方ないんだね。
「でも、亜美と一緒だと、俺、すぐ寝ちゃうや」
「えへ、私もだよ。一緒に寝ようね」
「おやすみ、亜美」
「おやすみ、京平」
安心できる場所がある私達は、そのまま眠りに着いた。
優しい温もりに敵うものなんて、ありはしない。
そう答えるかのように。
作者「ライブ終わったぜ!寝るぜ!」
信次「みんなおやすみモードだね。おやすみ」
作者「因みに、蓮には明らかに風邪とかの患者様しか回してません。まだ8ヶ月だしね。解らない患者様は、すぐ麻生先生に聞いてます。それ以外の重篤な患者様は、全て麻生先生が診ています」
風太郎「京殿が中番、遅番が出来ぬ今は、ほぼ我は緊急外来じゃぞ」