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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
ともだち
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完徹亜美ちゃん

 のばらとの友情を確かめ合った後、私達は着替えて、お互いの健闘を祈りながら家路に着いた。


「で、なんで告白する勇気が出たの?」

「実は昨日、酔った勢いで、愛してる人がいるって言っちまいまして」

「何やってんだよ亜美。バカだなあ」


 グサッ。今日なんか凄いバカって言われてる気がする。確かにバカなんだけどさ。


「僕の予想では、まずはどっちもフラれるけど、そっからまた恋愛バトルが始まるんじゃないかと」

「どっちもフラれるんかい!」

「だってどうせ兄貴、2人の恋愛アピールに全く気付いてないじゃん。つまり2人の努力の成果は皆無なのだから仕方ないよ」


 確かに。それは言えてる。

前にのばらが京平を抱きしめた時も、京平は素面だったし。

 私に関しても、確かに写真やら手を繋ぐやら聞こえは良いけれど、照れた様子もなく平然とやってのけられたし。


「でも、兄貴が1番信頼してるのは亜美だと思うな」

「ん? なんで?」


 アッセンブリー先生、じゃなかった。麻生先生もいるのに、何の根拠があって信次はそんな事を言うのだろうか?


「だって兄貴、亜美にしか悪口言わないよ」

「それは私がダメダメだからでは?!」


 そう、私はダメダメ亜美ちゃん。2日連続で机で寝るわ、寝癖直し使いすぎるわ、センス無さすぎて魔女になるわ、意味ないメイク直しするわ、数えたらキリがない。


「昨日の話兄貴から聞いたんだけど、亜美が自分の事ダメって思わざる得ないことされて、カッとなっちゃったって。兄貴は亜美の事、ダメダメとは思ってないよ。じゃなきゃ怒らないよ」

「じゃあ、何で?」

「亜美は離れていかない、って信じてるんじゃないかな? どんな形であっても。だから本音で話せるんだよ」


 確かに、異性としての愛が終わったとしても、京平から離れるつもりは無かった。家族として、お兄ちゃんとして、愛せる自信もある。どう転んだって大切な人には違いないから。

 ただ、ひとしきり大泣きした後で、だろうけど。


「だから今回はダメかもしんないけど、泣かないでね。亜美の愛は、絶対いつか伝わるから」

「のばらも居るのに?」

「亜美と兄貴のそれは別格だって、僕は信じてるからさ」


 信次の言葉にかなり勇気づけられた。

 そうだよね。今までの絆だってあるし、京平が私にしか見せない姿だってあるんだもんね。

 今回はダメで元々。そうだよ、負けず嫌いなのが私らしさだもの。逃げたりしない。


「さーて、兄貴起きてるかなあ。バイト出る前も寝れてなさそうだったしね。また寝てるかも」

「嘘、珍しすぎる……」

「亜美の言葉を気にしてるのかな? もしかして」

「え?」

「まあ、僕は気にしてないに100万賭けるけどね」

「多いな!」


 そんな事を話しながら、家に辿り着いた。


「お、2人ともお帰り」

「ただいまー!」

「ただいま。兄貴起きてたの? 大丈夫?」

「結局眠れないし、明日中番だから起きた」


 うん。確かに京平寝れてないね。髪綺麗だもん。


「亜美、今日は大丈夫だったか?」

「うん。友くんとも普通に話せたし、というか諦めてくれなかったというか」

「え、何その話? 兄貴から聞いてないよ! 僕にも聞かせてよ」


 私は昨日友くんの根回しで、今まで遅番やらせて貰えなかった事と、その友くんから告白された事、結果的に傷付けたのに諦めてくれなかった事を信次にも話した。


「あの亜美が……遂に!」

「な、亜美も遂にモテたな。でも日比野くんしつこいよな」

「しつこい男は嫌われるのにね」


 友くん、散々な言われようである。


「辛辣だねえ、私の家族」

「亜美に無理させた事、まだ許してないからな」

「寝ちゃっただけで、そもそも無理してないってば!」

「寒い時期に机で寝てた癖によく言うよ。それが無理してるって言うんだよ?」


 確かに体力に余裕がない時でも、勉強はしていた。でも、半分は覚えていく内に楽しくなってたから夜更かししただけで、無理では無いんだけどなあ。


「あ、あとね。のばらと仲良くなったよ」


 友くんがこれ以上悪く言われるのに居た堪れなかったので、私は話題を変えた。


「ああ、冴崎さんとか。そうか、冴崎さんがライバルだったんだな」

「看護師としても尊敬出来る先輩だしね」

「確かに冴崎さん仕事丁寧だしな」


 同僚としてはのばら、京平に良い印象みたいだね。良かったね、のばら。

 後は土曜日のクッキー次第かな。私も美味しいの作らなきゃ! やっぱり選ばれたくはあるもん。


「で、土曜日はちょっと楽しみにしててね」

「お、お、何なんだ?」

「内緒。当日をお楽しみに」


 私はニヤリと笑ってみせる。たまには焦らさなきゃね。


「じゃあ楽しみにしながら、俺は土曜も仕事してくるよ」

「うん、そうして!」


 その後はのばらの告白タイムがある訳だから、若干心が震えるけれど、私は私らしくいこう。

 どう足掻いたって、私は私だもん。クッキー作り自体は私も楽しみだしね。

 仮にのばらが選ばれても、最初におめでとうって言える私でありたいな。いや、やっぱり泣いちゃうかな……。


「後、日曜日、久しぶりに2人でどっか行こ? あ、勿論京平が早起きする必要はないからね」

「え、信次は?」

「俺は海里と勉強するから。海里ヤバいし」


 そう、信次はいつも土日に、幼馴染の海里くんと勉強してる。

 だから土曜も厳しかったのでは? と思ってたんだけど、そこはのばらに押されたみたい。意外と押しに弱い信次だった。


「亜美から誘うなんて珍しいな」

「たまには私にもリードさせてよ」

「2人とも楽しんできてね」


 さあ、何処に行こうかな? なるべく邪魔の入らない2人きりになれる場所がいいな。

 一世一代の告白だもんね。私にとって。


「なるべく早起きするよ」

「だから無理しないで。今日だって眠れてないんだし」


 リードさせて、って、言ってんのに、変に主導権を握ろうとしてくるなあ。

 無理せず寝てくださいな、私は一緒に居れて、告白出来れば充分なのだから。


「でも、話せてなんかすっきりした。何とか寝れそうかな」

「そんなすっきりする話はしてないんだけど、それなら良かった」


 京平の中で、何か安心出来る材料があったのだろう。

 そもそも何で眠れなかったかは解らないが、京平が眠れるならそれで良かった。


「その前に風呂入ろ。信次、たまには一緒に入るか?」

「え? なんで?!」

「睡眠不足の風呂はあぶねーんだぞ」

「つまり兄貴のお守りね。了解!」


 お風呂も入れて無かったのか。疲れて睡眠不足で動けなかったのかもしれない。横になっても、眠れないと体力なくて何も出来なくなるもんね。

 信次、京平を頼んだぞ!


「じゃあ私はお風呂から2人が出るまで勉強を」

「「だめ!!」」

「も、もう机で寝ないからああああ」


 私の懇願虚しく、私の勉強用具は京平に没収されて、2人はお風呂に行くのだった。

 しかも2人の部屋に鍵まで掛けて。信じらんない!!


 ◇


 こうして2人がお風呂から出るまで勉強も出来ず暇を持て余したというのに、お風呂に入ったら良い時間になってしまったので、私も京平と同じタイミングで寝る事にした。

 何気に早番だしね。明日は。

 京平が昼まで安心して眠れますように。


 でも私は、告白の事とかで頭がいっぱいになっちゃって、目が冴えてしまった。

 どう言えばいいかな、とか、ちゃんと笑えるかな、とか。考え出したらキリがない。

 そもそものばらと京平が付き合ったら、私は告白すら出来ないのでは? とかも。それでも告白だけはしたいな、とか、いやのばらの気持ち考えろよバカ亜美、とか。


 で、結局。


「亜美、起きろおおおお!」


 と、いつもの信次のフライパンパンパンで……。


「起きてるよ」

「え、亜美が早番なのに起きてる?! どうしたの? 大丈夫?」

「大丈夫ではないかも。全然眠れなかった」


 結局、全く眠れず完徹してしまった。

 社会人として情けない。本当にオンオフの切り替えが下手すぎる。


「コーヒー淹れたげるね。その間に血糖値ね」

「うん、有難う信次」

「あ、ご飯はクロワッサンとスクランブルエッグとプチトマトとオニオンコンソメスープだよ」


 ご飯を聞いて、私はいつもの血糖値の値入力とインスリンの注入を行う。

 それらのいつも通りを終えると同時に、信次がコーヒーと朝ご飯を持ってきてくれた。


「有難う、信次」

「どういたしまして。でも無理はしないでよ。本当にやばかったらちゃんと休憩するんだよ?」


 信次がかなり心配そうに私を見つめた。


「昼からは京平も病院にいるし、最悪おぶって送ってもらお」

「亜美、それは重すぎるよ。普通にタクシー呼ぼ?」

「だよね……」


 間違いない。2つの意味で重すぎる。いくら家族とはいえ頼り過ぎでしかないし、私の体重だって軽くはない。実際重たかったらしいし。


「さて、と、支度しなきゃ。寝ないよう頑張る」

「多分寝ない、というか眠れないとは思うけど、頑張ってね」


 うん、信次の言うとおり、目はギンギンに冴えていた。

 ただ、体力がいつもより自信がないのも確かだから、気合いをより入れなくては。



 ◇


 今日は入院患者様の巡回担当となった。早番の巡回担当は検査の回数が多いから大変だけど、患者様の為に頑張ろう。

 のばらみたいに中番、遅番の人達に、ポイントなども残すようにしなくちゃ。


 とは言え、いつもの業務も、睡眠不足の身体には非常に堪える。

 眠れなかった自分が悪いから自業自得なのだけど、仕事に支障が出ないようにするのが精一杯だ。

 せめて休憩時間には、多少眠れたらいいのだけど、色々考えちゃうから無理だろうなあ。


 そんなこんなで、休憩時間になった。

 早番の休憩は続けて2時間あるので、体力を回復させるにはもってこいだ。

 とか考えていると、誰かが頭をわしゃわしゃしてきた。犯人は解ってる。


「ちょ、京平ってば」

「ふふ、昨日の仕返し。俺に内緒とか言うからだぞ。驚いただろ?」


 あれ、何で京平と休憩時間が被るのだろうか? 寧ろ今から勤務では?


「京平中番でしょ? 何でもう休憩入ってんの?」

「ん、今日緊急外来担当だから早めに休憩取った。亜美も昨日休み1回しか取れなかっただろ?」


 って事は、一気に2時間休憩すんのかな?

 働いてないのに休憩とか、もはや休憩じゃない気もするけど。

 いや、そうだとしたら8時間ぶっ続けで仕事じゃないか。無茶すぎる。


「さすがに1時間だけだよね?」

「や、2時間続けて。休憩回すのめんどいし」

「相変わらず無茶な勤務をしてからに……」


 本当に呆れた。この人はいつだって自分を犠牲にする。自分を大切にしなさすぎる。それをされると、こっちは胸が張り裂けそうになるのに、解ってないなあ。


「でも、亜美の顔が見れて良かった。有難うな」


 そう言って京平は、私の頭を撫でる。

 そう言う事をサラッといつもやる。これも心臓がドキドキするから本当に困る。嬉しいけどさ。


 私達はそんな事を話しながら、テーブルに着いた。

 流石ののばらも、今回の深川シフトにはついていけなかったのか、見当たらなかった。

 うん、その判断は正しいよのばら。これは無茶すぎるよ。

 とりあえず京平はお弁当を13時に食べるらしい。少しでも朝ご飯とズラしたいみたい。

 とは言え、それでもただの多めの朝ご飯じゃん。


 そして、もう1人、そんな深川シフトにビビる存在が現れた。


「え、深川先生?! 中番ですよね、確か」

「おー、お疲れ、落合くん」

「お疲れ様、落合先生」


 診療が終わって昼ご飯を食べにきた落合先生と鉢合わせた。


「いやあ、まさか深川先生と休憩被るとは思わなかった」

「私も。無茶過ぎるよね」


 2人で深く頷いた。しかし、京平も言わせていただくとばかりに。


「無茶してんのは亜美だろ? 信次から聞いたぞ。眠れなかったんだって?」

「や、なんか考え事してたら朝だったというか」

「マジか亜美。今から寝とけよ」


 それから私は、京平と落合先生の計らいというか、またも蝶よ花よで、今から寝ることになった。

 とは言われても、見られながらだと余計に眠れないし、考え事しちゃうんだけどな。


「時間になったら起こすから、変な事気にすんなよ」

「あはは、ちょっと恥ずかしいんだけどな」

「気にすんな! 完徹は身体に毒だぜ」


 そんな中、京平が優しい顔で、また頭をポンポン叩く。

 そうだね。私が眠れない時は、いつもこうしてくれたよね。有難うね、京平。

 あんなに悪い事ばっか考えちゃってたのに、京平が側にいてくれるとやっぱり安心しちゃうな。おやすみ、京平。


「布団じゃないけど、俺の白衣掛けとくか」


 こうして13時45分まで、京平の手の温もりと、京平の匂いを纏った白衣に癒されながら、私は眠りについたのだった。


「深川先生、もしかしてこの為にわざと休憩時間を?」

「ん、だとしたらどーする?」

作者「告白前って、色々考えちゃうよね」

のばら「そんな作者はどんな告白をしたのかしら?」

作者「えー、車の中で病気の事話してー。あ、わしも1型糖尿病でな。で、どうしてこう言う事言ったか分かるよねと察しさせたから、すきとか愛してるとかゆーとらん」

のばら「相手に察しさせるなんて、作者やばすぎですわ」


作者「ヤバすぎると言えば、京平は持つのかしら?」

のばら「のばらも中番ですけど、心配ですわ」

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