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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
変化する日常
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生きてるんだもんな。(京平目線)

「ちーす、深川先生」

「お、落合くん。そうか、今日出勤だったのか」

「亜美を1人で寝かせちゃダメですよ」


 そうか、白衣を掛けたのは落合くんか。まだ亜美の事諦めてないな、こいつ。


「亜美、こんなとこで寝てたら風邪引くぜ」


 落合くんは左側の亜美の隣に座って、亜美を起こす。

 

「むにゃむにゃ、ああ、おはよ蓮」

「おはよ、亜美。こんなとこで寝ちゃダメだろ」

「京平待ってたら寝ちゃって……蓮、白衣ありがとね」

「暫く羽織ってていいぜ。俺、飯食うし」


 全く、油断も隙もないな。亜美は更衣室の前で待たせるべきだった。

 んま、悔やんでもしょうがいないし、亜美のシフォンケーキ食べよっと。


「亜美、シフォンケーキちょうだい」

「ああ、ごめんね。はい! コーヒーもあるよ」

「ありがとな、亜美」

「はい、蓮もコーヒーすきでしょ。どうぞ」

「お、サンキュ。亜美」


 亜美優しすぎるんだよ、そいつは狼だぞ、もう!

 まあいいや。ムカムカしてもしょうがないし、シフォンケーキたべよ。

 

「「いただきます」」

「ふわふわで美味しいや。クリームとも合うし」

「うちのかーちゃんの唐揚げも美味しいぜ」


 落合くん実家暮らしかあ。よく遊んでるイメージだったから意外だなあ。

 あれか、よく遊ぶからこそ、か。


「蓮のお母さんの唐揚げ、美味しそうだもんね」

「亜美も、食う?」

「え、いいの? ありがと!」

「ほい、口開けて」

「ん、こう?」


 落合くんは亜美の口に唐揚げを突っ込む。

 関節キッスだし、あーんじゃねえか!

 亜美、隙だらけだぞ!

 ああああ、ヤキモキする。


「お、美味しい。ありがとね」

「だろ?」


 ヤキモキするけど、亜美には全くその気はないんだもんな。落ち着け、俺。

 にしても、亜美のシフォンケーキ美味しいな。

 俺の為に作ってくれたんだぞ! 良いだろ!

 って、何張り合ってんだよ、俺。大人になれ。


「ごっそっさん。タバコ吸ってこよ。亜美はまだいるよな?」

「うん、しばらくは」

「白衣、帰る時に椅子に掛けておいてな」

「りょっかい!」


 落合くんにやられまくってんな、俺。

 そもそもそれを気にし過ぎてるとこが、俺の弱い部分だし。


「京平、さっきから不機嫌そうだけど、どうしたの?」

「亜美、隙だらけだぞ」

「え、普通にしてるだけなんだけどな」


 そうなんだよな、亜美は普通に生きてるだけなんだよな。俺だけが嫉妬してる。

 亜美が愛しくて、仕方ないから。

 のばらさんが俺にアプローチしてた時、亜美も同じ気持ちだったのかな。

 俺だって普通だったけど、そういう問題じゃねえよな。

 亜美、その時はごめんな。


「そうだよな」


 でも、亜美が真っ直ぐ愛してくれてるのは俺なんだ。

 不機嫌になる理由は何もないよな。


「ごめんな、もう大丈夫。亜美が愛してくれてるから」

「ちょ、て、照れるじゃん」

「シフォンケーキも美味かったよ」

「どういたしまして」


 弱くてごめんな。もっと強くなるからな。


 ◇


「昼飯は何がいい?」

「炒飯食べたいかも」

「おし、任せとけ!」


 シフォンケーキのお礼、って訳じゃないけど、美味しいの作るからな。


「後、昼飯食ったら、勝田夫妻に挨拶行かなきゃ」

「そうだね。シフォンケーキ包まなきゃ」

「美味しかったし、きっと喜んでくれるよ」

「と、京平の元気な顔もね」

「間違いないな」


 勝田夫妻にも心配かけちまったしな。

 かつ、九久平(くぎゅうだいら)の逮捕に繋がる情報協力や、手助けもして貰ってるし。

 大丈夫だった事を伝えに行こう。


「「ただいまー!」」


 俺達は手を洗って、それぞれのやる事をやる。

 亜美はシフォンケーキを包み始め、俺は、昼飯を作り始める。

 野菜欲しいし、レタス炒飯にしようかな。

 栄養バランスを考えて、卵と豚バラ肉も入れよっと。

 よっと! うん、いいパラパラ具合だね。


「亜美、昼飯できたぞ」

「あ、待って。もう少しで手紙書き終わるから」

「勝田夫妻にか。亜美らしいな」

「凄くお世話になったからさ」


 そんな所に気付ける亜美も愛してるよ。

 世話になったのは俺なのに、いつも亜美がそういう部分を補ってくれる。

 至らない俺を、支えてくれているのは亜美だよ。


「ありがとな、亜美」

「ん、当たり前の事だからお礼は要らないよ」

「俺は気付けなかったからさ。だから、ありがと」

「気にしなくたっていいのに。よし、書けた!」


 亜美は包んだシフォンケーキの袋に、手紙を一緒に入れる。


「さ、昼ご飯たべよ!」

「もう準備も出来てるよ」

「「いただきます」」

「うん、レタスのシャキシャキ感と豚肉の香ばしさと卵の柔らかさがパラパラご飯と合わさって、めちゃくちゃ美味しいよ!」

「よし、狙い通りに出来た。ありがとな」


 亜美達と暮らすまでは、飯も適当に作ってたんだけど、一緒に暮らし始めてからこだわっちまう俺が生まれて。

 美味しいご飯を食べて欲しいという、些細な気持ちだったはずなのに。


「私も京平と信次みたいに、パラパラ炒飯作りたいんだけど、フライパン振るのが苦手だからなあ」

「うちのフライパン重たいし、無理もないさ」

「2人とも普通に振るもんなあ」


 そりゃ俺達、寝た亜美をいつも布団に運んでるから腕力には自信が、ってこれは亜美には内緒だな。


「生半可に鍛えてないからな」

「最近走り込みしかしてないのに!」

「ち、バレたか」

「筋トレしてなくて振れるの凄いよ」


 そういや、最近筋トレしてねーもんな。

 飽くまで最近してないってだけだけど。

 亜美と一緒じゃない日もあるし、筋トレもしていかないと。

 体力まだまだつけたいし。


「ごちそうさま、美味しかった!」

「俺もごちそうさま」


 それに最近何故か食欲増えたしな、俺。

 シフォンケーキ丸々一個食べたのに、炒飯もペロリとは。

 今までが食べなすぎなのはあったけど。

 亜美のおかげで、より生きようとしてるんだよ。


 ◇


ーーピンポーン。


「はい、勝田です」

「こんにちは、時任です。昨日のお礼に来ました!」

「気にしなくて良かったのに。入っててー」


 俺達は昼飯の後、勝田夫妻にお礼を兼ねて挨拶に行く。

 ピンポンを押すと、勝田さんが出てくれた。

 俺達は勝田家に入る。

 ん、何やらドタドタ激しい駆け足が聞こえ……。


「うわああああん! 京くん、無事で良かったあああああ!」

「うお、武、苦しいぞ!」

「訳解らない親父が京くん殴って、そんで、えぐ。心配したんだから!」


 九久平(くぎゅうだいら)、俺達より年下なんだけどな。老けてみられてるな、哀れだ。

 武は俺を抱きしめて、わんわん泣いてくれた。恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しかったよ。


「深川先生が無事で良かったです。武、昨日から凄く心配してたから」

「勝田さんもありがとな。撮影しといてくれて」

「どういたしまして。事故には遭ってないよって武にも言ったんだけど、あの後深川先生に会わなかったしね」


 勝田夫妻にも心配かけちまったな。心配してくれる人がいるって、幸せだよ。


「そうだ、これお礼のシフォンケーキです。慰めてくれたのも嬉しかったです」

「シフォンケーキだいすき! ありがとね。武、後でお茶しようね」

「わざわざありがとね」

「いえ、京平を助けてくれて、ありがとうございました!」


 こうして俺達は、勝田家を後にした。


「店長さん、めちゃくちゃ心配してたね」

「俺が異世界に連れて行かれたと思った、とか何なんだよ、全く」


 亜美といい武といい、現実離れした発想し過ぎなんだよ。

 異世界なんて、ある訳ないじゃねーか。

 まあ、異能がある現代だから、あっても不思議じゃねえけど。


「次は京平のスマホだね。どんなのにするの?」

「容量がそれなりにあれば、だけど、亜美の写真移せるからアイポンにしようかな」


 バイト代で買ったアイポン15を、20年近く使って来たけど、あんなに破壊しちゃあ直せないよな。SIMカードは生きてるといいな。


「京平のアイポン、かなり古かったからちょうど良かったかもね」

「それだけ大事に使ってきたの!」


 写真のデータは常にクラウドに残していたけど、ライムの履歴保存してなかったのが痛いなあ。

 亜美からライムで貰った嬉しい言葉とかも、消えちゃうから。

 思い出だけは忘れないようにしたい。


「新しいスマホでも、沢山思い出を残せたらいいね」

「ま、確かにな」


 そうだな。俺達生きてるんだもん。

 新しい思い出を、沢山築いていけるよな。これから先、ずっと。

亜美「次は最新機種にするんだよ?」

京平「や、型落ちでいいよ。どっちにしろ新しくなるし」

亜美「また変にケチるなあ」

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