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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
変化する日常
136/238

シフォンケーキ

「京平、朝だよ」

「おう、おはよ。亜美」

「おはよ、京平」


 今日は私が朝の家事やったもんね! と言いたいところだけど、のばらも早起きしてくれて、洗濯物はやってくれたんだよね。

 のばらは朝イチで信次のお見舞いに行きたいみたい。


「深川先生、おはようございますわ」

「のばらさんも早いね。おはよ」

「この後、信次のお見舞いにいくんですの」

「退院できるかも今日次第だしな、元気付けてやってくれよ」


 実は五十嵐病院、お見舞いは24時間オッケーだ。

 看護師も誰かしらは居るし、医師も居るし、何より院長先生が家族の繋がりを大切にしていらっしゃるから。である。

 のばらは昨日も勤務後に、信次とちょっと話して、信次がまた寝たのを確認して帰ったみたい。


「信次、何か欲しがってたか?」

「ご飯が足りないって言ってましたから、亜美にお弁当を作ってもらいましたわ」

「信次は糖尿病じゃないし、いっか。育ち盛りには、確かに入院食じゃ足りないよな」


 大人ぶってる信次も、まだまだ高校生。だから、まだまだ育っていくのだ。

 その為にも、栄養は必要だもんね。信次の好きなの詰めといたよ!


「昼くらいに私も信次のお見舞い行くね。シフォンケーキ渡すんだ」

「あ、俺の分も持って来て」

「りょっかい!」

「のばらも欲しいですわ、昼にはまだ病院いますし」

「じゃあ、みんなの分持ってくね」


 シフォンケーキ、沢山焼かなきゃな。後、コーヒーと紅茶も水筒に入れて持っていこ。

 

「じゃ、朝ご飯にしよ!」

「「「いただきます」」」


 今日の朝ご飯は、だし巻き卵と鯖の塩焼きとほうれん草のお浸しとお味噌汁。

 美味しく出来てるといいな。


「だし巻き卵めちゃ美味いな」

「本当ですわ。亜美レベル上がったのですわ」

「えへ、ありがとね」


 良かったあ。皆喜んでくれて。

 私もちょっとずつ成長してるみたい。


「後、深川先生も亜美も大変でしたわね。信次から聞きましたわよ」

「犯人は捕まったし、俺も信次のおかげで生き延びたし、一件落着ではあるけどな」

「そうだ、勝田夫妻に助けてもらったから、お礼にシフォンケーキ焼かなきゃ」


 事情聴取の時、私に気付いてくれて、慰めてくれたんだよね。

 他にも九久平(くぎゅうだいら)を捕まえてくれたり、九久平(くぎゅうだいら)の犯行現場をスマホで撮影してくれたり、かなりお世話になった。

 その撮影した映像に、信次が京平を抱き抱える姿も映ってたんだけど、私はそれを、天使が京平を異世界に連れてっちゃったって勘違いして、また泣いちゃったんだよね。

 まさか信次だったとはなあ。


「じゃあ、勝田夫妻は被害に遭ったのが俺って事を」

「うん、知ってるよ」

「それなら、勝田夫妻の家には俺も行くよ。元気な姿見せたいし」

「病院終わったら一緒に行こうね」


 シフォンケーキ、4つ焼かなきゃ!

 どんな味にしようかなあ?


「ごちそうさま、やべ意外と時間ねえな」

「ごちそうさまですわ」

「私もごちそうさま! ケーキ作る準備しなきゃ」

「亜美、先に歯磨きな!」


 そんな訳で皆で洗面所でわちゃわちゃする。

 京平は時間ギリギリなので、かなり早く歯磨きしてるや。でも寝癖も直した方がいいぞ!


「はい、寝癖直し」

「ありがとな、亜美」

「あ、のばらにも下さいな」

「面倒いから頭に掛けるぞ」


 私達は京平の寝癖直しビームを浴びた。

 私頼んでないのにー! むきー!

 まあ、掛けてくれたから髪直すんだけどさ。

 寝癖がない訳じゃないし。


「いってきまーす!」

「「いってらっしゃーい!」」

「ですわ」


 のばらは、歯磨きと寝癖直しが終わったら、メイクをはじめていた。

 のばら、すっぴんでも充分可愛いのになあ。


「信次、どんなメイクが好きなのかしら?」

「いつものメイクでいんじゃない? 信次、のばらが好きって感じだし」

「やだ亜美、照れますわ!」


 恋する乙女は可愛いなあ。信次も幸せ者だなあ。


「よし、可愛くなれましたわ。いってまいりますわ」

「いってらっしゃーい」


 よーし、皆出かけたし、シフォンケーキ作るぞ!

 エプロンに着替えて、三角巾を結んで、と。

 

 じゃあ、早速始めよう。オーブンは170℃に予熱してっ、と。

 今回は紅茶のシフォンケーキにしよう。

 アールグレイを買ってあるから、ティーバッグから茶葉を出して。

 ボウルにアールグレイと熱湯を入れて1分置き煮。これで紅茶の味わいが更に増すよ。

 これに水を加えて冷まして。

 その間に、別のボウルに卵黄を入れて泡立て器でまぜ、砂糖を少しずつ加える。

 今回は四つ作るから、四つこれを作るのじゃ!

 あ、アールグレイも四つ煮出してあるよ。

 更にサラダ油を加えてさらにまぜまぜ。ふー、四つ一気にやると大変だね。

 んでもって、薄力粉、ベーキングパウダーをふるっていれて、粉気がなくなったらアールグレイを入れて。

 次はお楽しみのメレンゲづくり。卵白をハンドミキサーで泡立てて、砂糖を3回分けて入れて、蓮のツノ……じゃない、ツノが立つまでメレンゲを作っていくよ。

 で、さっき泡立てた卵黄に1/3量のメレンゲを加え混ぜ合わせたら、残りのメレンゲもを2回に分け入れてさっくりと混ぜたら型へどーん!

 さーて、後は四つの型を10cm程の高さから3回程落として空気を抜いて、1個ずつ170℃のオーブンで35分焼かなきゃ。時間かかるね。


「よく考えたら、1人1個は多かったかな? まあいっか!」


 焼いてる間はティータイム。私はシフォンケーキ食べられないからね。可哀想でしょ。

 ヘモグロビンA1c、今月こそは!

 私は持っていく用のコーヒーと紅茶を淹れた後、それを水筒に入れた。

 ケーキのお供にしてもらうんだ。

 その後、じんわりとコーヒーを飲んで焼き上がりを待つことにした。

 よし、1個目が焼き上がった! 1個ずつ逆さにして冷まさなきゃ。これは、信次にあげよっと。

 うは、まだ三つある! どんどん焼かなきゃ!


 ◇


 カフェインの摂りすぎは良くないから、途中で麦茶に切り替えながら焼き上がりを待ってたけど、ようやく焼き上がったぞ。

 うーん、良い匂い。予め泡立てていたホイップクリームを、出来上がったシフォンケーキに添えて、と。

 京平のはクリーム多めで、信次はホイップクリーム無しで。兄弟でも好みはそれぞれだね。

 勝田夫妻のは、家に帰ったら包もっと。


 はにゃん。やっと終わった。着替えてメイクして、信次のお見舞いにいかなきゃ。

 そう言えばのばらがメイクを気にしてたけど、京平はどんな私が好きなのかな?

 私らしい私を好きで居てくれてるといいな。

 そんな私が、1番可愛い自信があるよ。

 まあ、私が選んだ服は可愛くないというかセンス無いけどね!

 最早センス無さすぎて、洗濯バサミで服のセットを毎回挟んで貰ってるし!


 よし、私にしては可愛いぞ。よいしょ、シフォンケーキめちゃ嵩張るな!

 信次、症状が落ち着いてるといいけど。

 私は病院に向かって歩き出した。

 ふいー、運ぶの大変だけど頑張るぞ。

 明らかに作りすぎたあ!


 ふー、病院にたどり着いた。信次の病室は、東棟の203だね。

 受付をしに、窓口へ向かっていると。


「あれ、亜美じゃん。信次くんのお見舞……ちょ、大荷物ね!」

「あ、朱音! うん、信次と京平たちにシフォンケーキ焼いてきたの」

「信次くん、起きてからご飯食べてもお腹空いたって言ってたし、良いお見舞いだね。育ち盛りだもんね」


 食欲はめちゃくちゃあるようで良かった。朝はのばらにお弁当も持たせたしね。


「ていうか、明日から深川先生と勤務一緒じゃなくなるらしいじゃん。ちょっと寂しいよね」

「うん、明日から中番で。看護師も少ないしね」

「確かに亜美が完全早番になってから、中番と遅番がよりキツくなってたしなあ。また頑張ってね」

「うん、ありがとね!」


 朱音は東棟に、再び巡回をしに出掛けていった。

 私も受付を済ませて、東棟に向かう。

 エレベーターで2階まで上がって、信次のいる203の病室に入った。

 因みに信次は、羽がしまえなくて危ないので、個室らしい。


「よ、信次」

「あ、亜美! お見舞いありがとね」

「ちょ、亜美。シフォンケーキいくつ焼いたんですの?!」


 先に信次のお見舞いに来たのばらが、私の様子を見てびっくりしていた。


「はい、これ信次の分で、これはのばらの分ね」

「1人1個丸々なんですね。美味しくいただきますわ」

「お腹まだ空いてるから嬉しいや。ありがとね」


 と、信次の様子を見ると、翼は鋼鉄のものから柔らかい翼に変化していた。

 まだしまえないみたいだけど、症状は落ち着いてきたみたいだね。


「あ、コーヒーと紅茶も持ってきたよ」

「亜美気が利きすぎるよ。重たかっただろうにありがとね」

「本当に、朝のお弁当といい、亜美には感謝しきりですわ」


 私は持ってきた紙コップに、コーヒーと紅茶を注いで2人に渡した。

 病室でのティーパーティの始まりである。


「今日は紅茶シフォンケーキだね。アールグレイの香りがいいなあ。亜美のシフォンケーキすきだなあ」

「んー、美味しいですわ」

「喜んで貰えて良かった」


 2人の喜ぶ顔が見れて良かった。量は明らかに多いんだけどね。

 でも、見る見るうちに無くなってくから、なんか嬉しいな。


「兄貴からは、明日には退院出来るかもだって。取り敢えず鋼鉄の翼では無くなったしね」

「落ち着いて良かったのですわ」

「後はコントロールも覚えていかなきゃだよね。のばらも苦労してるし」


 京平の治療法は、異能の攻撃的な部分を薬や持ち主のコントロールによって抑えるやり方で、これが最初のうちは大変だ。

 

「そうだね。今は維持出来てるけど、気を抜くと鋼鉄の翼になっちゃいそう」

「のばらも薔薇の棘を無くせるようになったのは最近ですわ。それまでは薬を多めに出して貰ってましたわ」

「じゃあ、薬はちょい多めで様子を見ていく形になりそうだね」

「既に多めだから、もうちょい頑張らないとなあ」


 そんな話をしていると。


「信次、コントロールは上手くいってるか?」

「京平、お疲れ様」

「お、亜美。皆の為にケーキありがとな。そうか、1人1個か」

「遠回しに多いって言わないでよ」

「そんな事言ってないだろー! 一瞬で食い切るわ」


 私のネガティブな思考を汲み取ってくれてありがとね。お昼に沢山食べてね。


「ありがとね。信次の状態はどうなの?」

「身体の限界まで抑える薬を入れてるから、この状態でのコントロールが出来れば退院は出来るよ。ただ、異能がしまえないと学校は厳しいかな?」

「自分理由の欠席はしたくなかったんだけどな」

「異能使えてた事を隠してた罰だな」


 退院出来そうとは言ってたけど、前途多難ではありそうだ。

 受験勉強かつ異能もコントロールしなきゃだもんね。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るな。鈴木先生に後は引き継いでおくから」

「コントロール頑張らなきゃ」

「亜美は休憩室で待ってて。ケーキ食べにいくから」

「うん、待ってるね!」

「のばらはもうちょっと信次と喋ってますわ」

「信次、コントロール頑張ってね」


 私は京平と一緒に、病室を後にした。


「着替えたら休憩室に行くからな」

「うん、りょっかい」


 私は先に休憩室に向かった。今日は土曜日なのもあって、人は(まば)らな感じ。

 休憩時間もズレるだろうしね。

 私は陽のよく当たる席に座って、京平を待つ。

 うーん、気持ち良いなあ。うとうとしちゃう。

 今日も早かったしね。

 京平が来るまで、ちょっと寝てようかな。

 むにゃむにゃ。


「すー、すー」

「全く、風邪引くぜ。亜美」


 ◇


「亜美……って、寝かせた方がいいな」


 むにゃむにゃ、京平の声がする。あ、となりにいる。温かいや。


「誰かが亜美に白衣を掛けたみたいだけど、誰だ?」

京平「誰だ、亜美に白衣掛けたのは」

風太郎「我じゃないぞ?」

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