表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
変化する日常
135/238

一瞬、過ぎった。

「すぐ淹れるから待っててね」

「全然俺やるのに」

「ダメ、京平はまったり過ごして。危ない目にあったんだし」


 こうやって京平とまた日常を過ごせて、本当に良かった。

 凄く怖かった。京平が居なくなったら、って思ったら。

 犯人の九久平(くぎゅうだいら)を恨むより先に、京平がこの世界に居ないって事実が苦しくて、もう泣くしかなかったから。

 この世界にまだ居てくれて良かった。

 これからも一緒に生きていこうね。


「はい、お待たせ」

「ありがと。亜美のコーヒーは俺が淹れたいな」

「ゆっくりしてればいいのに」

「俺がそうしたいの」


 無理しなくていいのに。

 でも、京平の淹れるコーヒーは美味しいし、じっくり楽しもうっと。

 コーヒー豆を砕く音も心地良いな。

 思わず私は笑った。日常がとても愛しくて。

 そしたら、京平も笑い返してくれて、私はとても安心したんだ。


「ほい、コーヒー」

「ありがと。また一緒にコーヒーが飲めて嬉しい」

「俺も。亜美と過ごせるのが幸せだよ」


 そんな言葉を交わしながら、2人でコーヒーを飲む。

 京平の淹れたコーヒーは美味しいし、京平は笑ってくれてるし、やっぱり安心する。

 さっきまで気を張り詰めていたからかな。

 安心から、そんな緊張の糸がプツンと切れて、私は眠たくなってきた。


「亜美、眠そうだな」

「京平がいるから、安心してさ」

「コーヒー飲んだら昼寝しようか」

「何処にも行かないでね」

「一緒に寝るよ。側にいるから」


 良かった、ってまた安心して、私は眠ってしまった。

 

「心配させてごめんな」


 京平に抱かれてるのも、心地良かったんだ。


 ◇


 んん、すっかり寝ちゃった。京平が抱いてくれたから、凄く気持ちよかったし。

 京平の寝顔を見て、また私は安心できたんだ。

 京平も疲れてたんだね。お疲れ様。

 これからも一緒に過ごそうね。何処にも行かないでね。

 京平が愛しくて、私はそっと口付けをする。すると。


「亜美、おはよ」

「へへ、おはよ。京平」


 キスと同時に京平が目覚めた。

 ちょっと照れた横顔が、なんだか愛しいね。


「今何時?」

「20時。今からご飯作るからな」

「今日はなんか、豚の生姜焼き食べたい」

「お、いいけど、なんで?」

「京平が初めて作ってくれたご飯だから」

「よく覚えてたな」


 忘れる訳がないよ。不安でいっぱいだった私達を、温めてくれたご飯だもん。

 苦労しながら、私達が喜びそうなものを作ってくれたんだもんね。

 今日は色々あったから、沢山安心したくって。

 信次も居ないから、ちょっと寂しいしね。


「今だと逆に言われないと作らないしな。その、簡単だし」

「京平の豚の生姜焼き好きだから、また作ってね。美味しいし」

「またリクエストしてね」


 私達はむっくり起き上がって、食卓に向かう。

 私もキャベツを切ったりしたよ。

 

「亜美もキャベツの千切り上手くなったな」

「お弁当で最近よくやるからね!」

「いつもお弁当ありがとな」

「どういたしまして」


 それとお味噌汁も作ったよ。京平とのばらに美味しく食べて欲しいから、出汁からこだわったんだ。


「味噌汁、いい匂いだなあ」

「出汁も取ったし、赤味噌だしね」

「赤味噌派俺だけなのに、ありがとな」

「美味しく飲んで貰えたらいいな」


 愛知県出身の京平は、赤味噌が好きなんだよね。

 でも、私達に合わせていつも白味噌でお味噌汁作るからさ。

 だから私達が作ってあげるんだ。

 信次なんて、朝ご飯はいつも赤味噌でお味噌汁作ってるし。

 私達、京平の事愛してるもんね。


「よし、豚の生姜焼きも完成!」

「お味噌汁も出来たよー!」


 私達は食卓に各々が作ったものを並べた後、ご飯やら箸やらも配膳して、ご飯の準備をする。


「「いただきます」」

「うん、やっぱり京平の豚の生姜焼き美味しい! ご飯とめちゃくちゃ合うんだよね。香ばしさもあって最高!!」

「それなら良かった」


 と、やっぱり安心するんだ。京平の味って。

 美味しいだけじゃなくて、ほっとするの。

 京平だけだよ。こういうの。


「今日はこの後、走る?」

「遅くなっちゃうから、明日2倍走るよ」

「ん。予定ないだろ? 明日は」

「京平の事だから、どうせ明日も出勤するんでしょ? 朝ご飯作るからさ」

「お見通しか。半日だけ出勤予定だよ」


 信次が入院してる状態で、京平が丸々休む訳がないのだ。

 異能、落ち着けばいいんだけどね。


「じゃあ、お風呂入って寝ようか」

「うん。後……今日、良いかな?」

「亜美から誘うの珍しいね。良いよ」


 疲れてるだろうに、はしたなくてごめんね、京平。

 でも、今日は京平を感じたかったんだ。凄く怖かったから。

 

「今日は自分が止められないから、覚悟しとけよ」

「どんと来い!」


 それから私達はお風呂に入って、繋がりあって、お互いを感じ合ったりした。

 京平が生きてて、本当に良かった。

 一瞬、本当に一瞬なんだけど、私も後を追おうかと過ぎったから。

 そんな事しても、京平は絶対喜ばないし、泣かせちゃうだけだって、解ってるのにね。

 でも、いつも側にいた京平が居ない世界を、生きる勇気が無かったのも事実で。

 弱虫だね、私。京平が居ないと生きていけないや。

 生きてても、伽藍堂(がらんどう)だったよ。きっと。

私は馬鹿正直だから、その事も京平に話してみたんだけど。


「俺が死ぬより、亜美が死ぬ方がやだよ。俺の事は忘れて良いから、その時は笑って生きて欲しい」


 って、京平を泣かせてしまった。京平も無茶苦茶な事言うなあ。忘れる訳ないし、京平が居ない世界で笑える訳ないのに。

 でも、京平があまりに泣くもんだから、私は嘘を吐いて「うん」って頷いた。

 でも、京平は悲しげな顔をしたから、私の嘘には気付いてたんだと思う。

 解ってる癖に「ありがとな」って言うんだもん。


 こんな話をしてしまった私がいけないんだけど、私達は寂しさを拭う為に強く抱きしめ合った。

 愛してるを、お互い伝えているかのように。

信次「のばら、帰らなくていいの?」

のばら「もう少しだけ、信次と一緒に居たいのですわ」

作者「と、のばらさんは仕事終わりに信次の病室にいたので、帰りが遅くなりましたとさ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ