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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
変化する日常
133/238

救われた命(信次目線)

 時は遡って、スクランブル交差点事故から4時間半前。

 僕はのばらから買い物を頼まれていたんだ。


「信次、受験勉強で忙しいのは知ってるんだけど、買い物頼んでも宜しいかしら?」

「およ? この前のばらが買い物行ったばかりだよね」


 事実冷蔵庫の中には、食材も揃ってるし、わざわざ買い足す必要はないはずなんだけど。


「深川先生が明日の夜ご飯に、カツ丼作りたいらしいですの。でも、豚肉と卵が足りなくて」

「カツ丼!!! それはすぐ買い足しに行かなきゃ」

「ごめんなさいね、今日中番だから買いに行けなくて。お願いしますわ」

「じゃあ近くのスーパーで……」

「百貨店で買ってきて欲しいのですわ。美味しいの食べたいのですわ。のばらの名前を言えば、お肉や卵も安心して買えますわ」

「解った。美味しいの買ってくるね」


 そんな訳で兄貴達にご飯を食べさせた後、粗方の家事をした後、ちょい勉強して、のばらに言われたとおり百貨店まで飛んで、豚肉と卵を買いに出かけた。

 いやあ、飛ぶと5分で行けるんだよね。百貨店。

 そうだ、のばらから百貨店で買い物する時は、のばらの名前を出すと良いよって言われてたし、伝えてみようかな?


「いらっしゃいませー」

「すみません、僕、冴崎のばらさんの家族の者なんですが」

「ああ、時任信次様ですね。のばら様の彼氏って言えば良いのに。すぐコンシェルジュを手配致しますね」


 一言余計なお姉さんに素性が知られてるのは兎も角、コンシェルジュって?

 僕がクエスチョンマークを頭に浮かべていると、そのコンシェルジュさんがやってきた。


「時任様、私コンシェルジュの梅野と申します。宜しくお願いします」

「時任信次です。全然訳が解らないです!」

「どのような物をお求めですか?」

「豚肉と卵。あ、豚肉はカツ丼用です」


 こんなの伝えて何になるんだろう?


「美味しいカツ丼が出来る豚肉と卵を見繕いますね。お店の案内をします」

「あ、案内してくれるんだ。有難う御座います」


 確かに百貨店は入り組んでいるから、最適解、案内ををしてくれるのはありがたいや。


「では、精肉店に参りましょう。こちらです」


 ほええ、流石百貨店。精肉店もあるのかあ。

 美味しい豚肉が買えたらいいな。

 辿り着いた精肉店で、僕はお店の人に相談する。


「すみません、カツ丼作るんですが、適したお肉はありますか?」

「それでしたら、厚切りの豚ロースがありますよ。三元豚で肉質もバッチリです!」

「では、それを20枚ください」


 カツ丼なら最低5杯はおかわりするし、最低限の枚数だね。

 先月節約したし、今月はちょっと贅沢してもいいよね。

 お店の人と梅野さんは凄く驚いた顔をしてたんだけど、なんでだろ?

 肉の数が少なすぎてビビったのかな?


「お肉お持ちしますね。沢山買いましたね」

「いやあ、全然少ないですよ。6杯お代わりは厳しいくらいですし」

「ろ、6杯……」


 ああ、やっぱり少なすぎるんだ。僕、少食だもんなあ。普通は10杯くらい余裕だろうし。

 でも、引かれるほど少ないとは思わなかったよ。もっと食べられるようになりたいな。


「つ、次は卵を探しましょうか。卵専門店もありますよ」

「お、いいですね。良い卵があるといいな」


 僕達が50mほど歩いた先に、卵専門店はあった。


「こちらが卵専門店です」

「おお。色々揃ってるなあ」


 高級卵が沢山揃ってる。カツ丼にはどれが合うのかな? 聞いてみよう。


「すみません、カツ丼を作るんですけど、どの卵が1番合いますか?」

「どの卵でも美味しいけど、オランダ原産のネラって卵は最高に美味しいですよ。うちでもやっと入荷出来たんですが、日本では数も少ないんですよ」

「お、美味しそうですね。その卵40個ください」

「そ、そんなにないですよ! 半分は有名どころだけど烏骨鶏の卵にしてみては?」

「では、それでお願いいたします」


 本当に貴重な卵なんだなあ、ネラって卵。

 食べた事ないから楽しみだなあ。

 いや、それ以前に烏骨鶏の卵も食べた事ないや。中々に豪勢だなあ。


「ふー、いい材料が手に入って良かった!」

「買いすぎな気がしなくもないですが、良かったですね」

「え、そうかな?」

「豚肉と卵は、入口までお運び致しますね」

「梅野さん、有難う御座いました」


 僕は買った物を抱えて、区内のスクランブル交差点の真上を飛ぶ。


「ふー、空を飛べて良かった。結構な量になったし」


 時刻は16時5分。良い息抜きにもなったよ。

 帰りはゆっくり空散歩してから帰ろうかな。

 すると、僕の目に、見たくなかった映像が映る。


「あ、兄貴!」


 兄貴があの九久平(くぎゅうだいら)に殴られてる。何で兄貴を殴ってんだよ、馬鹿野郎。

 兄貴の手を掴んでた亜美は、その衝撃で吹っ飛ばされてる。

 亜美はそのまま尻餅をついてた。

 あの馬鹿馬鹿野郎、亜美にまで危害を加えて……。

 歩行者信号は赤。兄貴は気を失ったのか、スクランブル交差点に放り出された。

 大型トラックも迫ってきてる。危ない!


「うらあ!!」


 僕は異能を最大限に使って音速近くのスピードで飛ぶ。

 あの時は無意識にそうしたと思う。


「間に合え!」


 高まった異能のおかげで、兄貴を瞬時の所で掴むことに成功した。


「危なかった……」


 速さと勢いがあったせいか、兄貴のスマホと僕の買った豚肉と卵達は落ちちゃったけど。

 翼は無意識化だけど、能力を最大限に出した為か、鋼鉄の頑丈なものに生え変わっていた。

 僕が5歳の時に生えた翼と一緒だ。あの時とは違って、ちょうどいいや。


 僕は掴んだ兄貴を、とあるビルの屋上まで運ぶ。怪我はないだろうか。

 九久平(くぎゅうだいら)のやつ、狙うなら僕を狙えよ。何で兄貴を襲うんだよ。バカバカバカ。

 大体お前が首になったのも自業自得なのに。


 それよりも兄貴だ。良かった、脈はある。気を失ってるだけみたい。

 ただ、殴られた結果出来たたん(こぶ)が痛そうだ。


「のばらの言うとおり、百貨店で買い物してなかったら……」


 僕は急に青ざめる。九久平(くぎゅうだいら)のやつは逆恨みする馬鹿馬鹿馬鹿野郎だけど、兄貴を殴った際に捕まってたし、それより兄貴を、兄貴の命を助けられて良かった。

 僕じゃなきゃ、助けられなかったもん。

 のばら、ありがとうね。

 

「う、うう……」


 あ、兄貴が起きそう。翼を隠さなきゃ。翼を消して。

 あれ、翼が閉じられないし、消せない。いつもなら消せるのに……。

のばら「異世界転生した訳じゃなかったんですわね」

作者「ちゃうゆーたやろ!」

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