麻生愛先生の判断
時はまた過ぎ去って、1/9の昼休み。
今日は京平の担当になって、テンション高い私も居たりして。
13時から、麻生愛先生の診察もあるから、早めにご飯食べなくちゃね。
「「「「いただきます」」」」
「うん、だし巻き卵も出汁が効いてるし、金平も味付けが好みだな。つくねだんごを添えてくるとこも天才的だな、亜美」
「深川先生が亜美みたいなこと言ってますわ」
「ふふ、ありがとね。京平」
京平がこんなにお弁当褒めてくれた事ってないから、凄く嬉しいな。
まあ、それだけ急いで食べてるって事なんだけどね。
私も京平に付き添うよう言われてるから、早めに食べなきゃ。
「亜美の料理の腕も上がってますね。僕も練習しようかなあ」
「一人暮らしなら、出来たほうが良いもんな」
「あ、のばらもやりたいですわ!」
「「だめ!!!」」
「亜美と深川先生意地悪ですわ!」
のばらは料理が友以上にダメなタイプで、まずレシピ通りに作らないからなあ。
それであんな物やこんな物とか入れちゃいかねないし。
私達が見張ってないと、これからも何も出来ないだろうなあ……。
のばらは笑顔で食べてくれれば充分だよ。
「のばらも信次の為に、何か作りたいんですの」
「信次にかあ。たまには皆で信次のやつに作るのもいいかもな」
「前は京平にだったしね」
「そうですの、受験勉強頑張ってますし」
そうだよね、好きな人の為に何か作りたいとかはあるよね。
今度は私と京平がサポート出来たらいいよね。
でも、何を作ればいいのかな?
「信次は何が好きなんでしょうか?」
「のばら」
「何が、ですわ。信次がのばらを好きなのは当然ですわ!」
自信もってそう言える位愛されてるんだね。本当に幸せそう。いいねいいね。
「そうだねえ、カツ丼と金平牛蒡と、お菓子だとレモンパイかなあ?」
「じゃあ、全部作るのですわ!」
「ちょ、せめて一個にしよ」
付き添う方が全部はしんどいのじゃよ。
「それなら何がいいかしら?」
「カツ丼なら皆好きだし、いいんじゃないかな?」
「じゃ、今度の休みに一緒に作りましょ!」
「うん、私もシフォンケーキ焼きたかったし、その間ならいいよ」
「亜美のシフォンケーキ、大分のびのびになってたもんな。色々ありすぎて」
そうなんだよね。まったりしすぎちゃったり、生理になったり、色々あったからね。
「休み変わるかもだから、休み合うとこが解ったら計画立てような」
「この後精神科ですものね」
「まあ、時間変更くらいだろうけど」
「どうなるかは解りませんものね」
「このままって訳にはいかないよね、やっぱり」
私的には、このまま京平が安定して過ごせるように、このままの勤務でいて欲しいんだけどな。
勤務が元に戻ったら、また無理をしてしまう気がして。
優しい人だから。
「ごちそうさま」
「私もごちそうさま。そろそろ行こっか」
「だな」
今回の診察は精神科で行うらしいので、私達は精神科に向かう。
時間を作ってくれた麻生愛先生にも感謝だね。
今度は前みたいに、休憩時間をオーバーしてもいないしね。
いやあ、風邪をひいた京平を膝枕してる姿を見られた時は、正直恥ずかしかったけど。
私達が精神科に到着すると、麻生愛先生が出迎えてくれた。
「あ、来たわね。そのまま診察室入ってね」
「休憩時間中にわざわざ済みません」
私達が診察室に入るなり、京平がすぐにアピールを始めた。
「今の勤務体で鬱症状も出てないし、時間だけでも元に戻して欲しいんだけど」
「それは院長にも相談したけど、まだダメよ。もう少し休まなきゃ」
「患者様としっかり話がしたくて」
「患者様は深川くんの体調を心配してるよ。無理したら、余計に迷惑かけちゃうわ」
麻生愛先生としては、京平の事をもう少し様子見したいみたいだね。
確かに患者様皆、京平の体調を第一に、って仰っていたし、私もそうであって欲しい。
「なんだけど、実は看護師長から相談があって、時任さんだけでも元の勤務に戻せないかって言われててね」
「つまり、京平1人で今の勤務に耐えられるかを見たい、って事ですか?」
「察しがいいわね。時任さんに甘えてなんとかなってる、じゃ、意味ないしね」
確かに私がずっと早番かつ早上がりをしてるが為に、友やのばらの中番、遅番は増えているし、看護師全体で仕事量は増えてしまっている。
最近では別の意味で私のせいなんだけど、友も体調を崩してしまったりしているしね。
「付き合ってるから一緒に居たいだろうけど、看護師が足りない状態だからごめんなさいね」
「解りました。で、私のシフトはどうなりますか?」
「ああ、看護師長から預かってるわ」
私は麻生愛先生からシフト表を受け取ると、休みが合うとこはおろか、シフトが合う所もほとんどなかった。
でも、それをしなきゃいけないほど、看護師は足りていないのだろう。
正直、京平と一緒、に慣れてしまったから寂しくはあるけど、これが現実だよね。
「他、何か体調の変化とか、話したい事はあるかしら?」
「亜美と勤務がズレるなら、睡眠薬欲しいかも。その、恥ずかしい話なんだけど、亜美が居ないと眠れなくて」
「解ったわ。久々にデエビゴとベルソムラを出すわね。眠れそうな日は使わないでよ?」
「なるべく飲まないで済むようにするよ」
京平、本当は寝付き良くないって言ってたもんね。京平がぐっすり眠れますように。
「じゃ時任さん、月曜日から宜しくね」
「解りました。見れる範囲で京平の事も見ます」
「ありがとね。深川くん、すぐ無理するからね」
つまり、明日明後日の休み以降は、バラバラのシフトかあ。
「これで診察は終わり。何かあったらすぐに相談してね」
「愛さん、ありがとな」
「ありがとうございました」
こうして、15分くらいで診察は終わった。
「はあ……」
「京平、いくら時間が変わらなかったからって、そんなにショック受けなくても」
「いや、それより亜美と過ごせる時間が減るのが、思いの外辛くて」
「寧ろそれが普通だから仕方ないよ。勤務が合う時、休みが合う時を大事にしようね」
医療従事者は中々シフトが合わないってのが、そもそもあるからね。
私達は一緒に暮らしてるから、まだ恵まれてるよ。
「浮気すんなよ?」
「する訳ないから安心して」
あちゃあ。凄い弱気になってんなあ。
こんなんで、京平は大丈夫なのかな?
京平の気持ちは心配になるけど、私が居なくちゃ気持ちが保てない、じゃダメだもんね。
私は私、京平は京平。これは付き合ってても変わらないのだから。
一抹の不安を残したままだけど、私達は休憩室に戻る。
「ただいまー」
「ただいま……」
「おかえり。診察早く終わりましたのね。って、深川先生、落ち込みすぎじゃなくて?」
「亜美の勤務が元に戻るからさ」
京平が大きなため息を吐くと、のばらがそんな京平を諭す。
「亜美は1.5人分、今まで働いてましたわ。そんな亜美が時短になってたのは、正直しんどかったのですわ」
「ですね。僕達も中番遅番ばかりは、きついですもんね」
「私、それだけ貢献出来てたんだね」
「当たり前ですわ」
京平には申し訳ないけど、仕事で必要とされてるのは正直嬉しいな。
まだ1年目の看護師が力になれる部分は少ないはずなのに、だもん。
「そうだよな、亜美は必要とされてるんだもんな」
少し落ち込みながら、京平が呟く。
でも、そんな京平をのばらが慰める。
「深川先生も、ですわ。深川先生が早番になった事で、病気が早く判明した患者様も沢山いらっしゃいますわ」
「確かに深川先生が中番とかやってた時は、週一の診療体制にせざるを得なかったから、糖尿病の治療が遅くなるケースもありましたもんね」
「そっか、今のままでも力になれてるんだ、俺」
「ですわ」
そうだよ、今のままでも充分京平は頑張ってるよ。
寧ろ年齢や役職を考えたら、もう早番一本でもいい位だし。
「お互い頑張ろうね、京平」
「だな、しょげてる暇はないよな」
「その意気ですわ!」
京平が無理をしなきゃな勤務体系じゃなくて良かった。
少しずつ、治療していかなきゃだもんね。
そりゃ本音を言えば、甘えたい時に甘えられないのは辛いけど、さ。
「亜美も久々のフル勤務かつ中番、遅番になるし、頑張り過ぎんなよ」
「大丈夫だよ、京平と付き合ってるもん。笑顔で乗り切れるよ」
「必要としてくれてありがと」
「当たり前でしょ」
私は私、京平は京平だけど、大事なのは、必要なのは確かなんだからね。
「ああん、カツ丼作る日を決めたかったのに、もう休憩時間終わりますわ!」
「それ、僕も参加していいですか? 覚えたいです」
「じゃあ、帰ったらグループライム作っとくわ」
「美味しいのが作れたらいいね!」
楽しいお料理会になりそうだね。皆の休みを考慮すると、日曜日でほぼ確定な感じだね。
そんな話をしながら、私達は持ち場に戻っていった。
「亜美とも一緒になる事は少なくなるかな」
「元々多い訳じゃなかったしね」
「昼からもサポート宜しくな」
「うん、任せてね!」
◇
「よし、グループライム完成。日曜日で良いか聞いてみるな」
「ありがとね、京平」
仕事終わり、京平がグループライムを作ってくれた。
美味しいカツ丼が出来たらいいね。
「なあ、亜美」
「なあに? 京平」
「土曜日はデートしよっか。暫く出来なくなるし」
「うん、沢山楽しもうね」
久々のデート、何処に行こうかな?
たまには私がリードしなきゃ。
でも、一言いわせてね。
「京平、明日はしっかり寝るんだよ。無理に早起きしなくていいからね」
「ありがとな。最近は亜美のお陰で眠れてるし、大丈夫だぞ」
「15時から、のんびり何処かに出かけようね」
「気を遣わせちまって悪いな。一緒にいれるのが嬉しいよ」
いつも京平は頑張ってるから、気持ちよく寝て欲しい。いつもみたいに眠るんだよ。
またゆっくり公園を歩くのもいいし、夜景も一緒に見たいなあ。
でも、京平とならどこでもいいよ。愛してるから。
「楽しみにしてるね」
「おう、任せとけ」
「変に頑張らなくていいからね」
なんだかんだで京平に任せちゃうなあ、私ってば。
でも、現時点で思いつかないし、まあいっか。
「亜美が喜んでくれたらいいな」
「京平といれるなら何処でも嬉しいよ」
「出来れば笑って欲しいからさ」
いつもそうやって、私の事を考えてくれるよね。
そんな京平だから、側に居たいんだよ。
力を貰えるんだよ。
愛おしいって思うんだよ。
亜美「京平、愛してる」
京平「ちょ、不意打ちは反則だぞ」
信次「医療従事者あるあるだけど、シフト合わないの辛いよね」
のばら「深川先生が心配ですわね」