幸せだよ。
「京平、起きて」
「んん、おはよ、亜美」
「おはよ、京平」
京平はむっくり起き上がった。しっかり眠れたようだね。
「膝掛けありがとな。お陰で気持ちよく眠れたよ」
「それなら良かった。愛してるよ」
「ちょ、不意打ちすぎるだろ、バカ」
だって愛してるもん。寝起きの京平もさ。
「お互い昼からも頑張ろうな」
「うん、頑張ろ!」
私達は笑顔でお互いを見合わせて、お互いの持ち場に向かった。
勿論京平は転けそうになったから、ちゃんと助けたもんね!
「巡回頑張るぞ!!」
◇
「大池さん、お昼食べられましたか?」
「ああ、亜美ちゃん。美味しかったし、運動も済ませて来たよ」
「流石大池さん! それなら食後血糖値も安定してるかな?」
私はそのまま大池さんの血糖値を測ると、110。お、めちゃめちゃいいじゃん!
「ほっ。最近かなり安定して来たんだよね」
「そう言えば、気持ちスリムになったような」
「あ、解る? 年末も頑張って、もう5キロ痩せたんだ。深川先生のおかげだよ」
「この調子なら、退院も間近ですね」
大池さんの努力が、少しずつ花開いて来て良かった。ずっと頑張ってたもんね。
「退院となれば嬉しいけど、深川先生や亜美ちゃんとあんまり会えなくなるのは寂しいなあ」
「定期通院で会えます! 大事なのは、大池さんが笑って過ごせる事ですよ!」
「そうだね、頑張るよ」
病気が悪化すると、身体が怠くなったり喉が渇いたり吐き気がしたり辛いからね。
人生を楽しむ為にも、治療を続けて頑張ってね。
「それでは、引き続き頑張って下さいね」
「ありがとね、亜美ちゃん」
◇
こうして巡回も無事終わり、退勤時間となった。
んー、正月の怠さも大分抜けて来たんだけど、やっぱり疲れるなあ。
これで元の勤務に戻ったら、慣れるまで時間掛かるかもなあ。
「お疲れ、亜美」
「京平、お疲れ様」
「巡回お疲れ、ちょっと疲れた顔してるぞ」
京平は私の肩に腕を回して、労ってくれた。
こういうの、なんか嬉しいな。
「時短なのに疲れちゃってるから、やばいなあ」
「明日の診察次第では、元の時間になるしな。ま、お互い頑張ろ」
「うん、じゃあ着替えてくるね」
「おー」
そう、明日は京平の精神科の日。
とは言っても、休みが中々合わなかったので、休憩時間中に麻生愛先生が診察してくださるのだ。
京平は時間だけでも元に戻したいって言ってるし、最近抑うつ症状も出てないから、元に戻る可能性は高いだろうなあ。
でも、頑張るもんね!
っと、早く着替えなきゃ。京平待たせちゃうや。
「ごめん。京平お待たせ!」
「ああ、俺も今来たとこだよ」
「じゃ、帰ろ」
たまには私から手を繋いじゃえ。あ、京平、ちょっとドキッとしたね。ふふふん。
「帰ったら少し寝とけよ。走りたいだろうし」
「そうだね。ソファでちょっと寝とくね」
「ご飯もゆったりめに用意するな」
疲れた私を気遣ってくれてありがとね。
走れるようにしっかり昼寝しなきゃ。
「生理が終わってからは走れてるし、頑張るぞ」
「頑張ってるもんな、偉いぞ」
少しずつ走れる距離も伸びて来てるし、今日も頑張るよ。
「「ただいまー」」
「おかえりー」
「おかえりなさいませ」
お、信次とのばら、勉強頑張ってるね。
問題集も赤文字で、メモがびっしり。
「2人が勉強してるとこ申し訳ないけど、ソファでお昼寝するね。おやすみ」
「ちょっと疲れた顔してるもんね。おやすみ、亜美」
「ご飯出来たら起こすからな。亜美、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
私がソファにごろんとすると、誰かが布団を掛けてくれた。この手の感触は、京平だね。
いつもありがとね。私、助けられてばかりだね。
今日のご飯も楽しみにしてるぞ。おやすみ。皆。
◇
「亜美、ご飯出来たぞ」
「うーん、よく寝た。おはよ、京平」
「おはよ、亜美」
「顔色も良くなったね」
「ご飯もしっかり食べるんですわよ」
頭も大分すっきりしたし、体力も回復出来たぞ。
今日のご飯は何かな? 楽しみ!
「今日の夜ご飯は?」
「鶏胸肉の和風ステーキだよ。後、お味噌汁と切り干し大根とかの煮物」
「ヘルシーで嬉しい。ありがとね」
血糖値も安定させやすいし、すごく嬉しいや。
鶏胸肉は、筋肉に変えやすいから、今日のランニングは頑張るぞ。
よし、血糖測定もインスリン注入も完了!
「「「「いただきます」」」」
「うほ、鶏胸肉のステーキ、ジューシーで柔らかい。美味しい。お味噌汁も塩梅がいいし、切り干し大根の煮物も優しい味わいが良いね!」
「亜美、一気に食べ過ぎだよ!」
「だって美味しいんだもん」
京平、また腕上げてるなあ。シンプルなのに凄く美味しいや。
私も明日のお弁当頑張らなきゃ!
「喜んで貰えて良かった」
「確かにめちゃくちゃ美味しいのですわ」
「これで夜からも勉強頑張るぞ」
私もこの後、ランニング頑張るぞ。
終わったらお父さんと電話して、勉強して、京平とお風呂に入って。お布団で京平と眠って。
こんな毎日が、本当に愛しい。幸せだなって感じるよ。
「本当に私、幸せだな。皆ありがとね」
「亜美こそありがとな、俺も幸せだよ」
「うん、僕も亜美の笑顔に力を貰ってるよ」
「いつも有難うございますわ、亜美」
皆の何気ない優しさが、毎日力になるのを感じるよ。
私、まだまだ頑張る。頑張れる。
「ごちそうさまでした。ジャージに着替えよっと」
「俺もごちそうさま。信次、留守番頼んだぞ」
私達は食器を流しに運んで、部屋で着替え始めた。
ジャージも大分肌に馴染んできたよ。
「今日も沢山走るぞ!」
「昨日は2キロ走れたもんな。成長著しいな」
今日は目指せ3キロだ。京平は軽くで10キロ走れるし、私もそれくらいになりたいな。
「まだまだ頑張るもんね!」
「頑張り屋だな、亜美は」
「だって、今月はケーキ食べたいもん!」
「ヘモグロビンA1cが下がったら、一緒に行こうな」
「うん!!!」
って、折角下がってもケーキ食べ過ぎたら、元に戻っちゃうから気をつけなきゃな。
でも、のばらともケーキ食べたいから、運動は続けなきゃ。
「よし、着替え完了!」
「じゃあ、走りに行こっか」
「「いってきまーす」」
「いってらっしゃーい」
「気をつけるのですわよ」
私達はいつも走るとこまで行って、準備体操をしてから走り始めた。
少しずつ走りやすくなって来たんだよね。
京平曰く、心拍機能が上がったからじゃないかとの事。
ゆっくり、だけど確実に前に進めてるね。
「走り慣れて来たじゃん。フォームも良くなってきたぞ」
「京平の走り方を、少しずつ真似したんだよ」
「ちゃっかりしてんな」
京平はそう言うと、颯爽と走り抜けていった。
京平の走り方が綺麗なのは、素人の私でも解るからね。走ってる京平も好きだなあ。
最近ではお互い好きなペースで走ってる。
それでも京平はたまに併走してくれるし、私も1人で走る事に慣れて来たよ。
自分のペースを守って、着実に走る事。
それを意識すれば、私でも長距離走れるみたい。
まだまだ余裕あるし、今日こそ3キロ走るぞ。
長距離走るようになってから、欠かせないのが水分。
京平がローカロリーのスポーツドリンクをいつも作ってくれるんだよね。
それをペットボトルに入れて渡してくれる。
ぷはー。美味しい。瑞々しくていいね。
よーし、もうひと踏ん張り。
「亜美、良い感じだな」
「ありがとね。もうちょい頑張るぞ」
「無理はすんなよ。でも後少しで3キロだぞ」
本当だ。走る前は1キロを表示してたスマホの万歩計が3.5キロになってる。
後ちょっとだ。よっしゃ!! 心拍機能あげたいし、京平と一緒に走っちゃえ!
私は速度を上げて走り出した。
「お、亜美。無茶は良くないぞ!」
「後ちょっとで3キロだもん」
「しゃあねえな、ちゃんと着いてこいよ?」
あれ、いつもより速度落としてくれてる。
無理せず着いてきてって事だね。優しいな。
私はそんな京平のお陰もあって、無理なく3キロ走る事が出来た。やったね。
走り終わった私はその場にうずくまった。
「亜美、大丈夫か?」
「へへ、流石に疲れちゃったや」
「昨日2キロで、今日一気に3キロだもんな。お疲れ様」
京平は私に微笑みかけると、そのまま私をおんぶしてくれた。
ちょっと照れくさいけど、文句を言う体力も私には残されていない。でも。
「ありがとね」
お礼くらいは言わせてね、京平。
「当たり前の事だから気にすんな」
いつもそう言う。その優しさにいつも救われてるよ。
外は真っ暗闇。肌に風が突き刺さる。
それでも、京平におぶわれた私は、温かさしかなかったんだ。
それだけ、幸せだったんだ。
亜美「すー、すー」
京平「おやすみ。亜美」
信次「頑張ってるね、亜美」
のばら「のばらも頑張らなきゃですわ」