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天然で鈍感な男と私の話  作者: 九條リ音
恋愛バトル
13/237

言っちまった後の話

ーーピピピピッ、ピピピピッ。


 ん、なんか昨日に戻ったのかなあ。

 また掛けた覚えのない目覚ましが鳴ってるや。

 そう言えば、私酔っ払って……。


「おはよ。亜美」

「あ、おはよ。京平」


 目覚ましが鳴ると同時に、京平が私の顔を覗きこんできた。

 え、京平休みでしょ? いつもなら15時くらいまで寝てるはずなのに。

 いや待て、昨日だと思っていたのは夢で、今から昨日が始まるかもしれない。

 じゃなきゃ、京平が写真撮ってくれたり、手を繋いでくれたり、一緒にワイン呑んだり、そして……友くんが告白する事なんて起こりうるはずがないのだ。夢だったんだ。

 そう確信を持った私は……。


「京平今日早番じゃなかったの?」

「……何寝ぼけてんだ? 俺は休みだよ」

「今日水曜日だよね?」

「木曜日だ」


 どうやら、一連の事は夢では無かったらしい。

夢では無いとしたら、誰がまた布団まで私を運んでくれたんだろうか。しかも目覚ましまで。


「つまり、2日連続で机で寝ちゃった?」

「今気付いたのか、バカだな亜美は」

「で、2日連続で京平が……」

「亜美を布団に運んで、目覚まし掛けておきました」


 やっちまった。やっちまった。

 お酒に自分が弱い事をすっかり忘れて、酔いどれて、しかも寝てしまうだなんて、はしたない。


「すまんな、酒弱いのに付き合わせて」

「それが言いたくて起きてたの? 」


 いつも激務で15時まで寝ちゃう京平を、自分のべろんべろんのせいでこんな早い時間に起こしてしまった。絶対疲れ取れてないよね……。髪綺麗だし。


「いや、呑みすぎたのは私だから謝らないで。むしろ2日連続で運んで貰って申し訳ないというか」


 私が言い終わるか終わらないかのうちに、京平は再度口を開く。


「あと……」

「あと?」

「……何でもない。早く準備しろよ」


 京平はそう言うと、私の部屋から出て行った。

 京平は何が言いたかったんだろう。こんな風に言葉を言い掛けて濁すだなんて、京平らしくない。

 いつもの京平なら、隠し事する時は何も言わない。隠し事してる事だけは見抜いているけど。

 それだけ気になる事なのだけど、聞くのが拒まれる理由でもあったのだろうか?

 考えても仕方ない。仕事の準備をしなくては。


 朝ご飯はいつも通り信次が作ってくれたようで、メモも残されていた。

 私は冷蔵庫から朝ご飯を取り出して、相変わらず美味いな! と、思いながら食べる。

 お弁当も冷蔵庫に入っていたので、カバンに忘れずに入れた。


ーー京平は、また寝直したかな?


 居るかと思った京平は、リビングには居なかった。

 思えば京平は昨晩は呑んだし、しかも最近睡眠時間も少なかったし、当たり前と言えば当たり前。寧ろ、寝直してくれて良かったくらいだ。

 1人ぼっちのは朝、正確には昼だけど、ちょっと寂しいけど仕方ない。


ーーあと、何だろう。大事な事を忘れている気が……。


 と、歯磨きをしながら考える。

 言ってはいけない相手に、隠し事をバラしてしまったかのような感覚。だけど、思い出せない。


ーーま、いっか。その内思い出すと信じよう。


 思い出さなきゃいけない事ではある気がするけど、思い出せないものは仕方ない。

 それよりも目の前の仕事だ。集中しなければ。


 ◇


 今日の勤務は、12時から17時半までは採血担当で、それ以降は緊急外来担当の麻生先生につく事になった。

 麻生先生につくのは初めてだから、ちょっと緊張するなあ。でも京平の同期だし、京平の若い頃の話やらやら聞けたらいいな、なんて。


「亜美、おはようございますわ」

「あ、のばら。おはよ!」


 勤務前にのばらが話しかけてくる。ちなみにのばらも中番で17時半まで採血担当だ。


「昨日は通しだから疲れましたわ。ライム送ってすぐ寝ちゃいましたわ」

「あ、ライム返して無かった! 土曜日で了解だよ!」

「それなら良かったわ。楽しみにしてますわ」


 こうして私達は採血業務に入る。

 今日はイレギュラーな患者様が多く、血の巡りを良くする薬を飲んでる為、止血バンドを少しキツめに巻かなきゃいけない方。

 また、迷走神経反射と言ってそもそも採血が苦手で普通に行うと貧血みたいな症状となる為、横にならないと採血が出来ない方などなど。

 勿論、そのようなイレギュラーにも、私は迅速に対応した。

 のばらは、外回り業務はまだ8ヶ月目だというのに、採血に関しても手際よく行っていた。

 看護師学校時代に実習のある内容とはいえ、流石のばらだ。


「亜美は採血かなり上手いのね。皆さん痛がってなかったわ」

「私自身が毎月採血してるから、ちゃんと会得したくて頑張ったの」

「素敵ですわ、亜美」


 のばらから褒められたのは初めてだったので、ちょっと照れくさいや。そして素直に嬉しい。


 そんな素敵な出来事もありつつ、1回目の休憩時間になった。


 ◇


「深川先生が居ない休憩時間は寂しいのですわ」

「のばら、中番は休憩時間変動しがちだから、同じシフトでも被らない事多いよ?」

「今まで麻生先生に深川先生のシフト聞いて、無理くり合わせて来たんですの!」


 流石のばら。そこまでしていたとは。オペ看業務に入る事が多いのを、こんな形で利用していたとは。

 しかし麻生先生も麻生先生だ。外科医なのに何故内科医の京平のシフト知ってんだ? 謎は深まるばかりだ。


「今日は深川先生おやすみだから、合わせようがありませんの……」


 のばらはしょぼんとしながら、お弁当を食べていた。

 こう言う所が女の子らしくて、可愛くて、本当に嫉妬してしまう。私は女らしさを、産まれる前に何処かに捨ててきてしまった説が否めない女だし。

 嫉妬は良く無いと解っていながらも、のばらに関してはやっぱり例外だなあ。嫉妬マシーンだ。


「やあ、お揃いですね。皆様」

「あら、日比野さん、お疲れ様ですわ」

「友くんお疲れ様」


 やばい。のばらに嫉妬してたら、友くんもやってきた。昨日の事があるから、ちょっと気まずい。

 しかし、肝心の友くんは、私の気持ちを知ってか知らずか、普通に私の隣に座ってきた。


「亜美さん、今日もお綺麗ですね。僕の心も癒されます」

「なんか台詞、余計に歯が浮くというか」

「気持ちを伝えたので、本気出していきますよ。深川先生もおやすみですしね」


 友くんはたくましかった。

 傷付けてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、当の友くんは本気で私を奪いにいくつもりのようだ。

 そんな簡単に奪われるつもりはないし、そもそも愛してる京平がいるから揺らぐ事はないのにね。


 ん、ちょっと待て。愛してるって、昨日にも言ったような……。

 確か、傷付けるのが嫌なら友くんの告白を受けて付き合えば良いじゃん、って言われて、それで……。


「ああああああああああああああああ」

「ど、どうしたんですか?! 亜美さん!」

「ちょ、亜美煩いのですわ!」


 言っちまった。愛してる人がいるから、って、京平に、言っちまった。


 ◇


「亜美殿、元気がなさそうじゃが、大丈夫か?」

「昨日しでかしてしまって……誰かに相談したい気分です」

「ふむ。今我が担当する緊急外来は平和そのものじゃ。我でよければ、話くらいは聞くぞよ」


 今日は珍しく、緊急外来に罹る患者様はかなり少なかった。私は、お言葉に甘える事にした。


「私、京平……深川先生の事を愛しているんです」

「ふむ、そうじゃろうな。見てれば解る。京殿も罪な男じゃの」


 会うのが2度目の麻生先生にもバレていたのか。私はどれだけ隠し事が苦手なのだろう。


「でも、妹扱いしかされないので、愛してるって事は内緒にしてたんです」

「京殿は鈍感じゃからな、殊更自分に向けられた好意に関しては」


 同期の麻生先生から見ても、京平は鈍感なんだなあ。と言う事は、昔から鈍感なんだなあ。


「でも、酔った勢いといいますか、愛してる人がいる、って、深川先生に言っちゃったんです」

「アッセンブリーじゃ! 京殿は間違いなく勘違いするじゃろうな!」

「あの、アッセンブリーって?」

「ひとまとまりになってる部品の事じゃ。人体でそれを交換する時はやばい場合じゃ。それくらいやばい状況という事じゃ」


 あ、やっぱり麻生先生からみてもやばいんだ。

 だよね、京平鈍いから、私に愛してる人が出来たって勘違いするよね。間違いなく。実際愛してるのは京平なのになあ。


「で、どうしたら良いんでしょうか?」


 どうしようもないかもしれないけど、私は恐る恐る聞いてみた。


「亜美殿、もう告白するしかないじゃろ。愛してるのは京殿だと、伝えるしかあるまい。なる早でな」

「な、なる早で、ですか?!」

「京殿の鈍さは、地球が天変地異を起こしても治らないレベルじゃ。自分の事とは絶対思わないから誤解を解くしかあるまい」


 やっぱりそうなるのか……。正直、まだ怖いんだけど……。


「解りました。日曜日に、お休みが合うので告白します」

「偉いぞ亜美殿。こりゃのばら殿も、うかうかしちゃおれんな」

「のばらの気持ちも知ってたんですか?」

「知ってるも何も、相談を受けていたのじゃ。あやつは鈍いから告白するしか無いぞとは、伝えていたのじゃがな」


 のばらも麻生先生に相談していたのかあ。

 確かに麻生先生なら、京平の事をよく知ってるから相談相手には最適だもんなあ。


「頑張るのじゃぞ。亜美殿」

「はい、有難う御座います!」


 と、ここまで話した所で……。


「麻生先生、緊急外来の患者様がいらっしゃいました。対応願います」

「アッセンブリーじゃ!」


 受付担当の方がやってきた。


「だから人体に、車部品用語のアッセンブリーを使っちゃだめよ! それに外科手術いらんから」


 受付担当の方は麻生先生に慣れているのか、軽くいなして去っていく。


「さあ、亜美殿、仕事じゃぞ」

「はい、頑張ります!!」


 ◇


 結局、19時を回った所で緊急外来は大変混み合い、私は2度目の休憩に入れずに業務を終えた。

 その変わりと言ってはなんだが、定時に帰れるので有難いと言えば有難い。


 信次もバイト終わった頃かな? と、思ったら、丁度信次が、更衣室にやってきた。


「お、信次お疲れ様! 昨日はおつまみ有難うね!」

「どういたしまして。亜美もお疲れ様。休憩1回しか入れなかったんだって? 大丈夫?」

「え、何で知ってるの?」

「のばらさんから聞いた。のばらさんは早めの休憩に入れて僕と一緒だったんだ」


 のばらは確か入院患者様の巡回だったのに、何で私の事知ってるんだろ? 休憩時間中に、緊急外来覗きに来たのかな?

 と、噂をしていると……。


「亜美、お疲れ様。緊急外来凄く混んでいたわね」

「のばらもお疲れ様」

「あら、信次くんも今終わったのね。お疲れ様」

「お疲れ様です」


 互いに互いを労いながら、私は決意を話す事にした。


「私、日曜日に、京平に告白する」

「え、待って亜美、本気ですの?」

「遂に腹を括ったか。頑張ってね」


 報告をすると、のばらが小刻みに震え始めた。多分私に先を越されるとは、思わなかったんだろうなあ。

 しかし、そこはのばらだ。予想外の手に出る。


「じゃあ私は美味しいクッキーを作って、土曜日に告白しますわ。付き合う事になったらごめんなさいね」


 のばらがいつものように高々と笑うのだけど、私も笑って言った。


「京平がのばらをすきなら仕方ないよ。のばら、可愛いもん。寧ろ、私以外ならのばら以外許さないし」

「あ、亜美……! 何、愛のライバルを褒めてるんですの? バカですの? お人よしが過ぎますわ!」


 これは本音。京平が誰を選ぶかは解らないけれど、誰も選ばないかもしれないけど、私以外ならのばらじゃなきゃ許さない。

 変な女連れて来たら、見る目なさすぎ! って貶してやる!


「私も私以外なら、亜美じゃなきゃ嫌ですわ。だって、こんなに頑張ってる子、他に知らないのですわ。亜美を傷付けたら、深川先生でも許さないのですわ」

「傷付かないよ、のばらなら。のばらなんて身体張ってまでがんばってたじゃん。だから、のばらなら」

「互いに認め合っていたんだね、いつの間にか」


 仲良くする気はない、と、あれだけ言ってたのに、気付いたらのばらも大切な存在になっていた。

 愛がどう転ぶかは解らない。けれど、この恋愛バトルで得た同志は、これからも大切にしたいと思う。

亜美「やらかしたああああああああ」

作者「気付くのおそ!」

信次「でもそのおかげ? で、遂に告白だね」

のばら「私も頑張りますわ!」

作者「京平も罪な男よね」

麻生「アッセンブリーじゃ!」


作者「因みにアッセンブリーは、モリモトモータースのモリモトさんが、めちゃめちゃ使っててつかいました。車の部品を纏めて取っ替えるニュアンスで使ってた気がする」

受付担当「皆さんは、人体を指す言葉に使っちゃいけませんよ!」


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